記事公開日:2025.04.16
最終更新日:2025.04.16

経産省の提言から考える中小製造業が取るべき工場セキュリティ ~工場セキュリティの重要性と始め方~

目次

はじめに:変革期の製造業と、忍び寄る新たなリスク

現在、日本の製造業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波、グローバル競争の激化、労働人口の減少といった大きな変化の渦中にあります。生き残りをかけ、生産性向上や新たな価値創出のために、IoT導入、スマートファクトリー化、サプライチェーン連携の強化などを進めている企業も多いのではないでしょうか。
しかし、これらの変革は、大きなチャンスであると同時に、これまで想像もしなかったような新たなリスクをもたらします。それが「工場におけるセキュリティリスク」です。かつては「うちは大手じゃないから狙われない」「工場は閉鎖的な環境だから大丈夫」といった考えが通用した時代もありました。
しかし、今は違います。

サイバー攻撃はますます巧妙化・悪質化し、企業の規模を問わず、あらゆる組織を標的にしています。
特に製造業は、事業停止が甚大な損害に直結するため、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)などの格好の標的となりやすいのです。
さらに、工場システムがインターネットに接続されることで、サイバー空間の脅威が、生産ラインの停止や誤作動といった物理的な被害(フィジカルな被害)に直結する「サイバー・フィジカル・リスク」が現実のものとなっています。

このような状況下で、経済産業省は2025年4月、中小製造業が工場セキュリティ対策を進める上での指針となる重要な文書を新たに公開しました。
具体的には、まず全体的な取り組みの指針を示す「中小規模の製造事業者向け 工場のセキュリティ確保のための解説書」の策定を発表し、それに加えて、より技術的な側面に踏み込んだ「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」を提示しています。(※本記事では、これら2つを合わせて解説します。)

「また新しいガイドラインか・・・」
「日々の業務で手一杯なのに、セキュリティまで手が回らない・・・」

そう思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは国が中小製造業のセキュリティ対策の重要性と緊急性を認識し、具体的な支援策として打ち出した「羅針盤」であり、無視することはできません。

本記事では、これらの経済産業省の発表内容を分かりやすく解説し、中小製造業の経営者の皆様が「具体的に何をすべきか」を明確に示します。

この記事を読むことで、皆様は以下のことを得られます。

  • なぜ今、工場セキュリティが経営課題なのか、その本質的な理由
  • 経済産業省が発表した解説書とガイドラインの要点
  • 自社で取り組むべき具体的な7つのステップ
  • セキュリティ対策における外部専門家の価値

これは皆様の会社の未来を守り、持続的な成長を実現するための重要な投資に関する情報です。
ぜひ最後までお付き合いください。

中小規模の製造事業者向けに工場のセキュリティを確保するための具体的な手順や事例を紹介する解説書を策定しました
https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250411005/20250411005.html

第1章:なぜ今、工場のセキュリティ対策がこれほどまでに急務なのか?

「うちは大丈夫」という思い込みが、ある日突然、事業継続の危機を招く可能性があります。
なぜ、これほどまでに工場セキュリティの重要性が叫ばれているのでしょうか?
その背景にある深刻な現実を、経営者の視点から理解しておく必要があります。

1. 脅威はすぐ隣に:変化する攻撃者の手口とターゲット

  • ランサムウェアの猛威: 製造業は、生産ラインが止まることによる損害が莫大になるため、ランサムウェア攻撃者にとって「身代金を支払いやすい」ターゲットと見なされています。近年、国内外で製造業の工場がランサムウェア被害に遭い、長期間の操業停止に追い込まれる事例が後を絶ちません。復旧費用だけでなく、納期遅延による信用失墜、取引停止といった二次被害も深刻です。
  • サプライチェーン攻撃の踏み台に: 大企業はセキュリティ対策が進んでいることが多いですが、その取引先である中小企業が狙われるケースが増えています。セキュリティ対策が比較的甘い中小企業をまず侵害し、そこを踏み台にして、本来のターゲットである大企業へ侵入しようとするのです。自社が被害者になるだけでなく、取引先に迷惑をかけ、サプライチェーン全体に悪影響を与えてしまうリスクがあることを認識しなければなりません。「うちは狙われるような重要な情報はない」と思っていても、取引先への「入口」として狙われる可能性は十分にあるのです。
  • 内部不正・うっかりミスも脅威: 脅威は外部からだけではありません。従業員による意図的な情報持ち出しや、USBメモリの不用意な使用、フィッシングメールへの誤対応といった「うっかりミス」が、重大なセキュリティインシデントを引き起こすこともあります。特に、退職者による情報漏洩リスクも考慮に入れる必要があります。
  • 制御システム(OT)が新たな標的に: これまで比較的閉じた環境にあった工場の制御システム(OT:Operational Technology)が、IoT化やITシステムとの連携によって外部ネットワークと接続される機会が増えました。これにより、OTシステム特有の脆弱性を突いたサイバー攻撃のリスクが高まっています。OTシステムへの攻撃は、生産ラインの停止、設備の誤作動や破壊、最悪の場合、従業員の安全を脅かす事態にもつながりかねません。

