「棚卸をすると、金額はおおむね帳簿と合う。ところが実際に現場を歩くと、あの製番の材料はどこにあるのか、あの仕掛品は次にどの工程へ回るのか、担当者に聞かないと誰も答えられない」。多品種少量の部品加工現場では、こうした「金額は合うのに現物が読めない」状態が珍しくありません。
原因は現場のだらしなさではなく、多品種少量という業態の構造そのものにあります。材料・仕掛・完成品・共通部品が製番ごとに複雑に絡み合い、一つの品目を全体像として捉えにくいのです。この記事では、部品加工の在庫管理を「製番別の見える化」「発注点の現実的な設定」「仕掛と完成品の分別」という順で進め、少人数でも回せる形に落とし込む方法を解説します。
この記事を読むと、次の3点が分かります。
● 多品種少量の機械加工で在庫が読めなくなる、業態構造としての本当の理由
● 製番別の見える化から始め、単価と出庫頻度でめりはりをつける実践手順
● 実績入力を軽くする仕組みを整えたうえで生産管理システム導入を判断する順序
在庫管理は、高価なシステムを入れる前にやるべきことが数多くあります。御社の現場を「明日から」動かすための第一歩を、工程・数字のレベルまで具体的にお示しします。まずは自社の在庫がなぜ読めないのか、その構造を一緒に整理するところから始めましょう。
多品種少量の部品加工で在庫が読めなくなる本当の理由
「うちの在庫管理は、どうも他社より下手なのではないか」——機械加工の現場を回っていると、経営者からこうした相談をよく受けます。しかし、その多くは管理能力の問題ではありません。多品種少量という業態が構造的に抱える難しさなのです。まずはその正体を、現場で起きている事実から解きほぐしていきます。
「棚卸金額は合うのに、現物が見つからない」現場で起きていること
月末棚卸を締めたとき、帳簿上の在庫金額はおおむね合っている。ところが翌週、特定の製番の材料を探すと現物が見当たらない。こうした「金額は合うのに現物が読めない」状態は、多品種少量の機械加工では珍しくありません。合計金額という粗い単位では帳合が取れても、製番単位・品目単位まで降りると帳簿と現物が食い違うからです。
食い違いが生まれる典型は三つあります。一つ目は材料端材です。定尺材から切り出した残りの丸棒やブロックが、次の製番で使えるかもしれないと現場に置かれ、帳簿から抜け落ちます。二つ目は途中工程の仕掛です。旋盤加工まで終えてマシニング待ちの部品が棚の奥に滞留し、どの製番向けか分からなくなります。三つ目は緊急差し込み品です。得意先の飛び込み注文で先に材料を消費し、元の製番の材料が欠品しても記録が追いつきません。
判断のためのチェックポイントを挙げます。以下のうち二つ以上に心当たりがあれば、金額棚卸だけでは在庫を掌握できていない状態です。
● 端材・半端材の置き場が決まっておらず、担当者しか在庫を把握していない
● 「あるはずの材料」を探して30分以上かかることが月に数回ある
● 仕掛品が今どの製番のどの工程で止まっているか、帳簿から即答できない
受注生産・製番管理が在庫を複雑にする三つの力
多品種少量の在庫が読めなくなるのは、受注生産と製番管理が働かせる三つの力によるものです。第一に、品目数の爆発です。同じ形状でも材質・寸法・表面処理が違えば別品目となり、従業員85名規模でも管理品目が5,000点を超えることは珍しくありません。第二に、製番ごとに在庫が「紐付く」ことです。ある製番の材料を別の製番へ流用した瞬間、在庫の所在が帳簿から離れます。第三に、共通部品と専用部品が混在することです。汎用ボルトのような共通在庫と、特定図番専用の材料が同じ棚に並び、管理ルールが分かれるべきなのに一緒くたになります。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、この三つの力が重なった結果、探し物・重複発注・過剰仕掛が同時に起きていました。ある材料を「在庫にない」と判断して追加発注したところ、後日、別の製番用として仕入れた同材が棚から出てきた。こうした重複発注が四半期に十数万円分積み上がっていたのです。あわせて、加工途中で止まった仕掛品が全在庫金額の三割近くを占めていました。
ここで注意したいのが、よくある失敗です。「品目コードを細かく振り直せば解決する」と考え、いきなり全品目のコード体系刷新に着手するケースがあります。しかし多品種少量では品目が動き続けるため、精緻な体系ほど維持できず、かえって現場が入力をやめてしまいます。まず必要なのは、製番と品目の二軸で在庫を捉える視点であって、コードの精緻化ではありません。
なぜ今、在庫の見える化に着手すべきなのか
在庫の読めなさを放置できない理由は、経営環境が変わったからです。原材料価格の上昇で、同じ数量でも在庫に眠る資金は数年前より重くなっています。弊社がご支援する現場での実感値としては、鋼材やアルミ材の在庫評価額はここ数年でおおむね2〜3割上振れしており、「とりあえず持っておく」判断のコストが跳ね上がっています。
同時に、人手不足が「探す工数」を直撃しています。一人が在庫や仕掛を探す時間が1日30分あれば、月20日稼働で10時間、五人分なら月50時間が消えます。この工数は付加価値を一切生みません。原材料価格上昇で「在庫に眠る資金」が、人手不足で「探す工数」が、それぞれ経営を静かに圧迫しているのが今の局面です。
判断の目安を示します。次のいずれかに当てはまれば、見える化への着手時期に来ています。
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兆候 |
目安 |
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仕掛在庫が全在庫金額に占める割合 |
3割を超えている |
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材料や仕掛を探す時間 |
一人あたり1日30分以上 |
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重複発注・欠品の発生頻度 |
月1回以上 |
在庫が読めない状態は、だらしなさではなく業態構造の帰結です。だからこそ、感覚ではなく仕組みで解く必要があります。次章では、その第一歩として、在庫を材料・仕掛・完成品・共通部品の四要素に分けて捉える共通言語を整えます。
前提整理:機械加工の在庫を構成する4つの要素と用語
前章で見たとおり、多品種少量の現場で在庫が読めなくなるのは「業態の構造」に理由があります。ならば次に必要なのは、その構造を全員が同じ言葉で語れるようにすることです。ここでつまずく会社は驚くほど多く、社長と工場長と経理が、それぞれ違う意味で「在庫」という一語を使っています。この章では、機械加工の在庫を材料・仕掛・完成品・共通部品の4つに分け、以降の章で繰り返し使う用語を先に揃えておきます。
材料在庫・仕掛在庫・完成品在庫・共通部品在庫の違い
まず押さえたいのは、機械加工の在庫は性質の異なる4つの塊でできている、という点です。ひとくくりに「在庫が1億円ある」と言っても、その中身が材料なのか、加工途中のワークなのかで、打つ手はまったく変わります。とりわけ多品種少量では、この4区分を混ぜて数えた瞬間に実態が見えなくなります。下の整理をまず共通言語にしてください。
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区分 |
機械加工での中身 |
滞留の起きやすさ |
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材料在庫 |
丸棒・板材・アルミ材など、加工前の素材 |
中(規格品はまとめ買いで増えがち) |
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仕掛在庫 |
加工途中のワーク、次工程・検査待ちの品 |
高(工程間で最も滞留する) |
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完成品在庫 |
出荷前・検査待ちの完成部品 |
中(納期前倒し分がたまる) |
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共通部品在庫 |
ボルト・刃物(工具)・治具・消耗品 |
低〜中(欠品すると止まる) |
材料在庫は、φ50の丸棒や3mm厚の鋼板といった素材です。規格がまとまるため一括発注しやすく、値上がり前の先行手当てで膨らみがちな塊でもあります。共通部品在庫は、特定の製番に紐づかず複数の仕事で使うボルトや刃物、治具などを指します。金額は小さくても、刃物1本の欠品でラインが半日止まることがあり、軽視できません。A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、在庫総額8,000万円の内訳を初めて4区分で棚卸ししたところ、仕掛が45%を占めていると判明し、「材料を減らせ」という号令が的外れだったと分かりました。
製番管理と在庫の関係を一枚で理解する
多品種少量の在庫を語るうえで避けて通れないのが、製番管理という考え方です。製番管理とは、受注1件ごとに固有の番号(製番)を振り、その仕事にかかった材料・加工・現物を、すべて同じ番号に紐づけて管理するやり方を指します。「この棚のワークは、どの注文のためのものか」を番号で一意に言える状態、と考えてください。機械加工では特注品が多く、製番に紐づかない在庫はほとんど流用が効きません。
だからこそ、機械加工の在庫は製番に強く縛られます。汎用品なら「余ったら別の客に売る」ができますが、図面ごとに寸法の違う部品はそうはいきません。製番Aのために先行手配した材料は、製番Aが失注・仕様変更になれば、そのまま不動在庫(動かない在庫)に化けます。つまり在庫が滞留するかどうかは、置き場の問題ではなく「その製番が生きているか」という受注側の事情で決まるのです。
