記事公開日:2026.01.08
最終更新日:2026.01.08
【特集】システムは「現場」だけのものではない。生産管理の成否を握る、技術部という「真の司令塔」

目次
なぜ、高額なシステムが「ただの箱」と化すのか?
「数億円をかけて最新の生産管理システムを導入したのに、在庫が合わない」 「計画通りにモノが作れない」 「結局、現場はExcelで管理している」
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、こうした嘆きは後を絶ちません。多くの企業が、システム導入の失敗原因を「現場の入力ミス」や「システム会社の理解不足」に求めがちです。しかし、数多くの事例を紐解くと、そこには意外な共通点が見えてきます。
それは、「技術部(設計・開発部門)の不在」です。
多くのエンジニアにとって、生産管理システムは「生産管理課が納期調整をするためのツール」や「購買課が発注するためのツール」に見えるかもしれません。
「自分たちの仕事はCADで最高の図面を描くことだ。その後の管理は別部署の仕事だ」
——もし、技術部全体にそのような空気が流れているとしたら、その企業のシステム導入は高い確率で失敗します。
なぜなら、生産管理システムという巨大なエンジンを動かすための「燃料」を供給できるのは、世界中で唯一、技術部だけだからです。本稿では、一般的に過小評価されがちな「生産管理システムにおける技術部の役割」を深掘りし、なぜ技術部こそが工場のコントロールタワーであるのかを解き明かします。
第1章:すべての源流(ソース)を握る権限と責任
生産管理システムは、突き詰めれば「何を、いつまでに、いくつ作るか」を計算し、指令を出す仕組みです。しかし、この計算を行うためには、絶対不可欠な「前提条件」があります。
- 何を作るのか?(品目情報)
- 何を使って作るのか?(部品表:BOM)
- どうやって作るのか?(工順・プロセス)
- どれくらいの時間がかかるのか?(標準時間)
これらすべての情報の「発生源」はどこでしょうか? そう、すべて技術部です。
「標準時間(ST)」が狂えば、経営が狂う
例えば、「標準時間(Standard Time)」の設定を例に取ってみましょう。技術部が設定した標準時間が、実力値よりも甘く(長く)設定されていたとします。 システムはその時間を正として計算するため、「1日にこれだけしか作れない」と判断し、本来なら不要な残業計画を立てたり、受けられるはずの注文を「納期に間に合わない」と断ったりすることになります。 逆に、厳しすぎる(短い)時間を設定すれば、現場は常に遅延状態となり、リカバリーのための特急手配で物流費が嵩みます。
つまり、技術部がシステムに入力する「数字ひとつ」が、工場の稼働率を決定づけ、会社の利益率を左右するのです。これは単なるデータ登録作業ではありません。「工場の能力(キャパシティ)を定義する」という、極めて経営的な行為なのです。
マスタデータはシステムの「DNA」
不正確な図面から良い製品が生まれないのと同様に、不正確なマスタデータからは正しい生産計画は生まれません。 技術部が整備する品目マスタやBOMは、システムの「DNA」です。もしここに欠損やエラー(例えば、親子関係のループや、存在しない部材の指定)があれば、その欠陥は購買・製造・出荷・経理という全工程に複製され、増幅されます。 「後で現場が直してくれるだろう」という甘えは許されません。システムの世界では、源流である技術部が流した水が、そのまま下流まで届くからです。
第2章:「E-BOM」と「M-BOM」の壁を越える
生産管理システム導入において、技術部と生産管理部の間で最も激しい火花が散るのが、BOM(部品表)の問題です。
設計者がCADで作る部品表は「E-BOM(Engineering BOM)」と呼ばれ、「機能」を中心に構成されています。 「ここから先はAユニット、ここからはBユニット」といった機能ごとのまとまりは、設計図としては正解です。しかし、製造現場がシステムで必要とする「M-BOM(Manufacturing BOM)」は、「作る順序」で構成されていなければなりません。
現場には「見えない部品」がある
例えば、塗装工程を想像してください。設計図面上、塗装は「部品の属性(色指定)」として表現されることが多いですが、生産管理システム上では「塗料」という材料が必要であり、「塗装」という工程が必要です。 また、組立の途中で一時的に保管される「中間仕掛品(サブアッセンブリ)」も、設計図には現れませんが、システム上では管理対象として品番を振る必要があります。
ここで技術部が、「E-BOMを渡したんだから、あとはそっちでやってくれ」と突き放すとどうなるでしょうか。生産管理担当者が、図面を見様見真似でM-BOMを作り直すことになります。
技術的な意図を完全に理解していない担当者がBOMを再構築する
——ここに、「誤発注」や「工程抜け」という悲劇の種がまかれます。
「製造」を設計する
優秀な技術部は、この変換プロセスに深く関与します。「この設計なら、工程はこう流れるはずだ」「ここで中間在庫を持つなら、この単位でBOMを区切るべきだ」と、製品そのものだけでなく「作り方(Manufacturing)」まで設計するのです。生産管理システムを使いこなす技術部は、CAD上のBOMがどのようにシステム内で展開され、現場の指示書や発注書に変わるかを理解しています。この「想像力」こそが、手戻りのないスムーズな量産立ち上げを実現します。
第3章:原価という「通知表」を受け取る勇気
「いいモノを作れば売れる」時代は終わり、「いいモノを、適正なコストで作らなければ生き残れない」時代になりました。 生産管理システムは、実は「巨大な原価計算機」でもあります。
部品費、労務費(工数×賃率)、外注費、経費。これらを積み上げた結果が、製品の原価です。技術部にとって、生産管理システムを見ることは、自らの設計に対する厳しい「通知表」を受け取ることを意味します。
コストの8割は設計で決まる
製造業の定説として、「製品コストの80%は設計段階で決定する」と言われています。一度図面が出図され、金型が作られ、ラインが組まれてしまえば、現場の努力(カイゼン)で削減できるコストは残りの20%に過ぎません。
しかし、多くの設計者は、自分が引いた一本の線が、最終的にいくらのコストになったのかを正確に把握していません。生産管理システムは、その答えを持っています。 「予定していた標準原価」と、実際に製造にかかった「実際原価」。この差異(原価差異)をシステム上でモニタリングすることこそ、技術部の重要な役割です。
- なぜ、この部品は予定より高くついたのか?(歩留まりが悪い形状だったのか?)
