記事公開日:2025.12.08
最終更新日:2025.12.08
【GX-ETS時代】中小製造業における「環境情報の見える化」をどう設計すべきか

お世話になっております。船井総研のGAOです。
GX(グリーントランスフォーメーション)やカーボンニュートラルに関するニュースを見ない日はなくなってきましたが、「自社は中小なので、まだ先の話だ」と感じていらっしゃる経営者やご担当者も多いのではないでしょうか。
しかし、2026年度から本格稼働するGX-ETS(排出量取引制度)や、資源有効利用促進法の改正の流れを踏まえると、「様子を見る」という姿勢は、将来的な受注機会の喪失につながりかねません。GX時代のルールは、静かに、しかし確実にサプライチェーン全体へ波及しつつあります。
1. GX-ETSと資源有効利用促進法改正のポイントを押さえる
政府はGX(グリーントランスフォーメーション)を国家戦略として位置づけ、2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年カーボンニュートラルに加え、2035年60%削減という中間目標も掲げています。(出典:経済産業省_2023年次報告)
その実現手段の一つとして、2026年度から一定規模以上の排出事業者に参加を義務付けるGX-ETSが導入される予定です。これは、政府が企業に排出枠を割り当て、余った枠を売却したり、不足分を購入したりできる「キャップ&トレード」の仕組みであり、排出量を減らすほど経済的メリットが出る設計になっています。
同時に、資源有効利用促進法の改正では、特定製品について再生資源利用の義務化や、環境配慮設計に関する報告義務の導入が検討されています。一定規模以上の製造事業者には、再生資源利用計画の提出や定期報告が求められる方向です。
現時点では、GX-ETSの直接対象は大企業が中心であり、多くの中小企業は「制度の外側」に見えるかもしれません。しかし、その影響は確実に取引先を通じて中小・中堅企業へと降りてくることが想定されます。
2. 直接の対象外でも、サプライチェーン経由で要求が降りてくる
GX-ETSの対象となる大企業は、自社工場の排出量だけでなく、原材料・部品調達先も含めたサプライチェーン全体の排出削減を求められるようになります。その結果として、Tier1・Tier2サプライヤーである中小・中堅製造業には、例えば次のような要請が増えていくと考えられます。
- 製品・部品ごとのCO₂排出量(原単位)の提示
- 再生材使用比率や材料種別など、環境属性に関する情報提供
- 年次の排出実績や削減計画の報告への協力
こうした要請に対して、社内のデータが紙やExcelに散在しており「すぐには出せない」「見積書は用意できるがCO₂排出量は計算できない」という状態が続きますと、将来的に「選ばれにくいサプライヤー」になってしまうリスクがあります。
逆に言えば、環境情報をスムーズに提示できる企業は、GX時代において「取引しやすいパートナー」として評価される可能性が高まります。ここで鍵になるのが、単なる省エネの努力ではなく、「どの製品・どの工程が、どれくらいCO₂を出しているのか」を定量的に説明できる仕組みであり、その土台となるのがERPや生産管理システムといった基幹システムです。
3. GX時代の基幹システムに求められる「見える化」設計
GX対応というと、「専門ツールが必要」「LCA(ライフサイクルアセスメント)を細かくやらないといけない」といった、高いハードルをイメージしがちです。
しかし、中小・中堅製造業がまず押さえるべきポイントは、既存の基幹システム設計を少し変えることです。ここでは三つに整理してご紹介します。
- 品目マスタに“環境の顔つき”を持たせる
第一歩として、品目マスタに次のような項目を追加することが考えられます。- 主な材料種別(鉄・アルミ・樹脂など)
- 再生材使用比率(例:30%リサイクル材使用)
- 代表的なCO₂排出原単位(エネルギー使用量から算出した概算値でも可)
最初から全品目を網羅する必要はありません。エネルギー多消費工程を含む製品や、既に取引先から環境情報の要請が来ている品番から着手することが、現実的で負荷も抑えやすい進め方です。
- 生産実績データとの紐付けを設計する
次に重要になるのが、登録した環境情報を生産実績と結び付けて集計できる構造です。- 製造指図・生産オーダー単位で、品目・数量・工程別実績を記録する
- 工程ごとの稼働時間やエネルギー使用量を、可能な範囲で紐付ける
- 「生産数量 × CO₂原単位」で、期間別・品目別の概算排出量を算出できるようにする
ここまで設計できていれば、「この製品群の年間CO₂排出量を教えてほしい」といった依頼にも、基幹システムのデータをベースにExcelやBIツールで比較的スムーズに対応できるようになります。
- レポーティングと将来拡張を最初から意識する
GX関連の報告フォーマットや要求される粒度は、今後も変化していくと考えられます。そのため、はじめから“完璧な帳票”を作り込むのではなく、次のような考え方が有効です。- 基幹システム側では「品目別・工程別の原データ」を正しく持つことを優先する
- 帳票や集計の形は、当面はBIツールやExcel連携で柔軟に出し分ける
- 将来的に専用のGX管理ツールやLCAツールと連携できるよう、IDやコード体系を整えておく
といった考え方が有効です。
まとめ
紙やExcelに散らばっている環境関連情報を、どこまで基幹システムに“昇格”させるかを一度整理し、「①環境情報のマスタ化 → ②実績データとの紐付け → ③レポーティングと外部連携」という三段階で設計していくことが、中小・中堅製造業にとって現実的なアプローチだと考えます。
弊社の「基幹システムグランドデザイン」では、こうしたGX・サステナビリティ要件を、販売・生産・原価・在庫といった業務プロセス全体の設計の中に織り込みながら、「いま必要な見える化」と「数年先を見据えた拡張性」の両立をご支援しています。
GX-ETSや法改正への“受け身の対応”ではなく、自社の強みを活かした環境経営を実現するために、次期ERP・基幹システムをどのようなグランドデザインで構想していくか――まさに今、その検討を始めていただくタイミングに来ているといえるのではないでしょうか。


