記事公開日:2025.04.16
最終更新日:2025.04.16
経産省の提言から考える中堅・中小製造業のDX戦略 ~素形材産業ビジョン2025より~

目次
はじめに:時代の転換点、経営者として今、考えるべきこと
いつもコラムをご愛読いただきありがとうございます。
株式会社船井総合研究所の熊谷です。
目まぐるしく変化する経営環境の中、将来への漠然とした不安や、山積する課題に頭を悩ませることも少なくないのではないでしょうか。
2024年3月、経済産業省が「2025年版 素形材産業ビジョン」というものを公表しました。
これは、国が日本のものづくりの将来についてどう考えているかを示す、いわば「未来予想図」のようなものです。
特に、皆様のような中堅・中小製造業にとって、決して他人事ではない重要なメッセージが込められています。
「素形材産業?うちは部品加工だから関係ないのでは?」
「GX(環境対応)とかDX(デジタル化)とか言われても、大企業の話だろう…」
「日々の仕事で手一杯で、そんな先のことまで考えられないよ」
そう思われるお気持ち、よく分かります。しかし、このビジョンが示す変化の波は、確実に皆様の会社にも押し寄せてきます。
※参考:経済産業省「2025年版「素形材産業ビジョン」を策定しました」
https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250328007/20250328007.html
このビジョンには、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、サプライチェーン強靭化、人材育成、事業変革といった、少し難しそうな言葉が並んでいます。ですが、これらはバラバラではなく、皆様の会社の経営、日々の仕事、そして将来の収益に直結する、 それぞれ関連している課題なのです。
特にDX(デジタル化)は、これらの課題を乗り越え、会社の生産性を上げ、従業員の負担を減らし、新しいビジネスチャンスを生み出すための強力な武器になり得ます。
この記事では、皆様と同じく中小製造業の現場を見てきた専門家の視点から、この国の「未来予想図」=「素形材産業ビジョン2025」を分かりやすく読み解き、皆様の会社が具体的に何をすべきか、特にDX(デジタル化)をどう経営に活かすかについて、実践的なヒントを詳しくお伝えします。
変化をただ待つのではなく、未来への一歩を主体的に踏み出すための羅針盤として、この記事がお役に立てれば幸いです。
第1章:「素形材産業ビジョン2025」って、結局なんだ? ~自社に関わるポイントを掴む~
まず、「素形材産業ビジョン」のポイントを、皆様の会社に関わる部分に絞って見ていきましょう。
「素形材産業」とは、自動車や家電、機械などを作るメーカーに、金属やプラスチックの材料、鋳物や金型、プレス部品などを供給している産業のことです。まさに「日本のものづくりの土台」を支えています。
国は、この土台が今、大きな変化と課題に直面していると考えています。それは、皆様の会社にも影響する、以下の5つの大きな波です。
1. GX(環境の波)
地球温暖化対策は世界的な流れです。特に工場でエネルギーを多く使うものづくり企業は、CO2削減への取り組みが必須になっています。皆様のお取引先である大手企業からも、「もっと環境に配慮した部品を」「CO2排出量を教えてほしい」といった要請が強まることは確実です。これはコスト増だけでなく、対応できれば新たな信頼獲得のチャンスにもなります。
2. DX(デジタルの波)
パソコンやスマホだけでなく、工場の機械や業務プロセスにもデジタル技術を取り入れ、生産性を上げたり、品質を安定させたり、ベテランの技を若手に伝えたり、新しい商売のやり方を見つけたりすることが求められています。「人手が足りない」「もっと効率よくできないか」といった皆様の悩みを解決する鍵が、ここにあります。
3. サプライチェーン(供給網)の波
コロナや海外の紛争などで、「部品が予定通り入ってこない!」という経験をされた会社も多いのではないでしょうか。特定の国や一社だけに頼るリスクが明らかになり、安定して部品を調達・供給できる体制づくりが重要になっています。国内での取引が見直される動きは、新たな受注チャンスにも繋がります。
4. ヒト(人材・後継者)の波
従業員の高齢化、若手不足、熟練の技を持つ方の引退、そして後継者が見つからない… これらは多くの中小製造業が抱える深刻な悩みです。働きがいのある環境づくりや、デジタル技術を使った技能伝承が急務です。
5. 競争と変化の波
海外企業の追い上げは激しく、価格競争も厳しくなっています。お客様の要求も、「安く、早く、高品質」なのは当たり前で、さらに多様化・高度化しています。いつまでも「言われたものを作る」だけでは、生き残りが難しくなってきます。自社の強みを活かして、もっと付加価値の高い仕事、新しいサービスへと舵を切る必要があります。
国は、これらの課題を乗り越え、日本のものづくりが将来も強くあり続けるために、「持続可能で強靭な産業」を目指そう、と言っています。そのための道筋が、GX、DX、事業変革、人材育成、サプライチェーン強靭化なのです。
自社にとっての意味は?