ここで4区分と製番の関係を整理すると、材料・仕掛・完成品は製番に紐づく「専用在庫」、共通部品は製番をまたぐ「共有在庫」と分けて捉えるのが実務的です。前者は製番の状況で価値が上下し、後者は使用量の平準化で管理します。この線引きを曖昧にしたまま発注点を設けようとすると、次章以降の設計がすべてぶれます。よくある失敗は、共通消耗品まで製番ごとに引き当てようとして、管理工数だけが2〜3倍に膨れ上がるケースです。
この記事で使う基本用語(発注点・安全在庫・引当・棚卸資産回転)
最後に、以降の章で繰り返し登場する4つの用語を、意味だけ先に揃えておきます。言葉の解釈が人によってずれると、せっかくの見える化も台無しになるためです。
● 発注点(在庫がこの数量まで減ったら発注をかける、という補充の合図となる基準数量):たとえばM8ボルトを、残り500本になったら1万本発注する、という「500本」が発注点です。
● 安全在庫(納期の遅れや使用量のばらつきに備えて、あらかじめ上乗せして持つ最低限の在庫):材料の入荷が平均7日、たまに14日かかるなら、その差を吸収する分を安全在庫として持ちます。
● 引当(ある在庫を特定の製番・注文用に「予約済み」として確保し、他へ回せない状態にすること):帳簿上100本あっても80本が引当済みなら、自由に使えるのは20本です。
● 棚卸資産回転日数(在庫が入ってから出ていくまで、平均で何日滞留しているかを示す指標):在庫金額÷1日あたり売上原価で概算でき、この日数が短いほど資金効率が高い状態です。
引当という言葉は特に誤解が多く、「現物はあるのに使えない」状態を見落とすと、二重手配や過剰発注の温床になります。帳簿在庫と引当済み在庫を分けて見る癖をつけてください。棚卸資産回転日数は、御社の在庫管理が効いているかを一目で測る通信簿のような数字です。弊社がご支援する現場での実感値としては、多品種少量の機械加工でおおむね60〜90日程度が一つの目安で、120日を超えると資金繰りを圧迫し始めます。
なお、在庫管理の全体像や進め方をより広く俯瞰したい場合は、「製造業の在庫管理|課題・進め方・DXまで徹底解説」でも解説していますので、あわせてご覧ください。ここまでで4区分と基本用語という共通言語が揃いました。次章では、この土台を使って在庫を製番と品目の二軸で見える化する具体的な手順に踏み込みます。
関連する内容は「製造業の在庫管理|課題と進め方・DXまで徹底解説」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

【fig-01】機械加工の在庫を構成する4区分の体系図
在庫を材料・仕掛・完成品・共通部品の4区分で整理すると、どこに滞留リスクが潜むかが一目で分かります。
製番別在庫の見える化:多品種少量の在庫管理の起点
前章で在庫を材料・仕掛・完成品・共通部品の4区分に分けて捉える共通言語を持ちました。ここからは、その4区分を実際に「目で見える状態」にする作業に踏み込みます。在庫管理でつまずく現場の多くは、ルールが悪いのではなく、そもそも現物と帳簿が一致しておらず、何がどこにいくつあるのかを誰も言い当てられない状態にあります。見える化はこの霧を晴らす第一歩であり、以降のすべての施策の土台になります。
「品目別」だけでは足りない、製番別に見える化する理由
多くの現場は在庫を「品目別」で数えています。SUS304の丸棒が何本、Aブラケットが何個、という数え方です。これは共通部品や汎用材料には有効ですが、多品種少量の受注生産では致命的な穴が空きます。同じ品目でも、B社向けの製番2405-012に紐づく仕掛品と、C社向けの製番2406-003に紐づく仕掛品は、まったく別物として管理しなければならないからです。品目別だけで数えると「Aブラケットが50個ある」と分かっても、そのうち出荷可能なものが何個かは分からないのです。
そこで必要になるのが、在庫を「製番」と「品目」の二軸で捉える発想です。製番とは受注や製造の指示単位につく固有番号で、いわば在庫の宛名です。宛名のある在庫を「製番専用在庫」、宛名のない汎用の在庫を「共通在庫」と呼び分けます。製番専用在庫は特定の注文にしか使えないため、勝手に別の注文へ流用すると欠品と過剰在庫を同時に生みます。この二軸を持つだけで、在庫の見え方が一段深くなります。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、以前は品目別の帳簿しかなく、月末になると「帳簿では足りるはずなのに現場では欠品する」という矛盾が常態化していました。原因を調べると、ある製番向けに確保したはずの材料が、別の急ぎ案件に流用されていたのです。製番と品目の二軸で棚を割り直したところ、流用による欠品が月に平均7件から1件程度まで減りました。二軸化は仕組み投資ではなく、数え方と置き方を変えるだけで効果が出る、費用対効果の高い一手です。
見える化の5ステップ(現物調査→分類→ラベル→台帳→更新ルール)
見える化は、次の5ステップで進めると迷いません。各ステップの所要イメージは、1製品群・1置き場を対象にした場合の弊社がご支援する現場での実感値であり、規模により前後する推定値としてお読みください。
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ステップ |
主な作業 |
所要イメージ(推定) |
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①現物調査 |
対象置き場の現物を全数カウント |
2〜3人日 |
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②分類 |
4区分と製番専用/共通に仕分け |
1〜2人日 |
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③ラベル |
品目・製番・数量を明記した札を貼付 |
1〜2人日 |
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④台帳 |
Excel等で現物と一致する台帳を作成 |
2〜3人日 |
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⑤更新ルール |
入出庫時に誰がいつ書くかを決める |
0.5人日+定着期間 |
最初の現物調査が最も骨の折れる工程です。棚の奥や機械脇に眠る「隠れ在庫」を漏れなく拾うため、置き場を区画で区切り、区画ごとに担当を決めて数えます。ここで完璧を狙わず、まず概数でも全量を把握することを優先してください。次の分類では、製番専用在庫と共通在庫の置き場を物理的に分けます。製番専用は製番順に並べる棚、共通は品目順に並べる棚、というように棚割りを分けると、探す時間と流用ミスが一気に減ります。
ラベルから先が定着を左右します。ラベルには品目名・製番・数量・棚番号を最低限記載し、現物を見ただけで宛名が分かる状態にします。台帳は凝ったシステムでなくて構いませんが、現物と一字一句一致していることが命です。そして5つ目の更新ルール、すなわち「入出庫のたびに誰がいつ数量を書き換えるか」を決めなければ、台帳は1週間で嘘に変わります。ここを曖昧にしたまま進めるのが最も多い失敗で、せっかくの見える化が「作った初日だけ正しい台帳」に成り下がります。
紙・Excel・ハンディの現実的な使い分け
見える化の道具は、いきなりハンディターミナルやシステムに飛びつく必要はありません。御社の在庫量と更新頻度に応じて、紙・Excel・ハンディを段階的に使い分けるのが現実的です。判断の目安を、次のチェックポイントとして整理します。
● 紙の在庫票が向く:対象置き場が1〜2か所、品目が数十点、更新が1日数回程度。現場の手が止まらず、導入費用はほぼゼロ
● Excel台帳が向く:品目が数百点規模、複数人で共有したい、月次で棚卸集計をしたい。関数で集計でき、投資は既存PCのみ
● ハンディ・バーコードが向く:入出庫が1日数十件以上、入力ミスや書き忘れが恒常化している。数十万円規模の投資に見合う頻度があるか
大切なのは、道具を高度にすることが目的化しないことです。B社(従業員150名/精密板金)では、いきなりハンディを全工程に入れようとして現場が入力に追われ、かえって台帳精度が落ちました。結局、更新頻度の高い共通材料だけをバーコード化し、製番専用在庫は紙票のまま運用する折衷案に落ち着いています。道具は「入力が続けられる軽さ」で選ぶのが鉄則で、続かない精緻さより続く簡素さが勝ります。
なお、発注点や安全在庫の考え方とあわせて在庫水準を設計したい場合は、「適正在庫・安全在庫とは|製造業の計算方法と決め方」でも基本を解説していますので、あわせてご覧ください。見える化で現物を掴んだうえで水準設計に進むと、机上の空論になりにくくなります。
見える化がもたらす効果と、着手のハードルの下げ方
見える化の効果は、欠品と過剰在庫の同時削減という形で表れます。宛名のある在庫と汎用の在庫が分かれるだけで、流用による突発欠品が減り、二重発注による過剰在庫も減ります。前述のA社では、見える化の定着後およそ3か月で、材料の緊急手配にかかる特急便コストが月あたり3割ほど下がりました。探す時間の削減も見逃せず、現場一人あたり1日15〜20分の探し物がなくなれば、10人の工場で月40時間規模の余力が生まれる計算になります。
とはいえ「全社の在庫を一斉に見える化する」と構えると、負荷の大きさに着手できません。ここでの正解は明確で、いきなり全社ではなく、1製品群・1置き場から始めるスモールスタートです。判断基準としては、①在庫トラブルが最も多い置き場、②品目数が多すぎず数十〜百点程度に収まる範囲、③現場のキーパーソンが協力的な工程、この3条件を満たす場所を最初の対象に選びます。狭く始めて型を作り、その型を横展開するほうが、結果的に全社定着は速く進みます。
