プレス加工業のIoT活用ガイド|段取り分解計測と金型ショット数管理|製造業・工場DX経営オンライン

  • 受託型製造業
公開日
更新日
執筆者熊谷 俊作
コラムテーマAI・デジタル・IoT
SHARE

プレス加工業のIoT活用ガイド——段取り時間の分解計測・SPM管理・金型のショット数管理

■SEO設計メモ(公開時に削除)

・メインKW:プレス加工 IoT

・サブキーワード:プレス機 稼働監視/金型 ショット数 管理/段取り時間 短縮/SPM 管理/プレス 材料歩留まり

titleタグ案:プレス加工業のIoT活用ガイド|段取り分解計測と金型ショット数管理|製造業・工場DX経営オンライン

meta description案:プレス加工業に特化した工場IoTの活用法を解説。金型段取り時間の分解計測と外段取り化、SPM(生産速度)の実測、金型の累計ショット数管理による計画メンテナンス、コイル材の歩留まり改善まで、プレス工場を支援してきた船井総研のコンサルタントが実践手順をまとめました。

・想定読者:金属プレス加工を営む中堅・中小製造業の経営者・工場長

・内部リンク:ピラー記事/子記事見える化/レトロフィット/予知保全/費用/業種別:板金溶接・自動車部品・金型製造

「段取り替えに時間がかかりすぎている」——プレス加工の現場で、最もよく聞く課題です。

しかし、「その段取りに、実際に何分かかっているのか」「そのうち、機械を止めなければできない作業はどれだけか」という問いに、数字で答えられる工場は多くありません。「だいたい1時間」「品目によって違う」——感覚的な認識のまま、日々の段取りが繰り返されています。

プレス加工は、装置型の生産形態を持つ業種です。サイクルが安定しているため、止まっている時間がそのまま生産数の損失に直結します。そして、多品種少量化が進む中、段取り替えの回数は増え続けています。

さらにプレス加工には、もうひとつの重要な管理対象があります。金型です。プレス機という設備と同じかそれ以上に、金型の状態が生産の安定性を左右します。しかし、「この型がいま何万ショット目なのか」を正確に把握している工場は、決して多くありません。

本記事では、中堅・中小のプレス加工業を支援してきた船井総合研究所の製造業コンサルタントが、この業種に特化したIoT活用法を解説します。段取り時間の分解計測、SPM(生産速度)の実測、金型の累計ショット数管理、コイル材の歩留まり改善——プレス工場の現場で機能する内容に絞ってお伝えします。

工場IoTの全体像は、ピラー記事「工場IoTとは?完全ガイド」をあわせてご覧ください。

プレス加工業の構造的特徴——なぜIoTが効くのか

この業種が抱える構造を整理します(図1)。

1:プレス加工業の構造的特徴とIoTの効きどころ

 特徴:金型段取りが最大のロス

プレス加工の生産性を最も大きく左右するのが、金型の段取り替えです。ロットが小さくなるほど、段取り時間の比率は高まります。

顧客の在庫圧縮志向により、プレス加工でも小ロット化が進んでいます。かつては1回の段取りで数日分を生産していたものが、いまは半日、あるいは数時間分——という工場も少なくありません。段取り回数が倍になれば、段取りロスも倍になります。

そして重要なのは、段取り時間には大きなバラつきがあることです。型によって、担当者によって、そして状況によって、所要時間は変わります。このバラつきを測ることが、改善の出発点です。

 特徴:高速・大量生産ゆえの累積効果

プレス機は、1分間に数十回、機種によっては数百回のストロークを行います。この高速性ゆえに、わずかな速度低下や短時間の停止が、生産数に大きく影響します。

SPMStroke Per Minute1分あたりストローク数)が標準より5%低ければ、生産数も5%減ります。130秒のチョコ停が130回発生すれば、15分の損失——これが年間では数十時間になります。

こうした小さなロスは、人の目では捉えられません。センサーによる継続的な計測でしか見えない領域に、プレス工場の改善余地があります。

 特徴:金型が生産の要

プレス加工において、金型は設備と同等の重要性を持ちます。金型の状態が悪化すれば、製品品質が低下し、突発トラブルによる停止も発生します。

刃先の摩耗、パンチの欠け、ガイドの摩耗、カス上がり——これらのトラブルの多くは、使用回数(ショット数)と関係しています。つまり、累計ショット数を管理していれば、計画的なメンテナンスによって予防できるということです。

しかし多くの工場で、金型のショット数は台帳への手書きか、担当者の記憶に頼っています。「そろそろメンテナンスの時期」という判断が、勘に基づいて行われているのが実情です。

 特徴:材料費の比重が高い

プレス加工では、材料費が原価の5割前後を占めることも珍しくありません。コイル材の価格変動が、利益を直撃する構造です。

そして、歩留まりは条件によって変動します。ブランクの配置、材料幅、送りピッチ、そしてスクラップの発生量——これらの設計が、材料効率を決めます。

歩留まり1%の改善が、そのまま原価の改善につながる。この構造を踏まえれば、歩留まりを測ることの価値は明らかです。

 特徴:安全確保が最優先

プレス機は、重大な労働災害につながり得る設備です。安全装置の適切な機能と、安全作業の徹底は、他のいかなる目的にも優先します。

この点で、データは2つの意味を持ちます。ひとつは、安全装置の作動状況を記録し、作動が多発する箇所や条件を把握すること。もうひとつは、安全のための停止と、その他の停止を区別して分析することです。

安全のための停止を「ロス」として削減対象にすることは、絶対にあってはなりません。しかし、安全装置が頻繁に作動する状況があるなら、その原因(材料の供給不良、作業手順の問題など)を改善することは、安全と生産性の両方に資する取り組みです。

