記事公開日:2026.01.08
最終更新日:2026.01.08
「工場はフル稼働なのに、なぜ利益が残らないのか?」 ~製造現場の「職人芸」を経営数値に変える、「工場経営」への転換~

目次
はじめに:見えない「利益の漏水」に悩む経営者様へ
「原材料費も人件費も高騰しているが、なんとか価格転嫁を進めている。工場も現場の努力で稼働率を維持している。それなのに、決算書を開けると想定していた利益が残っていない……」
もし、貴社がこのようなジレンマを抱えているならば、それは単なる「コスト高」のせいだけではないかもしれません。多くの素材・化学・食品などのプロセス製造業が陥っている、構造的な「工場と経営の断絶」が原因である可能性が高いのです。
本稿では、多品種変量生産を行う製造業が直面する「標準原価と実際原価の乖離」の正体と、システム更新(MES/ERP)を単なる入れ替えに終わらせず、収益構造を変革するための「工場経営」というアプローチについて、具体的な処方を提示します。
第1章:工場と本社の「言葉」は通じているか?
「稼働率信仰」の罠
多くの製造現場では、「稼働率(操業度)」や「製造経費の予算内達成」が至上命題とされています。工場長のミッションは、ラインを止めず、決められた予算内でモノを作ることです。 しかし、ここに大きな落とし穴があります。
例えば、需要の変動が激しい中で、工場が「稼働率」を維持するために、本来は急ぐ必要のない在庫を先行生産したとします。工場側の指標では「高稼働・高効率」として評価されますが、経営側(本社)から見れば、それは「キャッシュフローの悪化」や「将来の廃棄リスク(評価損)」でしかありません。
「グラム・時間」の世界 vs 「円・利益」の世界
このすれ違いの根底にあるのは、「この共通言語の欠如」です。
- 工場側の言葉:kg、トン、時間、歩留まり率、人員数
- 経営側の言葉: 売上、原価、粗利、販管費、在庫回転率
工場の現場リーダーが「今日は歩留まりが98%で優秀でした」と報告しても、経営者が知りたいのは「その98%を達成するために、どれだけ余分な人件費やエネルギーコストがかかったのか? 最終的な限界利益はいくらなのか?」という点です。 この翻訳機能が働いていない組織では、現場がいかに汗をかいて改善活動を行っても、それがPL(損益計算書)の改善として可視化されず、現場のモチベーション低下と経営の不信感という悪循環を生んでしまいます。
第2章:見えないコストを生む「現場の職人芸」
特に、顧客からのスペック要求が厳しいB2B素材メーカー(化学、食品、医薬中間体など)において、この問題は深刻です。
「直行率」の嘘と「調整」の闇
貴社の工場では、システム上の「歩留まり」や「直行率」は高い数値を示しているかもしれません。しかし、その裏側で次のようなことが起きていないでしょうか?
- 属人的な「より分け」:Aという製品で作ったがスペックが合わず、少し調整してグレードの低いBという製品として登録し直している。
- 「振替」処理:生成AIを使って、見積作成や日報業務を劇的に効率化する方法
- 過剰な品質保証: 顧客の要求スペックよりもはるかに厳しい社内基準を設け、安全マージンを取りすぎて廃棄ロスを出している。
これらは現場の「責任感」や「職人芸」によって支えられていますが、経営データとしては最悪の形となります。なぜなら、「手直しにかかった工数」や「本来なら売れたはずの機会損失」が、標準原価の中に埋没してしまうからです。
これが、「標準原価」と「実際原価」が大きく乖離する最大の原因です。現場が良かれと思って行っている調整が、実は見えないコストとなり、利益を食いつぶしているのです。
第3章:システム導入が「失敗」する典型パターン
こうした課題を解決するために、多くの企業がMES(製造実行システム)やERPの刷新を検討します。「DX」や「IoT」という言葉に期待を寄せ、最新のパッケージソフトを導入すれば、すべてが見える化されると期待するのです。 しかし、残念ながらそのプロジェクトの多くは、投資対効果を生まないまま終わります。 1. 原価の見える化:タブレット等で「実績工数」を収集し、本当の原価を知る
ベンダー任せの要件定義が招く悲劇
システムベンダーのゴールは「システムを納期通りに納品すること」です。彼らは、今の業務をそのままシステムに置き換える「現行踏襲」の提案をしがちです。 一方、ユーザー企業側も、「今の現場のやり方を変えたくない」という意識が働き、「使いやすさ」ばかりを追求します。
その結果、何が起きるでしょうか? これまでExcelや紙で行っていた「属人的な調整」や「どんぶり勘定」が、そのまま高価なシステムの上でデジタル化されるだけです。これを私たちは「ムダのデジタル化」と呼んでいます。 経営管理に必要なデータが出ないまま、現場はタブレット入力の手間だけが増え、「前のほうがやりやすかった」という不満が爆発する。これが典型的な失敗パターンです。
第4章:解決策としての「工場経営」アプローチ
では、どうすればよいのでしょうか? 必要なのは、システムを入れることではなく、「工場をプロフィットセンター(利益創出拠点)に変える」という経営視点の変革です。私たちはこれを「工場経営」と呼んでいます。
その変革を成功させるために、私たちはプロジェクトで以下のステップを推奨しています。
Step 1:データマネジメント成熟度診断(取得・蓄積・活用)
いきなりシステム要件を決める前に、まずは自社のデータがどのような状態にあるかを診断します。
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1. 取得:現場の「苦労」や「調整」が、デジタルデータとして発生源で入力されているか?(アナログな日報や口頭伝達になっていないか?)
