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愛同工業様_研究会成功事例記事

2025.06.06

本日は、2024年2月の研究会でご登壇いただいた、愛同工業株式会社 代表取締役社長渡辺裕介氏の講演をご紹介します。 わずか3年間で60台ものロボット導入を成功させた同社の軌跡は、多くの企業にとって示唆に富むものです。ぜひ最後までご覧ください。 1.ロボット導入前の課題 愛同工業株式会社が抱えていた大きな問題の一つに、中小企業である同社が安定的に従業員を確保することが極めて困難であったことが挙げられます。 愛知県という日本の自動車産業の中心地に位置するため、近隣に位置する大手メガサプライヤーとの人材獲得競争が非常に激しいものになっていました。同社では、この慢性的な人手不足を補うため、やむを得ず割高な派遣業者に依存せざるを得ない状況でした。 具体的には、昼間帯で時給1,800円、夜間帯では2,200円にも達する派遣労務費が発生しており、これは同社の受注価格に見合わない水準であったため、業績を継続的に圧迫していました。 また、実際の作業内容を見ると、自動車部品のアルミダイカストや切削加工といった工程において、ワーク(加工対象物)の脱着作業をはじめとする単純な繰り返し作業が多く、多くの時間を占めていました。人間が長時間(1日8時間から10時間)にわたり同じ単調な作業を繰り返すことは、従業員にとって負担が大きい非効率な作業であり、工程を飛ばしたり、ワークを落としてしまうといったヒューマンエラーが発生しやすいという問題も抱えていました。 これらの課題が、同社の持続的な成長を阻害する要因となっていたのです。 2.行った施策 これらの課題を打開するため、愛同工業様は2016年から協働ロボットの導入を積極的に開始しました。 最も特徴的で効果的な施策は、高額になりがちな外部SIer(システムインテグレーター)への依存を極力排し、ロボットシステムの構築やセッティングを自社で行う「内製化」を強力に推進したことです。 SIerに依頼した場合、ロボット本体費用(約500万円)に加え、システム構築費用として約1000万円が見積もられるなど、中小企業にとって大きな負担となるコストを大幅に削減することができました。 ▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より この内製化戦略を可能にした土台として、ロボットと既存設備(加工機や洗浄機など)を連携させるために必須となるPLCのスキルを持つ人材を、ロボット導入が本格化する前の2015年から計画的に採用・育成したことが挙げられます。外部業者に依存せず、自社で設備の細かい動きやタイミングを変更できるようになるため、PLCの知識と経験が不可欠であり、これを早期から準備しました。さらに、現場の班長クラスを含む全従業員に対する継続的な社内教育を実施し、基本的な設備の動きの改善などが現場レベルでできるよう体制を構築しました。 ロボット導入の具体的なアプローチとしては、最初から複雑な複数の工程を自動化しようとするのではなく、ワークの脱着のような比較的単純で繰り返しの多い作業から自動化を進めることにしました。これは、成功体験を積み重ねながら徐々に自動化の範囲を広げていく「小さく産んで大きく育てる」という段階的な戦略であり、複雑度が増すことによるバグや設備停止といったリスクを抑え、着実に導入を進める上で有効でした。また、労働コストが高い欧米の中小企業がどのように自動化を進めているか調査し、自分たちで内製化している事例を参考にしたことも、内製化を決断するきっかけとなりました。 3.ロボット導入後の効果 これらの徹底した施策により、約60人分の人手による作業をロボットに置き換えることに成功しました。これに伴い、それまで業績を圧迫していた年間約2.5億円に及ぶ派遣労務費を大幅に削減することができました(60人×35万円/月×12ヶ月の試算に基づく)。 また、ロボットは人間のように作業時間のばらつきがなく、一貫した正確なサイクルタイムで稼働し続けるため、生産の安定性が向上し、全体的な生産効率と生産性の向上を実現しました。 さらに、ロボットシステムの構築を内製化したことにより、通常SIerに支払う高額な費用を削減できたため、初期投資を抑えることができ、結果として比較的早期に投資対効果を実現することが可能となりました。これは、企業の財務体質にも良い影響を与え、借入金の減少(バランスシート:B/S上の効果)や人件費の低減(損益計算書:P/L上の効果)といった形で財務体質の強化にも繋がっています。 ▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より 2019年には3年間で60台以上のロボットが稼働し、2023年現在では100台以上が稼働するスマートファクトリーへと進化を遂げています。 