工作機械の見本市を2時間で一周。展示の中から、中堅・中小の工場にこれから降りてくる自動化とAIの流れを読み解きます。
はじめに:この日のために、予定を空けてきました
船井総合研究所の徳竹です。この日のために数カ月前から予定を空け、今日はほかの仕事を一切入れずに、JIMTOF2026(10月26日〜31日、東京ビッグサイト)へ来ました。スニーカーにTシャツ、持ち時間はおよそ2時間。会場を一気に一周して、2027年のスマートファクトリーの時流を読み解いていきます。

JIMTOF2026の会場入口(2026年10月29日 筆者撮影)
今回は東京ビッグサイトの改修工事で東4〜6ホールが使えない中での開催でしたが、出展者は22カ国・地域から1,134社にのぼりました。
本コラムでは、会場の展示を次の3つの見方で整理します。あわせて、金属3Dプリンターとヒューマノイドにも触れます。
1. ロボット自動化が入れやすい形に整い、段取り替え・測定・補充などの付帯作業にも広がる
2. AIが機械の操作や保守に入る。ただし試行錯誤は仮想空間で行い、最後は人が確認する
3. 熟練者が音や見た目で判断してきた機械の状態をデータで見える化し、生産を止めないようにする
会場の第一印象:「機械本体」と「機械+自動化・AI」に分かれる
会場を回り始めてすぐ、出展の仕方がメーカーによって2つに分かれていることに気づきました。
1つは、加工機そのものをしっかり見せる会社です。神崎高級工機製作所(ブランド名「KANZAKI」)のブースは、スプラインや歯車を加工するギアスカイビング盤、ホブ盤、ホーニング盤を、飾らずに並べていました。牧野フライス製作所も同様で、ロボットの展示はありませんでした。アマダのブースは来場者で埋まって中に入れないほどでしたが、外から見る限り、ここも機械そのものを売る展示でした。ニデックマシンツールは大型の門型マシニングセンタを前面に出し、その向かいのナチ(不二越)も加工機だけの構成でした。
もう1つは、機械にプラスアルファとして自動化やAIを組み合わせて見せる会社です。CNCにAIエージェントを組み込んだヤマザキマザック、機内計測で加工を自動化するブラザー工業、AMRが工具・ワーク・パレットを運ぶDMG森精機、協働ロボットでチャックを交換するツガミ、見える化と予知保全を打ち出すコマツNTC、AIによる加工条件の提案を見せた浜井産業がこちらに当たります。
会場で見た出展の傾向を、図にまとめます。

図1 会場で見た出展の傾向
どちらが正しいということではありません。ただ、機械を選ぶ基準が「精度と速さ」だけでなく、「どこまで人手を減らせるか」「買った後にどんな機能が使えるか」にも広がりつつあることがうかがえます。本コラムの3つの見方は、主に後者の流れを追ったものです。
会場は来場者が多く、平日にもかかわらず人気のブースは前に進めないほどでした。中国からと見られる来場者も多く見かけました。
東展示棟をひと通り回って受けた印象は、良い意味で、以前のしっかりした工作機械の展示会に戻った、というものです。前回2024年のJIMTOFでは、ほとんどの加工機メーカーが協働ロボットのセルを展示していました。今回は、それがほとんど見られません。各機械メーカーが、自社の加工機の強みをしっかり見せています。
ロボットによる自動化のハードウェアは、ある程度の完成度に達し、これ以上の大きな進歩は見込みにくい段階に来ているのではないか。会場を回りながら、筆者はそう感じました。その代わりに前面に出てきたのが、ソフトウェアとAIです。
見方1 ロボット自動化は「入れやすさ」と「付帯作業」の両面で進む
ヤマザキマザック:CNCの画面からロボットを動かす
ヤマザキマザックのブースには、協働ロボットの操作体験コーナーが設けられていました。掲げられていたのは「ロボット自動化をもっと身近に」というメッセージです。
ブース全体としては、ロボットよりも加工機そのものを見せる展示が中心で、協働ロボットは体験コーナーとしての展示でした。
中心となるのは「Ez LOADER APP」という専用ソフトウェアです。マザックの工作機械のCNC装置(工作機械を数値で制御する装置)から、ロボットを直接操作できます。パネルでは次の3点が説明されていました。
■ 加工プログラムとの連携、連続加工と稼働監視を、CNC側でまとめて扱える
■ 基本的な動作があらかじめ用意されており、ロボットのプログラミング知識がなくても導入できる
■ 機械、ロボット、周辺装置、ソフトウェアまで、問い合わせ先をマザックに一本化できる(シングルソース)
