人手不足は「採用の土俵」を変えて解く。 製造業のための“受注ハブ × 協力企業ネットワーク”と、のれん分けという選択

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執筆者熊谷 俊作
コラムテーマ採用・育成
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人手不足は「採用の土俵」を変えて解く。 製造業のための受注ハブ × 協力企業ネットワークと、のれん分けという選択

求人条件をどれだけ磨いても、応募は思うように増えません。ならば、採用そのものの前提を変えてしまえばよいのです。飲食業界が長い時間をかけて育てた“のれん分け”の発想を製造業に持ち込むと、人手不足の構造そのものを組み替える道が見えてきます。受託加工に携わる中小メーカーの現場支援の立場から、その全体像と進め方を解説します。

「求人を出しても応募が来ない」「採用できても数年で辞めてしまう」「若手が入っても、育つ前に現場が疲弊する」。板金・製缶・制御盤といった受託加工を担う中小メーカーを訪ねると、いま最も多く聞くのがこの三つの声です。景気や受注量の問題ではありません。仕事はあります。むしろ引き合いは増えているのに、それを担う人がいない。だから断らざるを得ない――そういう相談が、業種や地域を問わず持ち込まれるようになりました。

多くの経営者は、この問題を「採用の努力が足りないから」と捉え、求人媒体を増やし、初任給を上げ、福利厚生を整え、工場をきれいにします。いずれも間違いではありません。ですが、同じことを同業各社が一斉に始めれば、結局は限られた人材を高い条件で奪い合うだけの消耗戦になります。労務費だけが上がり、採れる人数は増えません。ここに、製造業の採用が抱える構造的な行き詰まりがあります。

本稿で提案したいのは、募集条件の改善という土俵から一度降りることです。代わりに、「そもそも、どんな人を、どういう魅力で惹きつけるのか」という前提の側を設計し直すのです。その具体策として、飲食業界で広く定着した“のれん分け”――将来の独立を前提に人を採り、育て、送り出す仕組み――を、製造業の実態に合わせて組み替える方法を示していきます。

断っておきますと、これは一部の先進企業だけの特殊な話ではありません。むしろ、地域の受託加工を長年担ってきた堅実な中小メーカーほど、この発想はよく効きます。積み上げてきた技術と信用があり、図面の読み方や品質の基準が体に染み込んでいる会社ほど、それを外へ広げていくための土台を、すでに持っているからです。以下では、なぜ従来の採用が行き詰まるのかを確かめたうえで、発想の転換、体制の全体像、そして具体的な進め方の順に見ていきます。

 

なぜ、条件を磨いても採用は勝てないのか

製造業の採用が難しい根本には、狙っている人材の“母集団”そのものが縮んでいるという事実があります。多くの会社が求めているのは、「腰を据えて、生涯にわたって一つの現場で働き続けてくれる人」です。堅実で、辞めず、真面目に技を積み上げてくれる――理想的な人物像です。しかし、この価値観を持つ層は、少子化と価値観の多様化のなかで年々細っています。パイが縮んでいるところへ、同業各社が同じ人材像を、ほぼ同じ条件で取り合います。だから、どれほど条件を上げても“採れた実感”が湧かないのです。

さらに事態を深刻にしているのが、現場を支えてきた熟練工の高齢化です。長い年月をかけて蓄えられた勘とコツ――図面の裏を読む力、材料の癖を見抜く目、段取りの組み方――は、その多くが言葉になっていません。採用が細るなかで技能の受け手が育たなければ、この暗黙知は本人の引退とともに、静かに失われていきます。人手が足りないという“量”の問題は、放っておけば技術が途絶えるという“質”の問題へと姿を変えます。つまり採用とは、単なる頭数の確保ではなく、会社の競争力そのものを次の世代へ手渡せるかどうかの問題なのです。