4.ロボット導入成功の秘訣 愛同工業様の成功の秘訣は、やはり高額なSIerに頼りきりになるのではなく、自社でロボットシステムを構築・運用する「内製化」を徹底したことです。 これによりコストを抑え、自社のニーズに合わせた柔軟な改善を迅速に行えるようになりました。この内製化を可能にしたのは、PLCスキルを持つ人材を計画的に採用・育成し、現場を含む全従業員に対する継続的な社内教育を行ったことです。外部に依存せず自社で設備を制御・改善できる体制を構築できた点が非常に大きいと言えます。 また、最初はワーク脱着のような単純作業から自動化を進め、「小さく産んで大きく育てる」アプローチをとったことで、無理なく成功体験を積み重ねられたことも成功に繋がっています。 そして、ロボット導入は従業員の雇用に関わる非常にデリケートな問題です。そのため、経営者自身が導入の先頭に立ち、なぜロボット導入が必要なのか、そしてそれによって生まれた利益をどのように従業員に分配するのかを明確に伝え、従業員の理解と協力を得たことも、重要な要素でした。 これらの複合的な要素が、愛同工業様の圧倒的なロボット導入実績と成果を生み出した秘訣と言えるでしょう。 本日は、2024年2月の研究会でご登壇いただいた、愛同工業株式会社 代表取締役社長渡辺裕介氏の講演をご紹介します。 わずか3年間で60台ものロボット導入を成功させた同社の軌跡は、多くの企業にとって示唆に富むものです。ぜひ最後までご覧ください。 1.ロボット導入前の課題 愛同工業株式会社が抱えていた大きな問題の一つに、中小企業である同社が安定的に従業員を確保することが極めて困難であったことが挙げられます。 愛知県という日本の自動車産業の中心地に位置するため、近隣に位置する大手メガサプライヤーとの人材獲得競争が非常に激しいものになっていました。同社では、この慢性的な人手不足を補うため、やむを得ず割高な派遣業者に依存せざるを得ない状況でした。 具体的には、昼間帯で時給1,800円、夜間帯では2,200円にも達する派遣労務費が発生しており、これは同社の受注価格に見合わない水準であったため、業績を継続的に圧迫していました。 また、実際の作業内容を見ると、自動車部品のアルミダイカストや切削加工といった工程において、ワーク(加工対象物)の脱着作業をはじめとする単純な繰り返し作業が多く、多くの時間を占めていました。人間が長時間(1日8時間から10時間)にわたり同じ単調な作業を繰り返すことは、従業員にとって負担が大きい非効率な作業であり、工程を飛ばしたり、ワークを落としてしまうといったヒューマンエラーが発生しやすいという問題も抱えていました。 これらの課題が、同社の持続的な成長を阻害する要因となっていたのです。 2.行った施策 これらの課題を打開するため、愛同工業様は2016年から協働ロボットの導入を積極的に開始しました。 最も特徴的で効果的な施策は、高額になりがちな外部SIer(システムインテグレーター)への依存を極力排し、ロボットシステムの構築やセッティングを自社で行う「内製化」を強力に推進したことです。 SIerに依頼した場合、ロボット本体費用(約500万円)に加え、システム構築費用として約1000万円が見積もられるなど、中小企業にとって大きな負担となるコストを大幅に削減することができました。 ▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より この内製化戦略を可能にした土台として、ロボットと既存設備(加工機や洗浄機など)を連携させるために必須となるPLCのスキルを持つ人材を、ロボット導入が本格化する前の2015年から計画的に採用・育成したことが挙げられます。外部業者に依存せず、自社で設備の細かい動きやタイミングを変更できるようになるため、PLCの知識と経験が不可欠であり、これを早期から準備しました。さらに、現場の班長クラスを含む全従業員に対する継続的な社内教育を実施し、基本的な設備の動きの改善などが現場レベルでできるよう体制を構築しました。 ロボット導入の具体的なアプローチとしては、最初から複雑な複数の工程を自動化しようとするのではなく、ワークの脱着のような比較的単純で繰り返しの多い作業から自動化を進めることにしました。これは、成功体験を積み重ねながら徐々に自動化の範囲を広げていく「小さく産んで大きく育てる」という段階的な戦略であり、複雑度が増すことによるバグや設備停止といったリスクを抑え、着実に導入を進める上で有効でした。また、労働コストが高い欧米の中小企業がどのように自動化を進めているか調査し、自分たちで内製化している事例を参考にしたことも、内製化を決断するきっかけとなりました。 3.