なお、プレス機の安全対策については、法令および専門機関の指針に従うことが大前提です。本記事の内容は、あくまで生産管理の観点からのものであることをご理解ください。

金型段取り時間の分解——どこに時間がかかっているか

プレス加工の最大のロスである段取りについて、改善の考え方を整理します(図2)。

2:段取り時間の分解

 段取りを3つに分解する

段取り時間を一括りで測っても、改善の的は絞れません。実務では、次の3つに分解して記録することを推奨します。

第一が「準備」です。次に使う型の搬送、治具・工具の準備、材料の準備——これらは、機械が稼働している間に実施できる作業です。つまり外段取り化の対象です。

第二が「型交換」です。旧型の取り外し、新型の取り付け、クランプ——機械を止めなければできない作業(内段取り)の中核です。

第三が「調整・確認」です。ダイハイトの調整、材料の通し、試し打ち、初品検査——。この工程は、標準化と条件データの蓄積によって短縮できる余地が大きい領域です。

 測ると見えてくること

この分解計測を行うと、多くの工場で意外な事実が明らかになります。「型交換そのものは意外に短く、準備と調整に時間がかかっている」——というパターンです。

型を探す時間、工具を取りに行く時間、材料を準備する時間。そして、試し打ちを繰り返して条件を出す時間、初品検査の結果を待つ時間——。これらが、段取り時間の大部分を占めていることがあります。

原因が分かれば、対策は明確です。準備作業を稼働中に済ませる(外段取り化)。型と工具の定位置化。過去の条件データの整備による試し打ちの削減。初品検査の判定基準と担当の明確化——

 外段取り化の効果

外段取り化は、プレス加工における最も基本的かつ効果的な改善手法です。段取り時間の中から、機械を止めずにできる作業を切り出し、稼働中に実施する。

「言われてみれば当たり前」の対策ですが、実行されていない工場は少なくありません。理由は、その効果が数字で見えていなかったからです。「準備作業で月20時間の損失」という事実が見えた瞬間、外段取り化の運用は自然に始まります。

データの役割は、当たり前の対策に優先度と動機を与えることにあります。

 プレス加工業がデータ活用で得られる3つの経営価値

構造的特徴を踏まえ、この業種がIoTから得られる価値を整理します。

第一に、生産能力の回復です。段取り時間の短縮とチョコ停の削減により、設備を増やさずに生産量を増やせます。プレス機は高額な設備であり、増設を回避できることの経済的価値は大きいものがあります。

第二に、材料原価の適正化です。歩留まりが見えることで、ブランク配置の見直し、材料幅の最適化、試し打ち材の削減といった打ち手が具体化します。材料費が原価の中心を占めるプレス加工では、これが最も直接的な利益改善になります。

第三に、金型という資産の管理です。ショット数と履歴の管理により、突発トラブルが計画メンテナンスに変わります。生産の安定性が高まるだけでなく、金型への投資判断も根拠を持って行えるようになります。

これら3つはいずれも、プレス加工業の経営に直結するテーマです。そして、いずれも大きな設備投資ではなく、データに基づく運用の改善によって実現できます。

なお、本記事で述べる内容は生産管理の観点からのものであり、プレス機械の安全対策については、労働安全衛生法をはじめとする法令および専門機関の指針が優先されます。安全に関わる設備・運用の変更を検討される際は、必ず専門家にご相談ください。

金型のショット数管理——突発トラブルを計画停止に変える

プレス加工業のIoT活用において、他業種にない重要テーマがこれです(図3)。

3:金型のショット数管理

 なぜショット数管理が必要なのか

金型の劣化は、使用回数に応じて進行します。刃先の摩耗、パンチの欠け、ガイドの摩耗——これらは、ある程度予測可能な現象です。

5万ショットごとに刃先を点検」「20万ショットで主要部品を交換」——こうした基準を設けても、肝心の累計ショット数が分からなければ運用できません。

多くの工場で、ショット数の管理は手書きの台帳か、担当者の記憶に依存しています。生産の合間に記入するため、記録漏れも発生します。結果として、「そろそろメンテの時期かもしれない」という曖昧な判断のもと、突発トラブルが発生してから対処する——という事後対応になりがちです。

 実現方法

仕組みはシンプルです。金型にQRコードまたはNFCタグを貼付し、段取り時に読み取ります。すると「いまこのプレス機で使われている型」が特定され、その機械のショット数カウントが、自動的にその型の累計に加算されていきます。

プレス機のショット数は、クランク角センサーや完了信号の接点から自動取得できます。つまり、段取り時にタグを読むだけで、以降の記録はすべて自動化されるということです。

 得られる効果

第一に、計画メンテナンスの実現です。「あと5千ショットで点検基準に達する型」を事前に把握でき、生産計画に合わせて計画的に整備できます。突発トラブルが計画停止に置き換わることで、生産の乱れが大きく減ります。

第二に、型の探索時間の削減です。保管場所の情報を紐づけておけば、「あの型はどこだ」という探索がなくなります。金型点数が数百に及ぶ工場では、これだけでも相応の工数削減になります。

第三に、顧客への説明力です。顧客支給の型を預かっている場合、「現在万ショット、直近のメンテナンスは月」といった状況を即座に報告できることは、信頼につながります。型の更新提案を行う際の根拠データにもなります。

第四に、投資判断の根拠です。修理を重ねるより新規製作したほうが経済的か——累計ショット数と修理履歴・費用のデータがあれば、この判断が定量的に行えます。

なお、金型の製作側の視点については、業種別記事「金型製造業のIoTDX活用ガイド」もあわせてご覧ください。

KPI設計——プレス加工業は何を測るべきか

指標の体系を整理します(図4)。

4:プレス加工業のKPI設計

 KGI:設備1台あたり付加価値

プレス機は高額な設備です。この資産をどれだけ活かせているかを示す「設備1台あたり付加価値」が、経営指標として直感的です。人手不足を背景に、人時生産性を併用する企業も増えています。

 KPIOEEが中心指標

プレス加工には、他業種にない強みがあります。サイクル(SPM)が安定しているため、OEE(設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率)を比較的容易に算出できるのです。