一方で、世の中には別の層が確かに存在します。「いつかは自分の裁量で仕事がしたい」「腕を磨いて、いずれは独立したい」という上昇志向を持つ人たちです。彼らは決して少なくありません。ですが、この層はこれまで製造業の――とりわけ下請け構造の町工場の――求人には、ほとんど反応してきませんでした。理由は単純で、その会社に入っても「一生、誰かの下で同じ工程を担い続ける」以外の未来が見えないからです。上昇志向のある人ほど、そこに自分の物語を描けないのです。

ここに、発想を切り替える余地があります。縮むパイを奪い合うのではなく、これまで振り向いてもらえなかった“別のパイ”に、正面から手を伸ばすのです。そのための装置が、のれん分けです。

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狙う母集団を変える。同じ人材を条件で奪い合う従来の採用に対し、のれん分けはこれまで製造業を選ばなかった上昇志向層に手を伸ばします。
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のれん分けは「制度」ではなく「採用戦略」です

のれん分けと聞くと、多くの方は飲食業界を思い浮かべるはずです。人気ラーメン店で修業した職人が、暖簾を分けてもらって自分の店を構えます。あるいは大手居酒屋チェーンが、店長経験者の独立を支援します。こうした仕組みが飲食で根づいたのは、それが単なる“出口”ではなく、強力な“入口”――つまり採用装置として機能してきたからです。「ここで頑張れば、いつか自分の城が持てる」という物語が、ほかでは採れない意欲的な若者を惹きつけ続けてきました。

この本質を、製造業はもっと真剣に捉えてよいと考えています。のれん分けの制度をつくるということは、突き詰めれば「独立したい人を採用できるようにする」ということです。ビジネスモデルの転換に見えて、その正体は採用戦略の再設計にほかなりません。この一点を押さえるだけで、施策の意味合いはまるで変わってきます。

制度を作ることは、採用を増やすことです。
のれん分けは、事業モデルの話であると同時に、採用の話でもあるのです。

 

採用戦略として見たとき、のれん分けには少なくとも四つの効果が期待できます。第一に、採れる母集団が変わるという点です。前章で述べた「独立したい層」を正面から狙えるようになります。これは競合がほとんど手をつけていない領域であり、採用における新しい市場を開くに等しいものです。

付け加えれば、この層は決して製造業を嫌っているわけではありません。ものづくりそのものに惹かれていても、「下請けの一工員で終わる」未来しか描けないから、彼らはIT系のスタートアップや、独立の道が用意された飲食・サービス業へと流れていきます。裏を返せば、製造業の側に「独立」という物語さえ用意できれば、十分に取り戻せる人材だということでもあります。

第二に、修業期間の意欲と定着が高まるという点です。独立という明確なゴールがあるからこそ、途中で投げ出さず、本気で技を磨きます。目標のない「なんとなくの勤続」とは、育成効率も定着率もまるで違ってきます。会社にとっては、育成投資の歩留まりが上がるということです。

第三に、そして最も見落とされがちな点ですが、「卒業」が損失ではなくなるという効果です。通常、育てた人材の退職は戦力の流出であり、痛手でしかありません。ところがのれん分けの設計下では、独立した元社員は競合ではなく“協力先”になります。つまり、退職が「戦力ダウン」ではなく「ネットワークの拡大」に転じるのです。この逆転こそ、後述する生産体制と採用が一本の線でつながる要になります。

第四に、採用ブランディングの武器になるという点です。「独立支援制度あり」という一言は、求人票でも自社サイトでも際立ちます。工程や設備のスペックで他社と差がつきにくい製造業において、これは真似されにくい訴求です。応募者の記憶に残り、「この会社は他と違う」という第一印象をつくります。

ここで、こう反論したくなるかもしれません。「飲食なら数百万円で一店舗を開けるが、板金や製缶は設備に数千万円かかる。同じようにはいかないのではないか」と。もっともなご指摘です。しかし、だからこそ親会社の支援に意味が生まれます。償却の済んだ機械を格安で譲る、工場の一角を貸して大型設備を時間貸しでシェアする、独立直後の一定期間は発注を保証する――重い初期投資という製造業固有の壁は、支援の設計しだいで十分に越えられます。飲食のモデルをそのまま移植するのではなく、製造業の“重さ”に合わせて組み替えます。その一手間が必要です。