展示機のロボットには、ファナックの協働ロボット「CRX-20iA/L」が使われていました。
工作機械にロボットでワークを投入する自動化では、ロボットの教示(動きを覚えさせる作業)と、工作機械とロボットのつなぎ込みを誰が担うかが課題になりがちです。機械は工作機械メーカー、ロボットはロボットメーカー、つなぎ込みはSIer(システムインテグレーター)と窓口が分かれ、不具合が起きたときの原因の切り分けにも時間がかかります。CNCの画面だけで操作でき、窓口も一つにまとまれば、ロボットの専任者がいない中小の工場でも検討を始めやすくなります。
高松機械工業:一般の作業者が数分で調整できるローダー
高松機械工業(TAKAMAZ)のブースは、ハロウィン仕様のカフェのような装いで、会場の中でも目を引きました。展示していたのは、協働ロボットによるローディング・アンローディング(ワークの投入と取り出し)ユニットです。パネルでは、次の2点が打ち出されていました。
■ マシンビジョン(カメラによる画像認識)を使ったフレキシブルトレイで、さまざまな形のワークに対応できる
■ キャリブレーション(ロボットと機械の位置関係を合わせる作業)をパソコンなしで行え、一般の作業者でも数分以内で終えられる
展示機の名前は「ServoROT-e」です。協働ロボットと、ワークを並べるトレイを1台のキャスター付き架台にまとめ、旋盤の横に置く構成でした。
マザックの「Ez LOADER APP」と同じく、売りは性能よりも「入れやすさ」です。ロボットの導入で手間がかかるのは、ワークごとのトレイや治具の準備と、設置後の調整です。トレイをカメラで見て多様なワークに対応し、調整も現場の作業者が数分で済ませられるなら、品種の多い中小の工場でもロボットを使い続けやすくなります。
牧野フライス製作所:ロボットは置かず、機械本体を前面に
牧野フライス製作所のブースには、ロボットの展示はありませんでした。マザックと同じく、加工機そのものを前面に押し出した構成です。このあと訪れたコマツNTCのブースも、ロボットの展示はありませんでした。
大手の工作機械メーカーにとって、ロボットは機械に付ける周辺装置の一つという位置づけなのかもしれません。筆者は、自動化の主役がロボット単体から、機械側の機能やソフトウェアに移りつつある表れだと見ています。
ブラザー工業×レニショー:機内計測で、ずれの補正と追い込みを自動化
ブラザー工業のブースでは、測定機器メーカーのレニショーと組み、機内計測を組み合わせた自動化を提案していました。機内計測とは、工作機械の中にプローブ(接触式の測定器)を取り付け、ワークを機械に載せたまま測る仕組みです。
説明によると、ワークを取り付けると、位置が10〜20μm(0.01〜0.02mm)ほどずれることがあります。加工の前に機内でワークの位置を測り、そのずれを補正してから削れば、位置の精度は確保できます。この使い方なら、人が受け持つのはワークの付け替えだけになります。
さらに、加工後に機内で寸法を測り、狙いの寸法まで削り足す「追い込み加工」の自動化や、品質保証に機内計測を使う提案もありました。測って、補正して、確かめるところまでを機械の中で済ませ、加工そのものを自動化しようという考え方です。
ワークの芯出し(位置合わせ)や追い込みは、熟練者が測定器を当てながら少しずつ合わせてきた作業です。ロボットでワークを投入できても、ここに人が張り付いていては無人運転にはなりません。
オークマ:13面のパレットタワーで、多品種を連続加工
オークマのブースは、前に進めないほどの混雑でした。目を引いたのは、横形マシニングセンタに13面のパレットタワーを組み合わせた展示です。APC(オートパレットチェンジャ:ワークを載せたパレットを自動で入れ替える装置)で、多品種の連続生産を実現するとうたっていました。
あらかじめ複数のパレットにワークを取り付けておけば、人がいない夜間や休日でも、品種を切り替えながら加工を続けられます。パレットを多く持たせて多品種を流す仕組み自体は以前からありますが、ロボットを使わずに機械側で段取り替えを自動化する形として、今回の会場の傾向とも重なります。ブースをざっと見た限り、ロボットを前面に出した展示はありませんでした。
ツガミ:協働ロボットがチャックまで交換する
主軸移動形の自動旋盤などで知られるツガミのブースには、意外にも自動化の展示がありました。協働ロボットが旋盤のチャック(ワークをつかむ装置)を自動で交換するセルのシステムです。前回のJIMTOFでは、ヤマザキマザックなどが同様の仕組みを出展していました。ブースのパネルにも「AI技術と自動化で、省力化・使いやすさをさらに進化」と掲げられていました。