性能稼働率は、「実際のSPM ÷ 標準SPM」で計算できます。機械加工のように品目ごとに加工時間が大きく異なる業種では算出が難しいこの指標が、プレス加工では自然に得られます。

これに、段取り時間(型別・人別)、材料歩留まり率、金型起因の停止時間を加えると、プレス加工業のKPIセットとしては十分です。指標の詳しい定義は、子記事「設備稼働率・可動率の見える化完全ガイド」で解説しています。

 実SPMという指標

意外に見落とされているのが、実際のSPMです。標準では毎分60ストロークのはずが、実測すると55——という差が生じていることがあります。

原因は、材料供給の遅れ、安全確認による減速、機械の調子、あるいは意図的な速度低下(品質確保のため)など様々です。この差を把握することで、能力の実態が分かり、改善の余地も見えます。

 現場の行動指標

現場が日々意識する指標としては、外段取り実施率、チョコ停回数、型メンテナンス計画の実施率、安全装置の作動回数、初品OK——といったものを設定します。

 指標を運用に落とす

KPIを設計したら、それを見る場を決めます。プレス加工業では、朝礼での前日実績の共有(1分)と、週次15分のレビュー(可動率と停止理由ワースト3の確認、段取り時間の推移、対策1件の決定)が実務的です。

特に効果的なのが、段取り時間の推移を毎週確認することです。「先週の平均段取り時間は52分、前週比で3分短縮」——この数字が毎週共有されることで、現場の意識は確実に変わります。

そして、金型のメンテナンス予定も週次で確認してください。「今週、基準ショット数に達する型が3点」——この情報が事前に分かれば、生産計画との調整が可能になります。

なお、KPIの数は絞ってください。プレス加工では管理したい項目が多岐にわたりますが、全社で追う指標は「可動率」「段取り時間」「材料歩留まり」の3つ程度で十分です。この3つが改善すれば、経営指標は自然に良くなります。

データの取り方——プレス工場での方式選定

何を、どう測るか。実務的な選択肢を整理します(図5)。

5:プレス工場のデータ取得方式

 稼働/停止

信号灯センサーまたは電流センサーによる後付け計測が基本です。プレス機は信号灯の装備率が高く、設置は比較的容易です。メーカー・年式を問わず適用できます(方式の詳細は子記事「レトロフィットIoTで古い設備をIoT化する方法」参照)。

 ショット数・SPM

プレス加工に特有かつ重要なデータです。取得方法はいくつかあります。

クランク角センサーを設置して回転を検知する方法。既存のカウンタから信号を取得する方法。あるいは、完了信号の接点を利用する方法——。プレス機の構成によって適した方法は異なるため、設備メーカーへの確認や現地調査が必要です。

ショット数が自動でカウントされれば、生産実績の自動収集と、SPMの実測が可能になります。日報への生産数の手書きも不要になります。

 停止理由

センサーは「止まった」ことは分かっても、「なぜ止まったか」は分かりません。段取り、材料切れ・供給不良、金型トラブル、機械トラブル、安全装置作動、計画停止——といった区分で、選択式入力を行います。

安全装置の作動については、必ず独立した区分として記録してください。この記録は、安全管理上の重要な情報でもあります。

 金型の識別・履歴

前章で述べたとおり、QRコードまたはNFCタグによる識別と、ショット数の自動累計です。プレス加工業のIoT活用における中核的な仕組みです。

 材料歩留まり

コイル材の投入重量と、製品として出た重量を記録し、比率を算出します。品目別、材質別、型別に集計することで、改善の余地が見えてきます。

スクラップの重量も記録できれば、有価売却の管理にも活用できます。

 設備の状態監視

プレス機の重要部位——クラッチ、ブレーキ、スライド機構、油圧系——の状態監視は、突発停止の防止に有効です。振動・温度センサーによる監視から始めることができます。

特に、生産の中核となる大型プレスや、代替の効かない専用機については、状態監視の優先度が高くなります。方法論は子記事「IoTで実現する予知保全入門」で解説しています。

材料歩留まりの改善——プレス加工の利益の源泉

材料費が原価の大部分を占めるプレス加工において、歩留まりの改善は直接的な利益向上策です(図6)。

6:材料歩留まりの改善

 歩留まりを決める要因

第一に、ブランクの配置(板取り)です。同じ製品でも、配置の工夫によって材料の使用量は変わります。第二に、材料幅と送りピッチの設定。第三に、スクラップの発生量。第四に、不良の発生率。そして第五に、段取り時の試し打ちで消費される材料です。

最後の要因は見落とされがちですが、段取り回数が多い工場では無視できない量になります。条件の標準化によって試し打ちを減らせれば、材料費と時間の両方が節約できます。

 測定と集計

コイル材の投入重量(または長さ)と、製品として出た重量を記録します。品目別、材質別、型別に集計することで、傾向が見えてきます。

「この品目は歩留まりが低い」「この材質で無駄が多い」——原因が特定できれば、対策が打てます。

 打ち手

ブランク配置の再検討。材料幅の最適化(標準幅への集約や、専用幅の検討)。スクラップの分別と有価売却の徹底。試し打ち材の削減(条件データの整備)。そして、見積における材料費算定の精緻化——

材料費が原価の5割を占める工場で、歩留まりが2%改善すれば、原価は1%下がります。年商5億円の工場なら、年間500万円規模の効果になり得ます。IoT導入費用を大きく上回る規模です。

導入ステップ——プレス加工業の標準3カ月モデル

進め方を時系列で整理します(図7)。

7:導入ステップ

 ステップ1:稼働の実測(〜1カ月)

主要機35台にセンサーを設置し、可動率とチョコ停の実態を把握します。この段階で、認識されていなかった停止の積み重ねが明らかになります。

 ステップ2:段取りの分解計測(12カ月)

段取り時間を「準備・型交換・調整」に分解して記録します。ここが、プレス加工業のIoT活用における最重要ステップです。分解して初めて、外段取り化の対象と、標準化の余地が見えます。