ロボット導入後の効果 これらの徹底した施策により、約60人分の人手による作業をロボットに置き換えることに成功しました。これに伴い、それまで業績を圧迫していた年間約2.5億円に及ぶ派遣労務費を大幅に削減することができました(60人×35万円/月×12ヶ月の試算に基づく)。 また、ロボットは人間のように作業時間のばらつきがなく、一貫した正確なサイクルタイムで稼働し続けるため、生産の安定性が向上し、全体的な生産効率と生産性の向上を実現しました。 さらに、ロボットシステムの構築を内製化したことにより、通常SIerに支払う高額な費用を削減できたため、初期投資を抑えることができ、結果として比較的早期に投資対効果を実現することが可能となりました。これは、企業の財務体質にも良い影響を与え、借入金の減少(バランスシート:B/S上の効果)や人件費の低減(損益計算書:P/L上の効果)といった形で財務体質の強化にも繋がっています。 ▲2024年2月スマートファクトリー経営部会 第一講座 投影資料より 2019年には3年間で60台以上のロボットが稼働し、2023年現在では100台以上が稼働するスマートファクトリーへと進化を遂げています。 4.ロボット導入成功の秘訣 愛同工業様の成功の秘訣は、やはり高額なSIerに頼りきりになるのではなく、自社でロボットシステムを構築・運用する「内製化」を徹底したことです。 これによりコストを抑え、自社のニーズに合わせた柔軟な改善を迅速に行えるようになりました。この内製化を可能にしたのは、PLCスキルを持つ人材を計画的に採用・育成し、現場を含む全従業員に対する継続的な社内教育を行ったことです。外部に依存せず自社で設備を制御・改善できる体制を構築できた点が非常に大きいと言えます。 また、最初はワーク脱着のような単純作業から自動化を進め、「小さく産んで大きく育てる」アプローチをとったことで、無理なく成功体験を積み重ねられたことも成功に繋がっています。 そして、ロボット導入は従業員の雇用に関わる非常にデリケートな問題です。そのため、経営者自身が導入の先頭に立ち、なぜロボット導入が必要なのか、そしてそれによって生まれた利益をどのように従業員に分配するのかを明確に伝え、従業員の理解と協力を得たことも、重要な要素でした。 これらの複合的な要素が、愛同工業様の圧倒的なロボット導入実績と成果を生み出した秘訣と言えるでしょう。

【第5回】守りから攻めのIT投資へ!競争力を強化する中堅製造業のDX戦略 ~変化をチャンスに変え、未来を切り拓くための次世代経営~

2025.06.04

―――DXの旅路を振り返り、次なるステージへ この5回にわたるコラムシリーズでは、中堅製造業の皆様が直面するデジタルトランスフォーメーション(DX)の様々な側面について、共に考えてまいりました。 何から始めるべきかという「DXの第一歩」、現場の協力を得るための「コミュニケーション術」、勘と経験頼りから脱却するための「データ活用とMES」、そして匠の技を組織の力に変える「デジタル技術伝承」。これらのテーマを通じて、DXが単なるITシステムの導入ではなく、企業文化やビジネスプロセスそのものを変革する壮大な旅であることをご理解いただけたかと思います。 そして今、多くの企業がIT投資を、業務効率化やコスト削減といった、いわば「守りのIT」として捉えているのではないでしょうか。もちろん、それは企業経営の基盤として不可欠です。しかし、変化のスピードがかつてなく速い現代において、守りを固めるだけでは、荒波を乗り越え、成長し続けることは困難です。 これからの時代を勝ち抜くためには、ITを「コストセンター」から「プロフィットセンター」へとその認識を転換し、新たな価値創造や競争力強化に直結する「攻めのIT投資」へと舵を切ることが、中堅製造業の皆様にとっても喫緊の課題となっています。 「うちの会社も、まだまだ守りのITから抜け出せていない…」 「攻めのIT投資と言われても、具体的に何をどうすれば良いのだろう?」 最終回となる本コラムでは、そんな皆様の疑問に寄り添いながら、なぜ今「攻めのIT投資」が必要なのか、その具体的な戦略領域とは何か、そしてそれを推進するための組織体制や成功の鍵について、未来志向の視点から解説していきます。 第1章:なぜ今、「攻めのIT投資」が中堅製造業に必要なのか?~環境変化とDXの本質~ 造業を取り巻く環境変化と、DXが本来持つ「攻め」の意義について考えてみましょう。 避けて通れない市場環境の劇的変化現代の市場は、かつてないほどのスピードと規模で変化し続けています。顧客ニーズは画一的なものから個別化・高度化し、製品に求める価値も「所有」から「利用」や「体験」へとシフトしています。製品ライフサイクルは短縮化の一途をたどり、環境問題への配慮やサステナビリティ経営への要求も日増しに高まっています。