「ふーん、国の考えは分かったけど、結局うちにはどう関係するの?」
ここが一番重要です。このビジョンは、決して遠い世界の他人事ではありません。
- 取引先からの要求が変わる
大手顧客は、国の方針を受けて、サプライヤーである皆様の会社にもGX(CO2削減データ提出など)やDX(品質データの電子化、EDI対応など)への対応を求めてくる可能性が高いです。対応できなければ、取引を失うリスクすらあります。 - 競争環境が変わる
DXで生産性を上げた競合他社は、より低コスト・短納期で受注するかもしれません。GXにしっかり取り組む会社は、環境意識の高い顧客から選ばれるかもしれません。変化に対応できなければ、取り残されてしまいます。 - 新たなチャンスが生まれる
サプライチェーンの見直しで、国内の信頼できるパートナーを探す動きが加速すれば、皆様の会社に新たな受注機会が舞い込むかもしれません。DXで新しいサービスを始めれば、新たな収益源になるかもしれません。
つまり、このビジョンは、皆様の会社が今後、どのような経営戦略で、どの方向に進むべきかを考える上での、重要なヒントなのです。この変化をチャンスと捉え、次の一手を打つことが、会社の未来を左右します。
第2章:DX(デジタル化)を経営にどう活かすか? ~単なる道具導入で終わらせないために~
さて、ビジョンの中でも特に重要な「DX(デジタル化)」。これをどう経営に活かせば良いのでしょうか? ここでは、経営者の皆様に押さえていただきたい核心を3つお伝えします。
1:DXは「魔法の杖」ではなく、「経営課題を解決する道具」
国がDXを進めようと言っているから、うちも何かやらなきゃ… そう考えるのは自然ですが、「何のためにDXをやるのか?」という目的が最も重要です。
DXは、あくまで皆様の会社をより良くするための「道具」です。高価な最新システムを入れること自体が目的ではありません。
- 「コストを削減したい」
- 「不良品を減らして品質を上げたい」
- 「納期をもっと短くしたい」
- 「人手不足をなんとかしたい」
- 「ベテランの技術を若手に引き継ぎたい」
- 「新しいお客さんを見つけたい」
- 「環境対応(GX)を進めたい」
こういった、皆様が日々頭を悩ませている経営課題を解決するために、あるいは会社の将来の目標(例えば、新しい事業を始める、もっと儲かる体質にする)を達成するために、デジタル技術という道具をどう使うか?
この視点がなければ、せっかく投資しても「宝の持ち腐れ」になってしまいます。
まずは、自社の課題や目標を明確にすること。
そこから、それを解決・達成するために最適な「道具」=DXの手法を選ぶ、という順番が大切です。
2. 「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」:核心部への技術的アプローチ
- 位置づけ: こちらは、解説書で示された全体像の中でも、特に重要かつ専門性が求められる**「工場システム(制御システム/OT)」のセキュリティに焦点を当てた、より技術的なガイドラインです。IT担当者や生産技術担当者、場合によっては外部の専門家が参照することを想定しています。
- 特徴:
- 専門性: 工場システム特有の環境(リアルタイム性、可用性重視、古いOSの存在など)を考慮した対策が記述されていると推測されます。
- サイバー・フィジカル連携: サイバー攻撃が物理的な被害につながるリスク、物理的なアクセスがサイバー攻撃の起点となるリスクなど、サイバー空間とフィジカル空間の連携を強く意識した内容になっています。
- 具体的な対策レベル: 例えば、ネットワーク構成(IT/OT分離)、ファイアウォール設定、制御機器のアクセス制御、脆弱性管理、ログ監視、物理的な保護策など、具体的な技術的対策や推奨事項が段階的に示されている可能性があります。
- 活用方法: 解説書で全体像を掴んだ後、自社の工場システムの構成やリスクに応じて、このガイドラインを参照し、具体的な技術的対策を検討・実施するために活用します。特に、スマートファクトリー化を進めている、あるいは検討している企業にとっては必読の文書と言えるでしょう。
2:DXは「単独」より「合わせ技」で効果倍増!