 ステップ3:ショット数と金型管理(23カ月)

ショット数の自動カウントと、金型へのタグ貼付による累計管理を開始します。金型点数が多い工場では、まず主力の型から始め、段階的に広げます。

 ステップ4:歩留まりと保全への展開(継続)

材料歩留まりの集計と改善、そして重点機の状態監視へと進みます。

導入プロジェクト全般の進め方は、子記事「工場IoT導入の進め方」で体系化しています。

 設置時の実務——プレス工場ならではの注意点

プレス工場でセンサーを設置する際の注意点を補足します。

第一に、振動です。プレス機は稼働時に大きな振動を発生させます。マグネット式で取り付ける機器は、振動による位置ずれや脱落がないか、設置後しばらく確認する期間を設けてください。堅固な固定方法を選ぶことが重要です。

第二に、油です。潤滑油やプレス油のミストが飛散する環境では、機器の保護等級に配慮が必要です。設置位置も、油が直接かかりにくい場所を選んでください。

第三に、騒音と電磁ノイズです。大型プレスの周辺では電磁的なノイズが発生することがあり、無線通信に影響する可能性があります。現地での電波実測は必ず行ってください。

第四に、安全区画です。プレス機周辺には安全柵や光線式安全装置が設置されています。センサーの設置がこれらの機能を妨げないよう、設置位置は安全担当者と協議のうえ決定してください。この点は、生産管理上の都合より優先されるべき事項です。

 既存の生産管理システムとの関係

多くのプレス加工工場では、受注・出荷・在庫を管理するシステムがすでに導入されています。IoTで取得する稼働データとの関係をどう設計するかは、検討事項のひとつです。

初期段階では、無理に統合する必要はありません。稼働監視のデータは稼働監視のシステムで、受注管理は既存システムで——それぞれ独立していても、当面の改善活動には支障ありません。

重要なのは、将来的に紐づけられる設計にしておくことです。品目コード、型番、ロット番号——これらのキーが共通であれば、後からデータを突き合わせることは可能です。ツール選定の段階で、データのエクスポート機能と、キーの整合性を確認しておいてください。

そして、統合を検討するのは、稼働データの活用が定着し、「品目別の原価を見たい」「実績を生産管理に反映したい」という具体的なニーズが生まれてからで十分です。

これらのデータは、いずれも品目コード・型番・ロット番号で紐づく設計にしてください。稼働は稼働、金型は金型、歩留まりは歩留まりと分断されていると、最終的な分析(この品目はなぜ利益が出ないのか)にたどり着けません。

加工形態別の重点ポイント

ひとくちにプレス加工といっても、加工形態によって課題は異なります。

 順送プレス(プログレッシブ)

1つの型で複数工程を連続処理する順送加工は、生産性が高い一方、トラブルの影響も大きくなります。材料の送り不良、カス上がり、パンチの折損——これらが発生すると、型の損傷にもつながります。

順送加工では、連続稼働時間の管理が重要です。「何ショット連続で問題なく稼働できたか」を指標とし、中断の原因を分析することで、安定稼働への打ち手が見えます。

また、順送型は構造が複雑で高額なため、ショット数管理と計画メンテナンスの価値が特に大きくなります。

 単発プレス・タンデム

複数の工程を、別々の型・別々の機械で処理する形態です。工程間の仕掛かりが発生するため、工程通過の記録による滞留の可視化が有効です。

また、複数の機械を1人が担当する場合、担当台数と停止の復帰時間の関係を測ることで、要員配置の最適化が図れます。

 深絞り・成形加工

材料の流動を伴う加工では、材料の状態(板厚、材質のばらつき、潤滑)が品質に大きく影響します。材料ロットと不良の発生を紐づけて記録することで、材料起因の問題を特定できます。

また、しわ押さえ圧やクッション圧といった条件の記録と、品質結果の紐づけが有効です。

 大型プレス・トランスファー

設備単価が高く、停止損失も大きくなります。予知保全の優先対象であり、クラッチ・ブレーキ、スライド、油圧系の状態監視の価値が高い設備です。

また、段取り替えに大掛かりな作業を伴うため、外段取り化と段取り手順の標準化による効果も大きくなります。

技能伝承への活用

プレス加工も、技能依存の高い領域を持つ業種です。

 段取りの技能

金型の取り付け、ダイハイトの調整、材料の通し方、試し打ちでの判断——段取り作業には、経験に基づく技能が集約されています。

この技能をデータ化する第一歩が、条件の記録です。型別・材質別のダイハイト設定値、送りピッチ、その他の条件——これらを記録して検索できるようにするだけで、調整時間は大幅に短縮できます。

さらに、段取り手順を動画で記録することで、若手の習得が加速します。「この型の段取りは、こう進める」という映像は、口頭の説明より確実に伝わります。

 金型の状態判断

「そろそろ研磨が必要」「この音は要注意」——金型の状態を判断する技能も、ベテランに依存しています。

ショット数のデータと、実際に行った処置(研磨、部品交換、修理)の記録を紐づけることで、この判断の根拠が可視化されます。「この型は、何万ショットで研磨が必要になる」という基準が、経験ではなくデータとして残ります。

 トラブル対応

材料の送り不良、カス上がり、製品の変形——これらのトラブルへの対処も、経験がものを言う領域です。

トラブルの内容、原因、そして処置を記録として蓄積すれば、同種の問題が発生したときに参照できます。特に、頻度の低いトラブルほど、記録の価値は大きくなります。

企業規模別のアプローチ

 プレス機510台の規模

経営者が全設備を把握している規模です。センサー3台程度のスモールスタートで、可動率と段取り時間の把握に集中するのが効果的です。金型点数も比較的少ないため、主力型へのタグ付けも短期間で完了できます。

 プレス機1030台の規模

推進担当と現場キーマンを立てた標準的な体制が機能します。機械間の比較分析から改善のヒントが得られやすく、金型管理の効果も大きく現れます。段取り要員の配置や、生産順序の最適化といったテーマも重要になります。

