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「いつ来るか分からない注文」に振り回されるのはもう終わりにする。 建機レンタル業界向け消耗品製造における「脱・どんぶり勘定」の在庫戦略

2026.01.08

はじめに:鳴り止まない「特急」の電話と、膨れ上がる倉庫の山 「明日、現場で刃が欠けて重機が止まってしまった。今すぐ代わりの刃を送ってくれ!」 製造現場の事務所に響く、一本の電話。 営業担当が血相を変えて工場へ駆け込み、生産管理担当者が頭を抱える。 「今、ラインには別の注文が乗っています。割り込ませるなら、段取り替えだけで半日は潰れますよ」 「でも、これを受けないと次は他社に回されてしまうぞ!」 製造業、特に建設機械の消耗品(刃物・バケット・カッター等)を製造されている経営者様や工場長様であれば、このような光景は日常茶飯事ではないでしょうか。 お客様は、建機レンタル・リース会社。彼らのビジネスは「現場対応」が命です。工事現場で機械が止まることは、工期の遅れ、ひいては巨額の損害に直結します。だからこそ、消耗品の交換には「即納」が求められます。 しかし、ここには構造的なジレンマがあります。 いつ機械が壊れるか、いつ刃が摩耗しきるかは、神のみぞ知る領域です。お客様であるレンタル会社ですら、「来週いくつ必要か」なんて分かりません。 顧客が予測できないものを、サプライヤーである皆様が予測できるはずがないのです。 結果として何が起きるか。 「欠品させたら終わりだ」という恐怖心から、勘と経験で「とりあえず多めに」在庫を積み上げる。 倉庫には、いつ出荷されるか分からない製品が山のように積まれ、大切な会社の現金(キャッシュ)が「鉄の塊」に姿を変えて眠っている。 一方で、決算書を見れば在庫回転率は悪化の一途。銀行からは「在庫を減らせ」と言われるが、減らせば「欠品」のリスクに怯えることになる……。 本コラムでは、この「フォーキャスト(予実管理)なき短納期受注」という、極めて難易度の高いビジネスモデルにおいて、いかにして在庫を適正化し、キャッシュフローを改善するか。その具体的な処方箋について、現場データ活用の視点から解説します。 第1章:なぜ、あなたの工場の在庫は減らないのか? 「受注生産」と「見込み生産」の最悪のハイブリッド 一般的な製造業の教科書にはこう書いてあります。「多品種少量なら受注生産(MTO)、少品種多量なら見込み生産(MTS)にしなさい」しかし、皆様の業態はこのどちらにも当てはまりません。 品目は多岐にわたる(多品種)にもかかわらず、納期は「即納」を求められる(見込み生産的要素)。つまり、「多品種なのに在庫を持たなければならない」という、経営効率上、最も苦しいポジションに立たされているのです。 生産管理システムは「入れているだけ」になっていないか 多くの企業様が、優秀な生産管理システムを導入されています。しかし、現場にお邪魔すると、このような声をよく耳にします。「データは入っているけど、結局は『発注点管理』だけ。担当者が『そろそろ減ったから作ろうか』という感覚で指示書を出しているよ」 ここに最大の落とし穴があります。 データが「記録」としてしか使われておらず、「戦略」に使われていないのです。 「いつ、何が、どれだけ売れたか」という過去データは、宝の山です。たとえ未来の確実な予測ができなくても、「確率論的な予測」は可能です。 「予測できないから在庫を持つ」のではなく、「予測できない部分と、できる部分を切り分ける」。 この思考の転換こそが、在庫削減の第一歩です。 第2章:データを武器にする「メリハリ在庫」の極意 では、具体的にどうすればよいのでしょうか。 精神論や「頑張り」で在庫は減りません。必要なのは、冷徹なまでのデータ分析です。 1. ABC分析で「聖域」をなくす まず着手すべきは、製品の「格付け」です。 全ての刃物を「欠品させてはならない」と考えてはいけません。 お手元の生産管理システムから、過去1年間の出荷データをCSVで出力してください。そして、出荷金額(または頻度)順に並べ替え、累積比率を出します。 Aランク(上位20%): 売上の8割を作る主力製品。 Bランク(中位): コンスタントに出るが、主役ではない。 Cランク(下位): 年に数回出るか出ないか。 在庫過多の工場の多くは、「Cランク品までAランクと同じように在庫している」か、あるいは「Aランク品が欠品して機会損失を出している」かのどちらか(あるいは両方)です。 【対策】 Aランク: これは在庫を持って構いません。むしろ、絶対に切らしてはいけない製品です。 Bランク: 「遅延差別化」を検討します。例えば、塗装前や刃付け前の「半製品」の状態で在庫を持ち、注文が来てから最終工程だけを行う。これにより、複数の完成品在庫を「共通の半製品在庫」として圧縮できます。 Cランク: 「在庫ゼロ」を目指します。営業を通じて「この製品は特注扱いになるので、納期を〇日ください」と交渉するのです。全ての客、全ての製品にいい顔をするのをやめることが、利益体質への第一歩です。 2. 「季節変動」を味方につける 「うちは突発的な注文ばかりだから」と諦めていませんか? しかし、建設業界、レンタル業界には明確な「波」があります。 例えば、 年度末(2月〜3月): 公共工事の工期末に向けて建機の稼働率はピークに達します。当然、消耗品の交換需要も跳ね上がります。 季節要因:除雪用なら冬、台風が多い地域なら秋口など。 過去3〜5年のデータを月別グラフにしてみてください。「なんとなく忙しい」と思っていたものが、「毎年3月は平均の1.8倍出ている」という明確な数値として浮かび上がってきます。 この「季節指数」を在庫管理に組み込みます。 1年中同じ「発注点(在庫がこれ以下になったら作るライン)」を設定しているのが間違いなのです。「1月に入ったら、システム上の発注点を1.5倍に引き上げる」「4月になったら、発注点を半分に戻す」この微調整をルーチン化するだけで、「閑散期の過剰在庫」と「繁忙期の欠品」を同時に防ぐことができます。 第3章:逆転の発想「富山の薬売り」モデル(VMI)への挑戦 ここまでは「社内」の話でした。 ここからは、一歩進んで「顧客(レンタル会社)」との関係性を変える、より抜本的な解決策をご提案します。それがVMI(Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)です。 分かりやすく言えば、「富山の薬売り(置き薬)」のビジネスモデルです。 なぜ、顧客の倉庫に在庫を置くのか? 現状の商流はこうです。 客先の建機が壊れる。 客先が御社に電話する。 御社が在庫を確認し、トラックを手配し、発送する。 翌日(または当日)に客先に届く。 この「リードタイム」と「輸送コスト」は、双方にとって無駄です。 そこで、こう提案するのです。「御社の営業所(または主要倉庫)の棚を一つ貸してください。そこに、当社のAランク製品(よく出る刃物)をあらかじめ置いておきます」 VMIの仕組みとメリット 仕組み: 在庫の所有権は御社のまま、モノだけ客先に置きます。客先は、現場で必要になったらその棚から勝手に持って行って使います。 請求: 御社の営業担当が月に一度訪問し、「減っている分」だけをカウントして請求書を切ります。同時に、減った分を補充します。 これこそが、建機レンタル業界における「三方よし」の解決策です。 客先(レンタル会社)のメリット: 「納期ゼロ」: 目の前にモノがあるのですから、電話する必要も、到着を待つ必要もありません。 在庫リスクなし: 使った分だけ払えばいいので、自社で在庫資産を持つ必要がありません。 御社(製造)のメリット: 「究極の囲い込み」: 一度この棚を作ってしまえば、他社製品が入り込む余地はなくなります。 配送コスト激減: 毎回の特急便が不要になり、月一回の定期補充便(ルート配送)に集約できます。 生産の平準化: 「今すぐ持ってこい」と言われないため、自社の都合の良いタイミングで作って補充に行けます。 第4章:営業と製造の「壁」を壊すには このような新しい取り組み(特にCランク品の納期交渉や、VMIの提案)を行おうとすると、必ず社内で抵抗勢力が現れます。 多くの場合、それは「営業部門」です。 「お客様に面倒な交渉をしたくない」 「そんなことを言って、競合に逃げられたらどうするんだ」 「在庫を減らすのは工場の都合だろう。俺たちを巻き込むな」 この「製販の壁」を乗り越えるには、伝え方を工夫する必要があります。 「在庫を減らしたいから協力してくれ」と頼んではいけません。「お客様のメリット(欠品防止)」として提案資料を作ってあげるのです。 営業を動かす「キラーフレーズ」 例えば、年度末に向けて在庫予測をする際、営業にこう言わせてみましょう。 「『年度末・優先確保キャンペーン』のご案内です」 「例年、2月から3月は注文が殺到して、どうしても納期が遅れがちになります。そこで、今月中に『大体の見込み』を教えていただいたお客様分については、専用在庫として優先的に確保(取り置き)させていただきます。もし急に刃が壊れても、御社だけは絶対に待たせません」 これならどうでしょうか? 営業は「在庫削減のお願い」というネガティブな交渉ではなく、「優先権の提供」というポジティブなサービスを顧客に持ちかけることができます。 顧客にとっても、繁忙期に建機が止まるリスクを回避できるのは大きなメリットです。 結果として、御社には「精度の高いフォーキャスト(受注予測)」が集まってきます。 この情報を元に、工場の閑散期(アイドルタイム)を活用して計画生産を行えば、残業代を抑えつつ、在庫を適正水準に保つことが可能になります。 第5章:消耗品製造業は「待ち」から「攻め」へ 建機レンタルの消耗品ビジネスは、決して「下請けの単純作業」ではありません。 レンタル会社の稼働率を支え、日本のインフラ整備を下支えする重要なパートナーです。 しかし、いつまでも「壊れたら電話して」という受動的なスタンス(待ちの経営)でいては、在庫の山とキャッシュフローの悪化に苦しむばかりです。データという武器を使い、消耗のサイクルを読み解き、こちらから「在庫の持ち方」を提案する。「置き薬方式」のような新しいサービスモデルを構築する。 そうすることで、御社は単なる「部品屋さん」から、レンタル会社の経営になくてはならない「戦略的パートナー」へと進化できるはずです。 貴社のデータは「宝の持ち腐れ」になっていませんか? 「言っていることは分かるが、実際に自社のデータでどう分析すればいいか分からない」 「生産管理システムのどの帳票を見れば、季節指数が出せるのか」 「VMIを提案したいが、契約書や運用ルールはどうすればいいのか」 もし、そのような疑問をお持ちであれば、一度、外部の視点を入れてみるのも一つの手です。船井総合研究所では、製造業専門のコンサルタントが、貴社の生産管理システムのデータを分析し、「どの製品を在庫すべきか」「どれを捨てるべきか」のシミュレーションを行うご支援も可能です。 在庫は、経営そのものです。 倉庫に眠る「鉄の塊」を、適正な「キャッシュ」に変えるための取り組みを、今すぐ始めませんか。 [無料経営相談のご案内] 本コラムをお読みになり、「自社の在庫データを分析してほしい」「VMIの具体的な導入ステップを知りたい」と思われた経営者様・工場長様へ。 船井総研では、初回無料の経営相談を受け付けております。オンラインでも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。 はじめに:鳴り止まない「特急」の電話と、膨れ上がる倉庫の山 「明日、現場で刃が欠けて重機が止まってしまった。今すぐ代わりの刃を送ってくれ!」 製造現場の事務所に響く、一本の電話。 営業担当が血相を変えて工場へ駆け込み、生産管理担当者が頭を抱える。 「今、ラインには別の注文が乗っています。割り込ませるなら、段取り替えだけで半日は潰れますよ」 「でも、これを受けないと次は他社に回されてしまうぞ!」 製造業、特に建設機械の消耗品(刃物・バケット・カッター等)を製造されている経営者様や工場長様であれば、このような光景は日常茶飯事ではないでしょうか。 お客様は、建機レンタル・リース会社。彼らのビジネスは「現場対応」が命です。工事現場で機械が止まることは、工期の遅れ、ひいては巨額の損害に直結します。だからこそ、消耗品の交換には「即納」が求められます。 しかし、ここには構造的なジレンマがあります。 いつ機械が壊れるか、いつ刃が摩耗しきるかは、神のみぞ知る領域です。お客様であるレンタル会社ですら、「来週いくつ必要か」なんて分かりません。 顧客が予測できないものを、サプライヤーである皆様が予測できるはずがないのです。 結果として何が起きるか。 「欠品させたら終わりだ」という恐怖心から、勘と経験で「とりあえず多めに」在庫を積み上げる。 倉庫には、いつ出荷されるか分からない製品が山のように積まれ、大切な会社の現金(キャッシュ)が「鉄の塊」に姿を変えて眠っている。 一方で、決算書を見れば在庫回転率は悪化の一途。銀行からは「在庫を減らせ」と言われるが、減らせば「欠品」のリスクに怯えることになる……。 本コラムでは、この「フォーキャスト(予実管理)なき短納期受注」という、極めて難易度の高いビジネスモデルにおいて、いかにして在庫を適正化し、キャッシュフローを改善するか。その具体的な処方箋について、現場データ活用の視点から解説します。 第1章:なぜ、あなたの工場の在庫は減らないのか? 「受注生産」と「見込み生産」の最悪のハイブリッド 一般的な製造業の教科書にはこう書いてあります。「多品種少量なら受注生産(MTO)、少品種多量なら見込み生産(MTS)にしなさい」しかし、皆様の業態はこのどちらにも当てはまりません。 品目は多岐にわたる(多品種)にもかかわらず、納期は「即納」を求められる(見込み生産的要素)。つまり、「多品種なのに在庫を持たなければならない」という、経営効率上、最も苦しいポジションに立たされているのです。 生産管理システムは「入れているだけ」になっていないか 多くの企業様が、優秀な生産管理システムを導入されています。しかし、現場にお邪魔すると、このような声をよく耳にします。「データは入っているけど、結局は『発注点管理』だけ。担当者が『そろそろ減ったから作ろうか』という感覚で指示書を出しているよ」 ここに最大の落とし穴があります。 データが「記録」としてしか使われておらず、「戦略」に使われていないのです。 「いつ、何が、どれだけ売れたか」という過去データは、宝の山です。たとえ未来の確実な予測ができなくても、「確率論的な予測」は可能です。 「予測できないから在庫を持つ」のではなく、「予測できない部分と、できる部分を切り分ける」。 この思考の転換こそが、在庫削減の第一歩です。 第2章:データを武器にする「メリハリ在庫」の極意 では、具体的にどうすればよいのでしょうか。 精神論や「頑張り」で在庫は減りません。必要なのは、冷徹なまでのデータ分析です。 1. ABC分析で「聖域」をなくす まず着手すべきは、製品の「格付け」です。 全ての刃物を「欠品させてはならない」と考えてはいけません。 お手元の生産管理システムから、過去1年間の出荷データをCSVで出力してください。そして、出荷金額(または頻度)順に並べ替え、累積比率を出します。 Aランク(上位20%): 売上の8割を作る主力製品。 Bランク(中位): コンスタントに出るが、主役ではない。 Cランク(下位): 年に数回出るか出ないか。 在庫過多の工場の多くは、「Cランク品までAランクと同じように在庫している」か、あるいは「Aランク品が欠品して機会損失を出している」かのどちらか(あるいは両方)です。 【対策】 Aランク: これは在庫を持って構いません。むしろ、絶対に切らしてはいけない製品です。 Bランク: 「遅延差別化」を検討します。例えば、塗装前や刃付け前の「半製品」の状態で在庫を持ち、注文が来てから最終工程だけを行う。これにより、複数の完成品在庫を「共通の半製品在庫」として圧縮できます。 Cランク: 「在庫ゼロ」を目指します。営業を通じて「この製品は特注扱いになるので、納期を〇日ください」と交渉するのです。全ての客、全ての製品にいい顔をするのをやめることが、利益体質への第一歩です。 2. 「季節変動」を味方につける 「うちは突発的な注文ばかりだから」と諦めていませんか? しかし、建設業界、レンタル業界には明確な「波」があります。 例えば、 年度末(2月〜3月): 公共工事の工期末に向けて建機の稼働率はピークに達します。当然、消耗品の交換需要も跳ね上がります。 季節要因:除雪用なら冬、台風が多い地域なら秋口など。 過去3〜5年のデータを月別グラフにしてみてください。「なんとなく忙しい」と思っていたものが、「毎年3月は平均の1.8倍出ている」という明確な数値として浮かび上がってきます。 この「季節指数」を在庫管理に組み込みます。 1年中同じ「発注点(在庫がこれ以下になったら作るライン)」を設定しているのが間違いなのです。「1月に入ったら、システム上の発注点を1.5倍に引き上げる」「4月になったら、発注点を半分に戻す」この微調整をルーチン化するだけで、「閑散期の過剰在庫」と「繁忙期の欠品」を同時に防ぐことができます。 第3章:逆転の発想「富山の薬売り」モデル(VMI)への挑戦 ここまでは「社内」の話でした。 ここからは、一歩進んで「顧客(レンタル会社)」との関係性を変える、より抜本的な解決策をご提案します。それがVMI(Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)です。 分かりやすく言えば、「富山の薬売り(置き薬)」のビジネスモデルです。 なぜ、顧客の倉庫に在庫を置くのか? 現状の商流はこうです。 客先の建機が壊れる。 客先が御社に電話する。 御社が在庫を確認し、トラックを手配し、発送する。 翌日(または当日)に客先に届く。 この「リードタイム」と「輸送コスト」は、双方にとって無駄です。 そこで、こう提案するのです。「御社の営業所(または主要倉庫)の棚を一つ貸してください。そこに、当社のAランク製品(よく出る刃物)をあらかじめ置いておきます」 VMIの仕組みとメリット 仕組み: 在庫の所有権は御社のまま、モノだけ客先に置きます。客先は、現場で必要になったらその棚から勝手に持って行って使います。 請求: 御社の営業担当が月に一度訪問し、「減っている分」だけをカウントして請求書を切ります。同時に、減った分を補充します。 これこそが、建機レンタル業界における「三方よし」の解決策です。 客先(レンタル会社)のメリット: 「納期ゼロ」: 目の前にモノがあるのですから、電話する必要も、到着を待つ必要もありません。 在庫リスクなし: 使った分だけ払えばいいので、自社で在庫資産を持つ必要がありません。 御社(製造)のメリット: 「究極の囲い込み」: 一度この棚を作ってしまえば、他社製品が入り込む余地はなくなります。 配送コスト激減: 毎回の特急便が不要になり、月一回の定期補充便(ルート配送)に集約できます。 生産の平準化: 「今すぐ持ってこい」と言われないため、自社の都合の良いタイミングで作って補充に行けます。 第4章:営業と製造の「壁」を壊すには このような新しい取り組み(特にCランク品の納期交渉や、VMIの提案)を行おうとすると、必ず社内で抵抗勢力が現れます。 多くの場合、それは「営業部門」です。 「お客様に面倒な交渉をしたくない」 「そんなことを言って、競合に逃げられたらどうするんだ」 「在庫を減らすのは工場の都合だろう。俺たちを巻き込むな」 この「製販の壁」を乗り越えるには、伝え方を工夫する必要があります。 「在庫を減らしたいから協力してくれ」と頼んではいけません。「お客様のメリット(欠品防止)」として提案資料を作ってあげるのです。 営業を動かす「キラーフレーズ」 例えば、年度末に向けて在庫予測をする際、営業にこう言わせてみましょう。 「『年度末・優先確保キャンペーン』のご案内です」 「例年、2月から3月は注文が殺到して、どうしても納期が遅れがちになります。そこで、今月中に『大体の見込み』を教えていただいたお客様分については、専用在庫として優先的に確保(取り置き)させていただきます。もし急に刃が壊れても、御社だけは絶対に待たせません」 これならどうでしょうか? 営業は「在庫削減のお願い」というネガティブな交渉ではなく、「優先権の提供」というポジティブなサービスを顧客に持ちかけることができます。 顧客にとっても、繁忙期に建機が止まるリスクを回避できるのは大きなメリットです。 結果として、御社には「精度の高いフォーキャスト(受注予測)」が集まってきます。 この情報を元に、工場の閑散期(アイドルタイム)を活用して計画生産を行えば、残業代を抑えつつ、在庫を適正水準に保つことが可能になります。 第5章:消耗品製造業は「待ち」から「攻め」へ 建機レンタルの消耗品ビジネスは、決して「下請けの単純作業」ではありません。 レンタル会社の稼働率を支え、日本のインフラ整備を下支えする重要なパートナーです。 しかし、いつまでも「壊れたら電話して」という受動的なスタンス(待ちの経営)でいては、在庫の山とキャッシュフローの悪化に苦しむばかりです。データという武器を使い、消耗のサイクルを読み解き、こちらから「在庫の持ち方」を提案する。「置き薬方式」のような新しいサービスモデルを構築する。 そうすることで、御社は単なる「部品屋さん」から、レンタル会社の経営になくてはならない「戦略的パートナー」へと進化できるはずです。 貴社のデータは「宝の持ち腐れ」になっていませんか? 「言っていることは分かるが、実際に自社のデータでどう分析すればいいか分からない」 「生産管理システムのどの帳票を見れば、季節指数が出せるのか」 「VMIを提案したいが、契約書や運用ルールはどうすればいいのか」 もし、そのような疑問をお持ちであれば、一度、外部の視点を入れてみるのも一つの手です。船井総合研究所では、製造業専門のコンサルタントが、貴社の生産管理システムのデータを分析し、「どの製品を在庫すべきか」「どれを捨てるべきか」のシミュレーションを行うご支援も可能です。 在庫は、経営そのものです。 倉庫に眠る「鉄の塊」を、適正な「キャッシュ」に変えるための取り組みを、今すぐ始めませんか。 [無料経営相談のご案内] 本コラムをお読みになり、「自社の在庫データを分析してほしい」「VMIの具体的な導入ステップを知りたい」と思われた経営者様・工場長様へ。 船井総研では、初回無料の経営相談を受け付けております。オンラインでも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