ビジョンで示されたGX、人材育成、事業変革、サプライチェーン強化といった要素は、DXと連携させることで、より大きな力を発揮します。いわば「合わせ技」です。
- DX × GX(環境)
工場の電力使用量をセンサーで「見える化」(DX)すれば、どこで無駄遣いしているか一目瞭然になり、省エネ(GX)が進みます。AI(DX)で最適な生産条件を見つければ、エネルギー効率(GX)も上がります。 - DX × 人材・技能伝承
タブレットで作業手順を動画マニュアル化(DX)すれば、新人教育(人材)が効率的になります。ARグラス(DX)を使えば、遠隔からベテランが若手に指示(技能伝承)できます。 - DX × 事業変革
工場の稼働データや顧客データを分析(DX)すれば、新しい製品やサービス(事業変革)のヒントが見つかります。会社のホームページを強化(DX)すれば、新しい販路(事業変革)が開けます。 - DX × サプライチェーン強化
受発注や在庫管理をデジタルで連携(DX)すれば、部品の欠品リスク(サプライチェーン)を減らせます。データ分析(DX)で需要予測の精度を上げれば、安定供給(サプライチェーン)に繋がります。
このように、「DXを使って、他の課題も一緒に解決できないか?」と考えてみてください。例えば、「人手が足りない」という課題に、単にロボットを入れるだけでなく、「ロボット導入(DX)と、従業員の多能工化(人材育成)を組み合わせて、一人当たりの生産性を上げる」といった発想です。より少ない投資で、より大きな効果が期待できます。
3:「まだ大丈夫」が一番危ない!変化への「スピード感」を持つ
ビジョンは少し先の未来を見据えていますが、変化のスピードは思った以上に速いかもしれません。特に環境対応(GX)やサプライチェーンに関するお客様からの要求は、ある日突然やってくる可能性があります。DXについても、ライバル会社がどんどん進めていけば、価格や納期、品質で差をつけられ、気づいた時には受注が減っていた…なんてことにもなりかねません。
「うちはまだ大丈夫だろう」
「周りの様子を見てから…」
その気持ちも分かりますが、変化の波は待ってくれません。「少し早いかな?」と思うくらいが、ちょうど良いタイミングかもしれません。常にアンテナを張り、自社の状況と照らし合わせながら、「今、何をすべきか?」を考え続ける姿勢が、これからの時代を生き抜く鍵になります。
第3章:【実践編】わが社は何から始める?具体的なDX(デジタル化)戦略
では、具体的にどのようなDX(デジタル化)に取り組めば良いのでしょうか? ここからは、中小製造業の皆様が取り組みやすい、実践的な戦略を4つのテーマに分けてご紹介します。
3.1:GX(環境対応)をコストではなくチャンスに変えるDX
環境対応はコストがかかると思われがちですが、DXをうまく使えば、効率的に進められ、会社の信頼度アップや新たな競争力にも繋がります。
● 提案①:まず、電気の無駄遣いを「見える化」する
- 何をする?
工場の主な機械やラインごとに、電気の使用量が分かるセンサーを取り付け、パソコンやタブレットで「いつ、どこで、どれだけ電気を使っているか」をリアルタイムで見えるようにします。 - どんないいことが?
今まで気づかなかった電気の無駄(誰もいないのに点けっぱなしの照明、効率の悪い古い機械など)が数字で分かり、具体的な省エネ目標を立てられます。従業員の「もったいない」意識も高まります。将来、取引先からCO2排出量を聞かれた時の基礎データにもなります。 - どう進める?
まずは自社の設備や予算に合ったセンサーやシステムの情報収集から。国や自治体の補助金も活用できないか調べてみましょう。導入効果を試算し、投資判断に繋げることが重要です。
● 提案②:生産プロセス全体でエネルギー効率を上げる
- 何をする?
