AIエージェント、図面業務の自動化、設計原価。国内最大級のものづくり総合展を初日に一日かけて歩き、その潮流を製造業のみなさまの現場目線で読み解きます。
2026年7月1日、初日の東京ビッグサイトに足を運びました。本稿は、会場に来られなかった製造業のみなさまに向けて、いま現場で何が起きているのか、そして自社なら何から始められるのかを、できるだけ具体的にお届けするためのレポートです。一日歩いて最も強く感じたのは、展示会のキーワードが「DX」から「AIエージェント」へと一段深く進んでいたこと。そして同時に、そこで語られる導入の前提の多くが、依然として一定規模以上の企業を想定していたことでした。だからこそ、この潮流を“自社のサイズ”に翻訳して受け取っていただくことが大切だと考えています。

会場エントランスのシンボルオブジェ。「ものづくり ワールド 2026 東京」。会期は2026年7月1日〜3日、会場は東京ビッグサイト。初日の午前から人の流れは途切れませんでした。
8つの専門展が同時開催。「総合展」だからこそ見えてくること
REPORT 01 | 開催概要
「ものづくりワールド」は、RX Japan合同会社が主催する製造業向けの総合展示会です。今回で第38回を数えます。単独の展示会ではなく、設計・調達・生産・保守・DXといった機能ごとの専門展が同じ会場に束ねられているのが最大の特徴で、来場者は自社の課題に合わせて複数の展示会を横断して回れます。
会期は2026年7月1日(水)から3日(金)までの3日間、開場は10:00〜17:00。会場は東京ビッグサイトの東ホールと西ホールにまたがり、屋外の大型案内板には、当日開かれていた各専門展が一覧で掲示されていました。

屋外エントランス前の全体案内板。東ホール(機械要素技術展/ヘルスケア・医療機器開発展/ものづくりODM・EMS展/ものづくりNEXT)と、西ホール(設計・製造ソリューション展/次世代3Dプリンタ展/製造業DX展/製造業サイバーセキュリティ展)に加え、新設の「建設DX展+」「物流DX展」も併催されていました。
今年の座組で目を引いたのは、「製造業DX展」と「製造業サイバーセキュリティ展」が西ホールに並んで配置されていたこと、指示「建設DX展+」「物流DX展」といった隣接産業のDX展が第1回として立ち上がっていたことです。製造の現場だけでなく、その前後にある建設・物流までを含めて、産業全体のデジタル化を一つの会場で示しようという主催者の意図が読み取れます。
この“併催”の設計そのものが、いまの製造業DXの構造をよく表しています。設計、造形(3Dプリンタ)、業務改革(DX)、そして守り(サイバーセキュリティ)が同じホールに並ぶのは、デジタル化を進めるほど守りの投資が欠かせなくなるという現実の裏返しです。図面や生産データを外部のクラウドやAIに預ける流れが加速すれば、情報の入口と出口をどう守るかは、そのまま経営リスクになります。攻めのDXと守りのセキュリティを“セット”で考えられているか――これは、自社で投資を検討される際にもぜひ押さえていただきたい視点です。
主役は「業務のAI化」へ。展示のトーンが明確に変わりました
REPORT 02 | 製造業DX展
西ホールの製造業DX展(Manufacturing DX Expo)の入口に立って最初に感じたのは、展示の“語り口”の変化でした。数年前まで主役だった「見える化」「ペーパーレス」という言葉に代わり、「AIエージェントが業務を自動で遂行する」という表現が、各所で前面に出ていました。情報をデジタルに置き換える段階から、置き換えたデータをAIに処理させ、作業や判断そのものを肩代わりさせる段階へ――展示全体がその移行を映していました。

製造業DX展(第1会場)の入口。西ホールに設けられ、国内の製造DX関連ソリューションが集中的に出展するゾーンです。初日から商談ブースは終日にぎわっていました。
会場の各所には、来場者の事前の閲覧データにもとづく「注目製品ランキング」が掲示されていました。検索サイトでの閲覧数上位企業を紹介するもので、いわば“来場者が事前に何に関心を持っていたか”の縮図です。製造業DX展ではTOP5が掲出されており、この顔ぶれ自体が、今年のトレンドを端的に示していました。