20年間で157万人減。深刻な人手不足を乗り越える「製造業×生成AI」サバイバル戦略と導入ロードマップ

2026.01.08

図形2025年12月5日(金)、ハイアットリージェンシー東京(東京都新宿区)にて、株式会社京二様が主催する「第29回京二会」が開催されました。 本会におけるメインイベントとして、株式会社船井総合研究所による基調講演「製造業向け AI活用による競争力強化セミナー」が執り行われました。 講師として、同社AI推進室の飯塚 佳史、DXコンサルティング部の熊谷 俊作が登壇。製造業が直面する「人手不足」や「技術継承」といった深刻な課題に対し、AI活用がいかに競争力を高める鍵となるかについて、最新事例を交えた熱のこもった講演が行われました。 本記事では、この基調講演のエッセンスを凝縮し、製造業の経営者・現場リーダーが今すぐ取り組むべき「AI活用戦略」について解説します。 1. なぜ今、製造業に「AI」が必要なのか?数字で見る危機の正体 製造業の現場で「人が採れない」「技術が継承されない」という悲鳴が上がって久しいですが、データはさらに残酷な現実を突きつけています。 1-1. 20年間で157万人減。製造業労働人口推移の衝撃的な現実 国内製造業の労働人口は、2002年の1,202万人から2021年には1,045万人へと減少しました。この20年間で約157万人もの働き手が失われたことになります。これは福岡市の人口に匹敵する規模です。 1-2. 「若手・中堅の不足」が招く技術継承の断絶リスク さらに深刻なのが若年層の減少です。34歳以下の若年就業者は、同期間で約121万人も減少しています。 ベテラン社員の退職が進む一方で、それを受け継ぐ若手が圧倒的に足りていない。これにより、熟練者の頭の中にしかないノウハウが、誰にも継承されずに消えていくリスクが高まっています。 1-3. 属人化という「ブラックボックス」からの脱却:AI活用による形式知化 製造現場では、見積もり、生産計画、加工条件などが「わかる人にしかわからない」状態になりがちです。この属人化(ブラックボックス化)こそが、生産性を阻害する最大の要因です。 AI活用の本質は、このブラックボックス化した「勘・経験・度胸」をデータとして可視化し、誰もが活用できる「形式知」に変えることにあります。 2. 製造業におけるAIの現在地。「識別系AI」と「生成AI」の違いと役割 「AI」と一言で言っても、その役割は大きく2つに分かれます。 2-1. 従来のAI(識別・予測・最適化)と生成AI(対話・創造) これまで主流だったAI(識別系・予測系)は、過去のデータを学習し、正解を導き出す「自動化の道具」でした(例:外観検査、需要予測)。 一方、現在注目されている「生成AI」は、対話を通じて新しいアウトプットを生み出す「パートナー」です(例:日報要約、アイデア出し)。 以下に、それぞれの違いを整理しました。 特徴従来のAI(識別・予測系)生成AI(言語モデル等) 役割決められた作業の自動化・効率化知的業務の補佐・創造的パートナー 得意作業数値予測、画像診断、最適化計算文章作成、要約、翻訳、アイデア出し 処理の流れ学習データから最適な回答を探す学習データから新しい回答を生成する 活用例不良品検知、生産計画の立案報告書作成、プログラミング支援 2-2. 自社の課題はどれ?製造業でのAI活用「5つのフレームワーク」 船井総研では、製造業におけるAI活用を以下の5つの型に分類しています。 3. 【事例解説】現場はどう変わる?AI活用による競争力強化の実践パターン 講演では、具体的な導入事例が紹介されました。 3-1. 【生産管理】熟練者の「カンと経験」を再現する生産計画の自動化 ある表面処理メーカー(従業員約60名)では、生産計画がベテラン1名の「頭の中」に依存しており、属人化が課題でした。 そこで、熟練者の判断ルール(設備条件、納期、スキルなど)をAI(数理最適化)に学習させ、計画立案を自動化。その結果、「いつでも」「誰でも」「簡単に」最適な生産計画が立案できるようになりました。 3-2. 【設計・営業】過去図面検索AIで「探す時間」を1/4に短縮 多品種単品生産を行う加工業(従業員25名)では、過去の類似図面や見積もりを探す作業に多くの時間を費やしていました。 図面の特徴量を抽出して検索できるAIを導入したことで、検索時間が従来の1/4に短縮。さらに、過去の見積もり価格やトラブル情報を即座に参照できるようになり、見積もりのバラつきや不良の未然防止にも繋がっています。 3-3. 【技術伝承】マニュアル学習AIボットでOJT時間を400時間削減 シンワバネス株式会社様では、社内のマニュアルや技術文書(約300ファイル)を生成AIに学習させ、社内専用の「AIチャットボット」を構築しました。 若手社員がAIに質問することで自己解決できるようになり、ベテラン社員が教育(OJT)に割く時間を年間約414時間削減することに成功しました。これは1人当たりの平均労働時間の約2割に相当します。 4. 成功へのロードマップ。中小製造業が「明日から」始めるための具体的ステップ AI導入を成功させるには、いきなり全社展開するのではなく、段階的なアプローチが不可欠です。 4-1. ステップ1:トップの覚悟と「使う環境」の整備 まずは経営トップが「AIを活用する」と決断し、社員が安全に使える環境を整えることが出発点です。ロードマップを策定し、目的を共有することが重要です。 4-2. ステップ2:まずは「1日100回」使ってみるトライアル運用 特定の部門やプロジェクトを選定し、まずは触ってみることから始めます。目標として「1日100回活用」といった数値を掲げ、とにかくAIに慣れる期間を設けます。 4-3. ステップ3:リスク対策(ハルシネーション・情報漏洩)とガイドライン策定 生成AIには「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」をつくリスクや、情報漏洩のリスクがあります。 「機密情報は入力しない」「AIの回答は必ず人間が確認する」といった明確なガイドラインを策定し、安全な運用ルールを徹底しましょう。 5.質疑応答・参加者の声 本セミナーの質疑応答では、参加者の方々から実務に即した具体的な質問が多数寄せられました。その内容を要約してご紹介します。 Q1:クラウド型の生成AIを利用する際の情報漏洩リスクについて、どのように考えるべきでしょうか? 回答:情報漏洩リスクについては、最終的には経営者の判断になります。汎用的な生成AIは海外サーバーを利用することが多いため、それを許容できるかどうかが第一の分岐点となります。 クラウド利用がOKだとしても、社内でのアクセス権限設定(例:営業が製造データを見られないようにする等)を確実に行い、合意形成を図る必要があります。 「クラウド不可」の場合は、ローカルLLMやネットワークを完全に遮断した「エアギャップ」環境での構築という選択肢もありますが、コストや精度の検証が課題となります。 どのような環境で運用するかは、セキュリティポリシーや顧客との契約に基づいて、現場ではなく経営層が判断すべき事項です。 Q2:熟練者の「勘や経験」に依存している生産計画を自動化する場合、どのようなステップで進めればよいですか?また、期間はどれくらいかかりますか? 回答:実用化までは概ね12ヶ月程度かかります。 最初のステップとしては、担当者の横について実際の作業を見ながら、「なぜその計画にしたのか」をヒアリングし、言語化・ドキュメント化していくことが重要です。 ベテラン担当者には、「AI導入は仕事を奪うものではなく、ノウハウを形式知化し、品質維持に貢献するものである」というメリットを丁寧に伝え、協力を得ることが成功の鍵となります。 Q3:大規模な製造工程全体のデータを整備するには、どれくらいの期間(工数)が必要ですか? 回答:全部門一斉に取り組むと現場の負担が大きく、頓挫するリスクがあります。 まずは「製造部門」など特定の部署でデータを可視化・分析し、半年〜9ヶ月程度で小さな成功事例を作ることが推奨されます。その成果を他部門(品質保証、営業など)に横展開していく、段階的なアプローチが効果的です。 Q4:社内文書をAIに学習させる際、スムーズに進みましたか?(事例について) 回答:当初は手書きやフォーマットが統一されていないデータが多く、AIの回答精度が上がらないという課題がありました。 AI活用においては、パラメータ調整などの技術的な側面よりも、「元データをいかに整理し、AIが読み取りやすい形に整備できるか」が最も重要なポイントとなります。 Q5:AIを使った外観検査について教えてください。 回答:AIであっても、適切な画像データがなければ検査はできません。まずはカメラ、レンズ、照明などを調整し、欠陥を鮮明に撮像できる環境を作ることが最優先です。 従来の検査機との違いは、ルールベース(閾値)ではなく、AIが曖昧な特徴を「スコア」で判断できる点にあります。これにより、これまで人間の感覚に頼っていた微妙な良否判定が可能になります。 参加者の声:AI活用の「第一歩」を踏み出す決意 本セミナーには多くの製造業関係者が参加し、講演後には熱心な感想や決意の声が寄せられました。その一部をご紹介します。 ■ 経営層・リーダーの声 「2026年に向けて、出来る所から改善を進めていきたいと考えています。本日の講演で、今の忙しさの中でどのように取り組んでいくかイメージが湧きました。」(製造業 経営層) 「当社でもAI、DXについては他社と比較し遅れていると感じていました。全員が目的を理解し、同じ方向を向くことから始めたいと思います。」(N工業 S様) 「『1日100回使ってみる』という言葉が印象的でした。まずは積極的に使ってみることを実践していきたいです。」(A製作所M様) ■ 現場の課題感とAIへの期待 「営業として、見積対応やデータ入力に時間を取られ、本来の営業活動ができない状況です。生成AIを活用して無駄な時間を改善し、人にしかできない仕事に注力したいと感じました。」(B(株)K様) 「標準化が不十分だとAIも最適な回答を導けないという点にハッとしました。手遅れ感を感じつつも、地道にルール化に取り組んでいきます。」(T工業様) 「若手がAIを多く利用しており、先輩社員も使っていかなければ大変なことになると危機感を持ちました。」(佐野様) 「『全て読み込ませる』が正解だと思いました。課員からの『どこまでのデータを読み込ませれば良いか』という疑問が解消されました。」(W様) ■ 具体的な導入検討 「生産作業の属人化改善やサービスコール対応など、活用できる所は多々あると感じました。今日のお話を参考に社内で実施していきます。」