着手のハードルを下げるコツは、初日から完璧を求めないことです。まず概数でも全量を把握し、ラベルと更新ルールだけ先に固め、精度は運用しながら上げていきます。1置き場であれば、前述の5ステップは合わせておおむね1〜2週間で一巡できる規模感です。小さく回して「台帳と現物が合う」という成功体験を現場に持たせることが、次の置き場への推進力になります。次章では、この見える化で掴んだ現物をもとに、材料と共通部品の発注点・安全在庫をどう現実的に置くかを掘り下げます。
関連する内容は「多品種少量・機械加工業の生産管理システム導入ガイド」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

【fig-02】製番別在庫を見える化する5ステップ
現物調査から更新ルールの定着までを5段階で進めると、多品種少量でも無理なく見える化を始められます。
発注点・安全在庫の現実的な置き方(材料・共通部品)
前章で製番と品目の二軸で在庫が見えるようになると、次に必ず出てくるのが「どの品目にどこまで手をかけるか」という悩みです。見えたからといって、すべての在庫を同じ精度で管理しようとすると、現場はたちまち息切れします。この章では、限られた人手のなかで発注点や安全在庫を「めりはりをつけて」置いていく判断軸をお渡しします。
多品種少量で全品目に発注点は置けない、という前提
まず押さえていただきたいのは、多品種少量の部品加工では、全品目に発注点を設定するのは物理的に無理だという事実です。取り扱う材料や共通部品が数千点に及ぶ現場は珍しくありません。仮に3,000品目あるとして、1品目あたり発注点の設定と見直しに月5分かけるだけでも、年間で250時間を超えます。担当者1人が丸1か月以上、発注点の世話だけに費やす計算になります。
ここでよくある失敗が、生産管理システムを導入した勢いで「全品目に発注点を入れましょう」と旗を振ってしまうことです。導入初期は現場も頑張って数字を埋めますが、受注構成が変われば発注点はすぐに実態と合わなくなります。見直されないまま放置された発注点は、欠品か過剰在庫のどちらかを静かに生み続けます。設定した数字が動かない在庫管理ほど、危ういものはありません。
ですから出発点は「発注点を置く品目を絞る」という割り切りです。御社の材料・共通部品を棚卸しし、本当に自動発注のロジックに乗せるべき品目はどれか、逆に人の目で都度判断したほうが早い品目はどれかを仕分けます。全部を管理しようとして全部が甘くなるより、2割の重要品目を確実に守るほうが、欠品リスクも在庫金額もはるかに小さく収まります。
単価×出庫頻度で管理レベルを分けるABC的な考え方
品目を仕分ける軸として実践的なのが、単価と出庫頻度の2軸です。金額の大小だけを見るABC分析は在庫管理の基本ですが、部品加工の材料では「安いのに毎日使う」品目と「高いのにたまにしか出ない」品目が混在します。単価一辺倒で切ると、この現場感覚とずれた仕分けになってしまいます。そこで縦軸に単価、横軸に出庫頻度を取り、下図のように4象限で管理レベルを振り分けます。
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区分 |
単価 |
出庫頻度 |
管理方法 |
目安の品目数 |
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A |
高 |
高 |
発注点管理(自動発注) |
全体の約1割 |
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B |
高 |
低 |
都度手配(受注や引当に連動) |
約2割 |
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C |
低 |
高 |
目視補充(二棚方式など) |
約3割 |
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D |
低 |
低 |
最小限の在庫・不要なら持たない |
約4割 |
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、この4象限で約2,400品目を仕分けたところ、発注点管理に乗せるべきA区分は240品目ほどに収まりました。全体の1割です。残りの約9割は都度手配か目視補充に振り分け、発注点の維持工数を8割近く削減できました。判断のチェックポイントはシンプルで、「欠品したら生産が止まるか」「単価が高く過剰在庫の金額インパクトが大きいか」の2点です。どちらもYesならA区分、どちらもNoならD区分と割り切ります。
大切なのは、この仕分けを一度きりで終わらせないことです。四半期に一度、出庫頻度のデータを見て区分を入れ替えるだけで、管理精度は保たれます。区分の見直しは全品目を触る必要はなく、境界付近の品目だけ確認すれば十分です。
リードタイムのばらつきを織り込む安全在庫の決め方
安全在庫は本来、需要のばらつきとリードタイムのばらつきから統計的に計算します。ただ多品種少量の現場で全品目に数式を当てはめるのは非現実的です。むしろ問題になりやすいのは、需要よりも調達リードタイムのぶれです。特殊材や輸入材は、通常2週間で入るはずが、為替や海外の生産事情で6週間かかることも起こります。
こうした材料は、平均リードタイムで安全在庫を組むと必ず足をすくわれます。かといって最悪の6週間を前提に在庫を積むと、金額が膨らみすぎます。現実的なのは「振れ幅の上位8割をカバーする」程度に留める考え方です。弊社がご支援する現場での実感値としては、平均リードタイム+ばらつきの7〜8割をカバーする水準に置くと、欠品と過剰のバランスが取りやすくなります。決めすぎず、月次で入荷実績を見て微調整するほうが、精緻な計算式を一度組むより長続きします。
もう一つの工夫が、輸入材や特殊材については発注そのものを分割することです。一度にまとめず、確定受注分を先行手配し、見込み分を後追いで分割発注すれば、リードタイムがぶれても在庫の山を作りにくくなります。AI在庫管理の事例と導入方法|中小製造業の効果を解説では、需要予測を織り込んだ発注の考え方にも触れていますので、安全在庫の置き方を深めたい方はあわせてご覧ください。安全在庫は「守りの数字」ですが、決めすぎないことが結果的に一番の守りになります。
受注連動品と常備品で発注ロジックを分ける
最後に、発注のロジックそのものを品目の性格で分けます。受注が来てから手配する受注連動品と、常に一定量を持っておく常備品では、そもそも考え方が違います。受注連動品に発注点を置くと死蔵在庫の温床になり、常備品を都度手配にすると欠品を繰り返します。この2つを混ぜないことが、在庫管理の乱れを防ぐ土台になります。
受注連動品は、製番に材料や共通部品を引き当てるかたちで、受注確定と同時に必要量を手配します。図面や仕様が案件ごとに変わる高単価材はこちらです。一方、常備品はどの製番でも使う汎用ボルトや標準サイズの丸棒などで、発注点管理か目視補充に乗せます。判断軸は「次にいつ使うか読めるか」です。読めないなら受注連動、読めるなら常備、と一本の基準で切ると現場が迷いません。
とりわけ刃物・ボルト・切削油といった共通消耗品は、思い切って軽い方法で割り切るのが賢明です。二棚方式(同じ品目を2つの棚に分け、片方が空になったら発注、もう片方で使い続ける方式)にすれば、発注点の数値管理すら不要になります。単価数百円のボルトの発注点をシステムで管理するより、目視で棚札を裏返すほうが速く、間違いもありません。管理コストが在庫の価値を上回る品目に、精緻な仕組みは要らないのです。ここで力を抜いた分を、A区分の重要材料に振り向ける——このめりはりが、多品種少量の発注管理の要になります。
次章では、こうして手配した材料がどこで滞留するのか、機械加工で最もたまりやすい仕掛在庫を完成品と切り分けて捉える方法に進みます。

【fig-03】発注点管理の優先度マトリクス
単価と出庫頻度の2軸で品目を仕分けると、どこに発注点管理を効かせるべきかが決まります。
仕掛在庫と完成品在庫を分けて管理する
前章で発注点や安全在庫の置き方を整理しましたが、材料の入口を締めても、工場の中で最も膨らみやすいのは加工途中の在庫です。機械加工では、旋盤やマシニングを通過した半加工品が工程間で滞り、そこに現金が眠ります。この滞留は帳簿上「仕掛」の一言に丸められ、実態が見えないまま原価計算と納期回答を狂わせます。ここでは仕掛在庫と完成品在庫を切り分け、それぞれ別の物差しで捉える方法を具体化します。
仕掛在庫が見えないと、原価も納期も狂う
仕掛在庫が見えない工場の典型は、月末に棚卸をして初めて「思ったより仕掛が多い」と気づくパターンです。A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、月次の仕掛残高が2,000万円前後で推移していましたが、その内訳が製番別・工程別に分解できていませんでした。結果として、どの受注が工程のどこで止まっているのかを、現場に聞いて回らないと分からない状態が続いていたのです。
この状態が続くと、まず原価が狂います。仕掛にひもづく加工費や外注費が正しく製番に配賦されず、赤字受注が黒字に見えてしまうことすらあります。おおむね月商の1〜1.5か月分が仕掛として滞留していれば、資金繰りへの影響は無視できません。仕掛は「動いていない現金」だと捉え直すことが出発点になります。
もう一つ狂うのが納期です。仕掛が見えないと、営業は現場の肌感覚だけで納期を回答し、実際の工程進捗とずれます。弊社がご支援する現場での実感値としては、仕掛の見える化に着手しただけで、納期回答のずれが半分程度に縮む例も珍しくありません。まずは「今、いくらの仕掛が、どの工程に、何日止まっているか」を答えられる状態を目指してください。