2. 被害の甚大さ:単なる情報漏洩では済まされない経営インパクト

工場がセキュリティインシデントに見舞われた場合、その影響は計り知れません。

  • 生産停止・納期遅延: 最も直接的かつ深刻な被害です。生産ラインが停止すれば、売上機会の損失はもちろん、顧客からの信用も失います。
  • 復旧コスト: 被害を受けたシステムの調査、復旧、再発防止策の導入には、多額の費用と時間がかかります。専門家への依頼費用も高額になる傾向があります。
  • 機密情報の漏洩: 設計図、技術ノウハウ、顧客情報といった企業の競争力の源泉となる情報が漏洩すれば、事業の根幹が揺らぎます。
  • 法的責任・損害賠償: 顧客情報や取引先の情報が漏洩した場合、損害賠償請求や訴訟に発展する可能性があります。各種法令(個人情報保護法など)に基づく罰則を受けるリスクもあります。
  • レピュテーション(評判)の毀損: セキュリティインシデントを起こした企業として報道されれば、社会的信用は大きく低下し、回復には長い時間が必要です。株主、金融機関、取引先、そして従業員からの信頼も失いかねません。
  • 事業継続計画(BCP)への影響: 大規模なインシデントは、企業の存続そのものを脅かす可能性があります。

3. 中小製造業特有の課題:分かっていても進まない現実

多くの経営者がセキュリティの重要性を認識しつつも、対策が進まない背景には、中小製造業特有の課題があります。

  • 予算の制約: 限られた経営資源の中で、セキュリティ対策に十分な予算を割くことが難しい。
  • 人材不足: セキュリティに関する専門知識を持った人材が社内にいない、またはIT担当者が他の業務と兼任しており、手が回らない。
  • 知識・ノウハウ不足: 何から手をつければ良いのか分からない。自社に合った対策が分からない。
  • 古い設備・システムの存在: 更新が難しい古い制御システムなどが、セキュリティ上の弱点となっている場合がある。
  • 「自分ごと」として捉えにくい: 経営層がセキュリティリスクを「IT部門の問題」と捉え、経営課題としての認識が薄い。

これらの課題があるからこそ、国もガイドラインを示すことで後押ししようとしているのです。
そして、これらの課題を乗り越えるためにも、経営者自身がリーダーシップを発揮し、全社的に取り組むことが不可欠なのです。

第2章:経済産業省の新たな羅針盤:「解説書」と「ガイドライン」を読み解く

今回、経済産業省が提示した2つの文書は、中小製造業がセキュリティ対策という大海原を進むための「羅針盤」と言えます。
それぞれの位置づけとポイントを理解しましょう。

1. 「中小規模の製造事業者向け 工場のセキュリティ確保のための解説書」:全体像と第一歩

  • 位置づけ: こちらは、中小製造業の経営者や現場の責任者が、工場全体のセキュリティ対策を「自分ごと」として捉え、第一歩を踏み出すための入門書・手引書です。
  • 特徴:
    • 分かりやすさ: 専門用語を避け、平易な言葉で書かれています。
    • 網羅性: サイバー攻撃対策だけでなく、物理的なセキュリティ(入退室管理など)や人的な対策(従業員教育など)も含め、工場セキュリティ全体を幅広くカバーしています。
    • 具体性: 「具体的な手順」や「事例紹介」を通じて、中小企業でも取り組みやすい実践的な内容を目指しています。
    • 経営視点: セキュリティ対策を単なるコストではなく、事業継続のための「投資」として捉える視点が含まれていると考えられます。
  • 活用方法: まずはこの解説書を読み、自社の現状を大まかに把握し、どのような領域にリスクがありそうか、どのような対策から始められそうか、といった全体像を掴むために活用します。経営層と現場担当者が共通認識を持つためのツールとしても有効です。