 プレス機30台以上・複数拠点

拠点間・ライン間の比較が可能になり、良い実践の水平展開が改善の主要な手段になります。指標の定義(可動率の計算方法、停止理由の分類、歩留まりの計算方法)を全社で統一しておくことが前提です。

予知保全への展開——プレス機を止めない

可動率の改善が進んだ次のテーマとして、予知保全があります。プレス加工で優先度の高い対象を挙げます。

 クラッチ・ブレーキ

プレス機の中核機構であり、故障すれば長期の停止につながります。また、安全に直結する部位でもあります。動作時間の変化、振動、温度——これらの監視により、劣化の兆候を捉えられる可能性があります。

ただし、安全に関わる部位であるため、データによる監視は法定の点検や専門業者による整備の代替ではなく、補完として位置づけてください。

 スライド機構・ガイド

摺動部の摩耗は、加工精度に影響します。振動データの変化から、ガタの発生を捉えられることがあります。

 油圧系統

油圧プレスやクッション機構では、油圧系の状態が生産に直結します。油温、圧力の監視により、ポンプやバルブの不調を早期に検知できます。

 モーター・駆動系

主モーターの電流値の変化は、負荷の異常や機構の不調を示唆します。稼働監視で電流センサーを使用していれば、そのデータをそのまま状態監視に活用できます。

 優先順位の考え方

すべての設備・部位を監視する必要はありません。生産の中核となる大型プレス、代替の効かない専用機、そして24時間稼働する設備——停止損失の大きい設備から優先的に適用してください。方法論は子記事「IoTで実現する予知保全入門」で詳しく解説しています。

プレス加工業の人材確保と技能承継

最後に、この業種が直面する人材面の課題について述べます。

 段取り技能者の確保

プレス加工において、段取りができる技能者は貴重な存在です。しかし、その育成には時間がかかり、若手の確保も容易ではありません。

段取り時間のデータと、条件の記録、そして手順の動画——これらを整備することで、習得期間は確実に短縮できます。「見て覚える」から「参照して学ぶ」への転換です。

 安全教育との両立

プレス作業は、安全教育が不可欠な領域です。データ活用の取り組みが、安全教育や安全確認の手順を軽視する方向に働かないよう、細心の注意が必要です。

生産性の指標を追うことと、安全を最優先することは、決して矛盾しません。しかし、現場に対するメッセージの出し方を誤れば、「速さを求められている」という誤解を生む可能性があります。

「安全は絶対条件であり、その上で効率を高める」——この順序を、経営から明確に、繰り返し伝えてください。

 多能工化への活用

作業実績のデータからは、「誰が、どの機械の、どの作業を、どれだけ経験しているか」が分かります。この情報は、多能工化の計画に活用できます。

特定の機械や型を特定の人しか扱えない——この属人化は、その人が休んだときのリスクになります。データで偏りを把握し、計画的に経験を積ませることで、リスクを管理できます。

 作業者の負担軽減という視点

データ活用の目的として、しばしば見落とされるのが「作業者の負担軽減」です。

段取り時間が短縮されれば、作業者の身体的負担は減ります。金型の探索がなくなれば、無駄な移動が減ります。突発トラブルが減れば、緊急対応のストレスが減ります。日報の手書きがなくなれば、事務作業から解放されます。

これらはすべて、生産性向上と同時に実現される効果です。そして、この視点を現場に伝えることが、データ活用への協力を得る最良の方法でもあります。

「会社の生産性のため」ではなく「皆さんの仕事を楽にするため」——この語り方ができるかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。

品質管理への展開

稼働と段取りの見える化が定着したら、品質面への展開が視野に入ります。

 不良の発生と条件の紐づけ

プレス加工の不良——バリ、カエリ、寸法不良、傷、変形、割れ——は、複数の要因が絡んで発生します。金型の状態、材料の状態、加工条件、そして機械の調子——

不良の種類を分類して記録し、その時点の金型(型番と累計ショット数)、材料ロット、加工条件と紐づけて蓄積すれば、相関の分析が可能になります。

「この型は、万ショットを超えるとバリが増える」「この材料ロットで寸法不良が多い」——こうした傾向が見えれば、対策の的が絞れます。

 金型の状態と品質の関係

特に重要なのが、金型の累計ショット数と品質の関係です。刃先の摩耗が進めば、バリやカエリが増えます。この関係が定量的に把握できれば、「品質を維持するために、何万ショットで研磨すべきか」という基準が設定できます。

品質基準に基づくメンテナンス周期の設定——これは、トラブル防止のための周期設定より、一歩進んだ管理です。

 初品検査の効率化

段取り後の初品検査は、品質を保証するための重要な工程です。しかし、この検査待ちが段取り時間を延ばす要因にもなっています。

検査の基準と担当を明確にし、判定を迅速化する。そして、検査結果を記録として蓄積し、「どの型で初品が通りやすいか/通りにくいか」を把握する。この情報は、段取り条件の改善につながります。

 トレーサビリティ

自動車部品や産業機械部品を手がける工場では、トレーサビリティの要求が強まっています。「この製品は、いつ、どの機械で、どの型を使い、どの材料ロットで作られたか」——この追跡が可能な体制は、受注条件になりつつあります。

稼働データと金型情報、材料ロットが紐づいていれば、この要求への対応は容易になります(詳細は業種別記事「自動車部品加工業のIoT活用ガイド」もご参照ください)。

原価管理と価格交渉

実績データが揃うと、プレス加工でも品目別の原価管理が現実的になります。

 品目別原価の構成

プレス加工の原価は、材料費、加工費(設備稼働時間×時間単価)、段取り費(段取り時間の配賦)、そして金型の償却・維持費で構成されます。

稼働データがあれば加工時間が、段取り記録があれば段取り時間が、歩留まりデータがあれば材料費が——それぞれ実績で把握できます。これらを組み合わせれば、品目別の実際原価が算出できます。