ワークの形や大きさが変われば、チャックを付け替える段取りが必要になります。品種が多い工場ほど回数が増え、ロボットでワークを投入していても、この段取り替えのたびに人が呼ばれます。チャックの交換まで自動化できれば、人を介さずに品種を切り替えられる範囲が広がります。
ユシロ:クーラントの管理を遠隔で一括する
クーラント(切削油剤)メーカーのユシロのブースでは、クーラントのリモート監視システム「ALFRED」が展示されていました。pH、濃度、補給量、液温などを一括で管理できます。画面には、1台の混合装置から12台の設備へ、濃度を調整した混合液を送る系統図が表示されていました。
クーラントの濃度を測り、薄まっていれば原液を足す作業は、多くの工場で作業者が機械を1台ずつ回って行っています。地味な作業ですが、濃度が狂えば工具の寿命や加工品質、機械の錆にまで響きます。こうした管理を設備として一括で行える商品は、これまで意外と見かけませんでした。加工機の台数が多い会社ほど、入れる価値がありそうです。ワークの投入や工具の交換を自動化しても最後まで人の手に残る、いわば「ラストワンマイル」の自動化に効いてくる技術だと考えます。
DMG森精機:AMRが機械を回り、工具・ワーク・パレットまで入れ替える
今回いちばん驚いたのが、DMG森精機のブースで見たAMR(自律走行搬送ロボット:床の誘導線がなくても自分の位置を判断して走る搬送ロボット)による自動化システム「AMR 2000」です。
AMRの上に産業用ロボットが載り、ロボットの先端にはハンドを付け替えるツールチェンジャーが付いています。AMRがマシニングセンタ「DMC 65」に横付けすると、ロボットがワークとパレットの両方を扱います。
デモでは、ロボットがAMRに積んできた切削工具を取り出し、マシニングセンタのATC(自動工具交換装置)のマガジンに自分で装着していました。複数の機械を回りながら、工具の補充、ワークの投入と取り出し、パレットの交換までを1台でこなすシステムです。
これまでのロボット自動化は、1台の機械に1台のロボットを据え付け、ワークの出し入れだけを任せる形が中心でした。工具の補充やパレットの段取りは、人が機械を回って行う仕事として残っていました。このシステムは、その「人が機械を回る仕事」そのものをロボットに置き換えようとしています。マザックや牧野がロボットを控えめにしていた一方で、DMG森精機は機械、ロボット、搬送を一体で提案しており、大手の中でも打ち出し方がはっきり分かれていました。
見方1のまとめ:自動化の主役は「ロボット単体」から「機械とソフトウェア」へ
見方1で見た展示を並べると、2つの流れが見えてきます。
1つは、ロボット自動化の「入れやすさ」です。マザックはCNCの画面からロボットを操作できるようにし、問い合わせ先も一本化しました。高松機械工業は、ロボットの調整を一般の作業者が数分で終えられるようにしました。どちらも、ロボットの専任者がいない工場を想定した作りです。
もう1つは、自動化の対象が、ワークの出し入れから、その周りにある付帯作業へ広がっていることです。ブラザー工業の機内計測は位置合わせと追い込みを、オークマのパレットタワーとツガミのチャック交換は段取り替えを、ユシロはクーラントの管理を、DMG森精機は工具の補充とパレットの交換を、自動化の対象にしていました。
見方1で見た付帯作業の自動化を整理すると、次のようになります。

図2 自動化の対象の広がり
一方で、大手工作機械メーカーの多くは、ロボットを前面に出していませんでした。ロボットを置かなくても、機械側の機能やソフトウェアで自動化できる範囲が広がっています。2027年は、ロボットを入れるかどうかより先に、「人が機械の周りで何をしているか」を洗い出し、それを機械、ロボット、ソフトウェアのどれで置き換えるかを考える年になると筆者は予測します。
見方2 AIエージェントが機械の操作と保守に入る
ヤマザキマザック:CNCに載るAIエージェントを定額制で
マザックのブースでは、同社のCNC「MAZATROL」向けのソフトウェア「MAZATROL DX」が紹介されていました。パネルによると、自動プログラム作成やデジタル段取りなどで現場を支える、定額制のソフトウェアです。
AIエージェント(目的を伝えると手順を考えて作業を進めるAI)が、機械の操作状況や加工データを使って、情報の提供や操作の支援を行います。対象は、加工プログラムの作成から段取り、トラブル対応までの日々の業務です。