ただし、ここで重要な留保があります。「独立したい人を採る」という発想は魅力的ですが、採った人をすぐに独立させることには、相応のリスクが伴います。とりわけ数十名規模の会社では、中核となる職人が一人抜けるだけで現場が回らなくなりかねません。だからこそ、順序の設計が決定的に重要になります。

いきなり独立ではなく、「受注ハブ × 協力企業ネットワーク」から始める

結論から言えば、着手すべきはのれん分けそのものではありません。まず取り組むべきは、自社が“受注ハブ”となり、外部の協力企業を束ねて仕事を捌く体制をつくることです。自社が窓口として仕事を受け、設計や中核工程は自社に残しつつ、量産や物量のかさむ工程を、管理された協力企業ネットワークへ流していきます。のれん分けは、このネットワークが回り始めたあとで、最も信頼できるノードを“自社出身の独立先”に置き換えていく――いわば密度と信頼を高める後段の打ち手として位置づけます。

なぜこの順序が優れているのでしょうか。理由は三つあります。ひとつはリスクが大きく下がることです。「すぐ独立させる」前提を外すため、独立候補が今いなくても成立し、中核人材を痛める心配がありません。まずは外部の協力企業で網を張ればよいのです。ふたつめは即効性があることです。多くの会社は、繁忙期にその場しのぎで外注を出し、値決めも管理も甘いまま利益を削っています。これを「管理された協力企業網」に置き換えれば、受注キャパシティとコストの両方に、着手した初期から効いてきます。みっつめはのれん分けが活きることです。受注の器とマネジメントの筋肉を先に用意しておけば、いざ独立者が出たときに、受け皿となる仕組みがすでに存在します。裸で独立させるのではなく、機能するネットワークの中に迎え入れられます。

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自社が受注の窓口となり、設計・中核工程を握りながら、量産や物量工程を協力企業へ配分します。信頼度の高いノードは、のちに自社出身の独立先へ置き換えていきます。
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この構図の要点は、自社が単なる一工場ではなく「受注の窓口」と「品質の管制塔」を兼ねるハブになるところにあります。攻めの側面――受注拡大――と、守りの側面――人手不足と外注コストの解消――を、同じ体制で同時に進められます。人が足りないから受注を断る、という悪循環から抜け出す第一歩が、ここにあります。

念のため触れておきますと、人手不足の打ち手として世に出回るのは、採用代行や人材派遣、あるいは同業のM&Aといった手段が多いものです。いずれも有効な場面はあります。ですが、採用代行や派遣は「採れない・続かない」という根の問題を残したままの対症療法になりがちで、M&Aは相応の資金と、買収後の統合に大きな労力を要します。ここで述べる協力企業ネットワークとのれん分けは、外から人や会社を「買ってくる」のではなく、自社を軸に生産の網を「育てていく」アプローチである点で、性格が大きく異なります。時間はかかりますが、根を張った強さがあります。

協力企業ネットワークの作り方 ―― 受注ハブになるということ

第一段階は、既存の外部企業を束ねてネットワークを立ち上げることです。ここで陥りがちなのが、「単なる外注先の寄せ集め」に終わってしまうことです。それを避ける鍵は、次の三点にあります。

ひとつめはパートナーの開拓です。全国各地の協力企業を、場当たりではなく戦略的に選び、開拓していきます。ここで自社が差し出せる最大の魅力は「安定した発注」です。協力企業もまた人手不足に苦しんでおり、良い相手ほど引く手あまたです。だからこそ、選ばれる元請になる必要があります。ふたつめは標準化です。図面の描き方、品質基準、原価の考え方といった“共通言語”を整備し、誰に発注しても同じ品質・同じ納期が担保される状態をつくります。これが寄せ集めと本物のネットワークを分ける決定的な差になります。みっつめは発注と管理の仕組み化です。発注の平準化、受入検査の体制、単価管理――元請として品質と納期の最終責任を果たすための土台を持つことです。