(H精機様) 「社内業務のつながりが無い事が効率化の妨げでしたが、AI活用でそのつながりもできそうだと感じました。」(R様) 多くの参加者が、AIを「遠い未来の技術」ではなく、「今すぐ取り組むべき課題」として捉え直し、具体的なアクションへ繋げようとする姿勢が印象的でした。 6. まとめ:AIは「魔法の杖」ではなく「最強のアシスタント」 AIは人間の仕事を奪うものではなく、面倒な作業を代行し、知恵を貸してくれる「超優秀なアシスタント」です。 2024年問題や人手不足といった荒波を乗り越えるためには、この「アシスタント」を使いこなせるかどうかが、企業の生存を分ける分岐点となります。 まずは、社長自身の挨拶文やメールの下書きをAIに作らせるところから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、会社の競争力を大きく変えるきっかけになるはずです。 【講演依頼・コンサルティングに関するお問い合わせ】 今回の京二会で発表されたような「製造業特化型のAI活用セミナー」を、貴社の協力会や社内研修で開催しませんか? 株式会社船井総合研究所では、製造業の現場を知り尽くしたコンサルタントが、貴社の課題に合わせた講演や導入支援を行っております。 「自社の社員にAI活用の重要性を伝えてほしい」 「協力会・安全大会での基調講演を依頼したい」 「具体的なAI導入のロードマップを相談したい」 このようなご要望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。 お問い合わせ:株式会社船井総合研究所 テーマ例: 製造業向け生成AI活用、DX推進、スマートファクトリー化ロードマップ策定、ロボット活用など 図形2025年12月5日(金)、ハイアットリージェンシー東京(東京都新宿区)にて、株式会社京二様が主催する「第29回京二会」が開催されました。 本会におけるメインイベントとして、株式会社船井総合研究所による基調講演「製造業向け AI活用による競争力強化セミナー」が執り行われました。 講師として、同社AI推進室の飯塚 佳史、DXコンサルティング部の熊谷 俊作が登壇。製造業が直面する「人手不足」や「技術継承」といった深刻な課題に対し、AI活用がいかに競争力を高める鍵となるかについて、最新事例を交えた熱のこもった講演が行われました。 本記事では、この基調講演のエッセンスを凝縮し、製造業の経営者・現場リーダーが今すぐ取り組むべき「AI活用戦略」について解説します。 1. なぜ今、製造業に「AI」が必要なのか?数字で見る危機の正体 製造業の現場で「人が採れない」「技術が継承されない」という悲鳴が上がって久しいですが、データはさらに残酷な現実を突きつけています。 1-1. 20年間で157万人減。製造業労働人口推移の衝撃的な現実 国内製造業の労働人口は、2002年の1,202万人から2021年には1,045万人へと減少しました。この20年間で約157万人もの働き手が失われたことになります。これは福岡市の人口に匹敵する規模です。 1-2. 「若手・中堅の不足」が招く技術継承の断絶リスク さらに深刻なのが若年層の減少です。34歳以下の若年就業者は、同期間で約121万人も減少しています。 ベテラン社員の退職が進む一方で、それを受け継ぐ若手が圧倒的に足りていない。これにより、熟練者の頭の中にしかないノウハウが、誰にも継承されずに消えていくリスクが高まっています。 1-3. 属人化という「ブラックボックス」からの脱却:AI活用による形式知化 製造現場では、見積もり、生産計画、加工条件などが「わかる人にしかわからない」状態になりがちです。この属人化(ブラックボックス化)こそが、生産性を阻害する最大の要因です。 AI活用の本質は、このブラックボックス化した「勘・経験・度胸」をデータとして可視化し、誰もが活用できる「形式知」に変えることにあります。 2. 製造業におけるAIの現在地。「識別系AI」と「生成AI」の違いと役割 「AI」と一言で言っても、その役割は大きく2つに分かれます。 2-1. 従来のAI(識別・予測・最適化)と生成AI(対話・創造) これまで主流だったAI(識別系・予測系)は、過去のデータを学習し、正解を導き出す「自動化の道具」でした(例:外観検査、需要予測)。 一方、現在注目されている「生成AI」は、対話を通じて新しいアウトプットを生み出す「パートナー」です(例:日報要約、アイデア出し)。 以下に、それぞれの違いを整理しました。 特徴従来のAI(識別・予測系)生成AI(言語モデル等) 役割決められた作業の自動化・効率化知的業務の補佐・創造的パートナー 得意作業数値予測、画像診断、最適化計算文章作成、要約、翻訳、アイデア出し 処理の流れ学習データから最適な回答を探す学習データから新しい回答を生成する 活用例不良品検知、生産計画の立案報告書作成、プログラミング支援 2-2. 自社の課題はどれ?製造業でのAI活用「5つのフレームワーク」 船井総研では、製造業におけるAI活用を以下の5つの型に分類しています。 3. 【事例解説】現場はどう変わる?AI活用による競争力強化の実践パターン 講演では、具体的な導入事例が紹介されました。 3-1. 【生産管理】熟練者の「カンと経験」を再現する生産計画の自動化 ある表面処理メーカー(従業員約60名)では、生産計画がベテラン1名の「頭の中」に依存しており、属人化が課題でした。 そこで、熟練者の判断ルール(設備条件、納期、スキルなど)をAI(数理最適化)に学習させ、計画立案を自動化。その結果、「いつでも」「誰でも」「簡単に」最適な生産計画が立案できるようになりました。 3-2. 【設計・営業】過去図面検索AIで「探す時間」を1/4に短縮 多品種単品生産を行う加工業(従業員25名)では、過去の類似図面や見積もりを探す作業に多くの時間を費やしていました。 図面の特徴量を抽出して検索できるAIを導入したことで、検索時間が従来の1/4に短縮。さらに、過去の見積もり価格やトラブル情報を即座に参照できるようになり、見積もりのバラつきや不良の未然防止にも繋がっています。 3-3. 【技術伝承】マニュアル学習AIボットでOJT時間を400時間削減 シンワバネス株式会社様では、社内のマニュアルや技術文書(約300ファイル)を生成AIに学習させ、社内専用の「AIチャットボット」を構築しました。 若手社員がAIに質問することで自己解決できるようになり、ベテラン社員が教育(OJT)に割く時間を年間約414時間削減することに成功しました。これは1人当たりの平均労働時間の約2割に相当します。 4. 成功へのロードマップ。中小製造業が「明日から」始めるための具体的ステップ AI導入を成功させるには、いきなり全社展開するのではなく、段階的なアプローチが不可欠です。 4-1. ステップ1:トップの覚悟と「使う環境」の整備 まずは経営トップが「AIを活用する」と決断し、社員が安全に使える環境を整えることが出発点です。ロードマップを策定し、目的を共有することが重要です。 4-2. ステップ2:まずは「1日100回」使ってみるトライアル運用 特定の部門やプロジェクトを選定し、まずは触ってみることから始めます。目標として「1日100回活用」といった数値を掲げ、とにかくAIに慣れる期間を設けます。 4-3. ステップ3:リスク対策(ハルシネーション・情報漏洩)とガイドライン策定 生成AIには「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」をつくリスクや、情報漏洩のリスクがあります。 「機密情報は入力しない」「AIの回答は必ず人間が確認する」といった明確なガイドラインを策定し、安全な運用ルールを徹底しましょう。 5.質疑応答・参加者の声 本セミナーの質疑応答では、参加者の方々から実務に即した具体的な質問が多数寄せられました。その内容を要約してご紹介します。 Q1:クラウド型の生成AIを利用する際の情報漏洩リスクについて、どのように考えるべきでしょうか? 回答:情報漏洩リスクについては、最終的には経営者の判断になります。汎用的な生成AIは海外サーバーを利用することが多いため、それを許容できるかどうかが第一の分岐点となります。 クラウド利用がOKだとしても、社内でのアクセス権限設定(例:営業が製造データを見られないようにする等)を確実に行い、合意形成を図る必要があります。 「クラウド不可」の場合は、ローカルLLMやネットワークを完全に遮断した「エアギャップ」環境での構築という選択肢もありますが、コストや精度の検証が課題となります。 どのような環境で運用するかは、セキュリティポリシーや顧客との契約に基づいて、現場ではなく経営層が判断すべき事項です。 Q2:熟練者の「勘や経験」に依存している生産計画を自動化する場合、どのようなステップで進めればよいですか?また、期間はどれくらいかかりますか? 回答:実用化までは概ね12ヶ月程度かかります。 最初のステップとしては、担当者の横について実際の作業を見ながら、「なぜその計画にしたのか」をヒアリングし、言語化・ドキュメント化していくことが重要です。 ベテラン担当者には、「AI導入は仕事を奪うものではなく、ノウハウを形式知化し、品質維持に貢献するものである」というメリットを丁寧に伝え、協力を得ることが成功の鍵となります。 Q3:大規模な製造工程全体のデータを整備するには、どれくらいの期間(工数)が必要ですか? 回答:全部門一斉に取り組むと現場の負担が大きく、頓挫するリスクがあります。 まずは「製造部門」など特定の部署でデータを可視化・分析し、半年〜9ヶ月程度で小さな成功事例を作ることが推奨されます。その成果を他部門(品質保証、営業など)に横展開していく、段階的なアプローチが効果的です。 Q4:社内文書をAIに学習させる際、スムーズに進みましたか?(事例について) 回答:当初は手書きやフォーマットが統一されていないデータが多く、AIの回答精度が上がらないという課題がありました。 AI活用においては、パラメータ調整などの技術的な側面よりも、「元データをいかに整理し、AIが読み取りやすい形に整備できるか」が最も重要なポイントとなります。 Q5:AIを使った外観検査について教えてください。 回答:AIであっても、適切な画像データがなければ検査はできません。まずはカメラ、レンズ、照明などを調整し、欠陥を鮮明に撮像できる環境を作ることが最優先です。 従来の検査機との違いは、ルールベース(閾値)ではなく、AIが曖昧な特徴を「スコア」で判断できる点にあります。これにより、これまで人間の感覚に頼っていた微妙な良否判定が可能になります。 参加者の声:AI活用の「第一歩」を踏み出す決意 本セミナーには多くの製造業関係者が参加し、講演後には熱心な感想や決意の声が寄せられました。その一部をご紹介します。 ■ 経営層・リーダーの声 「2026年に向けて、出来る所から改善を進めていきたいと考えています。本日の講演で、今の忙しさの中でどのように取り組んでいくかイメージが湧きました。」(製造業 経営層) 「当社でもAI、DXについては他社と比較し遅れていると感じていました。