この展示で注目したい点は2つあります。
1つ目は、AIがCNCそのもの、つまり作業者が毎日向き合う操作画面の中に組み込まれている点です。マザックのブースで最も特筆すべき点だと感じました。AIが受け持つのは加工そのものではなく、プログラム作成、段取り、トラブル時の対応といった加工の前後にある仕事です。どれも熟練者に頼りがちで、人によってやり方がばらつきやすい仕事です。
2つ目は、売り方が定額制だという点です。工作機械を買って終わりではなく、ソフトウェアの機能を契約して使い続ける形になります。今後は機械本体の性能に加えて、買った後にどんな機能が追加されていくかも、機種を選ぶときの判断材料になっていくと考えられます。
シマダマシンツール:話しかけると、旋盤とロボットが動く
シマダマシンツールのブースでは、音声認識と画像認識のAIを使ったデモを見ました。オペレーターが口頭で指示するだけで、旋盤とロボットが動作プログラムを生成し、加工と搬送を行うという展示です。
ただ、説明を聞くと、AIがロボットや旋盤の動きをゼロから作るわけではありません。「製品Aを5個、製品Bを3個、加工したら所定の場所へ搬出」といった指示を受けて、あらかじめ登録してあるプログラムを呼び出し、組み合わせるという仕組みです。
これは否定的な話ではなく、むしろ現場で使える形だと筆者は考えています。加工の中身は、人が作り込んで検証済みのプログラムに任せる。AIは「何を、いくつ、どこへ」という段取りの指示を受け持つ。AIに任せる範囲を絞っているぶん、品質のリスクを抑えたまま、操作の手間を減らせます。
ファナック:意図を伝えるだけで、試行錯誤はデジタルツインの中で
南2ホールを上から見ると、奥のファナックのブースには「物理」の大きな看板と、「フィジカルAI」の文字が掲げられていました。フィジカルAIとは、画面の中で文章や画像を扱うAIではなく、ロボットや機械を通じて現実の物を扱うAIのことです。
中心の展示は「フィジカルAI CNC」です。打ち出していたのは「意図を伝えるだけのものづくり」。熟練者のノウハウに沿って加工の課題を解決するという考え方で、ブースでは次のような内容が紹介されていました。
■ CNCのデジタルツイン(機械の動きを仮想空間に再現したもの)と生成AIを組み合わせる
■ 加工面を改善する手順をAIが取得し、利用する
■ パラメータを最適化して、加工面を改善する
■ 加工面を推定し、仕上がりを定量的に評価して見える化する
同社の特設ページでは、フィジカルAI CNCを、工作機械での知的な作業を安全に自動化するものと説明しています。あわせて紹介されていた「FANUC Smart Digital Twin」は、サーボのモデルを使ったシミュレーションで、実際に削らずに加工トラブルの原因を切り分けるものです(ファナック JIMTOF2026特設ページ)。ブースの壁にも「トライ&エラーからの解放」と掲げられていました。
ブースではほかにも、Gコードの知識がなくても加工プログラムを作れる機能、工具情報の一元管理、プローブを使わない計測での段取り、信頼性の高いタッチ操作、早送りの動作経路の最適化、主軸の能力を最大限に引き出す機能、セキュリティ対策、省エネルギーといったテーマが並んでいました。特設ページによると、3Dモデルから加工プログラムを作る「iHMI2 Programming」や、段取りを効率化する新しい工具管理機能、設備データを簡単な設定で集めて見える化する「FIELD system Basic Package」も紹介されています。サービスの面では、「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せる」を掲げ、「止まらない工場」を目指すとしています。
ロボットの展示では、移動式の台車に載せた協働ロボットの加工セルも紹介されていました。高松機械工業のServoROT-eと同じく、台車に載せて機械の横に置く形です。
CNCの画面を自然言語で操作する展示もありました。
ロボットのコーナーは、前に進めないほどの人だかりでした。掲げられていたのは「ファナックロボットはフィジカルAIの社会実装を加速する」。GoogleやNVIDIAとの協業による展示が並んでいました。
■ 言葉でロボットを操作する:ロボットが音声の命令を認識し、周囲を確認したうえで、生成AIがPythonのプログラムを自動で作成し、実行する
■ AIエージェントによるキッティング(作業ごとに部品をそろえる作業):手書きの注文票の文字をAIエージェントが読み取り、ロボットが部品の種類を見分けて、指定の数量を集める