とりわけ二つめの標準化は、地味ですが決定的です。同じ図面を渡しても、業者ごとに解釈が割れ、仕上がりも納期もばらつく――これが外注でつまずく原因のほとんどです。だからこそ、公差の読み方や検査の基準、起こりやすい不良とその防ぎ方までを、あらかじめ文書として共有しておきます。発注のたびに口頭で擦り合わせる状態から抜け出し、「誰に出しても同じ」へ近づけることが、ネットワークを寄せ集めから引き上げます。そしてこの標準化の資料は、そのまま自社の新人教育にも、将来の独立者への技術移転の教材にも使えます。一度つくれば、幾重にも効いてくる投資です。

この三つが噛み合うと、ネットワークは単なるコスト対策を超えて、成長のエンジンになります。仕事を受ける器が広がれば、これまで断っていた案件を取りにいけるようになり、実績が積み上がります。実績はさらなる引き合いを呼び、それをまたネットワークで捌く。受注が受注を呼ぶ循環が回り始めます。

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集客で受注を増やし、ネットワークで捌き、手が空けばさらに取りにいく。実績が引き合いを呼び、循環が回り始めます。
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ここで見逃せないのが、受注を増やす“入口”の存在です。ネットワークにいくら捌く力があっても、流し込む仕事がなければ回りません。自社サイトやオンラインでの引き合い獲得――いわゆるWeb集客――は、このループの起点として欠かせません。生産体制の話と集客の話は、本来ひとつながりの設計として扱うべきものです。

のれん分けで、ネットワークを“自社DNA”に染める

ネットワークが軌道に乗ったら、次の段階として、自社で育てた人材や、特に信頼できる協力企業を、独立オーナーへと引き上げていきます。これがのれん分けの本番です。外部の協力企業と違い、自社出身の独立先は、図面の読み方も品質基準も納期感覚も知り尽くしています。説明不要で最高品質が担保される、いわば“ツーカーで通じる”外注先です。ネットワーク全体の質を一段引き上げる、最も濃いノードになります。

そのためには、独立に至るまでの道筋を、育成のロードマップとして描いておく必要があります。行き当たりばったりではなく、段階を追ってスキルと経営感覚を積み上げ、安心して独立できる設計にします。あわせて、独立の障壁となる初期投資と初期の売上を、親会社の側から支える仕組みも用意します。償却の済んだ設備の譲渡やリース、工場の一角を貸す“シェア工場”からのスモールスタート、そして独立後の一定期間、一定量の発注を保証する制度――こうした支援があってはじめて、独立は現実的な選択肢になります。

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入社から独立までを段階で設計します。技術の習得から現場マネジメント、経営の基礎へと積み上げ、最後に発注保証と品質の取り決めを結んで独立・提携へと進みます。
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この段階設計には、育成の副産物として大きな効用があります。「独立」という到達点が明示されることで、修業期間そのものが濃くなります。目標のある数年間は、目標のない数年間とは密度が違います。結果として、育成の途中離脱が減り、技能の定着が進みます。採用の入口で惹きつけ、育成の過程で離さない――のれん分けは、その両方に効く仕掛けなのです。

この三つの支援――設備の譲渡やリース、シェア工場からのスモールスタート、独立後の発注保証――は、いずれも「独立して最初の数年」という最も危うい時期を、親会社が下支えするためのものです。独立したての職人が、慣れない営業に奔走して疲弊し、資金繰りに行き詰まって潰れてしまっては、双方にとって不幸でしかありません。保証された発注で固定費を確実に回収しながら、経営の地力を養います。この時間の猶予こそが、独立の成否を分けます。さらにこの仕組みは、社内の後継者育成とも響き合います。数字を読み、人を束ね、事業を回す経験を積んだ人材は、たとえ独立しなくても、自社の次代を担う幹部候補になります。のれん分けの育成過程は、独立オーナーと社内幹部の、そのどちらにも通じる“経営者づくり”でもあるのです。

この体制が生む、四つの経営メリット

ここまでの体制を整えると、経営には具体的に四つのメリットが立ち上がります。第一は、繰り返し述べてきた採用力と定着率の向上です。「いつか自分の工場を持てる」という明確なキャリアパスは、設計や技能の人材が逼迫するなかで、他社と最も差がつく訴求になります。