- なぜ、この工程は予定より時間がかかったのか?(公差が厳しすぎて調整に手間取ったのか?)
システムが吐き出すこれらのデータを、経理部任せにしてはいけません。技術部が自らデータを取りに行き、「金銭的価値」という視点で設計を見直す(Design to Cost)。これができる技術部を持つ企業は、利益体質が劇的に強くなります
第4章:設計変更(設変)という荒波をコントロールする
製造業の現場を最も混乱させるイベント、それが「設計変更(設変)」です。 「品質向上のため」「部品枯渇のため」「コストダウンのため」、理由は様々ですが、図面が変わるということは、現場にとっては一大事です。
- 古い部品の在庫はどうするのか?(廃棄か、使い切りか)
- 仕掛中の製品はそのまま進めていいのか?
- 金型の修正はいつ行うのか?
ここでも、生産管理システムにおける技術部の操作が鍵を握ります。
設変のタイミングをシステムで指揮する
紙の「設変通知書」を回覧するだけでは、現代のスピードにはついていけません。技術部はシステム上で、設変の適用日や適用号機(シリアルNo.)を正確に指定する必要があります。 「在庫がなくなったら自然に切り替える(ランニングチェンジ)」のか、「○月×日の生産分から強制的に切り替える」のか。このフラグ一つをシステムで制御することで、無駄な廃棄ロス(死蔵在庫)防ぐことができます。
また、システム上で「版数(リビジョン)」を厳格に管理することで、誤って古い図面で発注してしまうリスクを排除します。技術部は、システムを通じて「時間の流れ」をコントロールしていると言っても過言ではありません。
第5章:品質改善とIoTへの架け橋
最後に、これからの生産管理システムにおいて最も期待される役割、それが「品質(Quality)」との連携です。 従来の生産管理システムは「量(Quantity)」と「納期(Delivery)」の管理が主でしたが、近年は品質データやIoTデータとの統合が進んでいます。
「経験と勘」からの脱却
現場で発生した不良情報が、日報という「紙」に埋もれていませんか? 生産管理システムに不良の内容、発生工程、原因コードが正しく入力されれば、それは技術部にとって宝の山となります。
「特定のサプライヤーの部品を使った時だけ、組立不良率が上がる」
「気温が低い日は、寸法のばらつきが大きい」
こうした相関関係は、人間の感覚だけでは気づきにくいものです。システムに蓄積されたビッグデータを技術部が分析することで、設計の弱点が見えてきます。 さらに、設備から直接データを吸い上げるIoT連携が進めば、「金型のショット数が限界に近づいたので、予備型を手配する」といった予知保全も可能になります。
技術部が生産管理システムに関与するということは、「現場の事実」をデータとして吸い上げ、次の設計に活かす「学習サイクル」を回すということです。このサイクルが回らない限り、同じような不良を繰り返す「モグラ叩き」からは永遠に抜け出せません。
技術部こそが、最強のユーザーであれ
生産管理システムは、もはや「生産管理部のための事務処理ツール」ではありません。それは、企業のエンジニアリング・チェーン(設計〜製造)とサプライ・チェーン(調達〜出荷)を結節させる、巨大なプラットフォームです。
そのプラットフォームに、 魂(設計思想)を吹き込み、 血液(正確なデータ)を流し、 健康状態(コスト・品質)を診断する。
これらすべてを行えるのは、製品のことを最も深く理解している技術部だけです。
技術部の皆さん。「システムへの入力作業」を、面倒な雑務だと捉えるのは今日で終わりにしましょう。それは、あなたの設計した製品が、世界で最も効率よく、最も高品質に、最も適正なコストで世に出るための「製造プロセスのプログラミング」なのです。
キーボードを叩くその指先は、CADで線を引くときと同じくらい、企業の未来を創り出しています。技術部こそが、生産管理システムの最強のユーザーとなり、製造現場をリードしていく。その意識変革が起きたとき、真の「強いモノづくり」が実現するはずです。
【次のステップ】
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