皆様、こんにちは。船井総研の奥内 拓海です。
受託加工業・部品加工業を取り巻く環境は、今大きく変化しています。既存のお客様からの発注が減った、廃業した同業他社の転注案件が来ても指値の2倍になってしまう、そういったお悩みを私自身、経営者の皆様から日々お聞きしています。
背景には製造業全体に共通する人手不足の問題や、見積もり対応が担当者ごとに属人化してしまっている問題があります。
本コラムでは、受託加工業が今抱えている環境変化の実態から、なぜ10億の壁を超えられないのか、そして製造業マーケティングによって人がいなくても新規開拓ができ、属人化を解消しながら引合を逃さない仕組みをどう作るのか、私が動画でお伝えした内容をQ&A形式で整理しています。
技術に自信があるのに売上が伸びない、営業できるのが自分だけ、10億企業を目指したい。そういった課題をお持ちの経営者の皆様に、ぜひ最後までお付き合いいただけたらと思います。
▼本コラムの内容は動画でもご覧いただけます
受託加工業を取り巻く環境変化とは

Q. 受託加工業を取り巻く環境は今どう変化していますか
既存のお客様からの発注減少や、廃業した同業他社からの転注案件の増加が起きています。
ただ、転注の見積もりを出しても指値の2倍になってしまうなど、簡単には受注につながらないケースが多いのが実態です。
私はこれを受託加工業全体の問題として捉えています。
Q. 廃業・倒産の増加は受託加工業にどう影響しますか
2024年、全国で廃業・休業した企業は約6万3,000件と過去最多を更新し、製造業の倒産件数も7年ぶりに1,000件を超え、前年比26%増となりました。
今お付き合いしている企業様が、3年後・5年後・10年後も残っているとは限らない時代になっていると私は考えています。
Q. 人件費や原材料費の上昇はどのような問題を生んでいますか
中小企業の労働分配率はおよそ8割に達していると言われ、賃上げしたくても原資がない企業様が非常に多いのが現状です。コストや人件費が上がる一方で、価格転嫁が進んでいないという構造的な問題を抱えています。
Q. タングステン規制は受託加工業にどう影響していますか
中国のタングステン輸出規制により、超硬工具の価格は3倍以上になっていると言われています。2026年2〜4月の対日輸出は実質ゼロというデータもあり、現場は非常に苦労している状況です。
Q. 取適法改正で価格転嫁はしやすくなりましたか
2026年1月から中小受託取引適正化法(取適法)が改正され、価格転嫁は権利として受け取れる状況になりました。
しかし実態としては、2025年に価格転嫁の協議ができた企業は約6割、施行をきっかけに価格交渉に臨むと答えた企業は約26%にとどまっています。
制度は後押しにはなりますが、実際に価格交渉ができるかどうかは、皆様の準備と発信力にかかっているというのが私の見立てです。
Q. 技術承継問題とは何ですか
発注元メーカー様でも設計者の高齢化・退職が進み、20年・30年前に作られた図面データがそのまま流用されているという問題です。
当時のサプライヤー様の技術をベースにした図面のため、別のサプライヤー様に依頼しても受け取ってもらえない、もしくは当時の見積もりの2倍になってしまうケースが増えています。
私はこれをピンチでもありチャンスでもあると考えています。
製造業の人手不足問題は受託加工業だけの課題なのか
Q. 発注側企業でも同じ人手不足の問題は起きていますか
はい、起きています。
帝国データバンクの調査によると、2024年時点の社長の平均年齢は60歳で30年以上連続で上昇しており、後継者難で倒産した企業の社長の平均年齢は70歳近くまで高止まりしています。
発注側の設計者も人手不足で、設計意図が伝わらないまま図面だけが残るケースが増えています。
Q. これは受託加工業にとってピンチなのでしょうか
私はチャンスだと捉えるべきだと考えています。
廃業した発注元が新しいサプライヤーを探す際、転注しようとしてもコストが合わない、意図が伝わらないという壁があります。
だからこそ自社の技術力を正しく伝えられれば、「多少高くてもあなたに頼みたい」という案件を引き込めるチャンスになります。
10億の壁を超えられない本当の理由とは
Q. なぜ売上が2億〜5億円程度で頭打ちになるのですか
私は、経営者がプレイヤーのままだからだと考えています。
営業も見積もりも現場の判断も、経営者様が全て担ってしまっている状態が共通しています。
1日24時間は誰にとっても同じなので、経営に時間を割けなければ会社の成長も止まってしまいます。
Q. 経営者がまず切り離すべき業務は何ですか
私が最も優先していただきたいのは営業・マーケティングの切り離しです。
見積もりは現場でも対応しやすい一方、営業・マーケティングは最も難しい部分なので、ここを優先的に仕組み化していただきたいと考えています。
Q. 既存のお客様への営業に集中する方が効率的ではないですか
既存のお客様との関係を深めることは前提として重要ですが、それだけではジリ貧になりかねません。
今お付き合いしている企業様や案件が3年後・5年後・10年後も残るとは限らないため、新しいお客様の開拓は経営者のリスクマネジメントとして必要だと私は考えています。
製造業マーケティングで新規開拓する仕組みとは
Q. 発注元の担当者は新しいサプライヤーをどう探していますか
購買担当者や生産技術・設計者の方は、Webや今であればAIを使って新しいサプライヤーを探すのが当然になっています。
サプライヤーを探す方法は、信頼できる紹介経由か、検索サイト・AI経由の大きく2択になっているのが現状です。
Q. 引合を生むために取り組むべきことは何ですか