全員が目的を理解し、同じ方向を向くことから始めたいと思います。」(N工業 S様) 「『1日100回使ってみる』という言葉が印象的でした。まずは積極的に使ってみることを実践していきたいです。」(A製作所M様) ■ 現場の課題感とAIへの期待 「営業として、見積対応やデータ入力に時間を取られ、本来の営業活動ができない状況です。生成AIを活用して無駄な時間を改善し、人にしかできない仕事に注力したいと感じました。」(B(株)K様) 「標準化が不十分だとAIも最適な回答を導けないという点にハッとしました。手遅れ感を感じつつも、地道にルール化に取り組んでいきます。」(T工業様) 「若手がAIを多く利用しており、先輩社員も使っていかなければ大変なことになると危機感を持ちました。」(佐野様) 「『全て読み込ませる』が正解だと思いました。課員からの『どこまでのデータを読み込ませれば良いか』という疑問が解消されました。」(W様) ■ 具体的な導入検討 「生産作業の属人化改善やサービスコール対応など、活用できる所は多々あると感じました。今日のお話を参考に社内で実施していきます。」(H精機様) 「社内業務のつながりが無い事が効率化の妨げでしたが、AI活用でそのつながりもできそうだと感じました。」(R様) 多くの参加者が、AIを「遠い未来の技術」ではなく、「今すぐ取り組むべき課題」として捉え直し、具体的なアクションへ繋げようとする姿勢が印象的でした。 6. まとめ:AIは「魔法の杖」ではなく「最強のアシスタント」 AIは人間の仕事を奪うものではなく、面倒な作業を代行し、知恵を貸してくれる「超優秀なアシスタント」です。 2024年問題や人手不足といった荒波を乗り越えるためには、この「アシスタント」を使いこなせるかどうかが、企業の生存を分ける分岐点となります。 まずは、社長自身の挨拶文やメールの下書きをAIに作らせるところから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、会社の競争力を大きく変えるきっかけになるはずです。 【講演依頼・コンサルティングに関するお問い合わせ】 今回の京二会で発表されたような「製造業特化型のAI活用セミナー」を、貴社の協力会や社内研修で開催しませんか? 株式会社船井総合研究所では、製造業の現場を知り尽くしたコンサルタントが、貴社の課題に合わせた講演や導入支援を行っております。 「自社の社員にAI活用の重要性を伝えてほしい」 「協力会・安全大会での基調講演を依頼したい」 「具体的なAI導入のロードマップを相談したい」 このようなご要望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。 お問い合わせ:株式会社船井総合研究所 テーマ例: 製造業向け生成AI活用、DX推進、スマートファクトリー化ロードマップ策定、ロボット活用など

「工場はフル稼働なのに、なぜ利益が残らないのか?」 ~製造現場の「職人芸」を経営数値に変える、「工場経営」への転換~

2026.01.08

はじめに:見えない「利益の漏水」に悩む経営者様へ 「原材料費も人件費も高騰しているが、なんとか価格転嫁を進めている。工場も現場の努力で稼働率を維持している。それなのに、決算書を開けると想定していた利益が残っていない……」 もし、貴社がこのようなジレンマを抱えているならば、それは単なる「コスト高」のせいだけではないかもしれません。多くの素材・化学・食品などのプロセス製造業が陥っている、構造的な「工場と経営の断絶」が原因である可能性が高いのです。 本稿では、多品種変量生産を行う製造業が直面する「標準原価と実際原価の乖離」の正体と、システム更新(MES/ERP)を単なる入れ替えに終わらせず、収益構造を変革するための「工場経営」というアプローチについて、具体的な処方を提示します。 第1章:工場と本社の「言葉」は通じているか? 「稼働率信仰」の罠 多くの製造現場では、「稼働率(操業度)」や「製造経費の予算内達成」が至上命題とされています。工場長のミッションは、ラインを止めず、決められた予算内でモノを作ることです。 しかし、ここに大きな落とし穴があります。 例えば、需要の変動が激しい中で、工場が「稼働率」を維持するために、本来は急ぐ必要のない在庫を先行生産したとします。工場側の指標では「高稼働・高効率」として評価されますが、経営側(本社)から見れば、それは「キャッシュフローの悪化」や「将来の廃棄リスク(評価損)」でしかありません。 「グラム・時間」の世界 vs 「円・利益」の世界 このすれ違いの根底にあるのは、「この共通言語の欠如」です。 工場側の言葉:kg、トン、時間、歩留まり率、人員数 経営側の言葉: 売上、原価、粗利、販管費、在庫回転率 工場の現場リーダーが「今日は歩留まりが98%で優秀でした」と報告しても、経営者が知りたいのは「その98%を達成するために、どれだけ余分な人件費やエネルギーコストがかかったのか? 最終的な限界利益はいくらなのか?」という点です。 この翻訳機能が働いていない組織では、現場がいかに汗をかいて改善活動を行っても、それがPL(損益計算書)の改善として可視化されず、現場のモチベーション低下と経営の不信感という悪循環を生んでしまいます。 第2章:見えないコストを生む「現場の職人芸」 特に、顧客からのスペック要求が厳しいB2B素材メーカー(化学、食品、医薬中間体など)において、この問題は深刻です。 「直行率」の嘘と「調整」の闇 貴社の工場では、システム上の「歩留まり」や「直行率」は高い数値を示しているかもしれません。しかし、その裏側で次のようなことが起きていないでしょうか? 属人的な「より分け」:Aという製品で作ったがスペックが合わず、少し調整してグレードの低いBという製品として登録し直している。 「振替」処理:生成AIを使って、見積作成や日報業務を劇的に効率化する方法 過剰な品質保証: 顧客の要求スペックよりもはるかに厳しい社内基準を設け、安全マージンを取りすぎて廃棄ロスを出している。 これらは現場の「責任感」や「職人芸」によって支えられていますが、経営データとしては最悪の形となります。なぜなら、「手直しにかかった工数」や「本来なら売れたはずの機会損失」が、標準原価の中に埋没してしまうからです。 これが、「標準原価」と「実際原価」が大きく乖離する最大の原因です。現場が良かれと思って行っている調整が、実は見えないコストとなり、利益を食いつぶしているのです。 第3章:システム導入が「失敗」する典型パターン こうした課題を解決するために、多くの企業がMES(製造実行システム)やERPの刷新を検討します。「DX」や「IoT」という言葉に期待を寄せ、最新のパッケージソフトを導入すれば、すべてが見える化されると期待するのです。 しかし、残念ながらそのプロジェクトの多くは、投資対効果を生まないまま終わります。 1. 原価の見える化:タブレット等で「実績工数」を収集し、本当の原価を知る ベンダー任せの要件定義が招く悲劇 システムベンダーのゴールは「システムを納期通りに納品すること」です。彼らは、今の業務をそのままシステムに置き換える「現行踏襲」の提案をしがちです。 一方、ユーザー企業側も、「今の現場のやり方を変えたくない」という意識が働き、「使いやすさ」ばかりを追求します。 その結果、何が起きるでしょうか? これまでExcelや紙で行っていた「属人的な調整」や「どんぶり勘定」が、そのまま高価なシステムの上でデジタル化されるだけです。これを私たちは「ムダのデジタル化」と呼んでいます。 経営管理に必要なデータが出ないまま、現場はタブレット入力の手間だけが増え、「前のほうがやりやすかった」という不満が爆発する。これが典型的な失敗パターンです。 第4章:解決策としての「工場経営」アプローチ では、どうすればよいのでしょうか? 必要なのは、システムを入れることではなく、「工場をプロフィットセンター(利益創出拠点)に変える」という経営視点の変革です。私たちはこれを「工場経営」と呼んでいます。 その変革を成功させるために、私たちはプロジェクトで以下のステップを推奨しています。 Step 1:データマネジメント成熟度診断(取得・蓄積・活用) いきなりシステム要件を決める前に、まずは自社のデータがどのような状態にあるかを診断します。 1. 取得:現場の「苦労」や「調整」が、デジタルデータとして発生源で入力されているか?(アナログな日報や口頭伝達になっていないか?) 2. 蓄積:SAPやMES、Excelに散らばったデータが、ロット別・工程別に紐付け可能な状態で保管されているか? 3. 活用:蓄積されたデータが、日々の改善活動や経営判断(撤退・投資・値上げ交渉)に使われているか? 多くの企業では、「取得」はできていても「蓄積」がバラバラで、「活用」に至っていないケースが散見されます。この現状を直視することがスタートラインです。 Step 2:真の「経営管理要件」の定義 ベンダーにシステムを作らせる前に、経営側が「何を見たいか」を定義する必要があります。 「どの工程で、いくらのロスが出ているかを金額換算したい」 「顧客ごとの厳しいスペック要求が、どれだけ原価を押し上げているかを知りたい」 こうした要件は、現場任せ・ベンダー任せでは絶対に出てきません。経営企画や事業部サイドが主導権を握り、「現場のデータを経営の数字(PL)に翻訳するロジック」を設計する必要があります。 Step 3:脱・職人芸の生産計画 Excelのセルを職人が埋める「パズル」のような生産計画から脱却し、実績データに基づいた予測精度の高い計画プロセスへ移行します。これにより、無理な計画変更による段取り替えロスや、不要な在庫の積み増しを防ぎます。 第5章:【事例】「見えない赤字」を特定し、V字回復したA社の話 ここで、ある素材メーカーA社の事例をご紹介します。 A社は年商数十億円規模、従業員数百名の中堅企業です。多品種変量生産を行い、高い技術力で顧客からの信頼も厚い企業でしたが、原材料高騰の波を受け、収益が悪化していました。 改革前の状況 A社の工場は非常に勤勉でした。しかし、システムは老朽化し、生産計画はベテラン課長のExcel職人芸。現場では「顧客のために」と、頻繁なライン停止と再調整が繰り返されていました。経営陣は「なぜ利益が出ないのか」悩み、現場は「これ以上どう頑張ればいいのか」と疲弊していました。 導入したアプローチ 私たちはA社に対し、MES更新のタイミングに合わせて「工場経営」の導入を支援しました。 具体的には、工場に入り込み、現場の「見えない作業」を洗い出し、それをデータとして捕捉する仕組み(要件)を定義しました。 そして、ベンダーに対し「単なる製造記録ではなく、原価差異分析ができるデータ構造」を強く要求しました。 改革の成果 半年後、A社では驚くべき事実が可視化されました。 ある特定の主力製品群において、厳しいスペックを満たすための「再調整・廃棄コスト」が、想定の3倍以上に達していたのです。つまり、「売れば売るほど赤字に近い状態」の商品が存在していました。 このデータを武器に、営業部門は顧客と交渉を行いました。