■ ワークを教えなくてよいロボット:ワークを置くだけで、フィジカルAIが形を認識する。設定も教示も不要で、従来のカメラでは見えにくかった透明なワークや光沢のあるワークも認識できる
パネルによると、これらはGoogle、NVIDIAそれぞれとの協業によるものです。
■ Googleとの協業では、生成AI「Gemini Enterprise」をAIエージェントとして使い、音声や文字によるあいまいな指示の意図をくみ取って、カメラの画像と合わせて現場の状況を判断させています。Googleグループのイントリンジックが手がけるロボット開発ソフト「Flowstate」にも対応し、専門的なプログラミングの知識がなくても、ウェブの画面からロボットのアプリケーションを組めるとしています。周辺機器との連携やシステム統合にかかる時間とコストを大きく減らし、自動化を導入するハードルを下げる狙いです。さらに、Google DeepMindの「Gemini Robotics Trusted Tester」プログラムにも参加し、次世代のロボット向けAIの研究に両社で取り組むとしています。
■ NVIDIAとの協業では、ロボット向けのAIコンピューター「Jetson Thor」をロボットコントローラと組み合わせたほか、熟練作業者の動きや視覚データをAIが直接学ぶ「模倣学習」の実証を始めています。従来のプログラミングでは書き表すのが難しかった、複雑で細かな作業をロボットが身につけることを狙っています。ファナックのロボットシミュレーター「ROBOGUIDE」とNVIDIAの「Isaac Sim」をつなぎ、仮想空間で検証してから実機に移す流れも示していました。
ワークを置くだけで形を認識する仕組みは「AIマスタレスビジョン」と呼ばれ、「1番に茶色のワーク、2番に鏡面のワークを入れておいて」という言葉の指示だけで、ロボットがワークを入れ分ける映像が流れていました。
ブースで流れていた紹介映像では、台車に載った協働ロボットが工場の中を移動し、機械の横でワークを扱う様子が描かれていました。照明の明るさが変わって見え方が変わっても、ワークを認識できるとしています。
ファナックは、こうしたフィジカルAIの仕組みを外部の開発者にも開いています。パネルでは「オープンプラットフォーム」として、次の3つを挙げていました。
■ ロボット開発で広く使われるオープンソースの基盤、ROS 2の公式ドライバを公開
■ ロボットの制御装置単体で、Pythonのプログラムを直接実行できる
■ パソコンからの指令を1ms周期で実行する「ストリームモーション」を実装し、位置・速度・トルクをリアルタイムに制御できる
生成AIが作ったPythonのプログラムをロボットがそのまま実行するデモは、この仕組みの上に成り立っています。ブースに掲げられていたのは「フィジカルAIの開発も量産もファナックロボットで。」。AIの研究開発の段階から量産の現場まで、自社のロボットを土台にしてもらおうという狙いが読み取れます。
ファナックの展示は、今回のJIMTOFで最も印象に残ったものの一つです。前回の国際ロボット展と比べても、格段に進化していると感じました。
ワークを置くだけで教示が要らないという方向は、見方1で見たマザックや高松機械工業の「入れやすさ」と同じ流れです。手書きの注文票から作業を始められるキッティングは、事務と現場の間をAIがつなぐ例とも言えます。
三菱電機:AIエージェントによる作業支援と、仮想空間での試作
三菱電機のブースは、AIを全面に押し出した展示でした。大きく2つの方向がありました。
1つ目は、AIエージェントによるオペレーターの支援です(参考出展)。「すべての作業者へ、熟練者のノウハウを」を掲げ、次のような機能を示していました。
■ アラームが出たときに原因を推定し、対処方法を示す
■ 加工を始める前に、工具長の未登録や工具長補正の指令漏れなどをAIが確認する
■ 工具長の測定手順を音声で案内し、補正値の設定まで支援する
さらに、メガネ型の端末を使ったXR(拡張現実)のインタフェースとして、音声での対話、段取りや測定の手順ごとの案内、日本語と英語への対応、必要な情報を視界に重ねて表示する機能も紹介されていました。
マザックの「MAZATROL DX」と見比べると、アラームへの対応、段取り、加工前の確認といった、熟練者に頼りがちな仕事をAIエージェントが支えるという方向が、CNCを手がける2社で重なっています。