さらに、デジタル技術を武器にした異業種からの新規参入も相次ぎ、従来の業界構造や競争のルールそのものが覆されようとしています。 「守りのIT」だけでは、ジリ貧になるという現実多既存業務の効率化やコスト削減を目的とした「守りのIT」は、確かに企業の体力を維持するためには重要です。しかし、それだけでは新たな付加価値を生み出すことは難しく、結果として価格競争に巻き込まれやすくなります。競合他社も同様に効率化を進める中で、守りに徹するだけでは、徐々に利益率が低下し、事業がジリ貧になってしまうリスクを孕んでいます。 DXの本質的意義は、まさに「攻め」にあるDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、単にデジタルツールを導入することではありません。それは、「デジタル技術を駆使して、既存のビジネスモデルや業務プロセス、さらには企業文化や顧客との関係性を根本から変革し、新たな価値を創造し、持続的な競争優位性を確立すること」にあります。これは、現状維持ではなく、未来に向けて積極的に打って出る「攻め」の姿勢そのものです。 中堅製造業だからこその「攻め」のチャンス「攻めのIT投資は体力のある大企業のもの」と考えるのは早計です。中堅製造業には、大企業にはない独自の強みがあります。意思決定のスピードの速さ、特定のニッチ市場における高い専門性や顧客との密接な関係性、そして現場の柔軟性や対応力。これらの強みをデジタル技術と掛け合わせることで、大企業では真似できないユニークな製品やサービス、ビジネスモデルを生み出し、市場で確固たる地位を築くことが可能です。 何もしないことのリスク、変化への適応こそが生存戦略攻めのIT投資を躊躇し、旧態依然としたやり方を続けていれば、どうなるでしょうか。変化の波に取り残され、顧客ニーズとのズレが拡大し、競争力を失い、気づけば市場からの退出を余儀なくされる…そんな未来も決して絵空事ではありません。「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉は、現代の企業経営にも通じる真理です。 もはや、「攻めのIT投資」は、一部の先進企業だけのものではなく、変化の時代を生き抜くすべての中堅製造業にとって、未来を切り拓くための必須戦略なのです。 第2章:「攻めのIT投資」とは何か?~具体的な戦略領域とキーワード~ では、「攻めのIT投資」とは、具体的にどのような領域での取り組みを指すのでしょうか。中堅製造業が競争力を強化し、新たな価値を創造するための代表的な戦略領域と、関連するキーワードを見ていきましょう。 1. 新たな製品・サービスの開発(スマートプロダクト/サービス化):「モノ」から「モノ+コト」へ IoT(モノのインターネット)の活用自社製品にセンサーや通信機能を組み込み、稼働状況の遠隔監視、故障予兆検知、リモートメンテナンスといった付加価値の高いサービスを提供します。例えば、工作機械メーカーが、納入先の機械の稼働データを分析し、最適な保守時期を提案するサービスなどです。 AI(人工知能)による製品の高機能化製品自体にAIを搭載し、高度な自動化や最適化を実現します。例えば、画像認識AIを活用した自動外観検査装置や、学習機能を持つ産業用ロボットなどが挙げられます。 顧客データの活用とパーソナライゼーション顧客の購買履歴や利用状況、嗜好といったデータを収集・分析し、一人ひとりのニーズに合わせたカスタマイズ製品や、個別最適化されたサービスを提供します。 「コト売り」への転換単に製品を販売するだけでなく、製品を通じて顧客が得られる価値や体験(コト)を提供するビジネスモデルへ転換します。デジタル技術は、この「コト売り」を具現化する強力なツールとなります。 2. 新たなビジネスモデルの創出:収益構造の変革と新たな顧客接点 D2C(Direct to Consumer)モデルの構築卸売や小売を介さず、自社のECサイトなどを通じて直接最終消費者に製品を販売するモデルです。これにより、顧客データを直接収集でき、顧客とのエンゲージメントを深めることが可能になります。 サブスクリプションモデルの導入製品を売り切り型で提供するのではなく、月額や年額の定額料金で利用権や関連サービスを提供するモデルです。安定的な継続収益の確保や、顧客との長期的な関係構築に繋がります。例えば、産業機械の利用とメンテナンスをセットにしたサブスクリプションなどです。 プラットフォームビジネスへの展開自社がハブとなり、複数の企業やユーザーが参加して価値を交換し合う「場(プラットフォーム)」を提供するビジネスです。業界特化型の部品調達プラットフォームや、技術情報共有プラットフォームなどが考えられます。 異業種連携による価値共創自社だけでは提供できない新たな価値を、異なる強みを持つ他業種の企業と連携して創造します。