記事公開日:2024.12.17
最終更新日:2024.12.17
【2025年時流予測】印刷・製本・製紙業界の未来展望・データ活用戦略
本コラムをお読みいただきありがとうございます。船井総合研究所の熊谷俊作です。
目次
1.はじめに
印刷・製本・製紙業界を取り巻く環境は、デジタル化の波や顧客ニーズの多様化、そして原材料価格の高騰など、多くの課題に直面しています。特に印刷業界では、事業所数、出荷額、売上高が右肩下がりで、業界全体が縮小傾向にあることは周知の事実です。しかし、厳しい市場環境下でも、データ活用によって収益を改善し、持続的な成長を遂げている企業も存在します。
本コラムでは、印刷・製本・製紙業界全体におけるデータ取得・可視化の重要性について解説し、2025年に向けた具体的な戦略と成功事例をご紹介します。
2.業界現状の深掘り:深刻化する収益悪化の要因
印刷・製本・製紙業界は、長年、需要の減少、価格競争の激化、デジタル化の進展といった課題に直面してきました。 特に印刷業界においては、2002年の事業所数を100%とした場合、2021年には37.0%まで減少しており、業界全体の縮小傾向が顕著です。 出荷額も減少傾向にあり、2002年の出荷額を100%とした指数は、2021年には64.0%まで落ち込んでいます。 売上高も2008年以降減少傾向が続いており、2023年には前年比約9.1%の減少となりました。
これらの要因に加え、近年では原材料価格や人件費の高騰が収益を圧迫する大きな要因となっています。 特に、人件費の上昇分を見積価格に反映させることが難しく、価格交渉が難航しているケースが多く見られます。
収益悪化の根本的な原因は、多くの企業で正確な原価管理が実施できていない ことにあります。 実際にかかった原価、特に実際にかかった直接労務費を正しく把握できていないため、どの製品がどれだけの利益を生み出しているのか、あるいは赤字になっているのかを把握することが困難になっています。
その結果、事実上不採算となってしまう案件の受注や、価格交渉における根拠の不足といった事態が発生し、収益悪化に拍車をかけているのです。
3.データ活用戦略深化:各工程における具体的アクションプラン
今回の2025年時流予測レポートでは、1.2.で挙げた市場動向に対して、自社が取り組むべき具体的なプランをステップごとに示しています。
本コラムでは、その一部をご紹介します。
3-1.実際原価管理の実施と見積作成体制の構築
3-1-1. データ取得基盤の強化
原価管理の精度向上には、正確な実績データの取得が不可欠です。
タブレット端末やRFID、センサーなどを活用し、製品・工程・担当者・設備・段取/加工・開始時間・終了時間・完了/終了 といったデータ項目を自動で収集する仕組みを構築する必要があります。 これにより、現場の負担をできるだけ少なくした状態で実績をデータ化することができるようになり、さらに今まで発生していた手書きによる人為的なミスを削減し、リアルタイムなデータ収集が可能になるのです。
3-1-2. 見積自動化・最適化システムの導入
実績原価に基づいた見積もりを自動作成するシステムを導入することで、見積業務の効率化と精度向上を同時に実現できます。
製品仕様情報を入力すると、単価表に基づいた最適な概算見積もりが自動出力される仕組みを構築することで、属人的な要素を排除し、より客観的な見積もりを作成することが可能になります。
3-1-3. 単価表の定期的な見直し
単価表は、現場の実態に合わせて定期的に見直すことが重要です。 材料価格や人件費の変動、生産効率の向上などを反映することで、新しい案件が来た際には実態に即した見積を提出することができるようになるため、見積精度の向上と利益確保に繋がります。
3-2. デザインAI活用によるデザイン工数の削減
3-2-1. 顧客ニーズカルテとデザイン仕様書の標準化・DB化
デザイン制作を効率化するため、顧客ニーズカルテとデザイン仕様書を標準フォーマット化し、データベース化しましょう。 これにより、顧客、営業担当者、デザイナー間での情報共有がスムーズになり、手戻りを削減できます。
3-2-2. デザインAIの導入と活用範囲の拡大