2つ目は、試作加工のシミュレーションです。加工シミュレーションソフト「NC Virtual Simulator」は、工作機械と同じ加工条件を使ってCNCの動きを再現します。パネルによると、加減速やサーボの応答遅れまで再現したうえで、実際には30分16秒かかる加工を、高速モードで1分24秒(約21倍速)で確認できます。試し削りや不良品を減らすのが狙いです。
その先として参考出展されていたのが「統合シミュレーション」です。加工、振動、熱、変形、制御のシミュレーションを連携させ、タクトタイム、熱変位、びびり振動、工具摩耗、加工精度などを予測します。シミュレーションと条件の調整をAIが自律的に繰り返して最適な条件を探し、検証済みのNCプログラムだけを実機のCNCへ送る流れです。実機で計測したデータはシミュレーションに戻され、精度を高めていきます。
ここに、AIを現場に入れるときの一つの答えがあると筆者は考えます。AIが試行錯誤するのは仮想空間の中で、実機に届くのは検証を通ったプログラムだけ。シマダのデモと同じく、AIに任せる範囲と、実機を動かす前の確認の関門がはっきり設計されています。
見方2のまとめ:AIは「仮想空間」と「限られた範囲」で働く
CNCを手がけるファナック、三菱電機、ヤマザキマザックの3社が、そろってAIエージェントやフィジカルAIをCNCに組み込む方向を打ち出していました。2027年以降、工作機械の操作盤でAIに相談したり、AIから提案を受けたりすることが広がり、2028年ごろには身近なものになっていくと筆者は予測します。
一方で、CNCの側では、どの会社もAIに実機を自由に動かさせてはいません。ファナックと三菱電機は、AIの試行錯誤をデジタルツインやシミュレーションの中にとどめ、検証した結果だけを実機に反映します。シマダマシンツールは、AIの役割を登録済みプログラムの呼び出しに絞っていました。三菱電機のデモでは、サイクルスタートの前にAIが人へ確認を求めていました。
ロボットの側は一歩先を進んでいます。ファナックは、生成AIが作ったプログラムをロボットがそのまま実行するデモまで見せていました。工作機械は一度ぶつければ損害が大きく、ロボットに比べて慎重にならざるを得ない、という事情もあると筆者は見ています。ただしロボットの側でも、シミュレーターとNVIDIAの仮想環境をつなぎ、仮想空間で確かめてから実機に移す仕組みが用意されています。AIが試行錯誤する場所を仮想空間に置くという考え方は、工作機械でもロボットでも共通です。
見方2で見た各社の展示を、AIが実機を動かすまでの流れに沿って並べると、次のようになります。

図3 AIが実機を動かすまでの流れ
中堅・中小の製造業がAI付きの機械やソフトウェアを検討するときは、「AIが何をしてくれるか」だけでなく、「AIの判断がどこで確かめられ、最後に誰が承認するのか」を確認することをおすすめします。
見方3 熟練者の勘をデータで置き換え、生産を止めない
コマツNTC:工場を見える化し、生産を止めない
コマツNTCのブースは、工場の見える化、予知保全、自律化、IoTを軸に、「生産を止めない」ことを前面に出した展示でした。ここでもロボットの展示はありませんでした。
予知保全とは、機械の状態をデータで見て故障の兆しを見つけ、壊れる前に手を打つことです。これまでは、ベテランが機械の音や振動、切りくずの様子から「そろそろおかしい」と判断してきました。その判断をデータに置き換え、工場全体で共有できるようにするのが、見える化と予知保全の狙いです。
THK:機械部品のメーカーがデータをつなぐ
LMガイド(直線運動を案内する機械部品)などのメーカーであるTHKのブースは、「現場のデータをつなぎ、止まらない工場へ」をテーマに掲げていました。並んでいたのは、稼働状況などのモニタリング、デジタル化とデータ収集、予兆保全、データを統合した見える化、AIによる分析、設備保全の判断の支援です。
コマツNTCと同じく「止めない」がキーワードですが、THKは工作機械メーカーではなく、機械の中で使われる部品のメーカーです。部品を知り尽くした側から設備の状態をとらえ、保全の判断を支えようとしています。工作機械メーカー、部品メーカーの双方から、データで設備を止めないための提案が出てきていることになります。
興和オプトロニクス:クーラントの中でも機内を見続けるカメラ
産業用カメラ・レンズのメーカーである興和オプトロニクスは、「どこでも見える×AIで見逃さない」を掲げ、水やクーラント、油のミスト、粉じんの中でも映像を撮り続けられるカメラを展示していました。デモ機では、クーラントを浴びている加工機の中の様子が、モニターにはっきり映っていました。