「このスペックを維持するなら値上げが必要。現行価格ならスペック緩和が必要」という、根拠のある交渉です。 結果、不採算取引の是正と、工場内の無駄な調整作業の削減が同時に進み、A社の収益性は劇的に改善しました。工場長は現在、毎月の会議で「操業度」ではなく「品質コスト削減額」と「利益貢献額」を経営陣に報告しています。 おわりに:貴社の工場は「宝の山」か、「ブラックボックス」か 工場には、経営を良くするためのヒント(データ)が無限に埋まっています。しかし、それを採掘し、精製(加工)しなければ、ただのゴミ(ノイズ)です。 システム更新は、数年に一度のビッグチャンスです。このタイミングで、古い商習慣や属人的な業務プロセスを断ち切り、データを武器に戦う組織へと生まれ変われるか。それとも、新しい画面のシステムで古い仕事を続けるか。 その分岐点は、「経営視点でシステム要件をコントロールできるか」にかかっています。 私たちは、システムベンダーではありません。また、単なる業務改善コンサルタントでもありません。 経営と現場(工場)の間に立ち、通じ合わない「言葉」を翻訳し、利益を生むためのデータ構造と業務プロセスを設計するパートナーです。 「工場の現場は見せられないが、まずは経営データから診断してほしい」 「ベンダーからの提案書が、本当に経営に役立つものかセカンドオピニオンが欲しい」 「生産計画のExcel地獄から抜け出したい」 もし、一つでも当てはまることがあれば、一度私たちとディスカッションをしてみませんか。 貴社の工場が本来持っているポテンシャルを、利益という形に変えるお手伝いをさせていただきます。 はじめに:見えない「利益の漏水」に悩む経営者様へ 「原材料費も人件費も高騰しているが、なんとか価格転嫁を進めている。工場も現場の努力で稼働率を維持している。それなのに、決算書を開けると想定していた利益が残っていない……」 もし、貴社がこのようなジレンマを抱えているならば、それは単なる「コスト高」のせいだけではないかもしれません。多くの素材・化学・食品などのプロセス製造業が陥っている、構造的な「工場と経営の断絶」が原因である可能性が高いのです。 本稿では、多品種変量生産を行う製造業が直面する「標準原価と実際原価の乖離」の正体と、システム更新(MES/ERP)を単なる入れ替えに終わらせず、収益構造を変革するための「工場経営」というアプローチについて、具体的な処方を提示します。 第1章:工場と本社の「言葉」は通じているか? 「稼働率信仰」の罠 多くの製造現場では、「稼働率(操業度)」や「製造経費の予算内達成」が至上命題とされています。工場長のミッションは、ラインを止めず、決められた予算内でモノを作ることです。 しかし、ここに大きな落とし穴があります。 例えば、需要の変動が激しい中で、工場が「稼働率」を維持するために、本来は急ぐ必要のない在庫を先行生産したとします。工場側の指標では「高稼働・高効率」として評価されますが、経営側(本社)から見れば、それは「キャッシュフローの悪化」や「将来の廃棄リスク(評価損)」でしかありません。 「グラム・時間」の世界 vs 「円・利益」の世界 このすれ違いの根底にあるのは、「この共通言語の欠如」です。 工場側の言葉:kg、トン、時間、歩留まり率、人員数 経営側の言葉: 売上、原価、粗利、販管費、在庫回転率 工場の現場リーダーが「今日は歩留まりが98%で優秀でした」と報告しても、経営者が知りたいのは「その98%を達成するために、どれだけ余分な人件費やエネルギーコストがかかったのか? 最終的な限界利益はいくらなのか?」という点です。 この翻訳機能が働いていない組織では、現場がいかに汗をかいて改善活動を行っても、それがPL(損益計算書)の改善として可視化されず、現場のモチベーション低下と経営の不信感という悪循環を生んでしまいます。 第2章:見えないコストを生む「現場の職人芸」 特に、顧客からのスペック要求が厳しいB2B素材メーカー(化学、食品、医薬中間体など)において、この問題は深刻です。 「直行率」の嘘と「調整」の闇 貴社の工場では、システム上の「歩留まり」や「直行率」は高い数値を示しているかもしれません。しかし、その裏側で次のようなことが起きていないでしょうか? 属人的な「より分け」:Aという製品で作ったがスペックが合わず、少し調整してグレードの低いBという製品として登録し直している。 「振替」処理:生成AIを使って、見積作成や日報業務を劇的に効率化する方法 過剰な品質保証: 顧客の要求スペックよりもはるかに厳しい社内基準を設け、安全マージンを取りすぎて廃棄ロスを出している。 これらは現場の「責任感」や「職人芸」によって支えられていますが、経営データとしては最悪の形となります。なぜなら、「手直しにかかった工数」や「本来なら売れたはずの機会損失」が、標準原価の中に埋没してしまうからです。 これが、「標準原価」と「実際原価」が大きく乖離する最大の原因です。現場が良かれと思って行っている調整が、実は見えないコストとなり、利益を食いつぶしているのです。 第3章:システム導入が「失敗」する典型パターン こうした課題を解決するために、多くの企業がMES(製造実行システム)やERPの刷新を検討します。「DX」や「IoT」という言葉に期待を寄せ、最新のパッケージソフトを導入すれば、すべてが見える化されると期待するのです。 しかし、残念ながらそのプロジェクトの多くは、投資対効果を生まないまま終わります。 1. 原価の見える化:タブレット等で「実績工数」を収集し、本当の原価を知る ベンダー任せの要件定義が招く悲劇 システムベンダーのゴールは「システムを納期通りに納品すること」です。彼らは、今の業務をそのままシステムに置き換える「現行踏襲」の提案をしがちです。 一方、ユーザー企業側も、「今の現場のやり方を変えたくない」という意識が働き、「使いやすさ」ばかりを追求します。 その結果、何が起きるでしょうか? これまでExcelや紙で行っていた「属人的な調整」や「どんぶり勘定」が、そのまま高価なシステムの上でデジタル化されるだけです。これを私たちは「ムダのデジタル化」と呼んでいます。 経営管理に必要なデータが出ないまま、現場はタブレット入力の手間だけが増え、「前のほうがやりやすかった」という不満が爆発する。これが典型的な失敗パターンです。 第4章:解決策としての「工場経営」アプローチ では、どうすればよいのでしょうか? 必要なのは、システムを入れることではなく、「工場をプロフィットセンター(利益創出拠点)に変える」という経営視点の変革です。私たちはこれを「工場経営」と呼んでいます。 その変革を成功させるために、私たちはプロジェクトで以下のステップを推奨しています。 Step 1:データマネジメント成熟度診断(取得・蓄積・活用) いきなりシステム要件を決める前に、まずは自社のデータがどのような状態にあるかを診断します。 1. 取得:現場の「苦労」や「調整」が、デジタルデータとして発生源で入力されているか?(アナログな日報や口頭伝達になっていないか?) 2. 蓄積:SAPやMES、Excelに散らばったデータが、ロット別・工程別に紐付け可能な状態で保管されているか? 3. 活用:蓄積されたデータが、日々の改善活動や経営判断(撤退・投資・値上げ交渉)に使われているか? 多くの企業では、「取得」はできていても「蓄積」がバラバラで、「活用」に至っていないケースが散見されます。この現状を直視することがスタートラインです。 Step 2:真の「経営管理要件」の定義 ベンダーにシステムを作らせる前に、経営側が「何を見たいか」を定義する必要があります。 「どの工程で、いくらのロスが出ているかを金額換算したい」 「顧客ごとの厳しいスペック要求が、どれだけ原価を押し上げているかを知りたい」 こうした要件は、現場任せ・ベンダー任せでは絶対に出てきません。経営企画や事業部サイドが主導権を握り、「現場のデータを経営の数字(PL)に翻訳するロジック」を設計する必要があります。 Step 3:脱・職人芸の生産計画 Excelのセルを職人が埋める「パズル」のような生産計画から脱却し、実績データに基づいた予測精度の高い計画プロセスへ移行します。これにより、無理な計画変更による段取り替えロスや、不要な在庫の積み増しを防ぎます。 第5章:【事例】「見えない赤字」を特定し、V字回復したA社の話 ここで、ある素材メーカーA社の事例をご紹介します。 A社は年商数十億円規模、従業員数百名の中堅企業です。多品種変量生産を行い、高い技術力で顧客からの信頼も厚い企業でしたが、原材料高騰の波を受け、収益が悪化していました。 改革前の状況 A社の工場は非常に勤勉でした。しかし、システムは老朽化し、生産計画はベテラン課長のExcel職人芸。現場では「顧客のために」と、頻繁なライン停止と再調整が繰り返されていました。経営陣は「なぜ利益が出ないのか」悩み、現場は「これ以上どう頑張ればいいのか」と疲弊していました。 導入したアプローチ 私たちはA社に対し、MES更新のタイミングに合わせて「工場経営」の導入を支援しました。 具体的には、工場に入り込み、現場の「見えない作業」を洗い出し、それをデータとして捕捉する仕組み(要件)を定義しました。 そして、ベンダーに対し「単なる製造記録ではなく、原価差異分析ができるデータ構造」を強く要求しました。 改革の成果 半年後、A社では驚くべき事実が可視化されました。 ある特定の主力製品群において、厳しいスペックを満たすための「再調整・廃棄コスト」が、想定の3倍以上に達していたのです。つまり、「売れば売るほど赤字に近い状態」の商品が存在していました。 このデータを武器に、営業部門は顧客と交渉を行いました。「このスペックを維持するなら値上げが必要。現行価格ならスペック緩和が必要」という、根拠のある交渉です。 結果、不採算取引の是正と、工場内の無駄な調整作業の削減が同時に進み、A社の収益性は劇的に改善しました。工場長は現在、毎月の会議で「操業度」ではなく「品質コスト削減額」と「利益貢献額」を経営陣に報告しています。 おわりに:貴社の工場は「宝の山」か、「ブラックボックス」か 工場には、経営を良くするためのヒント(データ)が無限に埋まっています。しかし、それを採掘し、精製(加工)しなければ、ただのゴミ(ノイズ)です。 システム更新は、数年に一度のビッグチャンスです。このタイミングで、古い商習慣や属人的な業務プロセスを断ち切り、データを武器に戦う組織へと生まれ変われるか。それとも、新しい画面のシステムで古い仕事を続けるか。 その分岐点は、「経営視点でシステム要件をコントロールできるか」にかかっています。 私たちは、システムベンダーではありません。また、単なる業務改善コンサルタントでもありません。 経営と現場(工場)の間に立ち、通じ合わない「言葉」を翻訳し、利益を生むためのデータ構造と業務プロセスを設計するパートナーです。 「工場の現場は見せられないが、まずは経営データから診断してほしい」 「ベンダーからの提案書が、本当に経営に役立つものかセカンドオピニオンが欲しい」 「生産計画のExcel地獄から抜け出したい」 もし、一つでも当てはまることがあれば、一度私たちとディスカッションをしてみませんか。 貴社の工場が本来持っているポテンシャルを、利益という形に変えるお手伝いをさせていただきます。

