愛同工業様_研究会成功事例記事
2025.06.06
本日は、2024年2月の研究会でご登壇いただいた、愛同工業株式会社 代表取締役社長渡辺裕介氏の講演をご紹介します。
わずか3年間で60台ものロボット導入を成功させた同社の軌跡は、多くの企業にとって示唆に富むものです。ぜひ最後までご覧ください。
1.ロボット導入前の課題
愛同工業株式会社が抱えていた大きな問題の一つに、中小企業である同社が安定的に従業員を確保することが極めて困難であったことが挙げられます。
愛知県という日本の自動車産業の中心地に位置するため、近隣に位置する大手メガサプライヤーとの人材獲得競争が非常に激しいものになっていました。同社では、この慢性的な人手不足を補うため、やむを得ず割高な派遣業者に依存せざるを得ない状況でした。
具体的には、昼間帯で時給1,800円、夜間帯では2,200円にも達する派遣労務費が発生しており、これは同社の受注価格に見合わない水準であったため、業績を継続的に圧迫していました。
また、実際の作業内容を見ると、自動車部品のアルミダイカストや切削加工といった工程において、ワーク(加工対象物)の脱着作業をはじめとする単純な繰り返し作業が多く、多くの時間を占めていました。人間が長時間(1日8時間から10時間)にわたり同じ単調な作業を繰り返すことは、従業員にとって負担が大きい非効率な作業であり、工程を飛ばしたり、ワークを落としてしまうといったヒューマンエラーが発生しやすいという問題も抱えていました。
これらの課題が、同社の持続的な成長を阻害する要因となっていたのです。
2.行った施策
これらの課題を打開するため、愛同工業様は2016年から協働ロボットの導入を積極的に開始しました。
最も特徴的で効果的な施策は、高額になりがちな外部SIer(システムインテグレーター)への依存を極力排し、ロボットシステムの構築やセッティングを自社で行う「内製化」を強力に推進したことです。
SIerに依頼した場合、ロボット本体費用(約500万円)に加え、システム構築費用として約1000万円が見積もられるなど、中小企業にとって大きな負担となるコストを大幅に削減することができました。
▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より
この内製化戦略を可能にした土台として、ロボットと既存設備(加工機や洗浄機など)を連携させるために必須となるPLCのスキルを持つ人材を、ロボット導入が本格化する前の2015年から計画的に採用・育成したことが挙げられます。外部業者に依存せず、自社で設備の細かい動きやタイミングを変更できるようになるため、PLCの知識と経験が不可欠であり、これを早期から準備しました。さらに、現場の班長クラスを含む全従業員に対する継続的な社内教育を実施し、基本的な設備の動きの改善などが現場レベルでできるよう体制を構築しました。
ロボット導入の具体的なアプローチとしては、最初から複雑な複数の工程を自動化しようとするのではなく、ワークの脱着のような比較的単純で繰り返しの多い作業から自動化を進めることにしました。これは、成功体験を積み重ねながら徐々に自動化の範囲を広げていく「小さく産んで大きく育てる」という段階的な戦略であり、複雑度が増すことによるバグや設備停止といったリスクを抑え、着実に導入を進める上で有効でした。また、労働コストが高い欧米の中小企業がどのように自動化を進めているか調査し、自分たちで内製化している事例を参考にしたことも、内製化を決断するきっかけとなりました。
3.ロボット導入後の効果
これらの徹底した施策により、約60人分の人手による作業をロボットに置き換えることに成功しました。これに伴い、それまで業績を圧迫していた年間約2.5億円に及ぶ派遣労務費を大幅に削減することができました(60人×35万円/月×12ヶ月の試算に基づく)。
また、ロボットは人間のように作業時間のばらつきがなく、一貫した正確なサイクルタイムで稼働し続けるため、生産の安定性が向上し、全体的な生産効率と生産性の向上を実現しました。
さらに、ロボットシステムの構築を内製化したことにより、通常SIerに支払う高額な費用を削減できたため、初期投資を抑えることができ、結果として比較的早期に投資対効果を実現することが可能となりました。これは、企業の財務体質にも良い影響を与え、借入金の減少(バランスシート:B/S上の効果)や人件費の低減(損益計算書:P/L上の効果)といった形で財務体質の強化にも繋がっています。
▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より
2019年には3年間で60台以上のロボットが稼働し、2023年現在では100台以上が稼働するスマートファクトリーへと進化を遂げています。
4.ロボット導入成功の秘訣
愛同工業様の成功の秘訣は、やはり高額なSIerに頼りきりになるのではなく、自社でロボットシステムを構築・運用する「内製化」を徹底したことです。
これによりコストを抑え、自社のニーズに合わせた柔軟な改善を迅速に行えるようになりました。この内製化を可能にしたのは、PLCスキルを持つ人材を計画的に採用・育成し、現場を含む全従業員に対する継続的な社内教育を行ったことです。外部に依存せず自社で設備を制御・改善できる体制を構築できた点が非常に大きいと言えます。
また、最初はワーク脱着のような単純作業から自動化を進め、「小さく産んで大きく育てる」アプローチをとったことで、無理なく成功体験を積み重ねられたことも成功に繋がっています。
そして、ロボット導入は従業員の雇用に関わる非常にデリケートな問題です。そのため、経営者自身が導入の先頭に立ち、なぜロボット導入が必要なのか、そしてそれによって生まれた利益をどのように従業員に分配するのかを明確に伝え、従業員の理解と協力を得たことも、重要な要素でした。
