記事公開日:2026.01.05
最終更新日:2026.01.05
【工場管理者必読】多品種少量生産でも諦めない。「バラつき」を統計分析して作る、現場が納得する「基準工数」の設定法

目次
はじめに:「毎回違うモノを作っているから、標準なんて決められない」という思い込み
「ウチは自動車のライン生産とは違うんだ。毎日違う図面が来て、毎回違う加工をする。そんな現場で『標準工数』なんて決められるわけがないだろう」
多品種少量生産、あるいは一品一様の個別受注生産を行っている現場のベテラン職人から、こう言われたことはありませんか? 工場管理者であるあなた自身も、心のどこかで「確かにその通りだ」と納得してしまっているかもしれません。
しかし、その「諦め」が、工場の利益をじわじわと蝕んでいることに気づいているでしょうか。 基準(標準工数)がないということは、以下のような事態を招きます。
- 見積もりが属人化する: ベテランの「勘」で値段が決まり、担当者によって価格がバラバラになる。
- 生産計画が守れない: 「どれくらいで終わるか」が不正確なため、納期遅延が常態化する。
- 評価ができない: 誰が早くて誰が遅いのか、客観的な基準がないため、好き嫌いや印象で評価が決まる。
「バラつきがあるから基準が作れない」のではありません。「バラつきを考慮した基準の作り方」を知らないだけなのです。 ストップウォッチ片手に時間を計る、昭和のIE(Industrial Engineering)手法だけが正解ではありません。
本記事では、デジタル技術と統計学のアプローチを用いて、多品種少量生産の現場にこそふさわしい「納得感のある基準工数」を策定し、生産性を劇的に向上させる手法を解説します。
第1章:なぜ、従来のやり方では「使えない基準」しかできないのか?
多くの工場で「標準工数」が形骸化しているのには理由があります。それは、基準の決め方が現場の実態に即していないからです。
1. 「ストップウォッチ測定」の限界
伝統的な時間研究では、IE担当者がストップウォッチを持って現場に立ち、特定の作業員の作業を数回計測して「標準時間」を算出します。 しかし、多品種少量の現場では、製品の種類が何千、何万とあります。そのすべてをストップウォッチで計測することは物理的に不可能です。 結果として、「類似品はこれくらい」というざっくりとした推測値が蔓延し、実態とかけ離れた数字がマスターデータに登録され続けることになります。
2. 「平均値」という名の罠
仮にデータを取れたとしても、多くの現場では単純な「平均値」を基準にしてしまいます。ここに大きな落とし穴があります。 例えば、ある作業の時間が以下のようだったとします。
- ベテランAさん:10分、10分、11分
- 新人Bさん:20分、25分(トラブル発生)
この平均をとると「15.2分」になります。 しかし、この「15.2分」という基準は誰にとっても幸せではありません。ベテランにとっては「余裕すぎてサボれる数字」であり、新人にとっては「トラブル込みの実力よりは厳しい数字」です。 外れ値(トラブルや極端な遅れ)を含んだ平均値は、現場の実力を正しく表していないことが多いのです。
3. 現場の「納得感」の欠如
現場が最も反発するのは、基準の根拠が不明確な場合です。 「事務所の人間が勝手に決めた数字だ」「現場の苦労も知らないくせに」 一度この感情が生まれると、現場は基準を守ろうとしなくなります。むしろ、「基準が間違っていることを証明するため」にあえてゆっくり作業する、といった本末転倒な事態すら起こり得ます。 現場が「確かにこれならできる」と腹落ちする数字でなければ、それは基準として機能しません。
第2章:統計的アプローチで「バラつき」を味方につける
では、どうすれば「使える基準」が作れるのでしょうか。 答えは、「全数データを自動収集し、統計的に処理すること」です。 DX技術の進展により、今やこれが低コストで実現できるようになりました。
ステップ1:IoT・タブレットで「全数データ」を取る
まず、サンプリング(抜き取り)計測をやめます。代わりに、タブレットやIoTセンサーを使って、日々の全ての作業実績を記録します。 多品種少量であっても、「切削」「溶接」「組立」といった工程単位で見れば、データの蓄積は可能です。 「図番A-001の切削工程」という粒度で、10回、100回と実績データが溜まっていけば、そこには必ず「傾向」が表れます。
ステップ2:ヒストグラム(度数分布図)を描く
集まったデータを単純に平均するのではなく、「ヒストグラム」にして可視化します。 横軸に「作業時間」、縦軸に「その時間で完了した回数」をとります。 すると、多くの現場では「正規分布(釣り鐘型)」にはなりません。早い時間のところに山ができ、遅い時間のほうに長く裾を引く形(ロングテール)になることが多いでしょう。この「裾」の部分は、トラブルや手待ち、新人作業員による「例外的な遅れ」を表しています。
ステップ3:平均値ではなく「最頻値(モード)」を見る
ここで重要なのが、平均値ではなく「最頻値(モード)」に着目することです。 最頻値とは、ヒストグラムの山が一番高いところ、つまり「最も頻繁に出せているタイム」のことです。 これこそが、その工程における「本来の実力値」です。トラブルなく、普通に作業すればこの時間でできる、という証明でもあります。
この最頻値をベースに余裕率を加味して基準工数を設定すれば、現場に対してこう説明できます。 「これは理想論ではなく、皆さんが一番多く出している実績タイムですよ」 これなら、現場も「ぐぬぬ、確かにその通りだ」と納得せざるを得ません。
第3章:【事例紹介】データ分析で「甘い基準」を見直し、生産性を向上させた事例
実際にこの統計的アプローチを用いて、基準工数の見直しと生産性向上に成功した企業の事例をご紹介します。
事例:切削加工を行うT社
