「”紙が好き”の正体」フライデーコラム:シオタ
2025.11.19
お世話になっております。船井総研の塩田です。
本日のテーマは、「”紙が好き”の正体」です。
なぜ、私たちはこれほどまでに「紙」に依存してしまうのか。 それは単なる「古い体質」や「ITが苦手」という問題だけではありません。そこには、私たちが本能的に「紙」を信頼してしまう、非常に合理的な理由が存在します。
この記事では、紙文化がなくならない「正体」を解き明かし、その心理的な壁を乗り越えて「本当に楽になる」DXの第一歩を踏み出すためのヒントをご紹介します。
1.“紙が好き”の正体
まず、私たちが「紙」を信頼する理由について考えてみましょう。慣れ親しんでいる紙ですが、「紙が持つ優れた特性」はいくつか存在します。
第一の理由は、私たちが紙に対して抱く心理的な「信頼感」です。 デジタルデータは実体がなく「消えるかも」という不安がありますが、紙は「モノ」として確かに存在します。この物理的な存在感が「確かにそこにある」という安心感につながるのです。 また、ハンコが押され、物理的に回覧されていくプロセスは、「誰が」「いつ」承認したかが一目瞭然です。この「承認の可視化」も、紙が持つ信頼性の一つと言えるでしょう。
第二に、業務を遂行する上での「即時性」と「一覧性」という利便性です。 紙は、PCの起動やログインを待つ必要がありません。ITリテラシーに関わらず、誰でも、すぐに読み書きができます。また、机の上に資料をバッと広げて全体を比較・検討する作業は、今のところモニター上より紙の方が得意な作業です。 そして多くの人が無意識にやっているのが「保険としての印刷」です。「会議中にPCが固まったら困る」というデジタルへのわずかな不信感が、「とりあえず印刷しておく」という行動につながり、結果として紙を減らせない要因となっています。
第三の理由は、自社の努力だけではどうにもならない外部環境の壁です。 典型的なのが取引先の慣習です。「ウチはデジタル化したいが、あのお客さんは紙の請求書しか受け付けてくれない」といったケースでは、自社だけでは完結しません。また、長らく「契約書や領収書の原本は紙であるべき」という法律や社内規定が常識だったため、そのマインドセットが根強く残っていることも見逃せません。
これらの理由は「古い」のではなく、長年の業務の中で「紙に最適化された合理性」とも言えます。DXとは、この合理性をデジタル技術で上回ることから始まります。
2. 「紙の安心感」を超えるDXの始め方
では、この強力な紙文化をどう乗り越えていけばよいのでしょうか。多くの企業が陥りがちな失敗パターンと、その対策を見ていきましょう。
まず陥りがちなのが、「DX」ではなく単なる「電子化」で満足してしまう罠です。 例えば、紙の資料をスキャンして、ファイルサーバーの奥深くにPDFとして保存する。これで「ペーパーレス化が進んだ」と満足していないでしょうか。 しかし、これでは「紙の束から探す手間」が「無数のフォルダからファイルを探す手間」に変わっただけです。PDFの中身は検索できず、データとして集計・活用することもできません。
DX(ペーパーレス化)の本当のゴールは、「紙をなくすこと」そのものではなく、「紙に縛られていた業務プロセスそのものを変革すること」にあります。 例えば稟議書なら、紙をPDF化するのではなく、「ワークフローシステム」を導入し、申請から承認、決裁までの流れそのものをデジタル上で完結させることです。目指すべきは、面倒な手入力の自動化、必要な情報が一瞬で検索できること、そして「場所を選ばない働き方」を実現することなのです。
このゴールに向かうには、「スモールスタート」と「成功体験」が鍵となります。 いきなり「明日から紙は一切禁止」と宣言しても、現場の抵抗と混乱を招き、必ず失敗します。 まずは、「捨てる紙」と「(今は)残す紙」を戦略的に仕分けましょう。社内で完結する業務、例えば会議資料や経費精算、稟議書などから「捨てる候補」として選ぶのが賢明です。
次に重要なのが、現場が抱く『紙の安心感』を、デジタルが提供する『メリット』で上回ることです。 「データが消えたら怖い」という不安には、「クラウドなら、あなたのPCが壊れてもデータは安全に守られます。紙のように紛失したり、火事で燃えたりするリスクこそが危険です」と伝えます。「PC作業が面倒」という声には、「スマホから経費申請できるので、糊付けや手入力の手間がゼロになります。その時間を別の仕事に使えます」と、具体的なメリットを提示します。
そして最も大切なのが、小さな「楽になった!」という成功体験を積み重ねることです。 現場の誰かが「会議資料の印刷・配布の手間がゼロになった」「月末の経費精算が30分から5分になった」といった成功体験を実感することが最優先です。この「楽になった」というポジティブな体験を一つ作り、それをモデルケースとして横展開していくことが、組織全体の大きな変革につながっていくのです。
紙文化がこれほどまでに根強いのは、それだけ紙が「便利」で「信頼」できる優れたツールだったからです。 DXとは、その紙が長年担ってきた便利さや信頼性を、デジタル技術で「上回り」、新しい業務体験を作っていくプロセスに他なりません。