これらの複合的な要素が、愛同工業様の圧倒的なロボット導入実績と成果を生み出した秘訣と言えるでしょう。 本日は、2024年2月の研究会でご登壇いただいた、愛同工業株式会社 代表取締役社長渡辺裕介氏の講演をご紹介します。
わずか3年間で60台ものロボット導入を成功させた同社の軌跡は、多くの企業にとって示唆に富むものです。ぜひ最後までご覧ください。
1.ロボット導入前の課題
愛同工業株式会社が抱えていた大きな問題の一つに、中小企業である同社が安定的に従業員を確保することが極めて困難であったことが挙げられます。
愛知県という日本の自動車産業の中心地に位置するため、近隣に位置する大手メガサプライヤーとの人材獲得競争が非常に激しいものになっていました。同社では、この慢性的な人手不足を補うため、やむを得ず割高な派遣業者に依存せざるを得ない状況でした。
具体的には、昼間帯で時給1,800円、夜間帯では2,200円にも達する派遣労務費が発生しており、これは同社の受注価格に見合わない水準であったため、業績を継続的に圧迫していました。
また、実際の作業内容を見ると、自動車部品のアルミダイカストや切削加工といった工程において、ワーク(加工対象物)の脱着作業をはじめとする単純な繰り返し作業が多く、多くの時間を占めていました。人間が長時間(1日8時間から10時間)にわたり同じ単調な作業を繰り返すことは、従業員にとって負担が大きい非効率な作業であり、工程を飛ばしたり、ワークを落としてしまうといったヒューマンエラーが発生しやすいという問題も抱えていました。
これらの課題が、同社の持続的な成長を阻害する要因となっていたのです。
2.行った施策
これらの課題を打開するため、愛同工業様は2016年から協働ロボットの導入を積極的に開始しました。
最も特徴的で効果的な施策は、高額になりがちな外部SIer(システムインテグレーター)への依存を極力排し、ロボットシステムの構築やセッティングを自社で行う「内製化」を強力に推進したことです。
SIerに依頼した場合、ロボット本体費用(約500万円)に加え、システム構築費用として約1000万円が見積もられるなど、中小企業にとって大きな負担となるコストを大幅に削減することができました。
▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より
この内製化戦略を可能にした土台として、ロボットと既存設備(加工機や洗浄機など)を連携させるために必須となるPLCのスキルを持つ人材を、ロボット導入が本格化する前の2015年から計画的に採用・育成したことが挙げられます。外部業者に依存せず、自社で設備の細かい動きやタイミングを変更できるようになるため、PLCの知識と経験が不可欠であり、これを早期から準備しました。さらに、現場の班長クラスを含む全従業員に対する継続的な社内教育を実施し、基本的な設備の動きの改善などが現場レベルでできるよう体制を構築しました。
ロボット導入の具体的なアプローチとしては、最初から複雑な複数の工程を自動化しようとするのではなく、ワークの脱着のような比較的単純で繰り返しの多い作業から自動化を進めることにしました。これは、成功体験を積み重ねながら徐々に自動化の範囲を広げていく「小さく産んで大きく育てる」という段階的な戦略であり、複雑度が増すことによるバグや設備停止といったリスクを抑え、着実に導入を進める上で有効でした。また、労働コストが高い欧米の中小企業がどのように自動化を進めているか調査し、自分たちで内製化している事例を参考にしたことも、内製化を決断するきっかけとなりました。
3.ロボット導入後の効果
これらの徹底した施策により、約60人分の人手による作業をロボットに置き換えることに成功しました。これに伴い、それまで業績を圧迫していた年間約2.5億円に及ぶ派遣労務費を大幅に削減することができました(60人×35万円/月×12ヶ月の試算に基づく)。
また、ロボットは人間のように作業時間のばらつきがなく、一貫した正確なサイクルタイムで稼働し続けるため、生産の安定性が向上し、全体的な生産効率と生産性の向上を実現しました。
さらに、ロボットシステムの構築を内製化したことにより、通常SIerに支払う高額な費用を削減できたため、初期投資を抑えることができ、結果として比較的早期に投資対効果を実現することが可能となりました。これは、企業の財務体質にも良い影響を与え、借入金の減少(バランスシート:B/S上の効果)や人件費の低減(損益計算書:P/L上の効果)といった形で財務体質の強化にも繋がっています。
▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より
2019年には3年間で60台以上のロボットが稼働し、2023年現在では100台以上が稼働するスマートファクトリーへと進化を遂げています。
4.ロボット導入成功の秘訣
愛同工業様の成功の秘訣は、やはり高額なSIerに頼りきりになるのではなく、自社でロボットシステムを構築・運用する「内製化」を徹底したことです。
これによりコストを抑え、自社のニーズに合わせた柔軟な改善を迅速に行えるようになりました。この内製化を可能にしたのは、PLCスキルを持つ人材を計画的に採用・育成し、現場を含む全従業員に対する継続的な社内教育を行ったことです。外部に依存せず自社で設備を制御・改善できる体制を構築できた点が非常に大きいと言えます。
また、最初はワーク脱着のような単純作業から自動化を進め、「小さく産んで大きく育てる」アプローチをとったことで、無理なく成功体験を積み重ねられたことも成功に繋がっています。
そして、ロボット導入は従業員の雇用に関わる非常にデリケートな問題です。そのため、経営者自身が導入の先頭に立ち、なぜロボット導入が必要なのか、そしてそれによって生まれた利益をどのように従業員に分配するのかを明確に伝え、従業員の理解と協力を得たことも、重要な要素でした。
これらの複合的な要素が、愛同工業様の圧倒的なロボット導入実績と成果を生み出した秘訣と言えるでしょう。