第二は、固定費の変動費化です。自前で工場スペースを広げ、機械を買い増し、正社員を抱え込む代わりに、繁忙と閑散を協力企業への発注量で調整できます。人件費や減価償却といった固定費の一部を外注加工費という変動費に振り替えることで、景気の波に強い、筋肉質な財務体質に近づきます。

第三は、“ツーカー”で通じる外注先の確保です。自社の図面、品質基準、加工の癖、納期の感覚を熟知した相手が独立するため、新規業者に外注するときのような擦り合わせの労力も、不良のリスクも小さくて済みます。説明不要で高品質を担保できる、最強の外部キャパシティになります。

第四は、全国立地のメリットです。元社員が出身地や主要顧客の近くで独立していけば、自社は大きな投資をせずに、全国に生産・物流の拠点を構えられます。大型の筐体や重量物では輸送コストの削減が効き、地域に近い拠点があれば試作や急な設計変更にも即応できます。さらに、万一本社工場が被災しても生産を各拠点に分散できる、事業継続(BCP)の備えにもなります。

たとえば、繁忙期の情景を思い浮かべてみてください。従来なら、増える注文をさばききれず、残業を重ねても間に合わず、やむなく受注を断らざるを得ません。あるいは急ぎで見つけた外注に高い単価で無理を頼み、利益を削ってしまいます。ところがネットワークが機能していれば、あふれた仕事は勝手を知った協力先へ計画的に流れ、閑散期には発注を絞って自社の稼働を守れます。同じ受注の波が、体制ひとつで「断る痛み」から「捌ける自信」へと変わります。これが、四つのメリットが日々の現場で結実する姿です。

これら四つは別々の効果に見えて、根はひとつです。「人を採り、育て、送り出す」という一連の流れが、そのまま生産体制の強化になっているのです。採用と生産が分断されず、循環としてつながっている点に、このモデルの本質があります。

制度を、採用の“語れる物語”に変える

せっかく制度をつくっても、それが応募者に伝わらなければ採用効果は生まれません。のれん分けを採用の武器に変える最後の一手は、制度を「語れる物語」として発信することです。求人票の片隅に一行載せるだけでは足りません。なぜこの制度を始めたのか、独立までにどんな道が用意されているのか、実際に歩んでいる先輩がいるなら、その姿をどう見せるか――自社サイトや採用ページ、オウンドメディアを通じて、できるだけ具体的に語ります。抽象的な「風通しのよい職場」ではなく、目に見える将来像を差し出すのです。

この発信は、採用だけでなく受注にも効いてきます。「独立を支援するほど職人を大切にしている会社」という評判は、品質や誠実さの証明として、そのまま顧客の信頼にもつながるからです。前章で描いた受注の循環と、採用の物語は、同じWebという土俵の上で重なり合います。生産体制・採用・集客を、それぞれ別の担当がばらばらに進めるのではなく、ひとつの設計として束ねること――それが、この戦略を絵に描いた餅で終わらせないための、最後の条件になります。

手前味噌に聞こえるかもしれませんが、ここまで一貫して設計しきれている会社は、まだ多くありません。だからこそ、早く着手した会社ほど、採用の面でも受注の面でも、先行者としての優位を築けます。人手不足が続くこれからの数年は、条件の上乗せ合戦から降り、土俵そのものを変えた会社が静かに抜け出していく――そういう時代になるはずです。

光だけでなく、影も設計に織り込む

良い提案ほど、リスクを先にお伝えします。のれん分けとネットワークの体制にも、当然ながら注意すべき論点があります。避けるのではなく、あらかじめ設計に織り込むことが、制度の信頼性を高めます。