製造業DX展「注目製品ランキング」TOP5。1位が図面解析AI、2位が現場帳票のデジタル化、3位が電子ペーパー×NFCと、上位は「現場の紙・図面をどう扱うか」に集中していました。
■ 注目製品ランキングを読む ― 上位5製品の顔ぶれ
ランキング上位を1件ずつ見ていくと、いま製造業の関心がどこに集まっているかが立体的に見えてきます。掲示内容に、コンサルタントとしての短評を添えて整理します。
|
RANK 1 |
図面解析AIソリューション(検図AI・BOM作成/拾い出し・積算AI) 株式会社データグリッド / 西3ホール W19-26 図面の記号・寸法・注記・位置関係を構造的に理解し、検図やBOM作成、積算までを自動で遂行するAIエージェントです。OCRや類似図面検索のような単純な情報抽出にとどまらず、図面の“意味理解”にもとづいて実務に直結するアウトプットを生成する点が特徴とされます。組立図・部品図・加工図・溶接図・配管図(P&ID)・電気回路図など幅広い図面に対応し、異なる図面間の整合チェックにも踏み込みます。 |
|
RANK 2 |
そのままDX codeless technology株式会社 / 西3ホール W19-8 現場で実際に使われているExcel帳票の“様式そのまま”をデジタル化し、記録業務を効率化するノーコード系サービスです。写真・バーコード・NFC読み取りに対応し、タブレットやPCから入力できます。既存の紙・Excel運用を捨てさせない設計が、現場定着のハードルを下げています。 |
|
RANK 3 |
電子ペーパー新製品 EZ Sign NFCモデル 株式会社サンテクノロジー / 西3ホール W19-30 表示の書き換え時以外は電力を必要としない電子ペーパーの表示デバイスです。NFCで書き換えでき、ケーブル・Wi-Fi・Bluetoothは不要、バッテリーレスでの運用が可能です。指示書や現場表示のデジタル化・ペーパーレスに寄与します。 |
|
BEST 4 |
生産管理システム「Othello Connect(オセロコネクト)」 CMA株式会社 / 西3ホール W23-34 Excel運用からの脱却をめざす生産管理システムで、中小規模の製造現場でも扱いやすいことを訴求していました。 |
|
BEST 5 |
AI需要予測サービス「Deep Predictor」 AI CROSS株式会社 / 西3ホール W21-31 需要予測をAIで支援するサービスで、過剰在庫・欠品や需給計画の精度に課題を抱える企業を主な対象としています。 |
|
現場で活かすヒント 上位3製品が「図面(1位)」「現場帳票(2位)」「現場表示(3位)」で占められている点は示唆的です。製造業DXの重心が、基幹システムのような“上流の器”ではなく、図面・帳票・指示といった現場の一次情報をどう扱うかへ移っていることを表しています。とりわけ1位の図面解析AIは、検図・BOM作成・積算という、これまで熟練者の暗黙知に頼ってきた業務を正面から自動化の対象に据えており、技能継承と生産性の両面で関心が高いことがうかがえます。 一方で4位・5位が生産管理と需要予測である点も見逃せません。AIの華やかさに注目が集まりながらも、多くの企業の足元の悩みは結局「Excel運用」と「在庫」に集約されている――その現実が、そのまま順位に表れています。御社の現場でも、まず手をつけるべきはこの二つかもしれません。 |

会場内の複数箇所に掲出されていた同じランキングボード。来場者は各社の二次元コードをその場で読み取り、資料をPDF・メールで受け取れる導線(Colleqt)が整備されていました。展示会そのものの体験設計も、着実にデジタル化が進んでいます。
「AIエージェント×コンサル」で業務改革を支援するブース
REPORT 03 | 注目ブース①
会場で思わず足を止めたのが、5つの業務をカードで並べ、「こんな業務をAI化できます」と掲げたブースでした。並んでいたのは、①図面検索、②見積作成、③議事録作成、④マニュアル検索、⑤ROI試算という、いずれも“間接業務の時間泥棒”として知られる領域です。単品のツール自慢ではなく、「AIエージェント×コンサルで製造業の業務改革を支援する」という打ち出し方に、強く共感しました。