2. 蓄積:SAPやMES、Excelに散らばったデータが、ロット別・工程別に紐付け可能な状態で保管されているか?
3. 活用:蓄積されたデータが、日々の改善活動や経営判断(撤退・投資・値上げ交渉)に使われているか?
多くの企業では、「取得」はできていても「蓄積」がバラバラで、「活用」に至っていないケースが散見されます。この現状を直視することがスタートラインです。
Step 2:真の「経営管理要件」の定義
ベンダーにシステムを作らせる前に、経営側が「何を見たいか」を定義する必要があります。
- 「どの工程で、いくらのロスが出ているかを金額換算したい」
- 「顧客ごとの厳しいスペック要求が、どれだけ原価を押し上げているかを知りたい」 こうした要件は、現場任せ・ベンダー任せでは絶対に出てきません。経営企画や事業部サイドが主導権を握り、「現場のデータを経営の数字(PL)に翻訳するロジック」を設計する必要があります。
Step 3:脱・職人芸の生産計画
Excelのセルを職人が埋める「パズル」のような生産計画から脱却し、実績データに基づいた予測精度の高い計画プロセスへ移行します。これにより、無理な計画変更による段取り替えロスや、不要な在庫の積み増しを防ぎます。
第5章:【事例】「見えない赤字」を特定し、V字回復したA社の話
ここで、ある素材メーカーA社の事例をご紹介します。 A社は年商数十億円規模、従業員数百名の中堅企業です。多品種変量生産を行い、高い技術力で顧客からの信頼も厚い企業でしたが、原材料高騰の波を受け、収益が悪化していました。
改革前の状況
A社の工場は非常に勤勉でした。しかし、システムは老朽化し、生産計画はベテラン課長のExcel職人芸。現場では「顧客のために」と、頻繁なライン停止と再調整が繰り返されていました。経営陣は「なぜ利益が出ないのか」悩み、現場は「これ以上どう頑張ればいいのか」と疲弊していました。
導入したアプローチ
私たちはA社に対し、MES更新のタイミングに合わせて「工場経営」の導入を支援しました。 具体的には、工場に入り込み、現場の「見えない作業」を洗い出し、それをデータとして捕捉する仕組み(要件)を定義しました。 そして、ベンダーに対し「単なる製造記録ではなく、原価差異分析ができるデータ構造」を強く要求しました。
改革の成果
半年後、A社では驚くべき事実が可視化されました。 ある特定の主力製品群において、厳しいスペックを満たすための「再調整・廃棄コスト」が、想定の3倍以上に達していたのです。つまり、「売れば売るほど赤字に近い状態」の商品が存在していました。
このデータを武器に、営業部門は顧客と交渉を行いました。「このスペックを維持するなら値上げが必要。現行価格ならスペック緩和が必要」という、根拠のある交渉です。 結果、不採算取引の是正と、工場内の無駄な調整作業の削減が同時に進み、A社の収益性は劇的に改善しました。工場長は現在、毎月の会議で「操業度」ではなく「品質コスト削減額」と「利益貢献額」を経営陣に報告しています。
おわりに:貴社の工場は「宝の山」か、「ブラックボックス」か
工場には、経営を良くするためのヒント(データ)が無限に埋まっています。しかし、それを採掘し、精製(加工)しなければ、ただのゴミ(ノイズ)です。
システム更新は、数年に一度のビッグチャンスです。このタイミングで、古い商習慣や属人的な業務プロセスを断ち切り、データを武器に戦う組織へと生まれ変われるか。それとも、新しい画面のシステムで古い仕事を続けるか。 その分岐点は、「経営視点でシステム要件をコントロールできるか」にかかっています。
私たちは、システムベンダーではありません。また、単なる業務改善コンサルタントでもありません。 経営と現場(工場)の間に立ち、通じ合わない「言葉」を翻訳し、利益を生むためのデータ構造と業務プロセスを設計するパートナーです。
- 「工場の現場は見せられないが、まずは経営データから診断してほしい」
- 「ベンダーからの提案書が、本当に経営に役立つものかセカンドオピニオンが欲しい」
- 「生産計画のExcel地獄から抜け出したい」
もし、一つでも当てはまることがあれば、一度私たちとディスカッションをしてみませんか。 貴社の工場が本来持っているポテンシャルを、利益という形に変えるお手伝いをさせていただきます。