 小ロット品の採算

特に重要なのが、小ロット品の採算です。段取り時間が固定的に発生するため、ロットが小さいほど1個あたりの段取り費は大きくなります。

「このロットサイズ以下では採算が取れない」という基準を、実績データから設定できれば、受注判断と価格設定が根拠を持ちます。

 価格転嫁の根拠

材料価格の高騰が続く中、適正な価格転嫁はプレス加工業の生命線です。そして交渉の場で説得力を持つのは、実測に基づくデータです。

「この品目の材料使用量は実績で◯kg、単価上昇分は円」「段取り時間は実績で分、ロットサイズを考慮すると1個あたり円」——具体的な数字を示せることが、交渉の結果を左右します。

さらに、自社の改善努力(歩留まりの改善実績、段取り時間の短縮実績)を示せれば、「できる限りの努力はしたうえでの要請」という説得力が加わります。

エネルギー管理とCO2対応

プレス加工は、エネルギー消費の大きい業種です。この観点でのデータ活用も、重要性を増しています。

 設備別のエネルギー使用量

電流センサーで稼働を計測している場合、同じデータからエネルギー使用量も把握できます。設備別、品目別のエネルギー原単位が算出できれば、省エネの余地とCO2排出量の算定基礎が得られます。

 見えてくるムダ

非稼働時間帯の待機電力、休日の電源管理、そして効率の悪い旧型機での生産——これらは、データがなければ見えないムダです。

運用ルールの整備(休日の電源管理、待機時の設定変更)と、生産割付の見直し(同じ製品なら効率の良い機械を優先)により、投資を伴わずに削減できる余地があります。

 取引先からの要求への対応

自動車部品をはじめとする分野では、サプライチェーン全体でのCO2排出量把握が求められています。設備別・製品別のエネルギー使用量を実測できていれば、精度の高い算定と、削減計画の提示が可能になります。

「求められたから報告する」ではなく、「自社のコスト削減のために測り、その結果として報告にも対応できる」——この位置づけで取り組むことが、投資を無駄にしない考え方です。

順送化・自動化投資の判断

生産性向上のため、単発工程から順送化への移行や、自動搬送の導入を検討する工場もあります。この判断にもデータが役立ちます。

 現状の工数構造を把握する

順送化の効果は、「工程間の搬送と段取りをどれだけ削減できるか」で決まります。まず、現在の各工程の加工時間、段取り時間、そして工程間の搬送・仕掛かり時間を実測してください。

この構造が分かれば、順送化によって削減できる時間が定量的に見積もれます。「順送型の製作費に対して、何年で回収できるか」という判断が、根拠を持って行えます。

 ロットサイズとの関係

順送化は、一定以上のロットがあってこそ効果を発揮します。型の製作費が高額なため、生産数が少なければ回収できません。

品目別の年間生産数と、現状の工数データがあれば、「どの品目が順送化に適しているか」を判定できます。感覚ではなく、データに基づく選定が可能になります。

 自動化の対象を見極める

材料供給の自動化、製品取り出しの自動化、搬送の自動化——それぞれ、削減できる工数が異なります。実績データから「どの作業に、どれだけの人手がかかっているか」を把握することで、投資の優先順位が明確になります。

そして、自動化の前に、段取りやレイアウトの改善で対応できないかを検証することも重要です。データがあれば、この比較検討も定量的に行えます。

 投資後の効果検証

順送化や自動化の投資を実行した後も、効果の検証は重要です。導入前後で、対象工程の工数、生産量、品質がどう変わったか——実測データによる検証は、投資の妥当性を確認するだけでなく、次の投資判断の精度も高めます。

そして、この検証結果は金融機関への説明材料にもなります。「前回の投資はこれだけの効果があった」という実績は、次の資金調達における信頼につながります。

プレス加工業の実践事例

守秘義務に配慮して一般化した事例をご紹介します。

 事例:段取り時間の内訳が示した改善余地(プレス・従業員50名)

小ロット化により段取り回数が1.7倍に増加し、生産量が伸び悩んでいたプレス加工メーカー。「段取りを速くせよ」という号令は出ていましたが、具体的な打ち手はありませんでした。

段取り時間を「準備・型交換・調整」に分解して実測したところ、平均62分の内訳は、準備18分、型交換15分、調整29——という構成でした。つまり、型交換そのものは全体の4分の1にすぎず、準備と調整で7割以上を占めていたのです。

対策は明確でした。準備作業を稼働中に行う外段取り化(型と工具の事前準備、材料のセット)。そして、調整時間を短縮するための条件データの整備(型別・材質別のダイハイト設定値の記録と参照)。

これらにより、平均段取り時間は40分程度まで短縮。増加した段取り回数を吸収しつつ、生産量を回復させることができました。

 事例:金型のショット数管理で突発トラブルが半減(プレス・従業員35名)

金型のメンテナンスが「調子が悪くなったら整備する」という事後対応になっていたプレス加工メーカー。突発の型トラブルによる生産の乱れが常態化していました。

主力の金型50点にNFCタグを貼付し、段取り時の読み取りによる累計ショット数の自動管理を開始。過去のトラブル履歴から、型ごとのメンテナンス基準ショット数を設定しました。

運用開始から半年で、基準到達前の計画整備が定着し、突発の型トラブルは半減。生産計画の乱れが減り、納期遵守率も改善しました。

副次効果として、型の保管場所も紐づけたことで、「型を探す」時間がほぼゼロになっています。

 事例:実SPMの実測が能力の実態を明かした(プレス・従業員40名)

「増産要請に対応できない、設備が足りない」として、プレス機の増設を検討していた企業の事例です。

投資判断の前に実態を測ることを提案し、稼働とショット数の計測を実施。結果、可動率は72%、そして実SPMは標準の85%程度であることが判明しました。

つまり、設備の能力を十分に引き出せていなかったのです。原因を掘り下げると、材料供給の遅れによる減速、そして特定の型で意図的に速度を落としていたこと(品質確保のため)が分かりました。