「こんな業務を AI化できます」と題した展示パネル。①図面・仕様書を瞬時に検索、②図面から概算見積を生成、③会議内容を自動要約、④マニュアル検索で必要情報をすぐに発見、⑤設備投資効果を自動シミュレーション(ROI試算)。「Excelや個別システムにデータが分散している」「計画変更時の影響確認に時間がかかる」といった、現場のあるあるを起点に語りかける構成でした。
5つの用途は、そのまま「削減できる時間の見積書」として読み替えられます。図面・仕様書の検索は、担当者が過去案件のフォルダを掘り返す数十分をゼロ秒に近づけます。見積作成は、図面から概算見積を自動生成することで初動を数時間短縮します。議事録は、会議後の清書という半日仕事を要約数分に。マニュアル検索は「あの手順どこだっけ」の往復を一問一答に変えます。ROI試算にいたっては、設備投資の効果を自動でシミュレーションし、稟議の“最後の一押し”を用意してくれます。一つひとつは地味でも、間接時間を合算すれば効果は無視できない規模になり、しかもこれらは職種を問わず全社に横展開できる点が強みです。
|
ツールを渡して終わりにするのではなく、コンサルタントが伴走して業務そのものを組み替える。この“最後の一マイル”を誰が担うかで、AI導入の成否は分かれます。 |
製造業のAI活用は、モデルの賢さそのものよりも、「どの業務に、どの順番で、誰が定着させるか」という設計で成果が決まります。ROI試算までをメニューに含めていた点は、「導入の意思決定を経営者がしやすいよう、効果の見立てまで前もって示す」という実装思想の表れであり、現場と経営の両方に目配りしたブースだと感じました。
設計から原価までをつなぐ「エンジニアリングチェーン」の現場対話録
REPORT 04 | 商談メモ
製造業DX展でもう一件、じっくり話を聞いたのが、3D CADと部品表(BOM)・原価をつなぐシステムを展示するブースでした。エンジニアリングチェーン管理・生産管理・AI/IoTを横断する内容で、担当者との対話がとても具体的だったため、要点を再構成してご紹介します(以下は、筆者の理解でメモを補ったものです)。
■ ① CADから部品表を自動生成し、図面・形状で検索する
核となるのは、CADのフォーマットを取り込んで部品表(BOM)を自動で作る仕組みです。取り込んだ図面に対して図面検索や3Dの類似形状検索ができ、設計者は「過去に似た部品はないか」をその場でたどれます。担当者によれば、3Dモデルからの部品表生成は基本的に自動とのこと。人手がゼロになるわけではありませんが、構成の骨格はシステムが用意してくれます。
■ ② 類似形状検索で「概算原価」を素早く出す
この製品がよくできていると感じたのは、検索を原価の見積りに直結させている点です。新しく作る部品に対して、形状の似た過去部品を検索し、その原価をベースに「だいたいこのくらい」という概算原価(構想原価)を弾く。そのうえでコストを集計していく、という使い方が想定されていました。
担当者が率直に語っていた背景が印象的でした。「設計者は“調べるより描いた方が早い”ので、同じような部品がどんどん増えてしまう」――これは、中堅・中小の設計現場で普遍的に起きている“部品の重複増殖”そのものです。類似形状検索は、その増殖に歯止めをかけ、既存部品の再利用と原価見積りを同時に促す処方箋になり得ます。
|
「調べる」ことは、設計者が本来したい仕事ではありません。あくまで付帯業務です。その無駄な時間を、本来の設計に振り向けられるようにする――それが、このシステムの狙いでした。 ― ブース担当者の説明(筆者による要約) |
■ ③ eBOM→mBOM、そしてERPの実績単価との連携
設計側の部品表(eBOM)から生産側の部品表(mBOM)への変換は、基本はそのまま引き継ぎ、生産側で構成を修正したい場合は編集画面で手を入れる、という設計でした。原価については、既存部品はERPから実績単価を取得し、見積り対象の部品は「単価×数量」あるいは「◯メートル」といった寸法ベースで算出します。試算・演算の範囲に収まるものであれば、特殊な計算式にも対応できるとのことでした。
さらに、特定の3Dモデルと図面・部品表を連動させてハイライト表示する機能(クロスハイライト)により、経験の浅い担当者でも正確かつ素早く拾い出しや情報伝達ができる点も強調されていました。過去の設計変更で「どの部品が、いつ、どう変わったか」を後から追いにくいという課題への対策としても機能します。
■ ④ 想定顧客は「100億円規模以上」― ここに残る空白
コンサルタントとして最も注目したのは、導入企業の規模感を尋ねたときの答えでした。中心はおおむね売上100億円規模以上で、それより下の層は「補助金をうまく使って」という相談が多いとのこと。組織がしっかりしていて、複数名の設計体制がある企業ほど導入しやすい――逆に言えば、設計が一人・二人に属人化した小規模な企業には、優れた仕組みほど“重くて手が届かない”という構造が、ここにありました。
■ もし自社で始めるなら ― 高価なシステムに頼らない第一歩
では、100億円規模のシステムに手が届かない企業は、この考え方を諦めるしかないのでしょうか。答えは「いいえ」です。この製品が體現していた価値は、分解すれば「よく使う部品を、探せる状態にしておく」「その部品の原価を、すぐ引ける状態にしておく」という二点に尽きます。これは必ずしも高価なパッケージを必要としません。
たとえば、頻出する部品を型番・形状・標準原価の一覧としてスプレッドシートに整備し、新規設計の前に必ずそこを参照するルールを一つ設けるだけでも、部品の重複増殖にはブレーキがかかります。過去の見積・実績原価を検索できる形で棚卸しし、「似た仕事はいくらだったか」を数分で引けるようにする。こうした“小さな標準化”から始めて、効果を体感してから本格的な仕組みへ橋渡しするのが、中堅・中小における現実的な順序です。最先端の展示は、そのまま導入するためのカタログではなく、自社サイズに翻訳するための“設計図”として持ち帰っていただくのがおすすめです。
|
現場で活かすヒント この対話は、製造業DXを「エンジニアリングチェーン(設計〜原価)」と「サプライチェーン(調達〜生産)」という二つの軸で捉える大切さを、改めて教えてくれます。両者はBOMとERPの実績単価という接続点で結ばれており、どちらか片方だけを整えても効果は限定的です。 そして本質は「標準化・流用設計」にあります。類似形状検索の思想は、部品を増やさない=標準化して原価を下げるという、きわめて古典的で王道の改善に、AIと3D検索という新しい実装を与えたものです。御社でこの一歩を踏み出すなら、まずは頻出部品と過去原価を“探せる状態”にすることから始めてみてください。 |
“もの”の強さは健在。DXの土台を支える要素技術
REPORT 05 | 機械要素技術展
東ホールに移り、機械要素技術展(Mechanical Components & Technology Expo)も歩きました。加工技術・機械材料をはじめ、締結・表面処理・機構部品・モーションといった、製造の“土台”を担う要素技術が一堂に会するゾーンです。DXの華やかさとは対照的に、ここでは0.01mm単位の精度や、割れない皮膜、緩まないねじといった、地に足のついた技術競争が繰り広げられていました。

