A.M&A後に業績を劇的に向上させている「技術承継機構(NGTG)」、および日本を代表するM&A巧者である「ニデック」「キーエンス」の事例は、製造業経営者にとって重要な示唆に富んでいます。 これら3社がいかにしてM&A後の業績を伸ばしたのか、その具体的な成果と手法を解説します。
1. 技術承継機構(NGTG)
中小製造業のポテンシャルを解放する「グループイン」モデル
近年、製造業M&Aの新しい潮流として注目されているのが、「連続譲受(Serial Acquirer)」モデルを展開する技術承継機構です。同社は「永久保有(転売しない)」を掲げ、創業7年でグループ10社、売上110億円、営業利益15億円規模へ急成長しました。 彼らの成功の鍵は、「NGP(NGTG Growth Program)」と呼ばれる独自のバリューアッププログラムにあります。個社の自主独立を尊重しながら、グループ内のベストプラクティス(成功事例)を横展開することで、中小企業単独では難しかった課題を解決し、経営数値を劇的に改善させています。
【事例】株式会社東洋マーク(樹脂加工)
利益率の劇的改善 長野県の樹脂加工メーカーである東洋マークは、グループイン後、営業利益がM&A前の約2,000万円から、約1億1,000万円へと5倍以上に急増しました。営業利益率は約3.5%から約18%へと大幅に改善しています。これは、外部アドバイザーの招聘や原価分析によるコスト削減、在庫適正化といった「管理会計・経営管理」のノウハウを注入した成果です。
2. キーエンスグループ
圧倒的な「営業力」の移植
高収益企業として知られるキーエンスも、M&Aを活用して事業を拡大しています。特筆すべきは、買収した企業に「キーエンス流の営業プロセス」を移植し、徹底的な「営業量の最大化」を図る点です。
【事例】電子部品商社の買収 ある電子部品商社をM&Aした後、キーエンスはそれまで行われていた営業スタイルを一変させました。多くの商社がアポイントなしで訪問していたのに対し、事前に要件を伝えた上で訪問することを徹底。さらに、訪問件数を一般的な商社の倍以上となるペースへ引き上げました。 この「質」と「量」を兼ね備えた営業改革の結果、グループイン後約10年間で売上を20倍以上伸ばすという驚異的な成長を実現しました。
3. ニデック(旧 日本電産)
赤字企業を「即黒字化」する再生術
「回るもの、動くもの」に特化したM&Aで成長してきたニデックは、これまでに70社以上の企業を買収してきました。同社の特徴は、優れた技術を持ちながら赤字に陥っている企業を買収し、短期間で高収益体質へと生まれ変わらせる「PMI(統合プロセス)」の巧みさにあります。
【事例】工作機械メーカーの再生 長年赤字だった工作機械メーカーを買収した際、ニデックは営業活動の「量」と「質」を見直しました。具体的には、1日1〜2社だった営業訪問件数を「1日3〜5社」へ倍増させました。さらに、販売店任せにするのではなく、実際に機械を使用するエンドユーザーへの直接訪問を重視し、現場の声を吸い上げるスタイルへ転換。これらの改革により、たった1年で黒字化を達成しました。
これらの成功事例を分析すると、製造業M&Aで業績を伸ばす企業には共通して「強力な営業力(新規開拓力)」と「洗練されたビジネスプロセス」が存在することが分かります。
営業力
M&Aで増えた生産キャパシティを埋めるために、訪問数や商談数を倍増させ、稼働率を上げる(キーエンス、ニデック)。
ビジネスプロセス
採用、IT導入、原価管理、残業削減など、中小企業が後回しにしがちな管理体制を型化して導入し、利益率を高める(技術承継機構)。
これからの製造業M&Aは、単に会社を買うだけでなく、これらの「機能」をインストールすることで、自社単独では到達できないスピードで成長するための戦略的投資と言えるでしょう。

