船井総研コンサルティング実績:プライム上場製造業A社 〜DX ではなく、まず「省人化」だった〜 プライム上場企業 A 社様

  • 工場DX
公開日
更新日

プライム上場企業A社様に聞く、製造業の自動化推進で本当に重要な“最初の一歩”

リード

製造業におけるDXやスマートファクトリー化が叫ばれる一方で、現場では「何から着手すべきか分からない」「全社でどう整理し、どう進めるべきか見えない」という声が少なくありません。今回お話を伺ったプライム上場企業A社様の取り組みも、いわゆる完成されたDX事例ではありませんでした。むしろ出発点にあったのは、将来の労働人口減少を見据えた省人化という、極めて現実的な経営課題です。現場で本当に必要な自動化テーマをどう拾い上げ、どう優先順位を付け、どのように全社展開へつなげていくのか。今回は、プライム上場企業A社様 生産本部の管理職のご担当者様に、自動化推進の起点、案件抽出の進め方、現場との向き合い方、そして外部パートナー活用の考え方まで率直に伺いました。

 

事例概要

 

項目

内容

企業

プライム上場企業A社様

ご担当者

生産本部の管理職ご担当者様

業種

製造業

テーマ

省人化 / 自動化推進 / 投資テーマ整理 / 全社展開

取り組みの起点

将来の労働人口減少への備え

推進の特徴

各拠点の困りごとを広く収集し、現場確認を通じて優先順位を明確化

本事例のポイント

DXを目的にせず、経営課題の解決策として自動化を位置づけたこと

 

船井総合研究所 徳竹:本日はありがとうございます。今回ぜひお伺いしたかったのは、A社様が各拠点・各グループ会社をどのように巻き込みながら、自動化や投資テーマの検討を進めてこられたのかという点です。多くの製造業では、「自動化やDXを進めよう」という方針自体はあっても、全社でどう整理し、どこから着手するかの段階で止まってしまうケースが少なくありません。そうした中で、A社様が取り組まれてきたプロセスそのものに、大きな価値があるのではないかと感じています。

プライム上場企業A社ご担当者様:ありがとうございます。ただ最初に申し上げると、当社の取り組みは、一般的にイメージされるような“DXの成功事例”とは少し違うと思っています。どちらかというと、ハード寄りの自動化に近い話です。もちろん、デジタル化や生産管理システム、ペーパーレスといったテーマもありますが、当社として最初から全社DXを精緻に設計していたわけではありません。出発点はもっとシンプルで、将来の労働人口減少に対して、どう省人化を進めるかという話でした。

図解 A社様の自動化推進プロセス

「DXありき」ではなく、「経営課題」から逆算して整理した推進ステップ

Q1. そもそも、取り組みの出発点は「DX」だったのでしょうか?

船井総合研究所 徳竹:なるほど。では、最初から“DXを進めよう”というテーマだったわけではなく、別の経営課題が起点にあったという理解でしょうか。
プライム上場企業A社ご担当者様:はい。まさにその通りです。当社の場合、トップから出ていたのは、「将来の労働人口減少を見据えて、省人化を進めなさい」というメッセージでした。つまり、出発点はDXの実現そのものではなく、将来、人が足りなくなる中で、どうやって生産体制を維持するかという経営課題です。
船井総合研究所 徳竹:それは非常に本質的ですね。製造業のお話を伺っていると、DXが目的化してしまっているケースも少なくありません。しかしA社様は、まず経営課題があり、その解決策として自動化を位置づけていた。だからこそ、取り組みが現実的で、実務に落ちやすかったのだと思います。
プライム上場企業A社ご担当者様:そうですね。“スマートファクトリーを作ろう”という話より先に、“この先どうやって工場を回していくのか”があった、という方が実態に近いです。

ポイント

A社様の取り組みの本質は、「DX推進」ではなく、「経営課題を解くために必要な自動化」を考えたことにあります。

Q2. 具体的には、どのように自動化テーマを洗い出していったのですか?