機械要素技術展の入口。右手には「加工技術・機械材料(Processing Materials & Technology)」のサブテーマ表示。初日の午後は来場者の滞留が多く、現物を手に取って比較する光景が目立ちました。
こちらにも「注目製品ランキング」が掲出されており、機械要素技術展ではカテゴリー別のTOP3が紹介されていました。閲覧数上位の顔ぶれをカテゴリーごとに眺めると、要素技術の世界でどこに需要が集中しているかが見えてきます。

機械要素技術展「注目製品ランキング」TOP3(カテゴリー別)。加工技術・機械材料/表面処理・改質/ねじ・ばね/機構部品/油空圧機器・配管部品/モーション技術・モータの各分野で上位3製品を掲示していました。
掲示内容から、いくつかのカテゴリーの上位を抜き出すと、次のとおりです。
|
加工技術・機械材料 |
1位|1mmの羽根厚を実現・ばらつきゼロのアクリル製シャトル加工(ヤマデン/東3 E21-55)。2位|100mm厚の開先+R曲げ(松田鈑工)。3位|すべるゴム(イナバゴム)。 |
|
表面処理・改質 |
1位|300℃で加熱してもクラックが見えない「クラックレス硬質アルマイト」(アート1/東3 E23-13)。2位|KBM処理・薄膜コーティング(熊防メタル)。3位|受託コーティング(エフ・シー)。 |
|
ねじ・ばね |
1位|14.9“超強度”六角穴付ボルト(由良産商/東3 E24-6)。2位|カムアウトしない十字穴「QuaStix」(オーエスジーシステムプロダクツ)。3位|締結部品(フジモトボード)。 |
|
機構部品 |
1位|ロック剤不要の緩み防止ねじ「TDロック」(藤田螺子工業/東3 E27-44)。2位|CO2冷媒式ヒートポンプ給湯器用熱交換器(アタゴ製作所)。3位|アルティメットウレタンキャスター(ユーエイ)。 |
|
モーション技術・モータ |
1位|新製品ローラーガイド DRシリーズ(森本精密シャフト/東8 E50-24)。2位|超コンパクト1軸アクチュエータ(ケーエスエス)。3位|ブラシレスモータ(一宮電機)。 |