いつ、何を、どれだけ作り、どの機械がどう動き、どれだけ電気を使い、どれだけ不良が出たか…といったデータを組み合わせて分析し、最もエネルギー効率の良い生産計画や機械の動かし方(例えば、電気代の安い夜間に動かす、最適な加工スピードを見つけるなど)を探ります。AIなどを活用する方法もあります。 - どんないいことが?
単に電気を節約するだけでなく、生産プロセス全体を見直すことで、省エネと同時に、生産量アップや品質向上も実現できる可能性があります。 - どう進める?
まずは今あるデータを整理・活用することから。必要に応じて、データ収集や分析ツールの導入を検討します。専門家のアドバイスを求めるのも有効です。
● 提案③:環境に関する情報をデジタルで管理・共有する
- 何をする?
仕入れている部品や材料に含まれる化学物質の情報や、CO2排出量などの環境データを、取引先とデジタルでやり取りしたり、社内で管理したりする仕組みを作ります。業界で使われているシステムや、簡単なデータ共有ツールなどを活用します。 - どんないいことが?
大手顧客から「この部品の環境情報は?」と聞かれた時に、すぐに正確な情報を提供でき、信頼度が上がります。自社製品の環境性能をアピールすることもできます。 - どう進める?: まずは取引先からどのような情報が求められているか確認しましょう。その上で、情報管理の方法やツールの導入を検討します。
3.3:「言われたものを作る」から一歩進むためのDX
いつまでも「下請け」のままでは、価格競争に巻き込まれ、利益を出すのが難しくなります。DXは、自社の強みを活かして、新しい価値を生み出し、事業を変えていくための武器になります。
● 提案①:「勘」と「経験」に「データ」という武器を加える
- 何をする?
売上データ、生産データ、原価データ、顧客データなどをまとめて分析できるツール(BIツールなど)を導入し、会社の経営状況をグラフなどで分かりやすく「見える化」します。 - どんないいことが?
「どの製品が一番儲かっているか」「どの顧客との取引を大事にすべきか」「どこにコストがかかりすぎているか」などが、数字で正確に把握できます。社長の「勘」や「経験」に、客観的なデータという根拠が加わることで、より的確でスピーディーな経営判断ができるようになります。 - どう進める?
まずは、経営判断のために「どんな情報が知りたいか」を明確にすることから。その上で、必要なデータを集め、分析ツールの導入を検討します。
● 提案②:会社のホームページを「稼ぐ営業マン」に変える
- 何をする?
会社のホームページを、単なる会社紹介だけでなく、自社の技術力や実績をしっかりアピールし、「この会社に仕事をお願いしたい!」と思わせる内容に作り変えます。技術に関するブログを書いたり、製品紹介の動画を載せたり、オンライン展示会に出展したりすることも有効です。お客様の情報を管理するツール(CRMなど)を導入し、問い合わせへの対応履歴などを記録し、関係性を深めます。 - どんないいことが?
今まで付き合いのなかった新しいお客様から、ホームページ経由で問い合わせが来るようになります。遠方のお客様との取引も可能になります。営業活動が効率化され、会社の技術力や信頼性も高まります。 - どう進める?
まずは自社のホームページを見直し、ターゲット顧客に魅力が伝わる内容になっているか確認しましょう。必要に応じて、専門家(Web制作会社など)に相談するのも良いでしょう。
● 提案③:「モノ」だけでなく「サービス」も売る
- 何をする?
納品した部品や製品にセンサーを付けて、お客様先での稼働状況を見守り、「そろそろメンテナンス時期ですよ」とお知らせするサービス(予知保全)を提供する。お客様が製品を設計する段階から相談に乗り、シミュレーション技術などを使って「こういう部品形状なら、もっと性能が上がりますよ」と提案する(技術提案)。 - どんないいことが?
単にモノを売るだけでなく、知識やノウハウを活かしたサービスを提供することで、価格競争から抜け出し、高い利益を得られる可能性があります。お客様との結びつきも強くなり、長期的な取引に繋がります。 - どう進める?
自社の技術やノウハウの中で、お客様の役に立てることはないか?を考えてみましょう。新しいサービス提供に必要な技術(IoT、AI、シミュレーション等)の導入を検討します。
3.4:サプライチェーン(供給網)のリスクに備えるDX
「部品が入ってこない」「お客様に迷惑をかけられない」… サプライチェーンの問題は経営の根幹を揺るがします。DXは、そのリスクを減らし、安定供給を守るために役立ちます。
● 提案①:自社と取引先の「つながり」を見える化する
- 何をする?