工程間の仕掛を「置き場」と「工程完了」で捉える
仕掛を金額だけで追うと、現場は動けません。効くのは、工程通過という物理的な事実で捉えることです。「旋盤済み・フライス待ち」「フライス済み・検査待ち」のように、どの工程を終え、次のどの工程を待っているかで在庫を分類します。金額は後から工程進捗にひもづければ算出できるため、現場が入力するのは工程の通過情報だけで済みます。
この捉え方を支えるのが、置き場ルールです。工程間に「仕掛置き場」を物理的に区切り、次工程ごとに棚やパレットを割り当てます。番地を振り、製番票の色や記号で待ち工程が一目で分かるようにすると、探す時間が激減します。下図のとおり、置き場と工程完了の二つを組み合わせることで、金額を数えなくても滞留が目に見えます。
チェックポイントは次の3点です。
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確認項目 |
見るべき基準 |
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置き場の番地化 |
次工程ごとに区画が分かれ、番地が振られているか |
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工程完了の記録 |
「旋盤済み」等の通過が製番単位で記録されるか |
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未定義品の有無 |
どの区画にも入らない“宙ぶらりん”の仕掛がないか |
A社ではこの仕組みを導入し、仕掛置き場を7区画に整理したところ、探索と問い合わせに費やしていた工数が1日あたり約1.5時間減りました。まず置き場を決め、そこに工程完了の記録を重ねる——この順序が現場に無理なく定着させるコツです。
検査待ち・手直し待ちという“隠れ在庫”への対処
工程間の仕掛の中でも、検査待ち・手直し待ち・出荷待ちは特に滞留しやすい“隠れ在庫”です。加工そのものは終わっているのに、判定や修正、出荷準備を待って動かない。よくある失敗は、これらを「もう終わった品物」とみなして仕掛から外し、管理対象から抜け落ちさせることです。加工完了と出荷可能は別物だと線引きしてください。
滞留を可視化する簡易な方法として、製番票に「工程完了日」を記入し、現在日との差で滞留日数を出す運用が有効です。特別な仕組みは要りません。検査待ち3日以上・手直し待ち5日以上といった閾値を決め、超えた製番票に付箋を貼るだけでも、問題は一気に見えます。弊社の支援現場では、検査待ちが慢性的に7日を超えている工程が、ボトルネックであるケースが目立ちます。
典型的な滞留パターンは次のとおりです。
● 検査担当が1名に偏り、加工完了品が検査待ちで山積みになる
● 手直し品が正規の工程から外れ、担当者の判断待ちで放置される
● 出荷待ちが出荷日直前まで動かず、まとまって物流を圧迫する
これらは人の配置や判定ルールの問題であり、加工能力の問題ではありません。滞留日数という共通の物差しを持てば、「どこに手を打つか」の優先順位が明確になります。まず隠れ在庫を仕掛の一部として名前をつけ、日数で管理下に置くことが第一歩です。
完成品在庫を持つ/持たないの線引き
完成品在庫は、仕掛とは逆の判断が必要です。リピート受注品を先行生産して在庫化すれば、納期短縮や段取り効率の面で利点があります。一方で、売れなければ滞留し、保管コストと陳腐化リスクを抱えます。この線引きを感覚で決めると、倉庫が動かない完成品で埋まります。
可否判断の軸は、内示・過去実績・保管コストの3点です。判断基準を数字で持ってください。
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判断軸 |
在庫化してよい目安 |
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内示の有無 |
得意先から数量・時期の内示があるか |
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過去実績 |
直近12か月で継続的な受注実績があるか |
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保管コスト |
保管費が想定利益の10%以内に収まるか |
A社では、月10個以上を12か月連続で受注している品目に限って、1か月分を上限に完成品を先行生産する運用に切り替えました。結果、対象品の平均納期は約10日から3日に短縮し、完成品在庫の総額は逆に15%減りました。持つ品目を絞り込んだからこそ、全体は圧縮できたのです。
よくある失敗は、「いつか使うだろう」で単発品まで在庫化することです。単発品や試作品は原則として受注生産に徹し、在庫化しない。この線引きを明文化し、判断を属人化させないでください。なお、こうした在庫の判断を仕組みとして回すには、データの蓄積と自動化が欠かせません。詳しくは『在庫管理のDX・自動化とは|製造業の導入ステップ』でも解説していますので、あわせてご覧ください。次章では、この滞留を生む根本要因の一つである段取り替えの多さと在庫の関係を掘り下げます。

【fig-04】仕掛・完成品の管理:Before/After
工程通過での把握と滞留の見える化を導入すると、隠れ在庫と探す工数が大きく減っていきます(傾向を示すイメージ)。
段取り替えの多さと在庫の関係を断ち切る
前章で仕掛在庫と完成品在庫を切り分けて把握できるようになると、多くの現場で「なぜこの品目だけ在庫が山積みになるのか」という問いが浮かびます。その答えの多くは、段取り替えの多さに行き着きます。多品種少量の機械加工では、加工する品目を切り替えるたびに治具の付け替えやプログラム変更が発生し、この段取り替えを嫌う心理が、知らず知らずのうちに在庫を膨らませているのです。本章では、段取りと在庫のつながりを断ち切る考え方を整理します。
段取り替えを嫌ってまとめ生産すると在庫が膨らむ
段取り替えには時間がかかります。1回の切り替えに30分から1時間を要する工程は珍しくなく、1日に5回切り替えれば、それだけで3〜5時間が加工以外に消えてしまいます。この「もったいなさ」を避けようと、現場は「どうせ段取りするなら、まとめて多く作っておこう」と考えます。これがまとめ生産の始まりです。
問題は、まとめて作った分がそのまま在庫として滞留することです。月に10個しか出ない部品を、段取り回数を減らすために一度に60個作れば、6か月分の完成品在庫を抱えることになります。その間、材料費と加工費は先に支払い済みで、キャッシュは製品棚に眠り続けます。仕掛の段階でまとめれば、次工程が追いつかず仕掛在庫が膨らみ、完成品までまとめれば、注文が来るまで倉庫を占有します。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、段取り時間を惜しんで平均3か月分をまとめ生産していました。棚卸で在庫を精査すると、完成品在庫の約4割が過去6か月間まったく動いていない「まとめすぎ在庫」だったのです。ここでのよくある失敗は、段取り効率だけを追いかけて在庫金額を見ないことです。段取り替え回数と在庫金額は必ず一対で確認してください。
段取り時間短縮と発注ロットの適正化はセットで考える
まとめ生産を減らすには、「段取りが面倒だから」という理由そのものを小さくする必要があります。ここで効くのが段取り時間の短縮です。機械を止めずに次の治具を準備しておく外段取り化、品目ごとにバラバラな治具を共通化する治具標準化を進めれば、1回あたりの段取りが1時間から20分へと縮みます。切り替えの負担が下がれば、少量ずつ作ることへの心理的な抵抗も自然と薄れます。
ただし、段取り短縮だけを進めても在庫は減りません。切り替えが楽になっても、発注ロットや生産ロットを大きいまま据え置けば、まとめ生産の習慣は残るからです。段取り時間短縮と発注ロットの縮小は、必ず両輪で進めてください。段取りが20分に縮んだなら、生産ロットも3か月分から1か月分へと合わせて小さくする。この二つを同時に動かして初めて、在庫が実際に軽くなります。
判断の順序を整理すると、次のようになります。
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手順 |
着眼点 |
判断の目安 |
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① 段取り時間を測る |
品目群ごとの切り替え時間 |
1回30分超なら短縮対象 |
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② 外段取り化・治具標準化 |
機械停止時間の削減 |
段取り時間を半減できるか |
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③ ロットを刻む |
段取りが縮んだ品目から |
在庫月数を1〜2か月へ |
段取り短縮で浮いた時間を、切り替え回数を増やす方向へ振り向ける。この発想の転換が、在庫を軽くする起点になります。
類似品のグルーピングと生産順序の工夫
段取りの負担を根本から減らすもう一つの道が、類似ワークのグルーピングです。同じ材料、同じ加工径、同じ治具で流せる品目をまとめて連続で加工すれば、切り替えそのものが不要になります。丸棒から削る品目を続けて流し、その後に角材の品目へ移る、といった段取りです。バラバラの順序で流すのに比べ、段取り回数を2〜3割減らせる現場は少なくありません。