2. 「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」:核心部への技術的アプローチ

  • 位置づけ: こちらは、解説書で示された全体像の中でも、特に重要かつ専門性が求められる**「工場システム(制御システム/OT)」のセキュリティに焦点を当てた、より技術的なガイドラインです。IT担当者や生産技術担当者、場合によっては外部の専門家が参照することを想定しています。
  • 特徴:
    • 専門性: 工場システム特有の環境(リアルタイム性、可用性重視、古いOSの存在など)を考慮した対策が記述されていると推測されます。
    • サイバー・フィジカル連携: サイバー攻撃が物理的な被害につながるリスク、物理的なアクセスがサイバー攻撃の起点となるリスクなど、サイバー空間とフィジカル空間の連携を強く意識した内容になっています。
    • 具体的な対策レベル: 例えば、ネットワーク構成(IT/OT分離)、ファイアウォール設定、制御機器のアクセス制御、脆弱性管理、ログ監視、物理的な保護策など、具体的な技術的対策や推奨事項が段階的に示されている可能性があります。
  • 活用方法: 解説書で全体像を掴んだ後、自社の工場システムの構成やリスクに応じて、このガイドラインを参照し、具体的な技術的対策を検討・実施するために活用します。特に、スマートファクトリー化を進めている、あるいは検討している企業にとっては必読の文書と言えるでしょう。

重要なポイント:2つの文書は車の両輪

これら2つの文書は、どちらか一方だけ読めば良いというものではありません。
経営層も含めた全社的な意識改革と取り組みの方向性を示す「解説書」と、工場システムの核心部を守るための具体的な技術指針を示す「ガイドライン」は、まさに車の両輪です。

両方を理解し、連携させながら対策を進めることが、実効性のある工場セキュリティを実現する鍵となります。

第3章:中小製造業が具体的に踏み出すべき7つのステップ

さて、ここからはガイドラインを踏まえ、中小製造業が具体的に取るべきアクションを7つのステップに分けて解説します。
これは、単なるチェックリストではなく、経営課題としてセキュリティ対策に取り組むためのプロセスです。

ステップ1:資料の入手と「経営課題」としての認識共有

  • アクション: 経済産業省のウェブサイト等から「解説書」と「ガイドライン」を入手します。そして、まず経営者自身が目を通してください。難解な部分は飛ばしても構いません。「国がここまで具体的に注意喚起している」という事実を認識することが重要です。
  • 経営者の役割: セキュリティ対策は、IT部門や担当者任せにしてはいけません。**「これは自社の事業継続に関わる重要な経営課題である」**というトップの強いメッセージが必要です。経営会議などで議題に取り上げ、役員や主要な管理職(製造、IT、総務など)と問題意識を共有しましょう。対策を進めるための体制(責任者の任命など)や、初期調査のための予算確保についても検討を開始します。

ステップ2:全社的なリスク評価の実施 ~自社のアキレス腱を知る~

  • アクション: 解説書やガイドラインを参考に、自社のどこにどのようなリスクが潜んでいるのかを具体的に洗い出します。これは机上の空論ではなく、現場を見ながら行う必要があります。
  • 評価のポイント:
    • 守るべきものは何か?: 最重要の技術情報、顧客データ、止められない生産ライン、機密性の高い区画などを具体的にリストアップします。
    • 脅威は何か?: ランサムウェア、不正アクセス、内部不正、物理的不法侵入、自然災害など、自社を取り巻く脅威を具体的に想定します。サプライチェーン上のリスクも考慮します。
    • 弱点はどこか?: 古いOSのPC、パスワード管理の甘さ、ネットワーク設定の不備、施錠されていない部屋、従業員のセキュリティ意識の低さ、退職者のアクセス権限など、具体的な脆弱性を洗い出します。IT担当者だけでなく、製造現場、総務、人事など、部門横断で意見を出し合うことが効果的です。
    • 影響度はどれくらいか?: もしリスクが現実になった場合、事業にどのような影響(生産停止期間、損害額、信用の失墜など)が出るかを試算します。
  • 成果物: リスク評価の結果を一覧表などにまとめ、**「自社のセキュリティ上の弱点マップ」**を作成します。これにより、対策の優先順位付けが容易になります。