【特集】システムは「現場」だけのものではない。生産管理の成否を握る、技術部という「真の司令塔」

2026.01.08

なぜ、高額なシステムが「ただの箱」と化すのか? 「数億円をかけて最新の生産管理システムを導入したのに、在庫が合わない」 「計画通りにモノが作れない」 「結局、現場はExcelで管理している」 製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、こうした嘆きは後を絶ちません。多くの企業が、システム導入の失敗原因を「現場の入力ミス」や「システム会社の理解不足」に求めがちです。しかし、数多くの事例を紐解くと、そこには意外な共通点が見えてきます。 それは、「技術部(設計・開発部門)の不在」です。 多くのエンジニアにとって、生産管理システムは「生産管理課が納期調整をするためのツール」や「購買課が発注するためのツール」に見えるかもしれません。「自分たちの仕事はCADで最高の図面を描くことだ。その後の管理は別部署の仕事だ」 ——もし、技術部全体にそのような空気が流れているとしたら、その企業のシステム導入は高い確率で失敗します。 なぜなら、生産管理システムという巨大なエンジンを動かすための「燃料」を供給できるのは、世界中で唯一、技術部だけだからです。本稿では、一般的に過小評価されがちな「生産管理システムにおける技術部の役割」を深掘りし、なぜ技術部こそが工場のコントロールタワーであるのかを解き明かします。 第1章:すべての源流(ソース)を握る権限と責任 生産管理システムは、突き詰めれば「何を、いつまでに、いくつ作るか」を計算し、指令を出す仕組みです。しかし、この計算を行うためには、絶対不可欠な「前提条件」があります。 何を作るのか?(品目情報) 何を使って作るのか?(部品表:BOM) どうやって作るのか?(工順・プロセス) どれくらいの時間がかかるのか?(標準時間) これらすべての情報の「発生源」はどこでしょうか? そう、すべて技術部です。 「標準時間(ST)」が狂えば、経営が狂う 例えば、「標準時間(Standard Time)」の設定を例に取ってみましょう。技術部が設定した標準時間が、実力値よりも甘く(長く)設定されていたとします。 システムはその時間を正として計算するため、「1日にこれだけしか作れない」と判断し、本来なら不要な残業計画を立てたり、受けられるはずの注文を「納期に間に合わない」と断ったりすることになります。 逆に、厳しすぎる(短い)時間を設定すれば、現場は常に遅延状態となり、リカバリーのための特急手配で物流費が嵩みます。 つまり、技術部がシステムに入力する「数字ひとつ」が、工場の稼働率を決定づけ、会社の利益率を左右するのです。これは単なるデータ登録作業ではありません。「工場の能力(キャパシティ)を定義する」という、極めて経営的な行為なのです。 マスタデータはシステムの「DNA」 不正確な図面から良い製品が生まれないのと同様に、不正確なマスタデータからは正しい生産計画は生まれません。 技術部が整備する品目マスタやBOMは、システムの「DNA」です。もしここに欠損やエラー(例えば、親子関係のループや、存在しない部材の指定)があれば、その欠陥は購買・製造・出荷・経理という全工程に複製され、増幅されます。 「後で現場が直してくれるだろう」という甘えは許されません。システムの世界では、源流である技術部が流した水が、そのまま下流まで届くからです。 第2章:「E-BOM」と「M-BOM」の壁を越える 生産管理システム導入において、技術部と生産管理部の間で最も激しい火花が散るのが、BOM(部品表)の問題です。 設計者がCADで作る部品表は「E-BOM(Engineering BOM)」と呼ばれ、「機能」を中心に構成されています。 「ここから先はAユニット、ここからはBユニット」といった機能ごとのまとまりは、設計図としては正解です。しかし、製造現場がシステムで必要とする「M-BOM(Manufacturing BOM)」は、「作る順序」で構成されていなければなりません。 現場には「見えない部品」がある 例えば、塗装工程を想像してください。設計図面上、塗装は「部品の属性(色指定)」として表現されることが多いですが、生産管理システム上では「塗料」という材料が必要であり、「塗装」という工程が必要です。 また、組立の途中で一時的に保管される「中間仕掛品(サブアッセンブリ)」も、設計図には現れませんが、システム上では管理対象として品番を振る必要があります。 ここで技術部が、「E-BOMを渡したんだから、あとはそっちでやってくれ」と突き放すとどうなるでしょうか。生産管理担当者が、図面を見様見真似でM-BOMを作り直すことになります。 技術的な意図を完全に理解していない担当者がBOMを再構築する ——ここに、「誤発注」や「工程抜け」という悲劇の種がまかれます。 「製造」を設計する 優秀な技術部は、この変換プロセスに深く関与します。「この設計なら、工程はこう流れるはずだ」「ここで中間在庫を持つなら、この単位でBOMを区切るべきだ」と、製品そのものだけでなく「作り方(Manufacturing)」まで設計するのです。生産管理システムを使いこなす技術部は、CAD上のBOMがどのようにシステム内で展開され、現場の指示書や発注書に変わるかを理解しています。この「想像力」こそが、手戻りのないスムーズな量産立ち上げを実現します。 第3章:原価という「通知表」を受け取る勇気 「いいモノを作れば売れる」時代は終わり、「いいモノを、適正なコストで作らなければ生き残れない」時代になりました。 生産管理システムは、実は「巨大な原価計算機」でもあります。 部品費、労務費(工数×賃率)、外注費、経費。これらを積み上げた結果が、製品の原価です。技術部にとって、生産管理システムを見ることは、自らの設計に対する厳しい「通知表」を受け取ることを意味します。 コストの8割は設計で決まる 製造業の定説として、「製品コストの80%は設計段階で決定する」と言われています。一度図面が出図され、金型が作られ、ラインが組まれてしまえば、現場の努力(カイゼン)で削減できるコストは残りの20%に過ぎません。 しかし、多くの設計者は、自分が引いた一本の線が、最終的にいくらのコストになったのかを正確に把握していません。生産管理システムは、その答えを持っています。 「予定していた標準原価」と、実際に製造にかかった「実際原価」。この差異(原価差異)をシステム上でモニタリングすることこそ、技術部の重要な役割です。 なぜ、この部品は予定より高くついたのか?(歩留まりが悪い形状だったのか?) なぜ、この工程は予定より時間がかかったのか?(公差が厳しすぎて調整に手間取ったのか?) システムが吐き出すこれらのデータを、経理部任せにしてはいけません。技術部が自らデータを取りに行き、「金銭的価値」という視点で設計を見直す(Design to Cost)。これができる技術部を持つ企業は、利益体質が劇的に強くなります 第4章:設計変更(設変)という荒波をコントロールする 製造業の現場を最も混乱させるイベント、それが「設計変更(設変)」です。 「品質向上のため」「部品枯渇のため」「コストダウンのため」、理由は様々ですが、図面が変わるということは、現場にとっては一大事です。 古い部品の在庫はどうするのか?(廃棄か、使い切りか) 仕掛中の製品はそのまま進めていいのか? 金型の修正はいつ行うのか? ここでも、生産管理システムにおける技術部の操作が鍵を握ります。 設変のタイミングをシステムで指揮する 紙の「設変通知書」を回覧するだけでは、現代のスピードにはついていけません。技術部はシステム上で、設変の適用日や適用号機(シリアルNo.)を正確に指定する必要があります。 「在庫がなくなったら自然に切り替える(ランニングチェンジ)」のか、「○月×日の生産分から強制的に切り替える」のか。このフラグ一つをシステムで制御することで、無駄な廃棄ロス(死蔵在庫)防ぐことができます。 また、システム上で「版数(リビジョン)」を厳格に管理することで、誤って古い図面で発注してしまうリスクを排除します。技術部は、システムを通じて「時間の流れ」をコントロールしていると言っても過言ではありません。 第5章:品質改善とIoTへの架け橋 最後に、これからの生産管理システムにおいて最も期待される役割、それが「品質(Quality)」との連携です。 従来の生産管理システムは「量(Quantity)」と「納期(Delivery)」の管理が主でしたが、近年は品質データやIoTデータとの統合が進んでいます。 「経験と勘」からの脱却 現場で発生した不良情報が、日報という「紙」に埋もれていませんか? 生産管理システムに不良の内容、発生工程、原因コードが正しく入力されれば、それは技術部にとって宝の山となります。 「特定のサプライヤーの部品を使った時だけ、組立不良率が上がる」 「気温が低い日は、寸法のばらつきが大きい」 こうした相関関係は、人間の感覚だけでは気づきにくいものです。システムに蓄積されたビッグデータを技術部が分析することで、設計の弱点が見えてきます。 さらに、設備から直接データを吸い上げるIoT連携が進めば、「金型のショット数が限界に近づいたので、予備型を手配する」といった予知保全も可能になります。 技術部が生産管理システムに関与するということは、「現場の事実」をデータとして吸い上げ、次の設計に活かす「学習サイクル」を回すということです。このサイクルが回らない限り、同じような不良を繰り返す「モグラ叩き」からは永遠に抜け出せません。 技術部こそが、最強のユーザーであれ 生産管理システムは、もはや「生産管理部のための事務処理ツール」ではありません。それは、企業のエンジニアリング・チェーン(設計〜製造)とサプライ・チェーン(調達〜出荷)を結節させる、巨大なプラットフォームです。 そのプラットフォームに、 魂(設計思想)を吹き込み、 血液(正確なデータ)を流し、 健康状態(コスト・品質)を診断する。これらすべてを行えるのは、製品のことを最も深く理解している技術部だけです。 技術部の皆さん。「システムへの入力作業」を、面倒な雑務だと捉えるのは今日で終わりにしましょう。それは、あなたの設計した製品が、世界で最も効率よく、最も高品質に、最も適正なコストで世に出るための「製造プロセスのプログラミング」なのです。 キーボードを叩くその指先は、CADで線を引くときと同じくらい、企業の未来を創り出しています。技術部こそが、生産管理システムの最強のユーザーとなり、製造現場をリードしていく。その意識変革が起きたとき、真の「強いモノづくり」が実現するはずです。 【次のステップ】 この記事で触れた「BOMの壁(E-BOMとM-BOMの乖離)」や「標準時間の設定」について、お読みいただいた貴社の現状と比較できる『生産管理システム成熟度チェックシート(技術部編)』を作成しています。 