記事公開日:2026.01.07
最終更新日:2026.01.07
なぜ今、Industry 5.0なのか?欧州発「人機一体」が日本の製造現場に必要な真の理由

Industry 5.0とは?完全自動化を目指した4.0との違いや、協働ロボットを活用した「人間中心」のアプローチがなぜ今、日本の製造業に必要なのかを徹底解説。人手不足解消とウェルビーイングを実現し、強い工場を作るための戦略と導入ステップを紹介します。
目次
はじめに
「工場を完全無人化すれば、生産性は最大化される」──。
かつてIndustry 4.0が掲げたこの理想郷に対し、今、現場ではある種の「疲れ」や「違和感」が生じていないでしょうか。
多額の投資をして自動化ラインを導入したものの、細かな仕様変更に対応できない。トラブルが起きると復旧に時間がかかる。そして何より、現場から熟練工の「知恵」が失われていく。これらは、技術主導のDXが直面している共通の壁です。
そんな中、欧州を中心に新たな概念「Industry 5.0」が提唱され、世界中の製造業が注目しています。これは単なる4.0のバージョンアップではありません。「自動化」から「人間中心」へ。行き過ぎた効率化を見直し、人とロボットが賢く共存することで、より強く、持続可能な工場を作るというパラダイムシフトです。
本記事では、Industry 5.0の本質的な定義から、Industry 4.0との決定的な違い、そしてなぜ今、この概念が日本の製造現場にとって「救世主」となり得るのかを解説します。
1. Industry 5.0とは何か?定義と3つの核心的価値
1-1. 欧州委員会が提唱した「人間中心」へのパラダイムシフト
Industry 5.0は、2021年に欧州委員会(European Commission)によって正式に定義されました。その最大の特徴は、技術そのものではなく、「産業が社会や働き手に何をもたらすか」という視点に立っている点です。
これまでのIndustry 4.0は、IoTやAIを駆使して「効率」を極限まで高めることが主眼でした。対してIndustry 5.0は、その効率化された技術を土台にしつつ、「技術は人のためにある」という原点に回帰します。ロボットが人の仕事を奪うのではなく、ロボットが人の負担を減らし、人がより創造的な業務に注力できる環境を作る。これがIndustry 5.0の世界観です。

1-2. Industry 5.0を支える3つの柱(人間中心、サステナビリティ、レジリエンス)
この新しい概念は、以下の3つの柱(コアバリュー)によって支えられています。
- 人間中心(Human-centric):
プロセスの中に「人」を配置し、人のニーズや多様性を尊重するアプローチです。単なる労働力としてではなく、投資対象として人を捉えます。 - サステナビリティ(Sustainability):
地球環境への配慮です。エネルギー効率の向上や廃棄物の削減など、循環型経済(サーキュラーエコノミー)への対応が求められます。 - レジリエンス(Resilience):
予期せぬ変化に対する「回復力」です。パンデミックやサプライチェーンの寸断といった危機に対し、柔軟に対応できる強靭な生産体制を指します。
1-3. 利益追求だけでなく、働く「人」と「地球」への配慮
従来の製造業は「株主価値(利益)」の最大化が最優先でした。しかし、Industry 5.0では「ステークホルダー価値」へと視座が広がります。働く従業員の幸福(ウェルビーイング)や、地球環境への負荷低減も、利益と同様に重要なKPIとなります。
一見、理想論に聞こえるかもしれません。しかし、人手不足が深刻化し、環境規制が厳しくなる現代において、これらを無視した企業は存続自体が危ぶまれる時代になりつつあるのです。
2. Industry 4.0との違い──「対立」ではなく「進化」
2-1. 【比較図解】効率化・自動化の4.0 vs 価値創造・協働の5.0
多くの人が抱く疑問が「Industry 4.0はもう古いのか?」という点です。結論から言えば、古くはありません。Industry 5.0は、Industry 4.0の技術的基盤の上に成り立つものだからです。
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
| 比較項目 | Industry 4.0 (第4次産業革命) | Industry 5.0 (第5次産業革命) |