最も重要なのは法務上の論点です。特定の協力企業に対する専属的な発注や、独立後の発注保証といったスキームは、下請法や独占禁止法(優越的地位の濫用)、さらには偽装請負の問題と隣り合わせになりえます。ここは自己流で進めず、弁護士や社会保険労務士といった専門家と連携して枠組みを組む必要があります。次に、少人数ゆえの影響です。規模の小さい会社では、独立は諸刃の剣になります。だからこそ本稿は「まず外部の協力企業で網を張り、独立は一号店を丁寧に育てる」順序をお勧めしています。さらに、囲い込みと自由のバランス――独立者や協力企業がいずれ競合化するリスクを、専属度と自由度をどう契約に落とすかで制御します。発注保証の財務負担――景気後退局面での保証は重荷になりうるため、保証の額・期間・対象工程を無理のない水準に設計します。そして技術やノウハウの流出――図面や品質基準の共有範囲を段階的に開き、ブランドと品質に関する取り決めで守りを固めます。いずれも、事前に想定しておけば十分に扱える論点です。

小さく始めて、確かめながら積み上げる

最後に、現実的な進め方をお示しします。この種の取り組みは、大きく構えて一気に、ではなく、小さく始めて確かめながら積み上げるのが定石です。おおよそ四つのステップになります。

まずSTEP 0・診断です。自社のどの工程を外に出せて、どの工程を社内に残すべきかを、原価構造から切り分けます。独立候補となりうる人材を棚卸しし、固定費が変動費に置き換わったときの財務インパクトを試算します。ここで「絵空事ではなく数字で見える」状態をつくることが、以降すべての前提になります。次にSTEP 1・設計です。協力企業の開拓基準、標準化の中身、発注管理の仕組みを設計し、並行してのれん分け制度の骨子を整えます。続くSTEP 2・試行では、まず数社の協力企業で受注ハブを試運転し、将来的には独立の一号店を丁寧に伴走します。そしてSTEP 3・展開では、横展開とパートナー管理の仕組み化を進め、採用やWeb集客に成果を還元し、成長の循環を回していきます。

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大きく構えず、段を一つずつ上っていきます。診断で数字を見える化し、設計・試行を経て、確かめながら展開へ積み上げます。
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この階段を一段ずつ上がることで、投資も組織への負荷も無理なく分散できます。最初の一歩は、あくまで「自社のどの工程なら外に出せるか」を見極める診断からで構いません。そこから、確かめながら次の段へ進めばよいのです。

一連の取り組みを、伴走してご支援します

 

協力企業ネットワークの設計から、原価・見積・生産管理といった土台づくり、のれん分け制度の構築、そしてそれを採用の武器へと落とし込むところまで――本稿で述べた一連の取り組みを、船井総合研究所は一気通貫でご支援しています。制度の“絵”を描くだけでなく、それを実際に回すための仕組みと現場への定着まで、発注者側に立って伴走するのが私たちの役割です。

「人が採れない」「育てても辞めてしまう」「受注はあるのに捌けない」――もし一つでも心当たりがあれば、まずは自社のどの工程なら外に出せるかを見極める簡易診断からでも構いません。同じ課題に向き合う製造業の経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。自社の実情に合わせた進め方を、具体的な数字とともにご提案します。

 

まずは無料相談から、こちらから記入をお願いいたします。

 

 

【主催・お問い合わせ】 

株式会社船井総合研究所では、中堅・中小製造業の経営者・幹部が集う「スマートファクトリー経営研究会」を定期開催しています。他社の成功事例を学び、自社のDX・原価管理を推進したい方は、ぜひ無料体験例会や経営相談へお気軽にお申し込みください。

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執筆者 : 熊谷 俊作

2021年に新卒入社後、3年という速さで現職のリーダーに就任。 多品種少量生産の製造業を専門とし、現場4M(特にMan)のデータ化と多軸分析で製造ロスを可視化、生産性を抜本的に向上。RFID技術等による精緻な工数管理、実態に即した原価管理体制構築、データドリブンな改善サイクル定着まで一貫支援。分析ツール・業務アプリ開発などのシステム開発も得意領域。AIによる属人化解消・技術継承に加え、データに基づく組織変革と現場に根付くデータ思考文化の醸成を重視したコンサルティングでクライアントの生産性向上を支援している。