受注から生産、在庫、出荷までの流れをデジタルで管理し、主要な仕入先やお客様との間で、注文状況や生産の進み具合、在庫の量などの情報をリアルタイムに近い形で共有できる仕組みを作ります。EDI(電子データ交換)や、クラウドを使った情報共有ツールなどを活用します。 - どんないいことが?
サプライチェーン全体の状況が把握しやすくなり、「部品が足りなくなりそう」「納期が遅れそう」といった問題を、より早く発見して手を打てるようになります。無駄な在庫を減らしたり、納品までの時間を短縮したりすることにも繋がります。 - どう進める?
まずは自社内の情報(受注、生産、在庫など)をデジタルで一元管理することから。その上で、主要な取引先とどのような情報を共有できるか相談してみましょう。
● 提案②:データ分析で、需要予測やリスクに備える
- 何をする?
過去の売上データやお客様からの内示情報などを基に、将来の需要をより正確に予測するツール(AI活用など)を使います。また、大地震や取引先の倒産など、様々なリスクが起きた場合に、自社のサプライチェーンにどんな影響が出るかをシミュレーションするツールを活用します。 - どんないいことが?
需要の変動に対応しやすくなり、部品の欠品や作りすぎを防げます。万が一のリスクが起きた場合に、どれくらいの影響が出るか事前に分かり、代替の仕入先を探しておく、特定の部品の在庫を多めに持っておく、といった具体的な対策(BCP:事業継続計画)を立てやすくなります。 - どう進める?
まずは過去のデータを整理し、需要予測に活用できないか検討します。BCP策定の際には、どのようなリスクがあり得るか洗い出し、その影響を考える上で、シミュレーションツールの活用も有効です。
第4章:DX(デジタル化)を成功させるために、経営者が押さえるべきポイント
ここまで具体的なDX戦略を見てきましたが、「言うは易く行うは難し」。特に中小製造業の皆様にとっては、様々なハードルがあることも事実です。DXを絵に描いた餅で終わらせず、確実に会社の力とするために、経営者の皆様にぜひ心に留めておいていただきたい重要なポイントをまとめました。
- ポイント1:「DXは、社長の仕事」と心得る
○ DX成功の鍵は、技術やツールそのものではなく、「人」と「組織」です。従業員が新しい技術を学び、変化を受け入れ、部門の壁を越えて協力し、デジタルを当たり前に使いこなす… そうならなければ、どんなに良いシステムを入れても効果は出ません。
○ そのためには、社長自身が「うちはDXでこう変わるんだ!」という強い意志とビジョンを示し、率先して行動することが何よりも重要です。従業員のスキルアップを支援したり、変化を恐れずに挑戦できる社風を作ったり、部門間の連携を促したり… まさに経営者としてのリーダーシップが問われます。「担当者に任せきり」では、まず成功しません。 - ポイント2:「小さく始めて、大きく育てる」意識を持つ
○ 最初から全社で大規模なDXプロジェクトを始める必要はありません。むしろ、特定の部署や、効果が出やすく、すぐに着手できる課題に絞って「小さく始めてみる」ことが成功の秘訣です。
○ そこで「やってみたら、こんなに良くなった!」という小さな成功体験を積み重ねることで、従業員のモチベーションも上がり、他の部門への展開もスムーズに進みます。焦らず、自社の体力に合わせて、着実にステップアップしていくことを考えましょう。 - ポイント3:「儲け」に繋がるか?を常に意識する
○ 中小企業にとって、投資は常にシビアな判断が伴います。DXに投資する際も、「それで、いくら儲かるのか?」「いつ投資を回収できるのか?」(費用対効果、ROI)を具体的に試算し、明確にすることが重要です。
○ 「他社がやっているから」ではなく、「このDXで、コストがこれだけ下がる」「生産性がこれだけ上がる」「新しい売上がこれだけ見込める」といった具体的な効果を、導入前からしっかりと考え、導入後もきちんと測定・評価し、改善していく姿勢が大切です。 - ポイント4:「使える支援は、とことん使う」
○ 国や自治体は、中小企業のDXやGX(環境対応)を後押しするために、様々な補助金や税制優遇などの支援制度を用意しています。「うちみたいな会社でも使えるのかな?」と諦めずに、積極的に情報収集し、活用できるものはとことん活用しましょう。