| 主役・焦点 | 技術・システム (IoT, AI, Cyber-Physical Systems) | 人間・社会 (Human-centric, Societal goals) |
| 目的 | 生産効率の最大化、自動化、無人化 | 従業員のウェルビーイング、持続可能性、強靭性 |
| 人との関係 | 人の作業を機械が代替する (Replacement) | 人と機械が協力・協働する (Collaboration) |
| 生産の形 | マスカスタマイゼーション (大量生産の効率で個別対応) | ハイパーカスタマイゼーション (人の感性を加えた個別対応) |
| キーワード | スマートファクトリー、つながる工場 | スーパー・スマート・ソサエティ、人機一体 |
2-2. 4.0はもう古いのか?「技術」の上に「人間」を置くアプローチ
Industry 4.0が目指した「データの連携」や「プロセスの可視化」は、Industry 5.0を実現するためにも不可欠です。データがない状態で人を中心に据えても、単なるアナログへの逆戻りになってしまうからです。
重要なのは、集めたデータや導入したロボットを「何のために使うか」という目的の再定義です。
「コスト削減のためにロボットを入れる(4.0的発想)」から、「熟練工の身体的負担を減らし、彼らの技術を長く活かすためにロボットを入れる(5.0的発想)」へと、活用の哲学を進化させる必要があります。
2-3. 完全無人化(Lights-out)から、人が介在する賢い工場へ
Industry 4.0の究極形として語られた、照明さえ不要な完全無人工場(Lights-out Factory)。しかし、テスラのイーロン・マスク氏が「過剰な自動化は間違いだった。人間を過小評価していた」と認めたように、完全無人化には柔軟性の欠如というリスクがあります。
Industry 5.0では、変化への対応力を持つ「人」をプロセスに戻します。AIがデータを分析し、ロボットが重作業を行いますが、最終的な判断や微細な調整、創造的な改善は「人」が担う。このハイブリッドな体制こそが、これからの工場のあるべき姿です。
3. なぜ今、日本の製造現場にこそIndustry 5.0が必要なのか
3-1. 「自動化の限界」と深刻化する人手不足・技能継承問題
日本の製造業における最大の課題は、少子高齢化による労働力不足と、匠の技を持つベテランの引退です。「人を採用できないから自動化する」というのは一つの解ですが、すべての工程を自動化するには莫大なコストがかかります。また、多品種少量生産が求められる現場では、ロボットのティーチング(教示)工数が膨大になり、かえって非効率になるケースも散見されます。
ここで「自動化の限界」に直面した企業こそ、Industry 5.0のアプローチが突破口になります。
3-2. 日本の強み「カイゼン・現場力」と「人機一体」の高い親和性
実は、Industry 5.0の「人間中心」という考え方は、日本企業が長年大切にしてきた「現場力」や「カイゼン」と極めて親和性が高いものです。
欧米がトップダウンでシステムを導入するのに対し、日本は現場の作業者が知恵を出し合い、ボトムアップで改善を積み重ねてきました。この「人の力」を、デジタル技術でエンパワーメント(能力拡張)する。これこそが、日本版Industry 5.0の勝ち筋です。
以下の図は、日本の強みとIndustry 5.0の関係性を示したものです。
3-3. コスト削減の限界を突破する「付加価値」の創出
「乾いた雑巾を絞る」ようなコスト削減は、もう限界に来ています。これからは「付加価値」で勝負しなければなりません。
Industry 5.0では、人の感性や創造性を製品に反映させる「ハイパーカスタマイゼーション」が可能になります。
例えば、ロボットがベースを作成し、最後の仕上げや微調整を熟練工が行うことで、量産品並みのコストで工芸品のような品質を実現する。このように、人と技術が融合することで、コスト競争から脱却し、独自の価値を生み出すことができるのです。
4. 実現のためのキーテクノロジーと「ウェルビーイング」
4-1. 協働ロボット(Cobot):柵を取り払い、隣で働くパートナー
Industry 5.0の象徴とも言える技術が「協働ロボット(Collaborative Robot / Cobot)」です。