ランキングボードを確認する来場者。「緩まない」「割れない」「すべる」といった機能価値が、依然として集客の主役であることが分かります。要素技術の確かさこそが、上位のDX・AIが乗る“土台”になっています。
とりわけ表面処理・改質と締結の分野は、コンサルタントの目には「原価と歩留まりに直結する地味な主役」と映ります。割れない皮膜や高機能コーティングは製品寿命とクレーム率を左右し、緩まないねじやロック剤不要の締結は、組立工数と保守コスト、指示不具合による手戻りを減らします。派手なAIの陰で語られにくい領域ですが、最終原価と品質を静かに決めているのは、こうした要素技術の選定です。
|
現場で活かすヒント DX展と要素技術展を同じ日に歩いて痛感したのは、両者は対立軸ではなく“重ね着”の関係だということです。図面解析AIが検図や積算を自動化しても、その図面が指し示す先には、必ず「割れないアルマイト」や「緩まないねじ」という物理的な作り込みがあります。AIは要素技術を置き換えるのではなく、要素技術の価値を、より速く・正確に商談へ変える増幅装置です。そう捉えると、二つの展示会の距離はぐっと縮まります。 |
“AIエージェントの時代”に、中堅・中小の現場は何から始めるか
REPORT 06 | 総括
一日の視察を通じて得た結論を、みなさまの現場に置き換えて3点に整理します。
■ 結論① 主戦場は「現場の一次情報」に移りました
ランキング上位が図面・帳票・表示に集中していたとおり、DXの重心は基幹システムから、図面・帳票・指示といった現場の一次情報へ移りました。ここは、中堅・中小の現場が最も“紙とExcelと勘”で回してきた領域であり、裏を返せば、伸びしろが最も大きい領域でもあります。まず着手すべきは、壮大な全社基幹刷新ではなく、日々発生する一次情報の“入口”を一つ、デジタルに変えることです。
■ 結論② AIの成否は「モデル」ではなく「定着」で決まります
「AIエージェント」と銘打った展示が並ぶ一方で、成果を出せるかどうかは、モデルの性能ではなく「導入後にその業務が本当に変わり、使われ続けるか」にかかっています。2位「そのままDX」が示すように、既存のExcel様式を捨てさせない設計が現場に受け入れられるのは、まさに“定着”を最優先した思想だからです。ツールを入れることをゴールにせず、業務の型を組み替え、使われる状態をつくり切る“最後の一マイル”にこそ、成果の分かれ目があります。
■ 結論③ 「重くて届かない」層に、身の丈のDXを
設計原価システムの担当者が語った「中心は100億円規模以上」という一言は、この日いちばんの気づきでした。優れた仕組みほど、組織と体制が整った企業を前提にしており、設計が属人化した小規模な現場には手が届きません。だからこそ、補助金の活用と、身の丈に合った小さな型で、この空白に踏み込む意義があります。標準化・流用設計という王道の改善を、大がかりな投資なしに、小さく始めて確実に定着させる。それが、この潮流の恩恵を自社の現場へ引き寄せる、現実的な道筋です。
|
AIエージェントの時代に、中堅・中小の現場がやるべきことは、むしろ“古典的”です。一次情報をデジタルの入口に乗せ、標準化で無駄を削り、現場に定着させ切る。派手さはありませんが、ここを外すと成果は出ません。 ― 視察を終えて |
最後に、明日から取り組める3つの一歩をご提案します。①自社の図面・帳票・指示のうち、どの一次情報からデジタル化するかを見極めること。②類似形状・類似図面の検索がもたらす“流用設計・部品削減”の効果を、まずは主要部品で試算してみること。③補助金を前提に、身の丈に合った小さな導入シナリオを描くこと。会場で見た最先端を、そのまま持ち込むのではなく、自社の規模と体制に翻訳して受け取る――そこにこそ、成果への近道があります。本稿が、その第一歩の一助になれば幸いです。
視察記録:第38回 ものづくりワールド 東京(Manufacturing World 2026 Tokyo)/会期 2026年7月1日(水)〜3日(金)/会場 東京ビッグサイト/主催 RX Japan合同会社。
本稿は2026年7月1日(水)の現地視察にもとづく所感です。製品情報・出展社情報・小間番号・ランキングは会場掲示および取材メモをもとに再構成したものです。最新・正確な内容は各出展社の公式情報をご確認ください。