例えば、食品加工機械メーカーが、食品レシピサイトや物流企業と連携して、新たな食のソリューションを提供するなどです。 3. サプライチェーン全体の最適化とレジリエンス強化:繋がる力で競争力を高める SCM(サプライチェーンマネジメント)システムの高度化AIなどを活用して需要予測の精度を高め、生産計画、在庫管理、物流を最適化し、サプライチェーン全体の効率性と応答性を向上させます。 トレーサビリティと信頼性の向上ブロックチェーン技術などを活用し、原材料の調達から製品の製造、流通、消費(あるいは廃棄)に至るまでの全プロセスを追跡可能にすることで、製品の安全性や品質に対する信頼性を高めます。 データ連携によるエコシステムの構築サプライヤー、部品メーカー、物流業者、販売代理店、そして最終顧客といったサプライチェーン上の関係者と積極的にデータを共有・連携することで、より強靭で透明性の高いエコシステムを構築し、全体最適を目指します。 4. 顧客エンゲージメントの深化とLTV(顧客生涯価値)の最大化:ファンを創り、育てる CRM/MAツールの戦略的活用CRM(顧客関係管理)システムで顧客情報を一元管理し、MA(マーケティングオートメーション)ツールで顧客の行動履歴や関心度に応じたパーソナルな情報提供やアプローチを行うことで、見込み客の育成から既存顧客のロイヤルティ向上までを一貫して支援します。 デジタルチャネルを通じた双方向コミュニケーション自社ウェブサイトのコンテンツ充実やオウンドメディア運営、SNSの積極活用などを通じて、顧客にとって価値のある情報を発信し、顧客からのフィードバックや問い合わせに迅速かつ丁寧に対応することで、双方向の信頼関係を構築します。 アフターサービスのデジタル化による顧客満足度向上FAQチャットボットによる24時間対応、ARを活用したリモート故障診断、オンラインでの部品注文や修理受付など、アフターサービスをデジタル化することで、顧客の利便性と満足度を高め、長期的な関係維持に繋げます。 5. データドリブン経営の実現:勘と経験から、データに基づく意思決定へ 全社的なデータ収集・分析基盤の構築製造現場だけでなく、営業、マーケティング、購買、経理といったあらゆる部門のデータを収集・統合し、分析可能な状態に整備します。 BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの活用収集・分析したデータを、経営層や各部門の管理者が直感的に理解できるようなダッシュボードやレポートとして可視化し、リアルタイムな経営状況の把握と迅速かつ的確な意思決定を支援します。 データサイエンティストの育成・活用データ分析の専門家を育成または外部から登用し、より高度なデータ分析(予測分析、要因分析など)を通じて、新たなビジネスインサイトを発見し、経営戦略や製品開発、マーケティング戦略の策定に活かします。 これらの『攻めのIT戦略』は、もはや一部の先進企業だけのものではありません。中堅製造業の皆様が持つ独自の技術力や顧客基盤、そして小回りの利く組織力を活かせば、これらの領域で新たな競争優位性を確立できる可能性は十分にあります。もし、貴社でも『自社の強みを活かした攻めのIT戦略をどう描けば良いか分からない』『具体的なビジネスモデル変革の事例や進め方を知りたい』とお考えでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、中堅製造業に特化したDX戦略立案のヒントや、イノベーション創出のフレームワークに触れてみませんか? きっと、未来への羅針盤が見つかるはずです。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:攻めのIT戦略を推進するための組織・体制づくり どんなに素晴らしい戦略を描いても、それを実行する組織と体制が伴わなければ絵に描いた餅に終わってしまいます。「攻めのIT戦略」を力強く推進していくためには、従来の発想にとらわれない、柔軟で機動力のある組織・体制づくりが不可欠です。 経営トップの揺るぎないリーダーシップと明確なビジョン「攻めのIT戦略」は、全社を巻き込む大きな変革です。経営トップ自らがDXの重要性を深く理解し、会社が目指すべき未来の姿(ビジョン)を明確に示し、変革を断固として推進していくという強いリーダーシップを発揮することが最も重要です。必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を重点的に配分し、時には痛みを伴う改革も断行する覚悟が求められます。 DX推進を担う専門部署またはクロスファンクショナルチームの設置DX戦略の企画・実行を専門的に担う部署(例:DX推進室、イノベーション推進部など)を設置するか、あるいは既存の部門から選抜されたメンバーによる部門横断的なプロジェクトチーム(クロスファンクショナルチーム)を組成します。