生産順序の工夫も効果があります。治具の共通性が高い順、材料径の近い順に加工計画を並べ替えるだけで、付け替えの手間が減ります。ここで大切なのは、グルーピングを「在庫を増やさない範囲」で行うことです。似ているからと需要のない品目まで一緒に作れば、結局はまとめ生産に逆戻りします。あくまで、同時期に注文が見込める類似品を束ねるのが原則です。
先ほどのA社では、加工品を材料と治具で3つのグループに分類し、週次で生産順序を組み直しました。その結果、月の段取り回数が約120回から85回へと3割近く減り、浮いた時間で小ロット化を進めた結果、完成品在庫は半年でおよそ25%圧縮できました。こうした品目の共通性を見える化する考え方は、「在庫管理の見える化とは|製造業の進め方と成功事例」でも整理されていますので、あわせてご覧ください。
「まとめすぎ」を防ぐロットサイズの目安
では、どこまで刻めばよいのか。すべての品目を1個流しにするのは、段取り負担が重い現場では非現実的です。判断の軸は、「段取りコスト」と「在庫の滞留コスト」の釣り合いです。段取りが重く需要も安定している品目は大きめのロットで、段取りが軽く需要が読みにくい品目は小さめのロットで作る。このめりはりが要になります。
目安として、次のチェックポイントを持っておくと判断がぶれません。
● 在庫月数が3か月を超えている品目:まとめすぎの典型。ロットを半分に刻む候補
● 年間出荷回数が4回未満の品目:受注生産に近づけ、原則まとめ作りしない
● 段取り時間が30分未満に短縮できた品目:ロットを1か月分以下へ積極的に縮める
このように、全品目を一律のルールで縛らず、動きの遅い品目から優先して刻んでいくのが現実的な進め方です。まとめ生産を一気にやめるのではなく、在庫月数の大きい品目から手をつければ、キャッシュへの効果が早く見えます。まずは上位10品目のロット見直しから着手してみてください。
もっとも、ロットの適正化には、品目ごとの実際の段取り時間や出荷実績という「データ」が欠かせません。次章では、こうした実績データをどう軽い負担で集め、システム化につなげるかを掘り下げます。
関連する内容は「在庫管理の見える化とは|製造業の進め方と事例」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
実績データの取得とシステム化への道筋
前章で見たとおり、段取り替えの多さがまとめ生産を呼び込み、その分だけ在庫の記録は増えていきます。ところが、その記録が正しく残らなければ、これまで組み立ててきた製番別の見える化も発注点も、砂上の楼閣になってしまいます。在庫管理の精度を最後に決めるのは、意外にも高度な理論ではなく「現場が入力を続けられるかどうか」という、きわめて泥臭い一点です。この章では、入力を軽くする具体策から、Excelの限界サイン、そして生産管理システムへの接続像までを順を追って描きます。
在庫データが荒れる根本原因は「入力の重さ」
在庫データが実態とずれる現場を見ていくと、原因の8割ほどは入力の設計にあります。担当者のやる気やまじめさの問題ではなく、「入力が重い」という業務設計そのものが記録の抜けを生んでいるのです。伝票を書き、Excelに転記し、上長が別のノートで再確認する。この三重の作業を、多品種少量で日に何十回も回せる現場はまずありません。
入力を軽くする勘所は、大きく3つに絞れます。第一に、手打ちをやめてバーコードやQRで読み取る形にすること。第二に、「記録した数字を別の人がもう一度確認する」二段確認を思い切って廃止し、後工程のチェックに一本化すること。第三に、入力箇所を欲張らず、在庫の動きが決まる「入庫・出庫・工程完了」の3点だけに絞ることです。すべての工程で秒単位の実績を取ろうとした途端、入力は必ず形骸化します。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、材料出庫と完成品入庫の2点だけをバーコード化し、途中工程の入力を一度やめました。入力工数は担当者1人あたり1日およそ40分から10分へと減り、逆に在庫の一致率は7割台から9割超へ上がっています。「やってはいけない失敗」の典型は、精度を上げようとして入力項目を増やすことです。項目が増えるほど現場は入力を飛ばし、データはかえって荒れます。まず削る、が鉄則です。
現場で続く実績入力の仕組み(バーコード・ハンディ・タブレット)
続けられる入力の第一歩は、現場の手の動きに逆らわないことです。図面や現品票にあらかじめバーコードを刷り込んでおき、ハンディターミナルでピッと読む。この「ピッ」の一動作に、品目・製番・数量をひも付けてしまえば、手書きの転記は発生しません。多品種少量ほど品目コードの打ち間違いが増えるため、読み取り化の効果は品種数に比例して大きくなります。
入力デバイスは、現場の環境で選び分けます。目安として、下表のような使い分けが現実的です。
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場面 |
向くデバイス |
理由 |
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材料倉庫・出荷場の入出庫 |
ハンディターミナル |
片手で持ち歩け、連続読み取りが速い |
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加工機まわりの工程完了 |
据置タブレット |
油や切粉に強く、大きな表示で誤操作が少ない |
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現場全体の状況確認 |
タブレット+大型モニタ |
仕掛の滞留を一覧で共有できる |
導入時のチェックポイントは3つです。読み取り1回が3秒以内で終わるか、手袋のまま操作できるか、通信が切れても後で同期できるか。この3点を満たさない仕組みは、たいてい半年で使われなくなります。ある現場では、Wi-Fiが届かない倉庫奥で入力が止まり、そこだけ紙運用が復活して在庫が合わなくなった例もありました。デバイス選びは、いちばん条件の悪い場所に合わせるのが正解です。
Excel管理の限界と、生産管理システムへ移る判断点
Excelは優秀な道具で、品目が数百までなら十分に戦えます。問題は、多品種少量の在庫が「量」ではなく「組み合わせ」で膨らむ点にあります。品目数・製番数・拠点数が掛け算で増えると、シートは重くなり、関数は壊れ、更新の担当者が1人に固定されていきます。この「属人化」こそ、システム化を検討すべき最初のサインです。
移行を判断する目安を、具体的な数字で持っておくと迷いません。おおむね次のいずれかに当てはまったら、検討を始める頃合いです。
● 管理する品目が1,000を超え、月次の棚卸に丸2日以上かかっている
● 同時に動く製番が常時50件を超え、進捗をExcelで追いきれない
● 拠点や倉庫が2カ所以上に分かれ、リアルタイムで残数が見えない
● 転記ミス起因の欠品・過剰が月に数件、恒常的に発生している
ここでよくある失敗は、Excelの限界を感じた勢いで「在庫管理システム」だけを単体導入してしまうことです。在庫は受注・製番・原価と一体で動くため、在庫だけ切り出すと結局また二重入力が生まれます。過剰在庫と欠品を同時に減らした現場の進め方は「製造業の在庫管理 改善事例|過剰在庫と欠品をなくす」でも詳しく紹介していますので、判断の前にあわせてご覧ください。
在庫管理と製番原価・生産計画をつなぐ全体像
在庫データが本当に価値を生むのは、それが受注・製番原価・生産計画とつながったときです。出庫を1回読み取れば、その材料費が製番原価に自動で乗り、同時に在庫残が減り、生産計画側の引当にも反映される。この「一度の入力が三方向に効く」状態が、めざすべき全体像です。下図のとおり、実績入力を中心に据えて情報が一方向へ流れる設計にすると、二重入力が構造的に消えます。
現実的な進め方は、いきなり全部を一気通貫させないことです。まず在庫と工程実績の入力基盤を固め、次に製番原価との接続、最後に生産計画への連携、という3段階で広げると、現場の負荷が分散されます。弊社がご支援する現場での実感値としては、この段階導入のほうが、一括導入より定着までの期間がおおむね3〜4割短くなる傾向があります。焦らず土台から積む姿勢が、結局は近道です。
なお、受注から製番原価、生産計画までを束ねる生産管理システムをどう選び、どう組み上げるかは、それ自体が大きなテーマです。その全体設計については別途の生産管理システム導入ガイドで体系的に解説していますので、接続を検討する段階で参照してください。土台となる実績入力の設計と、その先の全体像がつかめたところで、次章では「では、いくらかけて、どんな体制で踏み出すか」という投資判断の物差しを具体的に見ていきます。

【fig-05】実績データ取得から生産管理システムまでの構成
現場の実績入力を土台に、在庫データと製番原価・生産計画を積み上げる構成が全体像です。
導入判断の基準・費用・体制のつくり方
前章で実績データの取り込みとシステム化の道筋が見えてくると、経営者の頭に次に浮かぶのは「で、いくらかかって、誰がやるのか」という一点に集約されます。ここを曖昧にしたまま話を進めると、現場は疲弊し、投資は宙に浮きます。この章では、効果の試算・費用の全体像・推進体制の三つを、御社が判断に使える形で整理します。数字はいずれも弊社がご支援する現場での実感値であり、御社の品目数や加工形態で振れ幅が出る点は前提としてお読みください。
在庫削減額と工数削減で効果を試算する
効果は「感覚」ではなく、三つの枠で分けて見積もると経営会議で通しやすくなります。一つ目は眠っている在庫の圧縮額です。使う当てのない材料や共通部品、動きの止まった仕掛が棚に何百万円分も滞留しているのは珍しくありません。二つ目は在庫を探し回る工数の削減、三つ目は欠品による特急対応・特急購入の減少です。
