記事公開日:2026.01.09
最終更新日:2026.01.09
なぜ御社の原価管理はズレるのか?「作業工数取得」の3つの失敗パターンと正しい改善策

「月末の原価計算がどうしても合わない」「見積もり段階では利益が出ていたはずなのに、終わってみれば赤字だった」
このような悩みをお持ちの工場長や生産管理担当者の方は少なくありません。材料費の高騰や光熱費の変動に目を奪われがちですが、原価管理がズレる最大の原因は、実は足元の「現場の作業工数(労務費)」にあることが多いのです。
本記事では、なぜ多くの現場で工数取得が失敗してしまうのか、その典型的なパターンと、正確なデータ取得を実現するための具体的な改善策を解説します。2026年を見据え、データを武器に「儲かる工場」へと変革するためのヒントを持ち帰ってください。
目次
1. 製造業の利益を圧迫する「見えないコスト」と工数管理の重要性
製造業において、利益を確保するためには「原価」を正確に把握することが大前提です。しかし、多くの企業でその精度は不十分なまま放置されています。
1-1. なぜ「作業工数」の正確な把握が原価管理の命綱なのか
製造原価は主に「材料費」「労務費」「経費」の3つで構成されています。このうち、材料費は請求書や発注データから比較的正確に把握できます。しかし、労務費(=人の作業時間 × 賃率)は、日々変動し、目に見えにくいため、最も管理が難しい要素です。
現場の作業時間を「なんとなく」で計算していると、知らず知らずのうちに利益を食いつぶすか、あるいは取れるはずの案件を逃してしまうのです。
1-2. 「どんぶり勘定」が招く赤字受注のリスク
「熟練工のAさんなら1時間だが、新人のBさんだと2時間かかる」。このようなバラつきを考慮せず、標準的な工数だけで見積もりを作成していませんか?
実際の現場では、機械のトラブル、材料待ち、手戻りなど、想定外の工数が発生しています。これらを「見えないコスト」として放置したままでは、いくら売上を上げても利益は残りません。正確な作業工数の取得は、この見えないコストを可視化する唯一の手段なのです。
2. なぜデータがズレる?作業工数取得における3つの失敗パターン
では、なぜ現場から上がってくる工数データはズレてしまうのでしょうか。多くの企業が陥っている3つの失敗パターンを見ていきましょう。
2-1. 【失敗1】記憶に頼る「まとめて日報入力」
最も多い失敗が、作業終了後や週末にまとめて日報を書くスタイルです。人間の記憶は曖昧です。「午前中はあの製品を3時間くらいやったかな?」という感覚的な入力では、1日単位で数十分〜数時間の誤差が生まれます。
- 問題点:記憶に基づいているため精度が低い。記入作業自体が現場の負担になり、残業の原因になる。
2-2. 【失敗2】「直接作業時間」しか記録していない
製品を加工している時間(直接時間)だけを記録し、それ以外の時間を無視しているケースです。
- 段取り時間:金型の交換や材料の準備
- 運搬・移動時間:前工程からモノを運ぶ時間
- 手待ち時間:機械の修理待ちや指示待ち
これらも全て会社にとってはコスト(労務費)です。間接作業時間を無視すると、原価は実際よりも安く見えてしまい、結果として赤字受注を招きます。
2-3. 【失敗3】入力ルールが属人化し、データが標準化されていない
「作業開始」の定義が人によって違うことも大きな問題です。
- Aさん:材料を機械にセットした瞬間から計測
- Bさん:指示書を読み始めた瞬間から計測
このように基準がバラバラでは、集計しても正確なデータにはなりません。以下の表で、失敗パターンと改善の方向性を整理しました。
【表:工数取得の失敗パターンとあるべき姿】
| 項目 | 失敗パターン(現状) | あるべき姿(改善後) |
|---|---|---|
| 記録タイミング | 終業後や週末にまとめて記憶で記入 | 作業開始・終了時にリアルタイムで記録 |
| 記録対象 | 加工時間(直接工数)のみ | 段取り、移動、手待ちなど間接工数も網羅 |
| 入力基準 | 個人の感覚に依存(バラバラ) | ツール等で統一されたルールで自動化 |
| データ精度 | 概算(どんぶり勘定) | 分単位の正確な実績値 |
3. 現場負担を減らして精度を上げる!工数取得のデジタル化手法
正確なデータを取るために「現場にもっと細かく記入させよう」とするのは逆効果です。現場の負担を増やさず、むしろ楽にしながら精度を上げる「デジタル化」の手法を紹介します。
3-1. 紙・Excelからの脱却:バーコード・QRコード活用
最も導入ハードルが低いのが、指示書や現品票にバーコード(またはQRコード)を印字する方法です。
- 仕組み:作業開始時に「着手」、終了時に「完了」のバーコードをハンディターミナルで読み取る。
- メリット:キーボード入力が不要で、読み取り時刻が自動記録されるため、時間の改ざんや記入ミスがなくなります。
3-2. タブレット・スマホ活用によるリアルタイム入力
現場にタブレットを設置し、専用アプリで管理する方法です。
- 仕組み:作業員は自分の名前と作業内容をタップするだけ。
- メリット:画面が見やすく、図面や作業手順書を同時に表示することも可能です。「手待ち」や「不良発生」などのイレギュラーな状況もワンタップで記録できるため、間接時間の見える化に最適です。
3-3. IoT・センサーによる「入力レス」な自動取得
人が入力すること自体をなくす、究極の方法です。
- 仕組み:工作機械に電流センサーや信号灯センサーを取り付け、機械が動いている時間(稼働時間)を自動でログとして記録します。
- メリット:人為的なミスがゼロになります。ただし、「人が何をしているか(段取り中なのか、掃除中なのか)」までは判別できない場合があるため、タブレット入力との併用が効果的です。
4. 2026年を見据えたデータ活用:工数管理から「儲かる工場」へ
工数取得はゴールではありません。集めたデータを活用し、利益を生み出す体質へ変わることが目的です。
4-1. 取得した工数データを「実際原価」へ反映するフロー
正確に取得した工数データがあれば、製品ごとの「実際原価」を算出できます。これを当初の「予定原価(標準原価)」と比較することで、どこに問題があったのかが明確になります。
4-2. データに基づいた見積もり精度の向上と工程改善
「この製品は意外と手間がかかっている」という事実がデータで証明されれば、次回からは見積価格を上げる、あるいは設計変更を提案するといった、根拠ある交渉が可能になります。これが「儲かる工場」への第一歩です。
4-3. 今後の製造業に求められる「ダイナミックな原価管理」とは
2026年に向けて、製造業を取り巻く環境はさらに厳しさを増すと予想されます。人件費の上昇、熟練工の引退、多品種少量生産の加速。これらに対応するには、過去の経験値ではなく、「今のリアルなデータ」に基づいた経営判断(ダイナミックな原価管理)が不可欠です。
固定的なレート計算ではなく、繁閑や人員構成に合わせて柔軟に原価をコントロールする力が、これからの企業の生存率を左右します。
5. まとめ
作業工数の取得は、現場を監視するためではなく、現場の頑張りを正当に評価し、会社の利益を守るために行います。
- 記憶に頼らず記録する
- 間接時間も含めて全て見える化する
- デジタルツールで負担をなくす
まずはこの3点から、自社の工数管理を見直してみてください。正確なデータが集まれば、工場の景色は必ず変わります。
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「2026年に向けて、具体的にどのような原価管理指標を持つべきか?」「他社はどのようにデジタル化を進めているのか?」
より踏み込んだ戦略と市場予測については、以下のレポートにまとめています。貴社の経営戦略立案にぜひお役立てください。