この組織には、経営層直轄で、ある程度の予算執行権限や各部門への指示・協力要請権限を持たせることが、迅速な意思決定と実行のためには望ましいでしょう。 デジタル人材の戦略的な育成と確保「攻めのIT戦略」を具体的に推進していくためには、AI、IoT、データサイエンスといった先端デジタル技術に精通した人材や、ビジネスとITを繋ぐブリッジ人材が不可欠です。外部からの採用だけでなく、既存社員のリスキリング(新しいスキルの習得)やアップスキリング(現有スキルの向上)にも積極的に投資し、社内にデジタル人材プールを形成していくことが重要です。 アジャイルな開発・推進体制と「失敗を許容する」文化の醸成変化の速い時代においては、最初から完璧な計画を立てて時間をかけて実行するウォーターフォール型のアプローチは、必ずしも有効ではありません。むしろ、小さなテーマで素早く試作・検証を行い(スモールスタート)、顧客や市場からのフィードバックを得ながら柔軟に軌道修正していくアジャイルな進め方が適しています。そのためには、挑戦を奨励し、失敗から学び次に活かすことを許容する企業文化を醸成することが不可欠です。 外部の知見・技術を積極的に活用するオープンイノベーション自社だけですべての知見や技術を賄おうとする「自前主義」には限界があります。ITベンダーやコンサルティングファームはもちろんのこと、大学や研究機関、あるいは異業種のスタートアップ企業など、外部の組織が持つ新しいアイデアや技術、人材を積極的に取り込み、協業を通じて新たな価値を創造していくオープンイノベーションの視点が重要になります。 部門間の壁を取り払い、全社的なコミュニケーションを活性化DXは、特定の部門だけで完結するものではありません。開発、製造、営業、マーケティング、管理部門といったあらゆる部門が、それぞれの役割を理解し、共通の目標に向かって連携・協力していく必要があります。そのためには、部門間の壁(サイロ)を取り払い、情報共有を促進し、風通しの良いコミュニケーションが活発に行われる組織風土を育むことが大切です。 組織変革には時間がかかりますが、これらの要素を意識し、粘り強く取り組むことが、「攻めのIT戦略」を成功させるための土台となります。 第4章:中堅製造業における「攻めのDX」成功の鍵 最後に、中堅製造業が「攻めのDX」を成功させるために、特に意識すべき鍵となるポイントを5つご紹介します。 自社の「キラリと光る強み」を核に据える大企業と同じ土俵で戦う必要はありません。自社が長年培ってきた独自の技術力、特定の顧客層との強い信頼関係、地域社会への貢献といった「コアコンピタンス(中核的な強み)」を改めて深く掘り下げ、それをデジタル技術でどのように強化・拡張し、新たな価値に転換できるかを徹底的に考えることが、中堅製造業ならではのDX戦略の出発点です。 顧客の「真の課題(ペインポイント)」に徹底的に寄り添う「こんな技術があるから、こんな製品が作れるはず」というプロダクトアウトの発想だけでなく、「顧客は一体何に困っていて、何を解決したいと願っているのか」というマーケットインの発想が重要です。顧客の表面的な要望の奥にある「真の課題」を深く理解し、それをデジタル技術でどのように解決し、期待を超える価値を提供できるかを追求しましょう。 「小さく産んで、大きく育てる」アジャイルな挑戦を最初から大規模な投資や完璧なシステムを目指すのではなく、まずは特定の製品やサービス、あるいは一部の顧客層を対象に、小さな規模で新しい取り組みを試してみましょう。そこで得られた成果や課題、顧客からのフィードバックを元に、迅速に改善を重ね、成功の確度を高めながら徐々にスケールアップしていく「リーンスタートアップ」的なアプローチが有効です。 投資対効果(ROI)を多角的・中長期的な視点で評価する「攻めのIT投資」は、短期的なコスト削減効果だけでは測れない価値を生み出す可能性があります。新たな収益機会の創出、顧客ロイヤルティの向上、ブランドイメージの向上、従業員のモチベーション向上、そして将来の事業継続性の確保といった、中長期的な視点や非財務的な価値も含めて、総合的に投資対効果を評価する視点が必要です。 変化を恐れず、常に「学び続ける組織」であることデジタル技術は日進月歩で進化し、市場環境も常に変化し続けます。一度DX戦略を策定したら終わりではなく、常に最新の情報を収集し、新しい技術や考え方を学び、自社の戦略や取り組みを柔軟に見直し、進化させていく姿勢が不可欠です。組織全体が「学習する組織」となり、変化を脅威ではなくチャンスと捉えるマインドセットを育むことが、持続的な成長の鍵となります。 変化の激しい時代において、『攻めのDX』は、もはや選択肢ではなく必須の経営戦略です。自社の強みを活かし、顧客の真のニーズに応え、勇気を持って新たな一歩を踏み出すこと。