たとえばA社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、材料と共通部品の棚卸資産が約4,800万円ありました。製番別に見える化した結果、半年以上動いていない在庫が約900万円分見つかり、そのうち3割強を消し込むだけで資金繰りが目に見えて楽になりました。加えて、現場担当が材料や仕掛を探す時間が1人あたり1日20分ほど発生しており、これを1日5分に減らせれば、10人規模でも月あたり50時間前後の工数が浮く計算になります。
効果試算のチェックポイントは次の三点です。おおむねこの粒度で埋めれば、投資回収の目安が立ちます。
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効果の柱 |
見積もりの根拠 |
試算の目安 |
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眠る在庫の圧縮 |
半年以上動かない在庫の消し込み額 |
対象在庫の2〜3割 |
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探す工数の削減 |
1人1日の探索時間×人数 |
月30〜60時間 |
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特急対応の減少 |
月あたりの特急便・特急購入の回数×単価 |
発生件数の半減 |
費用の考え方(初期・月額・現場工数という隠れコスト)
費用は、見積書に載る金額だけを見ていると必ず読み違えます。目に見える費用は初期費用と月額費用の二つです。中小製造業向けのクラウド型生産管理・在庫管理の仕組みであれば、初期費用がおおむね50万〜300万円、月額が3万〜15万円程度に収まる例が多い、というのが現場での肌感覚です。ここだけを比較して安い方に飛びつくと、あとで痛い目を見ます。
本当に効いてくるのは、見積書に載らない二つの隠れコストです。一つは現場の入力工数で、実績や在庫移動を打ち込む手間が現場に乗ります。もう一つがマスタ整備の負荷です。品目マスタ・工程マスタ・共通部品の紐付けを最初に整えないと、どんな高価な仕組みも精度の出ないゴミ箱になります。多品種少量では品目が数千件に及ぶこともあり、この初期整備に延べ数十人日かかる前提で見ておくべきです。
よくある失敗は、この隠れコストを予算に入れず、導入月から現場に満額の入力を求めてしまうことです。現場は「本業が回らない」と反発し、入力が滞り、データが穴だらけになって計画全体が頓挫します。費用を検討する際は、初期・月額に加えて「マスタ整備に何人日」「入力工数が1日あたり何分増えるか」を必ず並べて書き出してください。この三段構えで見て初めて、投資判断の土俵に乗ります。
推進体制と、外部支援を使うべき場面の見極め
在庫管理の仕組み化は、情報システムの話ではなく現場改革の話です。ところが中小製造業では情報システム担当が1人いるかいないか、あるいは工場長が兼務という御社がほとんどでしょう。ここで担当者に丸投げすると、日常業務に押し流されて前に進みません。推進の軸は、工場長が主導し、現場のキーマンを1名「在庫番」として明確に任命することです。
任命するキーマンは、加工現場を熟知し、他部署にも顔が利く中堅が適任です。専任にできなくとも、週の2〜3割の時間をこの取り組みに充てられるよう、経営者が公式に守ってあげてください。役割が曖昧なまま「みんなで頑張ろう」で始めると、誰の仕事でもなくなり、3カ月で立ち消えになります。旗を振るのは経営者、手を動かして現場をまとめるのがキーマン、という役割の線引きが要です。
外部支援を使うかどうかは、次の判断基準で見極めます。一つでも当てはまるなら、外部の伴走を検討する価値があります。
● 社内にプロジェクトを設計・推進できる人材が明確にいない
● マスタ整備や製番別の設計を、何から手を付けるか自社で描けない
● 過去に一度、システム導入で頓挫した経験がある
逆に、社内にリードできる人材がいて手順も見えているなら、外部費用をかけずに自走した方が定着は早い場合もあります。支援は「代わりにやってもらう」のではなく「進め方を学びながら自社に残す」ために使う、と割り切るのが賢い使い方です。
スモールスタートで失敗リスクを抑える段取り
最後に、踏み出し方です。全品目・全工程を一気にシステム化しようとすると、費用も現場負荷も膨らみ、失敗確率が跳ね上がります。おすすめは、動く在庫と金額の大きい一部の製品ラインや共通部品に対象を絞り、そこだけで製番別の見える化と実績入力を回し切ることです。
A社では、まず売上上位2割を占める主力製番と、金額の大きい共通部品30品目に絞って3カ月試しました。この小さな範囲で入力ルールと在庫の締めが回ることを確認してから、対象を全体へ広げています。最初の投資は月額数万円の範囲に抑え、効果が数字で見えてから拡張する。この順番なら、仮に途中で見直しが必要でも、傷は浅く済みます。
スモールスタートの判断基準は、「3カ月で一巡させられる範囲か」「効果が金額で測れる対象か」の二つです。範囲を欲張らず、小さく回して勝ち筋を確かめる。この段取りが、限られた人員と資金で成果を出す御社にとって最も現実的な進め方です。次章では、こうした進め方が御社の規模や加工形態によってどう変わるのか、類型ごとの勘所を掘り下げます。
規模別・加工形態別で変わる在庫管理の勘所
前章では投資対効果や体制のつくり方を判断軸として整理しました。ただ、同じ「在庫管理の仕組み化」でも、御社の規模や加工形態によって、現実的な進め方は大きく変わります。ここでは自社に最も近い型を見つけ、無理のない一手を選べるよう、類型ごとの勘所を整理します。
従業員規模別(〜50名/50〜150名/150名以上)の進め方
まず従業員50名以下の小規模の御社であれば、いきなり高額なシステムを入れる必要はありません。この規模では品目数が数百〜数千点にとどまることが多く、Excelでの製番別管理と、現物への「置き場ルール」の徹底で十分に回ります。棚に製番ラベルを貼り、材料と仕掛の置き場を色分けするだけで、探し物の時間が体感で3〜4割減るケースは珍しくありません。むしろ小規模では、入力を担う専任者がいないため、システムを入れても更新されず形骸化する失敗が最も多いのです。
従業員50〜150名の中規模になると、Excelの限界が見えてきます。担当者が5〜10名を超え、製番も月に数十件動くと、複数人が同じファイルを触って版がずれ、在庫数が信用できなくなります。この規模こそ生産管理システムの導入効果が最も高く、弊社がご支援する現場での実感値としては、初期費用200万〜600万円程度、月額数万円のクラウド型が現実解になりやすい水準です。まずは在庫と製番管理に絞って導入し、原価計算などは後から広げる進め方が失敗しにくいでしょう。
150名以上の規模では、部門間の情報連携が主戦場になります。営業・調達・製造がそれぞれ別の台帳を持つと、同じ材料を二重発注する事態が起きます。この規模では生産管理システムを前提に、バーコードやハンディ端末での実績入力を組み合わせ、在庫データをリアルタイムに近づける投資が回収に見合います。専任の推進担当を1名置けるかどうかが、定着の分かれ目になります。
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規模 |
現実的な手段 |
力点 |
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〜50名 |
Excel+現物の置き場ルール |
入力を増やさない |
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50〜150名 |
生産管理システム(在庫・製番から) |
版ずれ・二重管理の解消 |
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150名以上 |
システム+端末入力の実績収集 |
部門間連携と推進担当 |
受託加工中心か、自社製品を持つかで変わる論点
受託加工中心の御社では、在庫の主役は材料と仕掛です。完成品は納品すれば手元を離れるため、抱える在庫のほとんどが「まだお金になっていない途中段階」に集中します。したがって管理の力点は、材料の欠品による段取り待ちを防ぐことと、仕掛が特定の工程で滞留していないかを掴むことに置くべきです。完成品在庫の精緻な管理に労力を割いても、費用対効果は薄くなります。
一方、自社製品を持つ御社は、完成品在庫も大きな管理対象になります。見込みで作る分、売れ残りや陳腐化のリスクを背負うためです。A社(従業員120名/機械加工+自社製品/年商20億円)では、受託分は製番別、自社製品分は品目別の需要予測と、二本立てで在庫を管理しています。同じ工場でも、この2つを一つの物差しで測ろうとすると、どちらの精度も落ちる点に注意が必要です。
判断のポイントは、在庫金額の内訳を一度分解してみることです。材料・仕掛・完成品の比率を出し、完成品が全体の2割を超えるなら、需要予測に基づく発注ルールを別立てで設計する価値があります。逆に完成品が1割未満なら、材料と仕掛の見える化に資源を集中させる方が得策です。
切削・板金・プレスなど加工形態別の在庫特性
加工形態が違えば、抱える在庫の悩みどころも変わります。切削加工では丸棒や角材の端材が発生し、この端材をどう管理するかが材料費に直結します。長さ300mm以上の端材を「使える在庫」として棚番管理するだけで、材料購入額を数%圧縮できた例もあります。端材を現物の山に埋もれさせ、毎回新品を切り出す運用こそ、よくある失敗の典型です。
板金加工では、同じ板厚・材質の母材を複数の製番で共用する点が特徴です。1枚の定尺板から複数品目を取るため、材料在庫を製番に紐づけにくく、共通材としての残数管理が要になります。ネスティング(板取り)の歩留まりと在庫が連動するため、板厚ごとの残枚数を常に把握できる仕組みが効いてきます。