材料供給の改善と、品質確保のための速度低下が必要な型の条件見直しにより、実SPMは改善。あわせて可動率も向上し、増設せずに増産要請に対応できるようになりました。

 事例:歩留まり分析が板取りを変えた(プレス・従業員45名)

材料費の高騰に苦しんでいたプレス加工メーカーで、品目別の材料歩留まりを集計しました。

全体平均は68%でしたが、品目別に見ると50%台から85%まで大きなばらつきがありました。歩留まりの低い品目を分析すると、ブランク配置の見直し余地があるもの、材料幅が製品に対して過大なものが含まれていました。

対策として、歩留まりの低い上位品目についてブランク配置を再設計。あわせて、材料幅の見直しを材料商社と協議しました。全体の歩留まりは数ポイント改善し、年間の材料費削減額はIoT導入費用を大きく上回るものになりました。

投資対効果の試算——プレス加工業の場合

導入判断のための試算例を示します。プレス機5台、年商5億円規模の工場を想定します。

効果の第一は、段取り時間の短縮です。120分の短縮、月40回の段取り、時間単価6,000円なら月8万円、年間96万円の効果です。

第二は、可動率の改善です。5台の可動率が5ポイント改善すれば、生産能力は約7%増加します。残業削減や外注削減として実現すれば、相応の効果になります。

第三は、材料歩留まりの改善です。材料費が年間2.5億円で、歩留まりが2%改善すれば、年間500万円の原価低減。これが最も大きな効果項目になる可能性があります。

第四は、金型トラブルの削減による停止時間の短縮。第五は、日報・生産数集計の工数削減です。

一方の費用は、センサー5台・ゲートウェイ・クラウド・初期設定で初期50万〜80万円、ショット数取得と金型タグ管理で+20万〜50万円、月額1万〜2万円程度。

歩留まり改善だけでも投資額を大きく上回る効果が見込める構造です。費用の詳細は、子記事「工場IoTの導入費用と使える補助金まとめ」をご覧ください。

プレス加工業でよくある失敗と回避策

 失敗:段取り時間を一括りで測る

「段取り62分」という数字だけでは、改善の的が絞れません。準備・型交換・調整に分解して測ることが、プレス加工業における最重要のポイントです。

 失敗:金型管理を全型で一斉に始める

金型点数が数百に及ぶ工場で、全型に一斉にタグを貼り、過去のショット数を遡って入力しようとすると、作業量に押しつぶされます。主力の3050点から始め、稼働頻度の高い型から順に広げてください。

 失敗:安全装置の作動を「ロス」として扱う

安全装置の作動による停止を、削減すべきロスとして扱うことは絶対に避けてください。安全は、いかなる生産性目標にも優先します。

記録の目的は、「なぜ作動が多いのか」を把握し、その原因(材料供給の不良、作業手順の問題など)を改善することです。作動そのものを減らすのではなく、作動が必要になる状況を減らす——この区別を、現場に明確に伝えてください。

 失敗SPMの実測を「速度を上げろ」という指示に使う

SPMが標準を下回っている場合、その理由には正当なものが含まれます。品質確保のため、安全のため、材料の状態のため——

データは「なぜ差があるのか」を確認する材料であり、一律に速度を上げる根拠ではありません。この点を誤ると、品質や安全に悪影響を及ぼす可能性があります。

 失敗:チョコ停を「仕方ないもの」として扱う

高速で動くプレス機では、小さな停止が日常的に発生します。それが当たり前になっていると、ロスとして認識されません。実測して積算した数字を見れば、改善の必要性は明らかになります。

プレス加工業を取り巻く環境変化

第一に、多品種小ロット化のさらなる進行です。段取りの効率化が、競争力を直接左右します。

第二に、材料価格の変動です。鋼材価格の高騰は利益を直撃します。歩留まりの改善と、実績に基づく価格転嫁交渉が求められます。

第三に、自動車の電動化です。エンジン関連部品の需要は中長期的に変化し、部品構成も変わります。既存事業の収益構造を把握し、転換を判断することが必要になります(自動車部品向けの詳細は業種別記事「自動車部品加工業のIoT活用ガイド」をご参照ください)。

第四に、人手不足です。段取り作業やプレス作業の技能者確保は年々難しくなっています。標準化と省人化が急務です。

第五に、脱炭素対応です。プレス加工はエネルギー消費が大きく、CO2排出量の把握と削減が求められる場面が増えています。

導入前チェックリスト

プレス加工業でIoT導入を検討する際の確認事項です(図8)。

8:プレス加工業のIoT導入チェックリスト

よくある質問(FAQ

 Q1. まず何から始めるべきですか?

信号灯センサーによる稼働の実測と、段取り時間の分解計測です。プレス加工の最大のロスは段取りであり、その構造を把握することが改善の出発点になります。

 Q2. ショット数の自動カウントは、どの機械でもできますか?

機械の構成によります。クランク角センサーの後付け、既存カウンタからの信号取得、完了信号の接点利用——いずれかの方法で対応できることが多いですが、事前の確認が必要です。設備メーカーへの相談や、現地調査を行ってください。

 Q3. 金型へのタグ貼付は、型を傷めませんか?

型の非機能部(側面など)に取り付けるため、加工性能への影響はありません。ただし、プレス加工では衝撃と振動が大きいため、確実な固定方法を選ぶ必要があります。刻印プレートや、耐衝撃性のあるタグを選定してください。

 Q4. 安全装置の記録は、どう扱うべきですか?

記録すること自体は重要です。作動の頻度、作動した工程、そして作動の原因——これらを把握することで、安全性の向上にもつながります。ただし、繰り返しになりますが、作動そのものを削減対象として扱うことは絶対に避けてください。

 Q5. 費用はどのくらいかかりますか?