ステップ3:実現可能な対策計画への落とし込み ~背伸びせず、着実に~

  • アクション: ステップ2で特定したリスクに対し、「すべてに完璧な対策を」と考えるのは現実的ではありません。特にリソースの限られる中小企業にとっては、優先順位付けが極めて重要です。
  • 優先順位付けの考え方:
    • リスクの大きさ: 「発生可能性」と「発生した場合の影響度」を掛け合わせ、リスクの高いものから優先的に対処します。
    • 対策の実現可能性: 対策にかかるコスト、期間、難易度、現在のリソースで対応可能か、などを考慮します。
    • 費用対効果: 少ない投資で大きな効果が見込める対策(例:パスワード強化、従業員教育)は優先度を高めます。
  • 計画策定: 「いつまでに」「誰が」「何を」「どのように」実施するのかを具体的に定めたアクションプランを作成します。短期(~3ヶ月)、中期(~1年)、長期(1年~)といった時間軸で整理すると良いでしょう。対策に必要な予算を経営計画に組み込むことも重要です。これはコストではなく、未来への投資です。

ステップ4:サイバー・フィジカル両面からの具体的対策 ~守りを固める~

  • アクション: 策定した計画に基づき、具体的な対策を実行に移します。ここでは、ガイドラインで推奨されている可能性のある対策例を挙げますが、自社のリスク評価に基づいて取捨選択・カスタマイズしてください。
  • 【サイバーセキュリティ対策(IT & OT)】
    • 基本の徹底: OS・ソフトウェアのアップデート、ウイルス対策ソフトの導入・更新、強力なパスワード設定と定期変更、重要データの定期的なバックアップ。これは最低限の対策です。
    • ネットワーク境界防御: ファイアウォールを設置し、外部からの不正アクセスを防御。不要な通信ポートは閉鎖します。
    • ネットワーク分離(最重要レベル): 可能であれば、情報系(IT)ネットワークと制御系(OT)ネットワークを物理的または論理的に分離します。これにより、万が一IT側が攻撃を受けても、OT側(生産ライン)への影響を最小限に抑えられます。これは工場セキュリティの要諦の一つです。
    • 制御システム(OT)の保護:
      ・制御端末へのアクセスを厳格に管理(ID/パスワード、生体認証など)。
      ・不要なソフトウェアのインストール禁止、USBメモリ等の外部メディア利用ルールの徹底。
      ・能な範囲での脆弱性対策(ベンダーと連携し、動作検証の上でパッチ適用など)。
      ・遠隔保守時のセキュアな接続方法(VPN、多要素認証など)の確立。
    • ログ監視: サーバーやネットワーク機器のログを収集・監視し、異常な通信や操作の兆候を早期に検知する体制を目指します。
  • 【フィジカルセキュリティ対策】
    • アクセス管理強化: 工場敷地、建屋、サーバールーム、制御室、重要設備エリアなどへの物理的なアクセス制限を徹底します(施錠、ICカード、生体認証、監視カメラ、入退室記録など)。部外者の入退管理簿作成も基本です。
    • 重要機器の保護: 制御盤の施錠、サーバラックの施錠、ネットワーク機器や配線の物理的な保護(配線ダクトなど)を行います。不用意に機器に触れられない環境を作ります。
    • クリアデスク・クリアスクリーン: 退勤時や離席時に、書類やPC画面を放置しないルールを徹底します。
  • 【人的セキュリティ対策】
    • 従業員教育の継続: セキュリティポリシーの周知、標的型メールの見分け方、パスワード管理の重要性、情報持ち出し禁止ルール、SNS利用の注意点などを、繰り返し教育します。eラーニングや定期的な研修が有効です。
    • アクセス権限の最小化: 従業員の役職や担当業務に応じて、必要な情報システムやデータにのみアクセスできるよう、権限を最小限に設定します(Least Privilegeの原則)。
    • 退職者管理: 退職者のアカウント削除やアクセス権限の抹消を迅速かつ確実に行うプロセスを確立します。