パネルでは、AIで捉える異常の例として、機内での刃折れ、切粉の巻き付き、切粉だまり、治具の異常、ワークの位置ずれが挙げられていました。消耗部品の交換は約1分で、「現場を止めない」ことを前提にした設計だとしています。
筆者は、これが加工の自動化に大きく効いてくる技術だと見ています。ロボットでワークを投入できても、切粉が工具に巻き付いたり機内に溜まったりすれば加工は止まり、人が見に行くことになります。これまでは、オペレーターが窓越しに機内を見て判断してきた部分です。クーラントの中でも機内を見続け、異常をAIで見つけられれば、人がいなくても機械を動かせる時間を延ばせます。
浜井産業:AIが加工条件を提案する
浜井産業のブースは小ぶりながら、加工機に加えて、AIが加工条件を提案する仕組みを見せていました。加工条件とは、工具や工作物の回転数、送りの速さ、1回に削る量などの設定です。これまでは熟練者が材料や形状を見て、経験から決めてきた部分です。
見方3のまとめ:「止めない」ための目が、機械の中と外に増える
コマツNTCとTHKは設備のデータから故障の兆しをとらえ、興和オプトロニクスはクーラントの中でも機内を見続け、浜井産業は加工条件をAIが提案します。ファナックも、サービスの面から「止まらない工場」を掲げていました。共通しているのは、熟練者が音や振動、切りくずの様子、経験から判断してきたことを、データとAIで置き換えようとしている点です。
見方3で見た展示を整理すると、次のようになります。

図4 「止めない」ための4つの目
見方1で見た自動化が進むほど、機械のそばに人がいる時間は短くなります。そのとき、異常に気づく役割を誰が担うのか。2027年は、自動化と、それを止めないための見える化・予知保全をセットで考える流れが強まると筆者は予測します。データを集める仕組みは、工作機械メーカー、部品メーカー、カメラメーカーなど、さまざまな立場から出てきています。自社の設備の構成に合わせて選べる時代になりつつあります。
もう一つの注目:金属3Dプリンターは中期で現実味が出てくる
今回のJIMTOFでは、積層造形(AM:Additive Manufacturing)も一つの柱になっていました。会場には積層造形の展示を集めた「AM ZONE」が設けられ、ドイツの積層造形専門展示会「Formnext」と連携したステージも南4ホールで開かれています(JIMTOF2026広報事務局のリリース)。
ソディックのブースでも、金属3Dプリンターが展示されていました。金属3Dプリンターは、金属の粉末をレーザーなどで溶かし、層を重ねて部品を形づくる機械です。削り出しでは作れない内部の流路や、複雑な形状を一体で作れます。
ニデックマシンツールのブースでも、大型の門型マシニングセンタと並んで金属3Dプリンターが展示されていました。
これまでは、試作や一部の特殊な部品に使われることが多い技術でした。ただ会場を見る限り、今年から来年、再来年と中期で見れば、金属3Dプリンターで実際の製品部品を作っていくことに現実味が出てくる可能性があると感じました。
番外:ヒューマノイドと工作機械
東展示棟のガレリアでは、主催者企画として、川崎重工業の人型ロボット「Kaleido」が展示されていました。展示されていたのは、2021年の第七世代と2023年の第八世代です。背後のパネルには、Kaleidoの開発の歩みと、同じ時期の工作機械の歩みが並べて示されていました。
人型ロボットの関節には、減速機をはじめ、高い精度で削り出した部品が数多く使われます。ヒューマノイドが量産に向かえば、それらの部品を削る工作機械の需要につながります。
一方で、中堅・中小の工場の中で人型ロボットが働く姿は、2027年の時点ではまだ先の話です。ただ、三菱電機のブースでは、目指す姿を具体的に見ることができました。
三菱電機のブースでは、ヒューマノイドロボットとCNCを連携させる「ヒューマノイドロボット・レディなCNCシステム」が参考出展されていました。説明パネルによると、高度なシステムインテグレーションなしにヒューマノイドロボットと連携でき、ロボットとCNCが自然言語を介して無線で協調します。工作機械の周りで人が行っている段取りや清掃などをヒューマノイドロボットが代わりに行い、無人化を進める構想です。