○ 船井総合研究所では、補助金を活用したコンサルティングも実施しています。孤立せずに、頼れるものは頼るという賢さも必要です。 - ポイント5:「現場が主役」を忘れない
○ DXの成否は、最終的には現場で働く従業員の方々が、新しいツールややり方を「自分たちのもの」として使いこなせるかにかかっています。
○ 経営者自身も、机上の空論ではなく、現場に足を運び、従業員の意見や困りごとに真摯に耳を傾け、一緒に汗を流す姿勢が大切です。「社長は現場のことを分かってくれている」という信頼感が、変化への前向きなエネルギーを生み出します。 - ポイント6:「導入して終わり」にしない粘り強さ
○ システムを導入したり、ロボットを入れたりすることがゴールではありません。それが現場に定着し、データが活用され、当初狙った効果(課題解決や目標達成)がきちんと出るまで、経営者として粘り強く関与し続けることが、本当の成功に繋がります。
○ 「使われていないな」「効果が出ていないな」と感じたら、その原因を探り、改善策を打ち、必要なら追加の教育を行うなど、成果が出るまで諦めない姿勢が求められます。
おわりに:変革の舵を取り、未来へ
経済産業省が示した「素形材産業ビジョン2025」は、これからの日本のものづくり、特に皆様のような中堅・中小製造業が、変化の時代をどう生き抜き、未来へ向かうべきかを示す、重要なメッセージです。GX、DX、サプライチェーン強化といった大きな流れは、もう避けては通れません。
これを「厄介な課題」と捉えるか、「会社を変えるチャンス」と捉えるか。
それは経営者である皆様の判断にかかっています。
DX(デジタル化)は、これらの課題に立ち向かい、会社の生産性を上げ、競争力を高め、従業員を幸せにするための強力な武器となり得ます。
しかし、その導入と活用には、経営者としての戦略的な視点と、会社全体の粘り強い取り組みが必要です。
この記事が、日々奮闘されている社長様、管理職の皆様にとって、自社の未来を考え、次の一歩を踏み出すための、具体的なヒントや勇気となれば幸いです。
変革の舵は、皆様の手に握られています。ぜひ、この変化をチャンスと捉え、力強く未来へ向かって進んでいきましょう。
【貴社のDX戦略、私たちにご相談ください】
本記事で解説した「素形材産業ビジョン」を踏まえたDX戦略の推進、GXやサプライチェーン強靭化との連携、デジタル人材育成、具体的なツールの選定や導入、そして何よりも現場への定着と成果創出…。
これらは、多くの中堅・中小製造業の経営者様にとって、喫緊の課題でありながら、何から手をつければ良いか、誰に相談すれば良いか、悩ましい問題ではないでしょうか。
私たち船井総合研究所は、まさにこのような課題を抱える中堅・中小製造業の皆様を専門に支援する、DX・経営コンサルティング企業です。
私たちは、単にITツールを導入するだけのコンサルティングは行いません。
本稿で述べた視点に基づき、
- 貴社の経営状況、事業特性、組織文化、現場の実情を深く理解すること
- 技術ありきではなく、真の経営課題解決に繋がるDX戦略を立案すること
- 費用対効果を明確にし、補助金なども最大限活用した現実的な計画を策定すること
- 経営層から現場まで、組織全体を巻き込み、変革への意識を醸成すること
- 計画倒れに終わらせず、現場への導入・定着、そして成果創出まで責任を持って伴走支援すること
これらを信条として、数多くの中堅・中小製造業様の変革をご支援してまいりました。
「どこから手をつければ良いか分からない・・・」
「自社に合ったDXの進め方を知りたい・・・」
「補助金を活用したいが、手続きが分からない・・・」
「現場の抵抗が大きく、DXが進まない・・・」
「導入したシステムが活用されていない・・・」
このようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
ご相談(現状ヒアリング、課題整理等)は無料にて承っております。
貴社の未来を切り拓く、重要な第一歩です。
秘密厳守にて、真摯に対応させていただきます。
まずはお気軽にご連絡いただき、貴社のお話をお聞かせください。
ご連絡を心よりお待ちしております。
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