その先にこそ、持続的な成長と競争力の強化が待っています。 この5回にわたるコラムシリーズを通じて、中堅製造業の皆様のDX推進に関する様々な課題と、その解決の方向性についてお伝えしてまいりました。もし、これらの内容を踏まえ、『自社ならではのDX戦略を具体的に策定したい』『専門家と共に、攻めのIT投資計画を練り上げたい』と強くお感じになりましたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、皆様の個別の状況に合わせたアドバイスや、具体的なアクションプランの策定を全力でサポートさせていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:DXという終わりのない旅路へ、勇気ある一歩を 「守りのIT」から「攻めのIT」へ。この転換は、中堅製造業の皆様にとって、決して容易な道のりではないかもしれません。しかし、それは同時に、これまでの常識や成功体験にとらわれず、未来に向けて新たな価値を創造し、自社の可能性を大きく飛躍させるための、またとないチャンスでもあります。 中堅製造業だからこそ持ち得る独自の強みと、デジタル技術の力を掛け合わせることで生まれるイノベーションは、きっとあなたの会社を、そして日本のものづくりを、より明るい未来へと導いてくれるはずです。 この5回にわたるコラムシリーズが、読者の皆様にとって、DXという壮大で終わりのない旅路への、勇気ある最初の一歩を踏み出すための一助となれたのであれば、これに勝る喜びはありません。 私たちは、これからもセミナーや情報発信を通じて、中堅製造業の皆様のDX推進を力強くご支援してまいりたいと考えております。変化を恐れず、未来をその手で切り拓こうとする皆様の挑戦を、心から応援しています。 次はあなたの番です! https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■成功事例 【1】<愛知県>多品種少量生産の企業がIoT活用を実施し、データ分析による現場改善を実践した事例! 【2】<岐阜県>MES活用により、人+機械の生産進捗をデータ化!工場内全体進捗管理を実践した事例! 【3】<大阪府>複数拠点の工場をIoTを活用することによって本社で統括管理できるようになった事例! 【4】<大阪府>MES活用により、生産計画~製造指示~実績取得をすべてペーパレス化した事例! 【5】<愛知県>工場現場のペーパレス化を実現!月2,240時間の削減に成功した事例!   【本セミナーで学べるポイント】 従業員200~2000名の製造業におけるMES活用の重要性が学べる! ~市場動向を踏まえ、なぜ今中堅製造業がMESに取り組むべきなのか、具体的なメリットや実現できる姿を理解できます。~ IoT連携による製造現場の革新事例が学べる! ~デンソーウェーブ様にご登壇いただき、IoTをどのように生産性向上や現場の可視化を実現できるのか、具体的な事例を通して学ぶことができます。~ 人手不足・コスト増の課題解決のヒントが学べる! ~MESやIoTの導入によって、どのように省人化を進め、コストを削減できるのか、具体的な取り組みや効果について理解を深めることができます。~ 自社に適したMES導入への第一歩が学べる! ~中堅製造業がMES導入を検討する上で重要なポイントや、成功のためのステップ、注意点などを把握することができます。~ ▼お申し込みはこちらから https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ―――DXの旅路を振り返り、次なるステージへ この5回にわたるコラムシリーズでは、中堅製造業の皆様が直面するデジタルトランスフォーメーション(DX)の様々な側面について、共に考えてまいりました。 何から始めるべきかという「DXの第一歩」、現場の協力を得るための「コミュニケーション術」、勘と経験頼りから脱却するための「データ活用とMES」、そして匠の技を組織の力に変える「デジタル技術伝承」。これらのテーマを通じて、DXが単なるITシステムの導入ではなく、企業文化やビジネスプロセスそのものを変革する壮大な旅であることをご理解いただけたかと思います。 そして今、多くの企業がIT投資を、業務効率化やコスト削減といった、いわば「守りのIT」として捉えているのではないでしょうか。もちろん、それは企業経営の基盤として不可欠です。しかし、変化のスピードがかつてなく速い現代において、守りを固めるだけでは、荒波を乗り越え、成長し続けることは困難です。 これからの時代を勝ち抜くためには、ITを「コストセンター」から「プロフィットセンター」へとその認識を転換し、新たな価値創造や競争力強化に直結する「攻めのIT投資」へと舵を切ることが、中堅製造業の皆様にとっても喫緊の課題となっています。 