顧客の要望や過去のデザインデータに基づいてデザイン案を自動生成するAIツールを導入することで、デザイン工程の効率化とリードタイムの短縮を実現できます。
ロゴデザイン、バナー作成、レイアウト提案など、AIの活用範囲を段階的に拡大していくことで、デザイナーはより創造的な業務に集中できるようになります。
3-3. Webマーケティングによる新規顧客開拓と案件の選択と集中
3-3-1. 独自性の高いWebサイト構築とSEO対策
自社の強みや差別化ポイントを明確に訴求するWebサイトを構築し、SEO対策を徹底することで、検索エンジンからの集客力を強化しましょう。 ターゲット顧客の検索キーワードを分析し、Webサイトの内容を最適化することで、より多くの潜在顧客にアプローチできます。
3-3-2. マーケティングオートメーションの導入
Webサイトへの訪問者を追跡し、属性や行動に基づいて最適なコンテンツを自動配信するマーケティングオートメーションツールを導入することで、見込み客の育成と受注率向上を図ります。 メルマガ配信、スコアリング、行動トリガーメールなど、多様な機能を活用し、効率的な顧客開拓を実現しましょう。
3-3-3. 利益率に基づいた案件の選択と集中
Webマーケティングによって獲得した新規顧客に対しては、最適化した見積もりで受注することで利益確保を徹底します。 利益率の高い案件に優先的に取り組み、収益性の低い案件は断る勇気を持つことが重要です。
3-4. 製紙・製本業界特有のデータ活用戦略
- 製紙業界: 顧客の購買履歴や市場トレンドを分析し、ニーズに合致した特殊紙や環境配慮型製品を開発することで、高付加価値製品の販売を強化できます。
- 製本業界: オンデマンド印刷や電子書籍の需要に対応した小ロット・多品種生産体制を構築し、生産管理システムと連携することで、効率的な生産計画立案と在庫管理を実現できます。
4.成功事例から学ぶ:原価管理システム導入によるコスト削減と生産性向上
株式会社M社(製造業)の事例 では、原価管理システムの導入により、手書き日報や手動転記作業を廃止し、間接作業時間を大幅に削減しました。 リアルタイムな収支把握が可能となり、削減した工数を品質改善業務に充てることで、生産性向上を実現しています。
さらに、ノーコードstrongIツールを導入することで、データ分析の属人化を解消し、誰でも簡単にデータ分析を行える環境を整備しました。
M社の成功要因は、システム導入を単なるツール導入ではなく、業務改革の手段として捉え、担当者を巻き込んだフロー構築を行ったこと にあります。 システム導入によって、リアルタイムで原価管理・製造進捗を把握できるようになり、製品別のボトルネック工程の特定が可能となりました。
また、実績入力担当の事務員を不良入力に充てることで、情報の一元管理を実現し、生産管理システムの進捗管理機能を有効活用できるようになりました。
5.データ活用は持続的成長への鍵
印刷・製本・製紙業界を取り巻く環境は厳しさを増していますが、データ活用は企業の収益改善、効率化、そして持続的成長を実現するための強力な武器となります。本コラムでご紹介した内容を参考に、ぜひ貴社でもデータ活用を推進し、未来を切り拓いてください。
6.レポートダウンロードのお勧め
本レポートでは、印刷業界におけるデータ活用による成功事例や、2025年に向けた具体的な戦略をさらに詳しく解説しています。
市場縮小の波を乗り越え、貴社が持続的な成長を実現するためにも、データ活用はもはや避けて通れない道となっています。本レポートをダウンロードし、貴社の経営戦略策定にお役立てください。
7.最後に
印刷・製本・製紙業界にとって、適切なデータ取得・活用によるリアルタイムな経営判断が2025年にはより一層求められます。
是非、本コラムやレポート「時流予測レポート2025 (今後の見通し・業界動向・トレンド)」を参考に、自社のデータ活用戦略に役立てていただければ幸いです。
そして、船井総研では、製造業の皆様のデータ活用を支援するためのセミナーやコンサルティングサービスも提供しております。データ活用でお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
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