構成図では、オペレーターが音声で指示すると、大規模言語モデルを使ったフィジカルAIが、段取り、加工プログラムの作成、加工、検査・搬送といった加工のタスクを生成・管理します。ヒューマノイドなどのロボットとCNCには、それぞれ自然言語で指示が渡ります。CNCの側では、自然言語で加工プログラムを設定し、加工を実行し、加工の状況を知らせます。クラウド上のさまざまなAIエージェントや、同社独自のAI技術「Maisart」とも連携する構成です。デモでは、画面の「CNC AI Assistant」が加工プログラムの生成やCNCへの書き込みの進み具合を示し、「ネームタグをストッカーにセットしたら、サイクルスタートをお知らせください」と人に確認を求めていました。
これこそフィジカルAIだと感じた展示です。一方で、この役割を担うのがヒューマノイドである必要があるかは、まだ分かりません。人と同じ形であれば、人のために作られた現場をそのまま使える利点があります。ただ、工作機械の周りの作業であれば、DMG森精機のAMRのような形でも置き換えられる部分は多くあります。
むしろ注目したいのは、ロボットの形よりも、ロボットとCNCが特別なつなぎ込みなしに自然言語でやり取りできる仕組みのほうです。これが近い将来の標準になっていくのか。ヒューマノイドそのものは、各社が目指す方向を知るためのビジョンとして見ておき、2027年以降の動きを追いかけていきたいところです。
まとめ:2027年以降の最大のトレンドは「CNC×生成AI」と「自然言語での操作」
およそ2時間で会場を一周して見えたのは、自動化やAIを派手に見せる段階が落ち着き、中身が問われる段階に入ったということです。展示から読み取れる2027年以降の時流を、3つにまとめます。
1つ目は、今回いちばんのトレンドである、CNCと生成AIの組み合わせ、そして自然言語でロボットやNCを操作する流れです。ファナックのブースに掲げられた「物理」の大きな看板が象徴するように、ファナック、三菱電機、ヤマザキマザックがそろって、AIエージェントやフィジカルAIをCNCに組み込む方向を打ち出していました。言葉で指示すれば、ロボットや工作機械が動く。生成AIは爆発的な勢いで進歩しており、2027年以降はこの流れが本格化します。筆者は、2028年ごろには、工作機械やロボットに言葉で指示することが、中堅・中小の工場でも身近なものになっていると見ています。ただし、AIの試行錯誤は仮想空間の中で行い、実機を動かす前には人の確認を挟む。この設計が各社で共通していたことも、押さえておきたい点です。
2つ目は、ロボット自動化のハードウェアが成熟し、競争の軸が「入れやすさ」に移っていることです。前回2024年には多くの加工機メーカーが協働ロボットのセルを展示していましたが、今回はほとんど見られませんでした。代わりに目立ったのは、マザックのCNCからのロボット操作と一本化された窓口、高松機械工業の数分で終わる調整、ファナックの教示が要らない認識とFlowstate、三菱電機のシステムインテグレーションなしでのロボット連携です。これまで「ロボットの専任者がいない」「つなぎ込みの費用が高い」と自動化を見送ってきた中堅・中小の工場にも、検討できる選択肢が増えていきます。
3つ目は、自動化の対象が「人が機械を回る仕事」に広がることです。DMG森精機のAMRによる工具とパレットの入れ替え、ツガミのチャック交換、ブラザー工業の機内計測、ユシロのクーラント管理、興和オプトロニクスの機内カメラ。ワークの出し入れの先にある、段取り、測定、補充、見回りといった仕事が、自動化の対象になりつつあります。
3つの時流と、中堅・中小の製造業が今からやることを、1枚にまとめます。

図5 2027年以降の3つの時流と、今からやること
では、中堅・中小の製造業は今から何をすべきか。筆者は次の4点をおすすめします。
1. 生成AIを自社にどう落とし込むかを、今から考え始める。2028年ごろに身近になってから慌てるのではなく、まずは身近な業務で生成AIを使い、慣れておく
2. 自社の工場で、人が機械を回って行っている仕事を洗い出す。ワークの投入以外に、段取り、測定、工具やクーラントの補充、異常の見回りに、誰がどれだけ時間を使っているかを把握する
3. 次に機械を更新するときは、本体の精度や速さに加えて、自動化やAIの機能、買った後に追加される機能も比較の対象にする
4. AIを使う機能を検討するときは、「AIの判断がどこで確かめられ、最後に誰が承認するのか」を確認する
手書きの注文票を読み取ってロボットが部品を集めるファナックのデモのように、事務と現場の間をAIがつなぐ動きも始まっています。工場の中だけでなく、受注から出荷までの流れ全体で、人がやるべき仕事とAIやロボットに任せる仕事を見直す。2027年は、その準備を始める年になると考えます。