従来の産業用ロボットは、安全柵の中で隔離されて稼働していましたが、協働ロボットは人と同じ空間で、人の隣で作業をします。
- 安全停止機能: 人が触れると自動で停止するため、柵が不要。
- 省スペース: 既存のラインに後付けで導入しやすい。
- ダイレクトティーチング: 専門的なプログラミング知識がなくても、作業員がロボットのアームを直接動かして動作を教えられる。
これにより、「重い部品を持ち上げる」「単調なネジ締め」などの苦役をロボットに任せ、人は検査や段取りなどの高度な作業に集中できるようになります。
4-2. AI・デジタルツイン:人の能力を拡張し、意思決定を支援する
AIやデジタルツイン(仮想空間でのシミュレーション)も、人を助けるために活用されます。
例えば、熟練工の「カン・コツ」をAIが学習し、若手作業員にARグラスを通じて指示を出すことで、技能伝承をスムーズにします。また、デジタルツイン上で生産計画のシミュレーションを行うことで、工場長はリスクを事前に察知し、迅速で的確な意思決定が可能になります。
AIは人を支配するのではなく、人の判断能力を拡張する「最強のアシスタント」として機能します。
4-3. 従業員のウェルビーイング(幸福)がもたらす生産性向上と人材定着
「ウェルビーイング(Well-being)」は、これからの製造業経営において避けて通れないキーワードです。
きつい・汚い・危険の「3K」職場からは、若者は離れていきます。
Industry 5.0を推進し、テクノロジーによって身体的・精神的負荷を軽減することは、従業員のエンゲージメント(働きがい)を劇的に高めます。「この会社は自分たちの健康や働きやすさを大切にしてくれている」という実感は、離職率を下げ、優秀な人材を引き寄せる採用ブランディングにも直結します。
5. Industry 5.0への転換を成功させるための課題とステップ
5-1. 単なる設備導入ではない──組織文化とプロセスの再設計
「協働ロボットを買えばIndustry 5.0になる」わけではありません。最も難しいのは、ハードウェアの導入ではなく、組織文化の変革です。
現場には「今まで通りのやり方」への固執があります。「ロボットなんかに任せられない」という抵抗感を解きほぐし、「ロボットは敵ではなく、あなたの仕事を楽にする相棒だ」というマインドセットを醸成する必要があります。これには、経営層からの明確なメッセージと、現場を巻き込んだ対話プロセスが不可欠です。
5-2. 自社に最適な「人とデジタルのバランス」を見極める難しさ
どこまでを自動化し、どこからを人が担うか。この「境界線」の設計には正解がありません。
製品の特性、生産ロット、現場のスキルレベルによって最適なバランスは異なります。
過剰なデジタル化はコスト高になり、逆に中途半端な導入では効果が出ません。自社の現状(As-Is)を正確に把握し、目指すべき姿(To-Be)を描いた上で、費用対効果の合うロードマップを策定する高度な設計能力が求められます。
5-3. 現場と経営をつなぐ「全体設計」の重要性
Industry 5.0の実現には、現場(OT)とIT部門、そして経営層の三位一体の連携が必要です。
しかし、多くの企業では部門間の壁(サイロ化)があり、全体最適の視点が欠けています。現場の痛みを知らないIT導入や、投資対効果ばかり気にする経営判断が、プロジェクトを頓挫させる原因となります。
6. まとめ:次世代の製造業へ導くパートナー選び
Industry 5.0は、日本の製造業が再び世界をリードするための大きなチャンスです。「人」を大切にし、現場の知恵を活かすこのコンセプトは、まさに日本企業のためにあると言っても過言ではありません。
しかし、その道のりは平坦ではありません。「自動化の限界」を見極め、人とロボットの最適な役割分担を設計し、組織文化まで変革するには、客観的な視点と豊富な経験を持つ専門家のサポートが有効です。
- 今の自動化戦略に行き詰まりを感じている
- 協働ロボットを導入したが、うまく活用できていない
- 「人」中心のDXをどう進めればいいかわからない
もし、このような課題をお持ちであれば、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。
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