インダストリー5.0
「インダストリー5.0(Industry 5.0)」とは、2021 年 1 月に欧州委員会によって定義された産業革命の方針のことで、第 5 次産業革命ともいわれます。
産業が、国や企業の枠組みにとらわれず、地球規模で目指すべき姿として提唱されました。具体的には、製造業のデジタル化、自動化、そして人間中心のアプローチを統合する次の段階を表しています。
- ~目次~
- 1.インダストリー5.0 のキーコンセプト
- 2.インダストリー5.0 へ取り組むメリット
- 3.インダストリー5.0 の実現における課題
1.インダストリー5.0 のキーコンセプト
欧州委員会では、インダストリー5.0 のキーコンセプトに次の 3 つを掲げています。
a) 持続可能性(サステナビリティ)
「持続可能性」とは、産業革新において、社会的な環境負荷を最小限におさえながら、経済成長を実現する考え方です。
b) 人間中心(ヒューマンセントリック)
技術革新は人々の生活をよりよくするため、産業の発展は人間の価値を最も重んじ、人間の利益を最大化するためにおこなうべき、という人間中心の考え方です。
c) 回復力(レジリエンス)
自然災害やパンデミックなど破壊的な変化に直面したときに、産業や人々の生活を守り回復する力を表す概念です。
2.インダストリー5.0 へ取り組むメリット
a) 効率性の向上
インダストリー5.0 では、人間とロボットの協働や AI の活用によって、生産プロセスの効率が向上します。これにより、人手不足・労働力不足を解消し、コスト削減やリードタイムの短縮が実現されます。
b) 品質の向上
デジタルツインや IoT などの技術を活用することで、リアルタイムで製品やプロセスの状態をモニタリングし、品質管理を強化することができます。これにより、不良品率の低減や顧客満足度の向上が期待できます。
c) 柔軟性の向上
インダストリー5.0 では、パーソナライズ製造が可能となります。顧客の個別ニーズに対応することで、市場変化に柔軟に対応し、競争力を維持・強化することができます。
d) 環境への配慮
インダストリー5.0 に取り組むことで、環境に配慮した産業を実現できます。環境に配慮した産業では、資源の有限性を考えた循環型社会の実現や、海洋汚染や地球温暖化などさまざまな環境課題の解決を目指しています。
3.インダストリー5.0 の実現における課題
インダストリー5.0 で提唱されている理想の未来を実現するには、すでに連携しているドイツやアメリカなどの例にならって、世界標準化して他国と協業していく体制づくりが不可欠です。実際にソリューション展開を行う上では、自社・自国のリソースや開発力、顧客基盤が事業の限界値とならないよう、柔軟な姿勢で仲間づくりを進めていく必要があります。
とくに日本企業は、自社製品に対する責任感の強さからも自前志向が強く、企業や国の垣根を超えた共同開発=オープンイノベーションに対して、心理的な障壁が大きい傾向もあります。しかし現在、所有から利用へと顧客ニーズが変化し、製造業そのもののサービス化も加速していている中、自社の持続的な成長にとって世界標準化は喫緊の課題となっています。
また、最新テクノロジーを活用するには高度な技術や豊富な知識が必要となり、これらのスキルを持つ人材は市場において圧倒的に不足していることが指摘されています。