現状の課題が「データの精度」にあるのか、「部門間の連携」にあるのかを可視化してみませんか?まずはお気軽にご連絡ください。 なぜ、高額なシステムが「ただの箱」と化すのか? 「数億円をかけて最新の生産管理システムを導入したのに、在庫が合わない」 「計画通りにモノが作れない」 「結局、現場はExcelで管理している」 製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、こうした嘆きは後を絶ちません。多くの企業が、システム導入の失敗原因を「現場の入力ミス」や「システム会社の理解不足」に求めがちです。しかし、数多くの事例を紐解くと、そこには意外な共通点が見えてきます。 それは、「技術部(設計・開発部門)の不在」です。 多くのエンジニアにとって、生産管理システムは「生産管理課が納期調整をするためのツール」や「購買課が発注するためのツール」に見えるかもしれません。「自分たちの仕事はCADで最高の図面を描くことだ。その後の管理は別部署の仕事だ」 ——もし、技術部全体にそのような空気が流れているとしたら、その企業のシステム導入は高い確率で失敗します。 なぜなら、生産管理システムという巨大なエンジンを動かすための「燃料」を供給できるのは、世界中で唯一、技術部だけだからです。本稿では、一般的に過小評価されがちな「生産管理システムにおける技術部の役割」を深掘りし、なぜ技術部こそが工場のコントロールタワーであるのかを解き明かします。 第1章:すべての源流(ソース)を握る権限と責任 生産管理システムは、突き詰めれば「何を、いつまでに、いくつ作るか」を計算し、指令を出す仕組みです。しかし、この計算を行うためには、絶対不可欠な「前提条件」があります。 何を作るのか?(品目情報) 何を使って作るのか?(部品表:BOM) どうやって作るのか?(工順・プロセス) どれくらいの時間がかかるのか?(標準時間) これらすべての情報の「発生源」はどこでしょうか? そう、すべて技術部です。 「標準時間(ST)」が狂えば、経営が狂う 例えば、「標準時間(Standard Time)」の設定を例に取ってみましょう。技術部が設定した標準時間が、実力値よりも甘く(長く)設定されていたとします。 システムはその時間を正として計算するため、「1日にこれだけしか作れない」と判断し、本来なら不要な残業計画を立てたり、受けられるはずの注文を「納期に間に合わない」と断ったりすることになります。 逆に、厳しすぎる(短い)時間を設定すれば、現場は常に遅延状態となり、リカバリーのための特急手配で物流費が嵩みます。 つまり、技術部がシステムに入力する「数字ひとつ」が、工場の稼働率を決定づけ、会社の利益率を左右するのです。これは単なるデータ登録作業ではありません。「工場の能力(キャパシティ)を定義する」という、極めて経営的な行為なのです。 マスタデータはシステムの「DNA」 不正確な図面から良い製品が生まれないのと同様に、不正確なマスタデータからは正しい生産計画は生まれません。 技術部が整備する品目マスタやBOMは、システムの「DNA」です。もしここに欠損やエラー(例えば、親子関係のループや、存在しない部材の指定)があれば、その欠陥は購買・製造・出荷・経理という全工程に複製され、増幅されます。 「後で現場が直してくれるだろう」という甘えは許されません。システムの世界では、源流である技術部が流した水が、そのまま下流まで届くからです。 第2章:「E-BOM」と「M-BOM」の壁を越える 生産管理システム導入において、技術部と生産管理部の間で最も激しい火花が散るのが、BOM(部品表)の問題です。 設計者がCADで作る部品表は「E-BOM(Engineering BOM)」と呼ばれ、「機能」を中心に構成されています。 「ここから先はAユニット、ここからはBユニット」といった機能ごとのまとまりは、設計図としては正解です。しかし、製造現場がシステムで必要とする「M-BOM(Manufacturing BOM)」は、「作る順序」で構成されていなければなりません。 現場には「見えない部品」がある 例えば、塗装工程を想像してください。設計図面上、塗装は「部品の属性(色指定)」として表現されることが多いですが、生産管理システム上では「塗料」という材料が必要であり、「塗装」という工程が必要です。 また、組立の途中で一時的に保管される「中間仕掛品(サブアッセンブリ)」も、設計図には現れませんが、システム上では管理対象として品番を振る必要があります。 ここで技術部が、「E-BOMを渡したんだから、あとはそっちでやってくれ」と突き放すとどうなるでしょうか。生産管理担当者が、図面を見様見真似でM-BOMを作り直すことになります。 技術的な意図を完全に理解していない担当者がBOMを再構築する ——ここに、「誤発注」や「工程抜け」という悲劇の種がまかれます。 「製造」を設計する 優秀な技術部は、この変換プロセスに深く関与します。「この設計なら、工程はこう流れるはずだ」「ここで中間在庫を持つなら、この単位でBOMを区切るべきだ」と、製品そのものだけでなく「作り方(Manufacturing)」まで設計するのです。生産管理システムを使いこなす技術部は、CAD上のBOMがどのようにシステム内で展開され、現場の指示書や発注書に変わるかを理解しています。この「想像力」こそが、手戻りのないスムーズな量産立ち上げを実現します。 第3章:原価という「通知表」を受け取る勇気 「いいモノを作れば売れる」時代は終わり、「いいモノを、適正なコストで作らなければ生き残れない」時代になりました。 生産管理システムは、実は「巨大な原価計算機」でもあります。 部品費、労務費(工数×賃率)、外注費、経費。これらを積み上げた結果が、製品の原価です。技術部にとって、生産管理システムを見ることは、自らの設計に対する厳しい「通知表」を受け取ることを意味します。 コストの8割は設計で決まる 製造業の定説として、「製品コストの80%は設計段階で決定する」と言われています。一度図面が出図され、金型が作られ、ラインが組まれてしまえば、現場の努力(カイゼン)で削減できるコストは残りの20%に過ぎません。 しかし、多くの設計者は、自分が引いた一本の線が、最終的にいくらのコストになったのかを正確に把握していません。生産管理システムは、その答えを持っています。 「予定していた標準原価」と、実際に製造にかかった「実際原価」。この差異(原価差異)をシステム上でモニタリングすることこそ、技術部の重要な役割です。 なぜ、この部品は予定より高くついたのか?(歩留まりが悪い形状だったのか?) なぜ、この工程は予定より時間がかかったのか?(公差が厳しすぎて調整に手間取ったのか?) システムが吐き出すこれらのデータを、経理部任せにしてはいけません。技術部が自らデータを取りに行き、「金銭的価値」という視点で設計を見直す(Design to Cost)。これができる技術部を持つ企業は、利益体質が劇的に強くなります 第4章:設計変更(設変)という荒波をコントロールする 製造業の現場を最も混乱させるイベント、それが「設計変更(設変)」です。 「品質向上のため」「部品枯渇のため」「コストダウンのため」、理由は様々ですが、図面が変わるということは、現場にとっては一大事です。 古い部品の在庫はどうするのか?(廃棄か、使い切りか) 仕掛中の製品はそのまま進めていいのか? 金型の修正はいつ行うのか? ここでも、生産管理システムにおける技術部の操作が鍵を握ります。 設変のタイミングをシステムで指揮する 紙の「設変通知書」を回覧するだけでは、現代のスピードにはついていけません。技術部はシステム上で、設変の適用日や適用号機(シリアルNo.)を正確に指定する必要があります。 「在庫がなくなったら自然に切り替える(ランニングチェンジ)」のか、「○月×日の生産分から強制的に切り替える」のか。このフラグ一つをシステムで制御することで、無駄な廃棄ロス(死蔵在庫)防ぐことができます。 また、システム上で「版数(リビジョン)」を厳格に管理することで、誤って古い図面で発注してしまうリスクを排除します。技術部は、システムを通じて「時間の流れ」をコントロールしていると言っても過言ではありません。 第5章:品質改善とIoTへの架け橋 最後に、これからの生産管理システムにおいて最も期待される役割、それが「品質(Quality)」との連携です。 従来の生産管理システムは「量(Quantity)」と「納期(Delivery)」の管理が主でしたが、近年は品質データやIoTデータとの統合が進んでいます。 「経験と勘」からの脱却 現場で発生した不良情報が、日報という「紙」に埋もれていませんか? 生産管理システムに不良の内容、発生工程、原因コードが正しく入力されれば、それは技術部にとって宝の山となります。 「特定のサプライヤーの部品を使った時だけ、組立不良率が上がる」 「気温が低い日は、寸法のばらつきが大きい」 こうした相関関係は、人間の感覚だけでは気づきにくいものです。システムに蓄積されたビッグデータを技術部が分析することで、設計の弱点が見えてきます。 さらに、設備から直接データを吸い上げるIoT連携が進めば、「金型のショット数が限界に近づいたので、予備型を手配する」といった予知保全も可能になります。 技術部が生産管理システムに関与するということは、「現場の事実」をデータとして吸い上げ、次の設計に活かす「学習サイクル」を回すということです。このサイクルが回らない限り、同じような不良を繰り返す「モグラ叩き」からは永遠に抜け出せません。 技術部こそが、最強のユーザーであれ 生産管理システムは、もはや「生産管理部のための事務処理ツール」ではありません。それは、企業のエンジニアリング・チェーン(設計〜製造)とサプライ・チェーン(調達〜出荷)を結節させる、巨大なプラットフォームです。 そのプラットフォームに、 魂(設計思想)を吹き込み、 血液(正確なデータ)を流し、 健康状態(コスト・品質)を診断する。これらすべてを行えるのは、製品のことを最も深く理解している技術部だけです。 技術部の皆さん。「システムへの入力作業」を、面倒な雑務だと捉えるのは今日で終わりにしましょう。それは、あなたの設計した製品が、世界で最も効率よく、最も高品質に、最も適正なコストで世に出るための「製造プロセスのプログラミング」なのです。 キーボードを叩くその指先は、CADで線を引くときと同じくらい、企業の未来を創り出しています。技術部こそが、生産管理システムの最強のユーザーとなり、製造現場をリードしていく。その意識変革が起きたとき、真の「強いモノづくり」が実現するはずです。 【次のステップ】 この記事で触れた「BOMの壁(E-BOMとM-BOMの乖離)」や「標準時間の設定」について、お読みいただいた貴社の現状と比較できる『生産管理システム成熟度チェックシート(技術部編)』を作成しています。 現状の課題が「データの精度」にあるのか、「部門間の連携」にあるのかを可視化してみませんか?まずはお気軽にご連絡ください。
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