【抱えていた課題】 T社では、ある主力製品の切削工程において、標準工数(基準)を「2.5分/個」と設定していました。 しかし、現場の達成率は平均65%程度と低迷。「基準が厳しすぎる」という現場の声に押され、工場長は基準を緩めるべきか悩んでいました。
【実施した分析】 そこで、タブレットで収集した直近100回分の作業実績データをもとに、ヒストグラムを作成しました。 すると、驚くべき事実が見えてきました。
- データの分布: バラつきはあるものの、実は「2.0分~2.2分」で完了している回数が最も多かった(最頻値)。
- 平均値を押し上げている要因: 一方で、4分以上かかっているデータが散見され、これが平均値を悪化させていた。
【導き出された結論】 「基準が厳しい」というのは現場の思い込みでした。実際には、多くの回数で基準(2.5分)より早いタイム(2.2分前後)を出せていたのです。 問題は、時々発生する「異常に遅い作業(4分超え)」にありました。これらは、刃具の摩耗による調整時間や、材料のチャッキングミスによるやり直しが原因でした。
【実行した対策】
- 基準の改定: データを根拠に、標準工数を逆に厳しく(2.5分 → 2.2分)設定しました。ただし、これは「最頻値」であるため、普通にやれば達成可能な数字です。
- バラつきの排除: 「4分以上かかっている時」の原因を潰しました。具体的には、刃具交換のタイミングをルール化し、チャッキング治具を改良してセットミスを防ぎました。
【成果】 基準を厳しくしたにもかかわらず、現場は「自分たちの実績値」であるため納得して受け入れました。 さらに、バラつきの原因を取り除いたことで、安定して2.2分前後で生産できるようになり、結果として基準達成率は65%から85%へと劇的に向上しました。 「厳しすぎる」と思われていた目標が、データ分析によって「適切な目標」へと変わり、現場のポテンシャルを引き出したのです。
第4章:適正な基準工数がもたらす「3つの経営メリット」
基準工数が適正化されることは、単に現場の管理がしやすくなるだけでなく、経営全体に大きなインパクトを与えます。
1. 見積もりの精度向上による「利益確保」
多品種少量生産において、見積もりの精度は生命線です。 基準工数が実態(最頻値)と合致していれば、「赤字にならないギリギリの価格」や「利益を乗せた攻めの価格」を自信を持って提示できます。 「やってみたら赤字だった」という事故を防ぎ、確実に利益を積み上げることができるようになります。
2. 生産計画の精緻化による「納期遵守」
「標準では1時間かかる」として計画を立てていたものが、実際には45分で終わったり、逆に90分かかったりすれば、計画はすぐに破綻します。 バラつきを考慮した正しい基準工数をマスターに登録することで、「ズレない生産計画」を立案できるようになります。 これにより、無駄な待ち時間が減り、納期回答の精度が上がり、顧客からの信頼獲得に繋がります。
3. 公平な評価による「モチベーション向上」
冒頭で述べたように、基準が曖昧だと評価も曖昧になります。 統計的に導き出された基準があれば、「この製品は難しいから時間がかかっても仕方ない」という言い訳は通用しなくなります。逆に、難しい製品でも基準より早く仕上げた人は高く評価されます。 「難易度に応じた公平なものさし」ができることで、職人のモチベーションは上がり、技術研鑽への意欲が高まります。
第5章:6ヶ月で実現する「基準工数最適化」ロードマップ
「統計分析なんて難しそうだ」と感じる必要はありません。 今は優れたツールがあり、専門家のサポートがあれば、短期間で仕組みを構築できます。
Step 1:データ収集環境の構築(1~2ヶ月目)
まずは現場にタブレットやRFIDなどのIoTツールを導入し、実績データを自動収集できる環境を整えます。 ここで重要なのは「現場に負担をかけないこと」。タップするだけ、かざすだけの簡単な仕組みにします。
Step 2:データの蓄積と可視化(3~4ヶ月目)
データを蓄積し、BIツールを使ってヒストグラムや散布図を作成します。 製品ごと、工程ごとの「実力値(最頻値)」と「バラつきの大きさ(標準偏差)」を可視化し、現状の基準値との乖離を確認します。
Step 3:基準の改定と運用定着(5~6ヶ月目)
分析結果をもとに、新しい基準工数を設定します。 いきなり全てを変えるのではなく、主要製品から順次適用します。現場にはデータを示しながら説明し、納得を得た上で運用を開始します。 その後も定期的にデータを見直し、基準をアップデートするサイクル(PDCA)を定着させます。
私たちが提供するコンサルティングプログラムでは、これらのステップを月額定額の支援の中で一貫してサポートします。ツールの選定から分析レポートの作成、現場への説明補助まで、貴社のパートナーとして伴走します。
結び:「一品一様だから管理できない」は、ただの思い込みだった
「多品種少量だから仕方がない」 この言葉は、思考停止の合図です。 たとえ一品一様であっても、作業要素に分解すれば共通項はあり、データが集まれば法則性は見えてきます。
バラつきがあるからこそ、データが必要なのです。 バラつきがあるからこそ、そこに改善のチャンス(宝の山)が埋まっているのです。
- 現場の実態に即した、正しい基準工数を作りたい
- 見積もりの精度を上げ、利益体質に変えたい
- データに基づいて、現場と建設的な議論がしたい
そうお考えの工場管理者様。 まずは、御社の現場データを少しだけ採ってみませんか? そこには、今まで見えていなかった「真実」が必ず映し出されます。
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「自社の生産形態でもデータは取れるのか?」「実際の分析画面を見てみたい」という方に、無料の個別相談を実施しています。 統計的アプローチによる工数設定の具体例もご覧いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。



