記事公開日:2026.01.08
最終更新日:2026.01.08

「いつ来るか分からない注文」に振り回されるのはもう終わりにする。 建機レンタル業界向け消耗品製造における「脱・どんぶり勘定」の在庫戦略

はじめに:鳴り止まない「特急」の電話と、膨れ上がる倉庫の山

「明日、現場で刃が欠けて重機が止まってしまった。今すぐ代わりの刃を送ってくれ!」
製造現場の事務所に響く、一本の電話。 営業担当が血相を変えて工場へ駆け込み、生産管理担当者が頭を抱える。

「今、ラインには別の注文が乗っています。割り込ませるなら、段取り替えだけで半日は潰れますよ」
「でも、これを受けないと次は他社に回されてしまうぞ!」

製造業、特に建設機械の消耗品(刃物・バケット・カッター等)を製造されている経営者様や工場長様であれば、このような光景は日常茶飯事ではないでしょうか。
お客様は、建機レンタル・リース会社。彼らのビジネスは「現場対応」が命です。工事現場で機械が止まることは、工期の遅れ、ひいては巨額の損害に直結します。だからこそ、消耗品の交換には「即納」が求められます。
しかし、ここには構造的なジレンマがあります。 いつ機械が壊れるか、いつ刃が摩耗しきるかは、神のみぞ知る領域です。お客様であるレンタル会社ですら、「来週いくつ必要か」なんて分かりません。 顧客が予測できないものを、サプライヤーである皆様が予測できるはずがないのです。

結果として何が起きるか。
「欠品させたら終わりだ」という恐怖心から、勘と経験で「とりあえず多めに」在庫を積み上げる。
倉庫には、いつ出荷されるか分からない製品が山のように積まれ、大切な会社の現金(キャッシュ)が「鉄の塊」に姿を変えて眠っている。
一方で、決算書を見れば在庫回転率は悪化の一途。銀行からは「在庫を減らせ」と言われるが、減らせば「欠品」のリスクに怯えることになる……。

本コラムでは、この「フォーキャスト(予実管理)なき短納期受注」という、極めて難易度の高いビジネスモデルにおいて、いかにして在庫を適正化し、キャッシュフローを改善するか。その具体的な処方箋について、現場データ活用の視点から解説します。

第1章:なぜ、あなたの工場の在庫は減らないのか?

「受注生産」と「見込み生産」の最悪のハイブリッド

一般的な製造業の教科書にはこう書いてあります。
「多品種少量なら受注生産(MTO)、少品種多量なら見込み生産(MTS)にしなさい」
しかし、皆様の業態はこのどちらにも当てはまりません。

品目は多岐にわたる(多品種)にもかかわらず、納期は「即納」を求められる(見込み生産的要素)。つまり、「多品種なのに在庫を持たなければならない」という、経営効率上、最も苦しいポジションに立たされているのです。

生産管理システムは「入れているだけ」になっていないか

多くの企業様が、優秀な生産管理システムを導入されています。しかし、現場にお邪魔すると、このような声をよく耳にします。「データは入っているけど、結局は『発注点管理』だけ。担当者が『そろそろ減ったから作ろうか』という感覚で指示書を出しているよ」
ここに最大の落とし穴があります。 データが「記録」としてしか使われておらず、「戦略」に使われていないのです。 「いつ、何が、どれだけ売れたか」という過去データは、宝の山です。たとえ未来の確実な予測ができなくても、「確率論的な予測」は可能です。
「予測できないから在庫を持つ」のではなく、「予測できない部分と、できる部分を切り分ける」。 この思考の転換こそが、在庫削減の第一歩です。

第2章:データを武器にする「メリハリ在庫」の極意

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。 精神論や「頑張り」で在庫は減りません。必要なのは、冷徹なまでのデータ分析です。

1. ABC分析で「聖域」をなくす

まず着手すべきは、製品の「格付け」です。 全ての刃物を「欠品させてはならない」と考えてはいけません。
お手元の生産管理システムから、過去1年間の出荷データをCSVで出力してください。そして、出荷金額(または頻度)順に並べ替え、累積比率を出します。

  • Aランク(上位20%): 売上の8割を作る主力製品。
  • Bランク(中位): コンスタントに出るが、主役ではない。
  • Cランク(下位): 年に数回出るか出ないか。

在庫過多の工場の多くは、「Cランク品までAランクと同じように在庫している」か、あるいは「Aランク品が欠品して機会損失を出している」かのどちらか(あるいは両方)です。

【対策】

  • Aランク: これは在庫を持って構いません。むしろ、絶対に切らしてはいけない製品です。
  • Bランク: 「遅延差別化」を検討します。例えば、塗装前や刃付け前の「半製品」の状態で在庫を持ち、注文が来てから最終工程だけを行う。これにより、複数の完成品在庫を「共通の半製品在庫」として圧縮できます。
  • Cランク: 「在庫ゼロ」を目指します。営業を通じて「この製品は特注扱いになるので、納期を〇日ください」と交渉するのです。全ての客、全ての製品にいい顔をするのをやめることが、利益体質への第一歩です。

2. 「季節変動」を味方につける

「うちは突発的な注文ばかりだから」と諦めていませんか? しかし、建設業界、レンタル業界には明確な「波」があります。
例えば、

  • 年度末(2月〜3月): 公共工事の工期末に向けて建機の稼働率はピークに達します。当然、消耗品の交換需要も跳ね上がります。
  • 季節要因:除雪用なら冬、台風が多い地域なら秋口など。

過去3〜5年のデータを月別グラフにしてみてください。「なんとなく忙しい」と思っていたものが、「毎年3月は平均の1.8倍出ている」という明確な数値として浮かび上がってきます。
この「季節指数」を在庫管理に組み込みます。 1年中同じ「発注点(在庫がこれ以下になったら作るライン)」を設定しているのが間違いなのです。「1月に入ったら、システム上の発注点を1.5倍に引き上げる」「4月になったら、発注点を半分に戻す」この微調整をルーチン化するだけで、「閑散期の過剰在庫」と「繁忙期の欠品」を同時に防ぐことができます。

第3章:逆転の発想「富山の薬売り」モデル(VMI)への挑戦

ここまでは「社内」の話でした。 ここからは、一歩進んで「顧客(レンタル会社)」との関係性を変える、より抜本的な解決策をご提案します。それがVMI(Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)です。
分かりやすく言えば、「富山の薬売り(置き薬)」のビジネスモデルです。

なぜ、顧客の倉庫に在庫を置くのか?