私は大きく3つのポイントをお伝えしています。
自社の技術・強みを言語化すること、その発信基盤となるソリューションサイトを構築すること、そして引合が来た際に動ける最低限の体制を作ることです。
Q. 技術の強みはどう言語化すればいいですか
「精密加工が得意」「一貫対応できる」といった抽象的な表現ではなく、「アルミの切削・旋盤加工で交差5マイクロまで対応可能」など、具体的な数値やニッチな領域まで落とし込んで言語化することが重要です。
設計者や生産技術の方が実際に検索する言葉を使って発信する必要があります。
Q. ソリューションサイトとは何ですか、なぜ必要ですか
会社サイトとは別に、技術に特化した情報発信の基盤となるサイトです。
会社サイトが会社の話、ソリューションサイトが技術の話と切り分けることで、ブランディングと運用のしやすさの両方につながります。皆様が寝ている間でも24時間動く営業マンの役割を担ってくれます。
見積もりの属人化が引合を逃す原因に?解消する仕組み作り

Q. 見積もり対応で今どのような問題が起きていますか
過去の実績を元にしたどんぶり勘定的な見積もりが属人化してしまい、スピーディな回答も正確な見積もりもできていないケースが多いのが実態です。
指値の2倍の見積もりになるのは利益を載せすぎているからではなく、原価算出の仕組みが属人化していることに問題があるケースがほとんどです。
Q. 見積もりの精度とスピードを上げるにはどうすればいいですか
過去の実績データ・見積もりデータをしっかり整備し、AIを活用する仕組みを作ることが重要です。
最近では過去の類似図面を検索するSaaSも登場しているので、自社の状態に合ったツールを選ぶ、あるいはAIでアプリを自作することも選択肢になります。
Q. 蓄積したデータはどのシステムに集約すべきですか
私はCRM(顧客管理システム)への連携を推奨しています。
担当者ベースのやり取りや企業ごとの特性が個人のパソコンやExcelに眠っているケースが多いため、組織としての営業資産として1つのシステムに蓄積することが属人化解消につながります。
Q. データ蓄積とAI活用でどんな効果が生まれますか
過去の類似引合への対応や受注要因がデータとして蓄積されれば、AIが最初の回答を出し、経験の浅い若手や中途採用の営業マンでも即戦力化できます。経営者が経営そのものに集中できる好循環が生まれます。
転注案件は無理に取る必要があるのか
Q. 指値が合わない転注案件は受けるべきですか
無理に取る必要はないと私も考えています。重要なのは指値の合わない案件を無理に取ることではなく、質の伴った引合を仕組みで生み出し、それを取捨選択できる体制を作ることです。
Q. 本当に目指すべきことは何ですか
対応できる加工技術・材質・精度を明確に打ち出し、正確かつスピーディに見積もりを出す仕組みを整えることです。それができれば、指値の2倍を提示したとしても「それなら頼みたい」と評価が変わることもあると私は考えています。
まとめ|受託加工業の10億企業化に必要なこと
本日お伝えした内容を振り返ります。
まず、製造業の人手不足・技術承継問題は受託加工業だけの課題ではなく、発注元のメーカー様にも同じ構造の問題が起きています。これは決してピンチではなく、正しく技術を発信できればチャンスに転じられると私は考えています。
次に、10億の壁を超えるには、経営者がプレイヤーの立場から抜け出すことが不可欠です。そのために最初に切り離すべきは営業・マーケティングの部分であり、仕組みとして整えていくことが第一歩になります。
そして、人がいなくてもWebやAIを使って新規開拓の入り口を作る製造業マーケティングが重要です。自社の技術を具体的に言語化し、24時間動き続ける営業マンとしてのソリューションサイトを構築する。
さらに、見積もりの属人化を解消するために過去の実績データを整備したデータベースにAIを組み合わせ、来た引合に対して正確かつスピーディに見積もりを出せる仕組みを整える。
この一連の流れが、私が今回お伝えしたかった10億企業化への道筋です。
新しい工場や人材採用といった大きな投資も将来的には必要になりますが、まずは経営者が経営の判断に時間を使えるようにする仕組み作りを優先していただきたいと思います。
受託加工業の売上10億円突破についてお悩みの方へ
新規顧客開拓やAIを活用した見積もり・データ整備など、製造業全般に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に船井総合研究所までお問い合わせください。