センサー35台、ゲートウェイ、クラウド、初期設定で初期50万〜80万円、月額1万〜2万円が目安です。ショット数の取得と金型タグ管理を加えると+20万〜50万円程度です。

 Q6. 効果はどのくらいの期間で現れますか?

チョコ停の実態把握と対策は13カ月。段取り時間の短縮は、分解計測と外段取り化の実施により24カ月で効果が現れます。歩留まりの改善と金型管理の効果は、36カ月の時間軸で考えてください。

まとめ——段取りと金型を制する者が、プレス加工を制する

本記事の要点を整理します。

・プレス加工の最大のロスは金型段取り。「準備・型交換・調整」に分解して測ることが改善の起点

・多くの場合、型交換そのものより準備と調整に時間がかかっている。外段取り化と条件標準化が打ち手

・金型のショット数管理により、突発トラブルを計画メンテナンスに変えられる

・サイクルが安定しているためOEEを算出しやすい。実SPMの把握が能力の実態を示す

・材料費が原価の5割前後を占めるため、歩留まり改善の効果が極めて大きい

・安全装置の作動は記録するが、削減対象としては絶対に扱わない

・センサー35台、数十万円、13カ月で最初の効果が現れる

プレス機という設備と、金型という「もうひとつの設備」——この2つを同時に管理することが、プレス加工業の生産性を決めます。そして、その管理の基礎になるのが実測データです。

船井総合研究所では、中堅・中小のプレス加工業に特化した「工場の小規模DX」コンサルティングとして、稼働の実測から段取りの分解計測、金型管理の仕組みづくり、歩留まり改善まで一貫して伴走支援しています。「うちの段取り時間の内訳を知りたい」という段階のご相談も、無料経営相談で承っています。

なお、板金加工を併営されている企業は業種別記事「板金・溶接業のIoT活用ガイド」、自動車部品を手がける企業は「自動車部品加工業のIoT活用ガイド」もあわせてご覧ください。

無料経営相談のお申し込みはこちら

https://www.funaisoken.co.jp/form/consulting?siteno=S111

 事例:チョコ停の分析が材料供給の改善につながった(プレス・従業員30名)

「小さな停止が多い」という認識はあったものの、その実態が測られていなかったプレス加工メーカーの事例です。

センサーによる実測の結果、1台あたり1日平均35回のチョコ停が発生し、合計で145分に達していることが判明しました。停止理由の記録から、その6割が材料の供給不良(コイルの巻きぐせ、送り不良)に起因していることも分かりました。

対策として、アンコイラーとレベラーの調整、材料のセット手順の標準化、そしてコイル材の受入時の状態確認を実施。チョコ停は大幅に減少し、可動率が向上しました。

「小さいから仕方ない」と見過ごされていた停止が、積算すると大きなロスだった——多くのプレス工場に当てはまる構造を示す事例です。

 事例:型の保管場所管理で探索時間をゼロに(プレス・従業員55名)

金型点数が300を超え、「型を探す」ことに時間がかかっていたプレス加工メーカーの事例です。段取りのたびに型置き場を探し回り、見つからない型もある——という状況でした。

金型へのタグ貼付と同時に、保管場所の情報を登録。「この型は、A棚の3段目」という情報が、タブレットで即座に確認できるようにしました。

探索時間はほぼゼロになり、段取り時間の短縮に直結。また、型の所在が明確になったことで、「行方不明の型」の問題も解消されました。

金型管理は、ショット数だけでなく、所在の管理という実務的な価値も持っています。

 最初の一歩——今週できること

本記事を読み終えた方に、費用ゼロで今週できることを提案します。

第一に、次に行う段取り作業を1回だけ、ストップウォッチで計測してみてください。ただし、「準備」「型交換」「調整」の3区分に分けて測ることが重要です。おそらく、型交換以外の時間の長さに驚かれるはずです。

第二に、主力の金型3点について、現在の累計ショット数を答えられるか確認してください。答えられなければ、金型管理の必要性がその場で明らかになります。

第三に、直近1カ月の材料投入量と製品出荷量から、おおまかな歩留まりを計算してみてください。想像より低い数字が出るかもしれません。

この3つの確認だけで、自社の改善余地がどこにあるかの当たりがつきます。プレス加工業のIoT活用は、こうした素朴な計測から始まります。

プレス加工は、日本の製造業を支える基盤技術のひとつです。高い精度と生産性を両立してきたその現場に、データという新しい視点を加える——本記事が、その一助になれば幸いです。

そして繰り返しになりますが、この業種において何よりも優先されるべきは安全です。データ活用の取り組みが、安全確保を軽視する方向に働くことのないよう、経営として明確な方針を示しながら進めていただきたいと思います。

 補足:他のプレス加工形態について

本記事は板金プレス(打抜き・曲げ・絞り)を主な想定として書いていますが、鍛造プレス、粉末成形プレス、樹脂成形プレスなど、他の形態でも考え方の骨格は共通です。

段取り時間を分解して測る。生産数(ショット数)を自動で捉える。型を個体として管理する。材料の歩留まりを把握する——これらの原則は、加工形態を問わず適用できます。

ただし、鍛造では加熱設備のエネルギー管理が重要テーマに加わり、粉末成形では原料の管理が重要になるなど、形態に応じた重点の違いはあります。自社の工程特性に合わせて、測る対象を調整してください。

執筆者 : 熊谷 俊作

2021年に新卒入社後、3年という速さで現職のリーダーに就任。 多品種少量生産の製造業を専門とし、 現場4M(特にMan)のデータ化と多軸分析で製造ロスを可視化、生産性を抜本的に向上。 RFID技術による精緻な工数管理、実態に即した原価管理体制構築、 データドリブンな改善サイクル定着まで一貫支援。 分析ツール・業務アプリ開発などのシステム開発も得意領域。 AIによる属人化解消・技術継承に加え、データに基づく組織変革と現場に根付くデータ思考文化の醸成を重視したコンサルティングでクライアントの生産性向上を支援している。