まずはあなたの身の回りにある「この紙、本当は要らないかも?」という一枚を見直すことから始めてみませんか。 お世話になっております。船井総研の塩田です。
本日のテーマは、「”紙が好き”の正体」です。
なぜ、私たちはこれほどまでに「紙」に依存してしまうのか。 それは単なる「古い体質」や「ITが苦手」という問題だけではありません。そこには、私たちが本能的に「紙」を信頼してしまう、非常に合理的な理由が存在します。
この記事では、紙文化がなくならない「正体」を解き明かし、その心理的な壁を乗り越えて「本当に楽になる」DXの第一歩を踏み出すためのヒントをご紹介します。
1.“紙が好き”の正体
まず、私たちが「紙」を信頼する理由について考えてみましょう。慣れ親しんでいる紙ですが、「紙が持つ優れた特性」はいくつか存在します。
第一の理由は、私たちが紙に対して抱く心理的な「信頼感」です。 デジタルデータは実体がなく「消えるかも」という不安がありますが、紙は「モノ」として確かに存在します。この物理的な存在感が「確かにそこにある」という安心感につながるのです。 また、ハンコが押され、物理的に回覧されていくプロセスは、「誰が」「いつ」承認したかが一目瞭然です。この「承認の可視化」も、紙が持つ信頼性の一つと言えるでしょう。
第二に、業務を遂行する上での「即時性」と「一覧性」という利便性です。 紙は、PCの起動やログインを待つ必要がありません。ITリテラシーに関わらず、誰でも、すぐに読み書きができます。また、机の上に資料をバッと広げて全体を比較・検討する作業は、今のところモニター上より紙の方が得意な作業です。 そして多くの人が無意識にやっているのが「保険としての印刷」です。「会議中にPCが固まったら困る」というデジタルへのわずかな不信感が、「とりあえず印刷しておく」という行動につながり、結果として紙を減らせない要因となっています。
第三の理由は、自社の努力だけではどうにもならない外部環境の壁です。 典型的なのが取引先の慣習です。「ウチはデジタル化したいが、あのお客さんは紙の請求書しか受け付けてくれない」といったケースでは、自社だけでは完結しません。また、長らく「契約書や領収書の原本は紙であるべき」という法律や社内規定が常識だったため、そのマインドセットが根強く残っていることも見逃せません。
これらの理由は「古い」のではなく、長年の業務の中で「紙に最適化された合理性」とも言えます。DXとは、この合理性をデジタル技術で上回ることから始まります。
2. 「紙の安心感」を超えるDXの始め方
では、この強力な紙文化をどう乗り越えていけばよいのでしょうか。多くの企業が陥りがちな失敗パターンと、その対策を見ていきましょう。
まず陥りがちなのが、「DX」ではなく単なる「電子化」で満足してしまう罠です。 例えば、紙の資料をスキャンして、ファイルサーバーの奥深くにPDFとして保存する。これで「ペーパーレス化が進んだ」と満足していないでしょうか。 しかし、これでは「紙の束から探す手間」が「無数のフォルダからファイルを探す手間」に変わっただけです。PDFの中身は検索できず、データとして集計・活用することもできません。
DX(ペーパーレス化)の本当のゴールは、「紙をなくすこと」そのものではなく、「紙に縛られていた業務プロセスそのものを変革すること」にあります。 例えば稟議書なら、紙をPDF化するのではなく、「ワークフローシステム」を導入し、申請から承認、決裁までの流れそのものをデジタル上で完結させることです。目指すべきは、面倒な手入力の自動化、必要な情報が一瞬で検索できること、そして「場所を選ばない働き方」を実現することなのです。
このゴールに向かうには、「スモールスタート」と「成功体験」が鍵となります。 いきなり「明日から紙は一切禁止」と宣言しても、現場の抵抗と混乱を招き、必ず失敗します。 まずは、「捨てる紙」と「(今は)残す紙」を戦略的に仕分けましょう。社内で完結する業務、例えば会議資料や経費精算、稟議書などから「捨てる候補」として選ぶのが賢明です。
次に重要なのが、現場が抱く『紙の安心感』を、デジタルが提供する『メリット』で上回ることです。 「データが消えたら怖い」という不安には、「クラウドなら、あなたのPCが壊れてもデータは安全に守られます。紙のように紛失したり、火事で燃えたりするリスクこそが危険です」と伝えます。「PC作業が面倒」という声には、「スマホから経費申請できるので、糊付けや手入力の手間がゼロになります。その時間を別の仕事に使えます」と、具体的なメリットを提示します。
そして最も大切なのが、小さな「楽になった!」という成功体験を積み重ねることです。 現場の誰かが「会議資料の印刷・配布の手間がゼロになった」「月末の経費精算が30分から5分になった」といった成功体験を実感することが最優先です。この「楽になった」というポジティブな体験を一つ作り、それをモデルケースとして横展開していくことが、組織全体の大きな変革につながっていくのです。
紙文化がこれほどまでに根強いのは、それだけ紙が「便利」で「信頼」できる優れたツールだったからです。 DXとは、その紙が長年担ってきた便利さや信頼性を、デジタル技術で「上回り」、新しい業務体験を作っていくプロセスに他なりません。
まずはあなたの身の回りにある「この紙、本当は要らないかも?」という一枚を見直すことから始めてみませんか。