プレス加工では、金型と初品在庫が独特の論点です。金型は在庫ではありませんが、どの品目にどの型が対応するかの管理が滞ると、段取り替えのたびに探索の時間が生まれます。また、量産前の初品(試作・検査用の第一号品)を保管する場所とルールを決めておかないと、現物が行方不明になりがちです。加工形態ごとに、下図のとおり管理の対象そのものが異なると理解しておきましょう。
自社に近い型を選ぶためのチェックリスト
最後に、御社がどの型に近いかを見極める観点を整理します。以下の問いに答えるだけで、着手すべき優先順位が見えてきます。
● 従業員数はどの帯か(〜50名/50〜150名/150名以上)
● 在庫金額の内訳で、材料・仕掛・完成品のどれが最も大きいか
● 完成品在庫は全体の2割を超えるか
● 主力の加工は切削・板金・プレスのどれで、固有の在庫(端材・共用材・金型)が管理できているか
● 在庫データを更新する担当と時間が、業務の中に確保されているか
この5問のうち、答えに詰まる項目が御社の弱点であり、最初に手をつけるべき領域です。特に最後の「更新の担当と時間」が確保できていないまま仕組みだけ導入すると、規模や形態を問わず定着しません。型に当てはめること自体が目的ではなく、自社の在庫のどこにお金と時間が滞っているかを見極める手がかりとして使ってください。
こうして自社の型を掴んでも、実際の導入では多くの企業が似たつまずき方をします。次章では、先行事例に共通する「よくある失敗」を、回避策とあわせて具体的に見ていきます。

【fig-06】規模別・加工形態別の在庫管理の勘所
自社の規模と加工形態に最も近い行を起点にすると、現実的な進め方を選びやすくなります。
よくある失敗と、その回避策
規模別・加工形態別の勘所を押さえても、実際の導入現場では同じところで足をすくわれる会社が驚くほど多いのが実情です。ここでは、弊社がご支援してきた機械加工・部品加工の現場で繰り返し目にしてきた「つまずき方」を4つに絞ってお伝えします。いずれも真面目に取り組む会社ほど陥りやすい落とし穴で、先回りして知っておくだけで回避できるものばかりです。回避策とセットで読み進めてください。
全品目に発注点を置こうとして頓挫する
最もよくあるのが、在庫管理をきちんとやろうと意気込むあまり、扱う全品目に発注点と安全在庫を設定しようとするケースです。多品種少量の部品加工では、材料や共通部品だけで2,000〜5,000品目に及ぶことも珍しくありません。この一つひとつに発注点を計算し、メンテナンスし続ける前提を置いた瞬間、運用は事実上破綻します。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)でも、当初は約3,200品目すべてに発注点を設けようとして着手から2か月で頓挫しました。担当者が値の見直しに追われ、結局どの数字も信用できなくなったのです。真面目な担当者ほど「全部やらないと不公平」と考えがちですが、そこが罠になります。
回避策は、第4章で触れた重点品目への絞り込みを徹底することです。年間使用金額の上位を占める品目に的を絞ると、全体の2割の品目で在庫金額の7〜8割を管理できるのが通例です。まずはこの上位2割にだけ発注点を置き、残りは目視補充や定期発注で回す。管理する対象を意図的に減らす判断こそが、続く仕組みの前提になります。
システムを入れたのに現場が入力せず在庫が荒れる
次に多いのが、生産管理システムや在庫管理システムを導入したにもかかわらず、現場が実績を入力せず、データが現物と合わなくなっていく失敗です。数百万円を投じたシステムが「入力されない箱」と化し、半年後には誰も画面を見なくなります。原因は現場の怠慢ではなく、入力が現場の作業リズムに合っていないことにあります。
機械加工の現場では、段取り替えや切削中の合間に、キーボードで品番や数量を打ち込む余裕はほとんどありません。1件あたり30秒の入力でも、1日50件あれば25分が奪われ、現場は「これは自分たちの仕事ではない」と感じ始めます。この摩擦を放置したまま「入力を徹底せよ」と号令をかけても、精度は戻りません。
回避策は、第7章の考え方どおり入力を極限まで軽くすることです。バーコードやハンディ端末で品番を読み取り、数量はプリセットのボタンで選ぶだけにすれば、1件5秒前後に短縮できます。入力工数を8割減らす発想が、データ精度を守る唯一の現実解です。次のチェックで自社の状態を確かめてください。
● 実績入力の1件あたり所要時間は10秒以内に収まっているか
● 入力端末は作業者の手元1〜2歩の範囲にあるか
● 「なぜ入力するか」が現場に共有されているか
棚卸金額だけを追い、現物精度を放置する
三つ目は、月次や期末の棚卸金額は追いかけるのに、日々の現物と帳簿の一致度合いを誰も見ていない失敗です。棚卸で金額の帳尻さえ合えば安心してしまい、個々の品目で「帳簿は100個、現物は78個」といったズレが常態化していきます。金額が合っていても、現物精度が低ければ発注点も安全在庫も机上の空論になります。
B社(従業員120名/精密部品加工)では、棚卸金額の誤差は1%以内でしたが、品目単位で照合すると一致率はわずか62%でした。プラスのズレとマイナスのズレが相殺され、金額だけ合っていたのです。この状態では、欠品による特急手配と、動かない在庫の増加が同時に起きます。
回避策は、現物精度そのものをKPI(重要指標。取り組みの達成度を測る数値)として管理することです。月に一度、重点品目を対象に抜き取り棚卸を行い、品目一致率を測って85%、90%と目標を上げていきます。金額の帳尻ではなく、現物が合っている品目の割合を追う。この一手が、これまでの各章で積み上げた仕組みを実際に機能させる土台になります。
見える化を目的化し、削減の意思決定につなげない
最後は、在庫を見える化した達成感で満足してしまい、肝心の意思決定に踏み込まない失敗です。製番別・品目別の在庫が一覧で見えるようになると、それ自体が成果に思えます。しかし見えただけでは在庫は1円も減りません。見える化はあくまで手段であり、目的は発注量と生産量の見直しにあります。
C社(従業員60名/機械加工)では、見える化に半年をかけた後、そこで止まってしまいました。滞留在庫が画面に赤く表示されても、誰が何を判断するかが決まっておらず、3か月後も在庫は約4,000万円のまま動きませんでした。データを眺める会議はあっても、削減を決める会議がなかったのです。
回避策は、見える化した数字を意思決定の場に必ず載せる仕組みをつくることです。月次で滞留在庫の上位20品目を洗い出し、「発注量を減らす」「まとめ生産のロットを見直す」「用途廃止を決める」のいずれかを、その場で担当と期限つきで決めます。判断のポイントは次の3点です。
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確認する数字 |
判断の分かれ目 |
決めること |
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滞留期間 |
90日を超えたか |
発注停止・用途見直し |
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在庫金額 |
上位20品目に入るか |
削減目標を設定 |
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引当予定 |
次の製番があるか |
保持か処分かを決定 |
見える化を削減の意思決定へ橋渡しできて初めて、投じた労力が金額として返ってきます。次章では、こうした導入前に読者の多くが抱く具体的な疑問に、一問一答の形でお答えしていきます。
多品種少量の在庫管理に関するよくある質問
ここまで規模別・加工形態別の勘所や、先行事例の失敗までお伝えしてきましたが、いざ着手する段になると、経営者や工場長から必ず同じ質問が寄せられます。ここでは、導入前によく聞かれる疑問を3つの切り口に整理し、コンサルタントとして歯切れよくお答えします。
着手・進め方に関する質問
最も多いのが「まずExcelとシステム、どちらから始めるべきか」というご質問です。結論から申し上げると、従業員100名未満で品目数が数百点規模なら、まずはExcelから始めることをおすすめします。製番・品目・現在庫・発注点の4列だけの一覧表でも、在庫の見える化という目的の8割は達成できます。いきなり数百万円のシステムを入れても、入力ルールが固まっていなければ宝の持ち腐れになります。
Excelから始める場合、期間は3〜6カ月を目安にしてください。この間に「どの項目を、誰が、いつ更新するか」という運用ルールを固めることが本当の狙いです。A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、まず主要50品目に絞ったExcel管理を4カ月続け、更新の型を作ってからシステム化に進みました。ルールが手に馴染んでからシステムへ移すと、定着率が大きく変わります。
判断の目安として、以下のいずれか2つ以上に当てはまればシステム化の検討時期です。
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チェック項目 |
システム化の目安 |
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品目数 |
おおむね1,000点を超える |
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入力担当 |
3人以上が別々に更新している |
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更新遅れ |
実在庫との差異が週単位で発生 |
システム・費用に関する質問