現状の商流はこうです。

  1. 客先の建機が壊れる。
  2. 客先が御社に電話する。
  3. 御社が在庫を確認し、トラックを手配し、発送する。
  4. 翌日(または当日)に客先に届く。

この「リードタイム」と「輸送コスト」は、双方にとって無駄です。 そこで、こう提案するのです。「御社の営業所(または主要倉庫)の棚を一つ貸してください。そこに、当社のAランク製品(よく出る刃物)をあらかじめ置いておきます」

VMIの仕組みとメリット

  • 仕組み: 在庫の所有権は御社のまま、モノだけ客先に置きます。客先は、現場で必要になったらその棚から勝手に持って行って使います。
  • 請求: 御社の営業担当が月に一度訪問し、「減っている分」だけをカウントして請求書を切ります。同時に、減った分を補充します。

これこそが、建機レンタル業界における「三方よし」の解決策です。

  • 客先(レンタル会社)のメリット:
    • 「納期ゼロ」: 目の前にモノがあるのですから、電話する必要も、到着を待つ必要もありません。
    • 在庫リスクなし: 使った分だけ払えばいいので、自社で在庫資産を持つ必要がありません。
  • 御社(製造)のメリット:
    • 「究極の囲い込み」: 一度この棚を作ってしまえば、他社製品が入り込む余地はなくなります。
    • 配送コスト激減: 毎回の特急便が不要になり、月一回の定期補充便(ルート配送)に集約できます。
    • 生産の平準化: 「今すぐ持ってこい」と言われないため、自社の都合の良いタイミングで作って補充に行けます。

第4章:営業と製造の「壁」を壊すには

このような新しい取り組み(特にCランク品の納期交渉や、VMIの提案)を行おうとすると、必ず社内で抵抗勢力が現れます。 多くの場合、それは「営業部門」です。
「お客様に面倒な交渉をしたくない」 「そんなことを言って、競合に逃げられたらどうするんだ」 「在庫を減らすのは工場の都合だろう。俺たちを巻き込むな」
この「製販の壁」を乗り越えるには、伝え方を工夫する必要があります。 「在庫を減らしたいから協力してくれ」と頼んではいけません。「お客様のメリット(欠品防止)」として提案資料を作ってあげるのです。

営業を動かす「キラーフレーズ」

例えば、年度末に向けて在庫予測をする際、営業にこう言わせてみましょう。
「『年度末・優先確保キャンペーン』のご案内です」
「例年、2月から3月は注文が殺到して、どうしても納期が遅れがちになります。そこで、今月中に『大体の見込み』を教えていただいたお客様分については、専用在庫として優先的に確保(取り置き)させていただきます。もし急に刃が壊れても、御社だけは絶対に待たせません」
これならどうでしょうか? 営業は「在庫削減のお願い」というネガティブな交渉ではなく、「優先権の提供」というポジティブなサービスを顧客に持ちかけることができます。 顧客にとっても、繁忙期に建機が止まるリスクを回避できるのは大きなメリットです。
結果として、御社には「精度の高いフォーキャスト(受注予測)」が集まってきます。 この情報を元に、工場の閑散期(アイドルタイム)を活用して計画生産を行えば、残業代を抑えつつ、在庫を適正水準に保つことが可能になります。

第5章:消耗品製造業は「待ち」から「攻め」へ

建機レンタルの消耗品ビジネスは、決して「下請けの単純作業」ではありません。 レンタル会社の稼働率を支え、日本のインフラ整備を下支えする重要なパートナーです。
しかし、いつまでも「壊れたら電話して」という受動的なスタンス(待ちの経営)でいては、在庫の山とキャッシュフローの悪化に苦しむばかりです。データという武器を使い、消耗のサイクルを読み解き、こちらから「在庫の持ち方」を提案する。「置き薬方式」のような新しいサービスモデルを構築する。
そうすることで、御社は単なる「部品屋さん」から、レンタル会社の経営になくてはならない「戦略的パートナー」へと進化できるはずです。

貴社のデータは「宝の持ち腐れ」になっていませんか?

「言っていることは分かるが、実際に自社のデータでどう分析すればいいか分からない」
「生産管理システムのどの帳票を見れば、季節指数が出せるのか」
「VMIを提案したいが、契約書や運用ルールはどうすればいいのか」

もし、そのような疑問をお持ちであれば、一度、外部の視点を入れてみるのも一つの手です。船井総合研究所では、製造業専門のコンサルタントが、貴社の生産管理システムのデータを分析し、「どの製品を在庫すべきか」「どれを捨てるべきか」のシミュレーションを行うご支援も可能です。
在庫は、経営そのものです。 倉庫に眠る「鉄の塊」を、適正な「キャッシュ」に変えるための取り組みを、今すぐ始めませんか。

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本コラムをお読みになり、「自社の在庫データを分析してほしい」「VMIの具体的な導入ステップを知りたい」と思われた経営者様・工場長様へ。 船井総研では、初回無料の経営相談を受け付けております。オンラインでも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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