船井総合研究所 徳竹:そこで次に気になるのが、全社の中で自動化案件をどう洗い出したのかという点です。最初から厳しく選別したのか、それともまず広く集めたのでしょうか。
プライム上場企業A社ご担当者様:最初は、かなり広く集めました。各拠点に対して、技術的な実現性や費用対効果はいったん置いておいて、とにかく「やりたいこと」「困っていること」を出してくださいという形で案件を出してもらいました。最初から絞り込みすぎると、現場が本当に困っていることが見えなくなるので、まずは全部出してもらうやり方です。
船井総合研究所 徳竹:この進め方は、とても重要だと思います。多くの企業は最初から、「それで本当に投資回収できるのか」「実現可能なのか」と考えすぎてしまい、結果として案件が集まりません。ですがA社様は、まず投資候補を可視化し、そのあとで選ぶという流れを取られている。これは、ロードマップを描くうえで非常に理にかなっています。
プライム上場企業A社ご担当者様:そうですね。当社としても、最初から“完成したロードマップ”を作ろうとしたわけではなく、将来の人口減少や生産量を踏まえながら、どれくらいの省人化が必要なのかを考え、そのための候補を並べていったという感覚です。

図解 自動化テーマ抽出の考え方

初期段階では“絞る”よりも、“現場課題を見える化する”ことを優先

各拠点の現場課題・困りごとを収集

実現性・採算性は一度脇に置く

候補を一覧化し、投資テーマとして見える化

その後、優先順位付けへ進む

 

Q3. 出てきた案件は、どのような基準で選別したのでしょうか?

船井総合研究所 徳竹:候補を広く集めたあと、当然、全てを同時に進めることは難しいと思います。そこで、何を残して何を見送るかは、どのような観点で判断されたのでしょうか。

プライム上場企業A社ご担当者様:大きく二つあります。一つ目は、その事業や製品に将来性があるかということです。将来あまり伸びないと見ている領域に大きな投資をしても、優先順位は上がりません。ですから、各工場で上がってきたテーマも、事業の将来性を踏まえながら見ていきました。
二つ目は、技術的に実現できるかどうかです。ただし、ここで重要なのは、“昔はできなかったから無理”と決めつけないことです。ロボットや周辺技術は進化していますから、以前は難しかったことでも、今ならできるかもしれない。そういう目線で拾い上げることも意識しました。

船井総合研究所 徳竹:なるほど。つまり、単純な費用対効果だけでなく、事業将来性と技術実現性の両面から見ていたわけですね。これは非常に再現性のある考え方で、多くの企業にとって参考になると思います。案件の良し悪しを“今この瞬間の採算”だけで見てしまうと、将来必要になるテーマを取りこぼしてしまうことがありますから。

図解 自動化投資の優先順位を決める2つの判断軸

A社様が重視したのは、「事業として伸びるか」と「技術として実現できるか」

判断軸

見ていたポイント

判断の考え方

事業将来性

今後も注力すべき製品・領域か

伸びる領域に投資する

技術実現性

現在の技術で対応可能か、技術進化で可能性が広がっていないか

過去に無理だったで止めない

Q4. 実際に現場を見に行くことは、どれほど重要だったのでしょうか?

船井総合研究所 徳竹:お話を伺っていて特に印象的なのが、本部側が自ら現場に足を運び、現場スタッフの方と話しながら判断していったという点です。ここは、かなり大きなポイントだったのではないでしょうか。

プライム上場企業A社ご担当者様:はい、そこは大きかったと思います。以前であれば、各拠点からリストを出してもらって、それを本部で見る、というやり方もありました。でも今回は、こちらから現地に行って、設備や工程を実際に見て、現場の方と対話しながら判断した。それによって、紙の上だけでは分からない実現性や優先順位が見えてきました。

船井総合研究所 徳竹:気にそこが重要ですね。“ロードマップを作る”というと、つい資料や一覧表の話に見えがちですが、実際には、本部と現場が対話しながら意思決定するプロセスそのものが価値だと感じます。

プライム上場企業A社ご担当者様:おっしゃる通りです。現場に行って初めて分かることは多いです。設備の制約もありますし、作業の実態もあります。ですから、自動化を考えるなら、リストの整理だけでなく、現物を見ることは欠かせないと思います。

ポイント

一覧表ではテーマは整理できても、現場を見なければ優先順位は決まりません。A社様では、本部が現場に入ることで、実装可能性を具体的に見極めていきました。


Q5. 個別工場の案件を、全社テーマへつなげる発想はあったのでしょうか?