「費用はどのくらいかかるのか」も切実なご質問です。クラウド型の生産管理・在庫管理システムであれば、初期費用が数十万〜100万円程度、月額が2万〜10万円程度が一つの相場観です。ただし、これは弊社がご支援する現場での実感値であり、品目数や連携範囲で大きく振れます。安さだけで選ぶと、後述の運用面でつまずきやすい点にご注意ください。
よくある失敗が、多機能なシステムを最初からフル機能で導入しようとすることです。実績収集・原価計算・スケジューラまで一度に動かそうとして、現場が入力に追われて頓挫する例を何度も見てきました。まずは在庫と製番の紐付けという一点に機能を絞り、半年運用してから次の機能を足す。この段階導入のほうが、結果として投資対効果は高くなります。
費用対効果を測る簡単な基準を持っておきましょう。過剰在庫や欠品による段取り替えが月に何時間発生しているかを数え、その削減時間に時間単価を掛ければ、おおよその回収期間が見えてきます。月10万円のシステムなら、月20時間の無駄を減らせれば十分に元が取れる計算です。
現場運用に関する質問
「小ロット試作品や端材はどう管理するか」は、機械加工特有の悩みです。試作品は完成品や量産在庫と同じ棚に混ぜず、専用の一時保管エリアを設けて期限札を付けるのが実務的です。3カ月など保管期限を決め、期限切れは廃棄判断にかける運用にすれば、正体不明の在庫が棚を占める事態を防げます。端材は「A材・50mm以上」のように材質と長さの大分類だけで管理し、細かく追わないことが継続のコツです。
棚卸の頻度についても質問が絶えません。全品目を一斉に止めて数える年1〜2回の一斉棚卸に加え、循環棚卸(サイクルカウント)の導入をおすすめします。これは全品目を毎日少しずつ数え、1〜3カ月で一巡させる方法で、生産を止めずに精度を保てます。金額の大きい主要品目は月1回、動きの少ない品目は四半期に1回と頻度に差をつけると、負担を抑えられます。
運用を回す担当者は、必ず具体的に一人決めてください。「みんなで管理する」は「誰も管理しない」と同じで、更新遅れの最大の原因になります。1日15分でよいので在庫更新の時間を業務に組み込み、その時間を守ることが、データ精度を支える土台になります。
こうした疑問が解けたら、あとは最初の一歩を踏み出すだけです。次章では、明日から着手するための具体的な第一手を整理します。
まとめ:明日から着手する在庫管理の第一歩
前章までで、規模や加工形態ごとに勘所が変わることを見てきましたが、共通して言えるのは「小さく始めた御社ほど続いている」という事実です。ここでは記事全体を振り返りつつ、御社が今週動くための一手と、その先の道筋を整理します。
本記事の要点の振り返り
多品種少量の部品加工で在庫が読めなくなるのは、御社の管理が甘いからではなく、製番ごとに材料も工程も変わるという業態構造そのものが原因です。ですから対策も、精神論ではなく仕組みで断ち切る必要があります。まずこの前提を経営者と現場で共有することが、すべての出発点になります。
本記事で示した着手順は、次の3ステップに集約できます。細かなツールや投資判断の前に、この順番を守ることが遠回りを防ぎます。
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順番 |
やること |
ねらい |
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① |
製番別在庫の見える化 |
どの製番にいくら滞留しているかを可視化する |
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② |
重点品目だけ発注点を設定 |
全品目ではなく金額上位2〜3割にめりはりをつける |
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③ |
仕掛と完成品を分別 |
最も滞留しやすい仕掛在庫を切り出して把握する |
この順番を飛ばし、いきなり全品目の発注点設計やシステム導入に走るのが、よくある失敗です。見える化ができていない状態で発注点を置いても、根拠のない数字が独り歩きするだけで終わります。まず①、次に②、そして③という積み上げを崩さないでください。
自社が今週やるべき最初の一手
最初の一手は、全社一斉ではなく「1製品群・1置き場」に絞ることです。御社で最も受注が多い、あるいは最も在庫が滞りがちな製品群をひとつだけ選び、その材料と仕掛の置き場を1カ所に決めます。範囲を狭めるほど成功体験が早く得られ、現場の納得も得やすくなります。
A社(従業員85名/機械加工/年商12億円)では、まず主力の1製品群に限定し、置き場に製番ラベルを貼るだけの見える化から始めました。着手初日は30分の棚卸しだけで、専用システムは使っていません。それでも3週間で「動いていない仕掛が全体の約2割ある」と判明し、現場が自ら片付けを始めたのです。
今週のチェックポイントは次の3点です。まず、対象とする製品群を1つに決めたか。次に、材料・仕掛・完成品を置く場所を物理的に分けたか。最後に、製番が一目で分かる表示を付けたか。この3つを金曜までに満たせば、御社の在庫管理は確実に前へ進みます。逆に「全部やろう」として2週間動けないのが、最も多い停滞パターンです。
生産管理システム導入を検討する次のステップ
手作業での見える化が1製品群で回り始めたら、次は横展開とデータ化を考える段階です。製番が5品番、10品番と増えると、紙やExクセルの転記が1日30分、月にして10時間を超え、入力の遅れがそのまま在庫精度の低下につながります。ここが、生産管理システムを検討する自然なタイミングです。
判断の目安は、対象製品群が3つを超えたか、月間の在庫関連の手作業が20時間を超えたか、この2点です。どちらかに当てはまれば、システム化で回収できる可能性が高まります。小規模なら初期費用100万〜300万円程度、月額数万円からの選択肢もあり、まずは在庫と実績収集に機能を絞って始めるのが堅実です。
具体的な製品選定や費用対効果の見極め方は、別途ご用意している「生産管理システム導入ガイド」で工程ごとに解説しています。御社の規模と加工形態に合った進め方を、そちらで確認しながら次の一歩を設計してください。まずは今週、1製品群の見える化から始めることをおすすめします。
よくあるご質問
在庫管理は、まずExcelと生産管理システムのどちらから始めるべきですか。
品目数・製番数が少ないうちはExcel+現物ルールで十分。転記ミスや拠点増で限界を感じた段階で生産管理システムへ移るのが現実的、という判断基準を示す。
小ロットの試作品や端材は、どこまで在庫管理すべきですか。
全数を厳密に追うより、金額が張る特殊材の端材だけ置き場と表示を決め、汎用材の端材は目視管理に割り切る考え方を提示する。
棚卸はどのくらいの頻度で行うのが適切ですか。
年1〜2回の全棚卸に加え、重点品目を対象にした循環棚卸(区画を分けて日常的に少しずつ数える方法)で現物精度を保つやり方を説明する。
現場が実績入力を続けてくれません。どうすればよいですか。
入力箇所を絞る・バーコードで手入力をなくす・二重確認をやめるなど「入力を軽くする」設計が先決で、教育より仕組みで解く方針を示す。
在庫を見える化しましたが、削減につながりません。
見える化はゴールでなく手段。滞留日数や重点品目在庫をKPIにし、発注量・生産ロットの見直しという意思決定へつなげる運用が必要だと示す。
まとめ:機械加工・部品加工業の在庫管理
多品種少量の部品加工で在庫が読めなくなるのは、現場の管理能力の問題ではありません。材料・仕掛・完成品・共通部品が製番ごとに絡み合うという、業態そのものの構造から生まれる複雑さです。ここを取り違えて「もっと真面目に数えよう」と精神論で押すと、現場は疲弊するだけで在庫は読めるようになりません。だからこそ、正攻法は製番別の見える化から着手することにあります。在庫を製番と品目の二軸で捉え直すと、「金額は合うのに現物が読めない」状態から抜け出す糸口が見えてきます。
次に効くのが、管理の濃淡をつける発想です。全品目に等しく発注点や安全在庫を設けようとすると、品目数が多い部品加工では必ず破綻します。単価×出庫頻度で重点を絞り込み、材料と共通部品のうち「止まると全体が止まる」ものだけを手厚く管理する。残りは思い切って簡素な運用に振り分ける。このめりはりが、少人数運用を成立させる分かれ道になります。
もう一つの鍵が、仕掛在庫と完成品在庫を分けて把握することです。機械加工で最も滞留しやすいのは工程間の仕掛です。ここを完成品と一緒くたにすると、「作ったつもりが実は工程の途中で眠っていた」という読み違いが起きます。仕掛と完成品を切り分けるだけで、在庫金額の中身がぐっと見通せるようになります。
そして、これらを継続的に回すには実績データが要ります。ただし入力を重くしては現場が続けられません。実績入力を軽くする仕組みを整えたうえで生産管理システムの導入を検討する。この順序を守ると、投資対効果が見合いやすくなります。逆にシステムを先に入れても、入力が回らなければデータは荒れ、宝の持ち腐れになりがちです。
明日から取り組める最初の一歩は、金額規模の大きい製番を3件だけ選び、その材料・仕掛・完成品・共通部品が今どこに、どれだけあるかを紙一枚に書き出してみることです。全社一斉ではなく、まず3件。ここで感じる「意外と分からない」という手応えこそが、御社の在庫管理を変える出発点になります。
在庫管理の仕組み化は、業態や規模、加工形態によって最適な進め方が変わります。自社にどの順序が合うのか判断に迷われる際は、船井総合研究所の無料経営相談をご活用ください。同業の製造現場を数多く支援してきた知見をもとに、御社の現状に即した第一歩を一緒に整理します。関連テーマのセミナーも随時開催していますので、まずは情報収集の一環として気軽に足を運んでいただければ幸いです。
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