ステップ5:インシデント発生!その時のための「事業継続計画(BCP)」策定

  • アクション: どれだけ対策をしても、インシデント発生の可能性をゼロにすることはできません。重要なのは、**「もし発生してしまった場合に、いかに迅速に検知し、被害を最小限に抑え、事業を復旧させるか」**という計画(インシデントレスポンス計画、事業継続計画の一部)を事前に準備しておくことです。
  • 計画に盛り込むべき要素:
    • 検知体制: どうやってインシデント(異常)を検知するのか(ログ監視、従業員からの報告など)。
    • 緊急連絡体制: 誰が誰に、どの順番で連絡するのか(社内、外部専門家、関係省庁、取引先など)。
    • 初動対応: 被害拡大を防ぐために最初に行うべきこと(ネットワークからの隔離、システムの停止判断など)。
    • 復旧手順: バックアップからのデータ復旧、システムの再構築などの手順。
    • 原因究明・再発防止: なぜインシデントが起きたのかを調査し、同様の事態を防ぐための対策を講じる。
    • 広報対応: 必要に応じて、顧客や社会への説明責任を果たすための準備。
  • 訓練の実施: 計画は作っただけでは意味がありません。定期的に訓練(机上訓練、実地訓練)を行い、いざという時に計画通りに動けるようにしておくことが重要です。

ステップ6:外部の知見を活用する ~餅は餅屋に~

  • アクション: ステップ1~5を進める中で、「専門知識が足りない」「人手が足りない」「客観的な視点が欲しい」と感じる場面が出てくるはずです。そのような場合は、躊躇なく外部の専門家(コンサルタントやセキュリティベンダー)の活用を検討しましょう。
  • 活用のメリット: (詳細は次章で述べます)専門知識、客観性、効率性、リソース補完など、多くのメリットがあります。すべてを自社で抱え込もうとせず、必要な部分で外部の力を借りることは、賢明な経営判断です。地域の商工会議所やよろず支援拠点、公的なセキュリティ相談窓口なども活用しましょう。

ステップ7:継続的な改善サイクル ~セキュリティ対策に終わりはない~

  • アクション: セキュリティ対策は、一度実施したら終わり、というものではありません。脅威は常に変化し、新たな脆弱性も発見されます。ビジネス環境やシステム構成も変化します。
  • PDCAサイクルの実践:
    • Plan(計画): リスク評価に基づき対策計画を立てる(ステップ3)。
    • Do(実行): 計画に基づき対策を実施する(ステップ4、5)。
    • Check(評価): 実施した対策が有効に機能しているか、新たなリスクはないか、定期的に監査や自己点検を行う。ログ分析や脆弱性診断も有効です。
    • Act(改善): 評価結果に基づき、計画や対策を見直し、改善する。
  • 経営層のコミットメント: この改善サイクルを回し続けるためには、経営層が継続的に関与し、必要なリソースを配分し続けることが不可欠です。セキュリティを企業文化として根付かせることが目標です。

第4章:なぜ外部の力の有効活用

多くの中小製造業にとって、セキュリティ対策は未知の領域であり、自社だけで完璧に進めるのは困難です。
ここで、外部の経営コンサルタントやセキュリティ専門家を活用することの具体的なメリットを解説します。

 
1. 専門知識と最新情報の活用:

  • セキュリティの世界は日進月歩です。最新の攻撃手口、防御技術、法規制動向などを常に把握している専門家の知識を活用できます。特に、ITだけでなくOT(制御システム)のセキュリティに精通した専門家は貴重です。自社で人材を育成するには時間もコストもかかりますが、コンサルタントなら即戦力として知見を提供できます。

2. 客観的かつ多角的な視点:

  • 社内の人間だけでは、どうしても既存の慣習や思い込みにとらわれがちです。第三者であるコンサルタントは、客観的な視点から自社の弱点やリスクを忖度なく指摘し、業界標準(ベストプラクティス)との比較も可能です。「自社では当たり前」と思っていたことが、実は大きなリスクだった、という発見もあります。

 
3. 効率的・効果的な対策の推進:

  • コンサルタントは、多くの企業の事例や、確立された方法論(フレームワーク)に基づき、リスク評価から計画策定、対策実行までを効率的に支援します。自社で手探りで進めるよりも、時間と労力を大幅に削減でき、より効果的な対策にリソースを集中できます。何から手をつけるべきか分からない、という状況を打破する推進力になります。

 
4. リソース不足の補完:

  • 前述の通り、多くの中小企業ではセキュリティ専門の人材が不足しています。コンサルタントは、リスク評価、計画策定、ベンダー選定支援、従業員教育など、一時的に不足する専門スキルやマンパワーを補うことができます。必要な期間だけ活用できるため、固定費を抑えつつ専門性を確保できます。

 
5. 経営層とのコミュニケーション円滑化:

  • コンサルタントは、技術的な内容を経営層にも分かりやすく説明し、セキュリティ対策の重要性や投資対効果を理解してもらうための「翻訳者」としての役割も果たします。経営判断に必要な情報を提供し、合意形成をサポートします。

 
6. 費用対効果の観点:

  • コンサルティング費用は決して安くはありません。しかし、深刻なセキュリティインシデントが発生した場合の損害額(事業停止損失、復旧費用、賠償金、信用失墜など)と比較すれば、予防策としてのコンサルティング費用は、結果的に安価な「保険」や「投資」と捉えることができます。事故が起きてからでは遅いのです。

もちろん、コンサルタントに丸投げすれば良いというわけではありません。
主体はあくまで自社であり、コンサルタントはその目的達成を支援するパートナーです。
自社の状況や課題を正直に伝え、共に汗を流す姿勢が、コンサルタント活用の効果を最大化します。

第5章:まとめ ~未来への投資としてのセキュリティ戦略~

本記事では、経済産業省が新たに示した工場セキュリティに関する「解説書」と「ガイドライン」を踏まえ、中小製造業の経営者の皆様が取るべき具体的なステップと、外部コンサルタント活用の有効性について解説してきました。

改めて強調したいのは、工場セキュリティ対策は、もはや単なる「守り」のコストではなく、企業の持続的な成長と競争力強化のための「攻め」の投資であるということです。

  • 事業継続性の確保: 安定した生産体制は、顧客からの信頼の基盤です。
  • 推進の土台: セキュアな環境があってこそ、安心してIoTやAIなどの新技術を導入できます。
  • サプライチェーンにおける信頼獲得: セキュリティ対策は、大手企業との取引継続・拡大の条件となりつつあります。
  • 企業価値の向上: セキュリティ意識の高い企業として認知されることは、従業員のエンゲージメント向上や、金融機関・投資家からの評価にも繋がります。

経済産業省のガイドラインは、その第一歩を踏み出すための道しるべです。
まずは経営者自身がリーダーシップを発揮し、本記事で提示した7つのステップを参考に、自社の状況に合わせた取り組みを開始してください。
そして、必要であれば外部の専門家の力も借りながら、着実に前進していきましょう。

未来の読めない時代だからこそ、足元をしっかりと固めることが重要です。
工場のセキュリティ強化は、皆様の会社の大切な資産と従業員を守り、輝かしい未来を築くための礎となるはずです。

【コンサルティングサービスのご紹介】

工場DX.com(船井総合研究所)では、中小製造業の経営課題解決に特化したコンサルティングを実施しています。
多くの製造業クライアント様をご支援してきた経験に基づき、今回の経済産業省ガイドラインで示されたような工場セキュリティ(サイバー・フィジカル両面、特にOT領域含む)に関する課題に対し、経営者の皆様の右腕として、現状評価から具体的な対策計画策定、実行支援、従業員教育、そして継続的な改善プロセスの構築まで、一気通貫でサポートいたします。

弊社の強み:

  • 製造業特有の課題への深い理解: 生産現場の実情や中小企業ならではのリソース制約を踏まえた、現実的かつ効果的なソリューションをご提案します。
  • 経営視点でのアプローチ: 技術的な対策だけでなく、それが経営にどう貢献するのか、投資対効果はどうなのか、という経営者の視点を常に持ち続けます。
  • サイバー・フィジカル・人的側面の統合: IT、OT、物理、組織・人という多角的な視点から、貴社に最適なセキュリティ体制の構築を支援します。
  • ハンズオン支援: 計画を作るだけでなく、実行段階においても現場に入り込み、皆様と共に汗を流します。

「何から始めれば良いか分からない…」
「ガイドラインを読んだけれど、自社にどう適用すれば良いか…」
「専門人材がいなくて困っている…」

このようなお悩みをお持ちの経営者の皆様、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
初回のご相談(オンライン/対面)は無料にて承っております。貴社の状況をヒアリングさせていただき、最適な進め方をご提案いたします。

貴社の持続的な成長と発展に貢献できることを、心より楽しみにしております。

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