船井総合研究所 徳竹:各拠点から案件が出てくると、どうしても個別最適になりがちだと思います。一方で、A社様では本部側で技術開発し、それを各拠点へ再展開するイメージもあったとうかがっています。

プライム上場企業A社ご担当者様:はい。個別案件として見ると成立しにくいものでも、複数拠点に共通するテーマであれば、本部側である程度技術開発をして、それを横展開するという考え方が取れます。そうすると、一つの工場だけでは難しいテーマも、全社で見れば進めやすくなるんです。

船井総合研究所 徳竹:非常に重要な視点です。個別の困りごとを、その工場だけの話で終わらせず、共通課題として拾い上げることで、全社変革につながる。ここは、多拠点・多品種の製造業にとって非常に示唆的です。

プライム上場企業A社ご担当者様:そうですね。各工場で困りごとは違っても、根っこの部分では共通していることもある。そこを本部で拾い上げていくことには意味があると思います。

図解 個別課題を全社テーマへ引き上げる考え方

工場ごとの困りごとを共通課題として整理し、本部主導で横展開へ

Q6. なぜ外部パートナーの活用が必要だったのですか?

船井総合研究所 徳竹:ここでぜひお聞きしたいのが、外部パートナー活用の背景です。社内だけでなく、なぜ外部のノウハウを取り入れようとお考えになったのでしょうか。

プライム上場企業A社ご担当者様:一言で言うと、案件数が多く、スピードを上げる必要があったからです。やるべきことが多い中で、社内だけで全部見切るのは難しい。人を増やすのか、外部のノウハウを活用するのか、いろいろな選択肢がある中で、これだけ案件があるなら、外部の知見を使いながら進めた方が早いと判断しました。

船井総合研究所 徳竹:ありがとうございます。我々としても、A社様は“ゼロからビジョンを描く段階”というより、すでに課題の棚卸しや投資候補の整理が一定進んでいて、それをどう具体化し、どう加速させるかがテーマだと理解していました。その意味で、外部の役割は構想論だけでなく、推進速度を高めることにもあると感じています。

Q7. 一方で、「スマートファクトリー事例」として語ることには慎重さもある?

船井総合研究所 徳竹:ここまで伺ってきて、私はA社様の取り組みには非常に大きな価値があると感じています。一方で、生産本部の管理職ご担当者様としては、“スマートファクトリーの先進事例”として見せることには慎重なお考えもあるように思いました。

プライム上場企業A社ご担当者様:はい、そこは正直あります。私の認識では、スマートファクトリーというのは、自動化だけでなく、デジタル化やシステム化も含めて全体でつながっている状態です。その意味では、当社はまだそこまで行っているわけではありません。ペーパーレス化なども、各工場が独自に進めている部分が多く、全社で統一できているわけではない。ですから、“完成された先進事例”として出すのは少し違うと感じています。

船井総合研究所 徳竹:その感覚は、とてもよく分かります。一方で、私たちが伝えたのは完成形ではなく、理想と現実の間で、まず何から着手したのかというプロセスです。製造業の多くが知りたいのは、実は“未来の完成図”より、“最初の一歩の踏み出し方”ではないかと感じています。
そう言っていただけるなら、確かに意味はあるかもしれません。現実の製造現場に即した進め方として、参考にしていただける部分はあると思います。

まとめ

完成形ではなく、“現実解”としての価値がある
今回の対談で見えてきたのは、A社様の取り組みが、いわゆる理想的なDXストーリーではなく、人手不足時代の製造業が直面する現実に真正面から向き合った結果としての自動化推進である、という点です。
将来の労働人口減少を見据え、必要な省人化量を考える。各拠点から案件を広く吸い上げる。
さらに、それを事業将来性技術実現性で選別し、現場を回りながら実装可能性を見極める。そして、本部の技術開発で横展開につなげていく。
この進め方は、“派手なDX事例”ではないかもしれません。しかし多くの製造業にとっては、むしろ再現性の高い現実的な変革モデルだと言えるでしょう。
※ 本記事はインタビュー内容をもとに、掲載用に編集・再構成しています。