「うちの会社も、まだまだ守りのITから抜け出せていない…」 「攻めのIT投資と言われても、具体的に何をどうすれば良いのだろう?」 最終回となる本コラムでは、そんな皆様の疑問に寄り添いながら、なぜ今「攻めのIT投資」が必要なのか、その具体的な戦略領域とは何か、そしてそれを推進するための組織体制や成功の鍵について、未来志向の視点から解説していきます。 第1章:なぜ今、「攻めのIT投資」が中堅製造業に必要なのか?~環境変化とDXの本質~ 造業を取り巻く環境変化と、DXが本来持つ「攻め」の意義について考えてみましょう。 避けて通れない市場環境の劇的変化現代の市場は、かつてないほどのスピードと規模で変化し続けています。顧客ニーズは画一的なものから個別化・高度化し、製品に求める価値も「所有」から「利用」や「体験」へとシフトしています。製品ライフサイクルは短縮化の一途をたどり、環境問題への配慮やサステナビリティ経営への要求も日増しに高まっています。さらに、デジタル技術を武器にした異業種からの新規参入も相次ぎ、従来の業界構造や競争のルールそのものが覆されようとしています。 「守りのIT」だけでは、ジリ貧になるという現実多既存業務の効率化やコスト削減を目的とした「守りのIT」は、確かに企業の体力を維持するためには重要です。しかし、それだけでは新たな付加価値を生み出すことは難しく、結果として価格競争に巻き込まれやすくなります。競合他社も同様に効率化を進める中で、守りに徹するだけでは、徐々に利益率が低下し、事業がジリ貧になってしまうリスクを孕んでいます。 DXの本質的意義は、まさに「攻め」にあるDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、単にデジタルツールを導入することではありません。それは、「デジタル技術を駆使して、既存のビジネスモデルや業務プロセス、さらには企業文化や顧客との関係性を根本から変革し、新たな価値を創造し、持続的な競争優位性を確立すること」にあります。これは、現状維持ではなく、未来に向けて積極的に打って出る「攻め」の姿勢そのものです。 中堅製造業だからこその「攻め」のチャンス「攻めのIT投資は体力のある大企業のもの」と考えるのは早計です。中堅製造業には、大企業にはない独自の強みがあります。意思決定のスピードの速さ、特定のニッチ市場における高い専門性や顧客との密接な関係性、そして現場の柔軟性や対応力。これらの強みをデジタル技術と掛け合わせることで、大企業では真似できないユニークな製品やサービス、ビジネスモデルを生み出し、市場で確固たる地位を築くことが可能です。 何もしないことのリスク、変化への適応こそが生存戦略攻めのIT投資を躊躇し、旧態依然としたやり方を続けていれば、どうなるでしょうか。変化の波に取り残され、顧客ニーズとのズレが拡大し、競争力を失い、気づけば市場からの退出を余儀なくされる…そんな未来も決して絵空事ではありません。「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉は、現代の企業経営にも通じる真理です。 もはや、「攻めのIT投資」は、一部の先進企業だけのものではなく、変化の時代を生き抜くすべての中堅製造業にとって、未来を切り拓くための必須戦略なのです。 第2章:「攻めのIT投資」とは何か?~具体的な戦略領域とキーワード~ では、「攻めのIT投資」とは、具体的にどのような領域での取り組みを指すのでしょうか。中堅製造業が競争力を強化し、新たな価値を創造するための代表的な戦略領域と、関連するキーワードを見ていきましょう。 1. 新たな製品・サービスの開発(スマートプロダクト/サービス化):「モノ」から「モノ+コト」へ IoT(モノのインターネット)の活用自社製品にセンサーや通信機能を組み込み、稼働状況の遠隔監視、故障予兆検知、リモートメンテナンスといった付加価値の高いサービスを提供します。例えば、工作機械メーカーが、納入先の機械の稼働データを分析し、最適な保守時期を提案するサービスなどです。 AI(人工知能)による製品の高機能化製品自体にAIを搭載し、高度な自動化や最適化を実現します。例えば、画像認識AIを活用した自動外観検査装置や、学習機能を持つ産業用ロボットなどが挙げられます。 顧客データの活用とパーソナライゼーション顧客の購買履歴や利用状況、嗜好といったデータを収集・分析し、一人ひとりのニーズに合わせたカスタマイズ製品や、個別最適化されたサービスを提供します。 「コト売り」への転換単に製品を販売するだけでなく、製品を通じて顧客が得られる価値や体験(コト)を提供するビジネスモデルへ転換します。デジタル技術は、この「コト売り」を具現化する強力なツールとなります。 2. 新たなビジネスモデルの創出:収益構造の変革と新たな顧客接点 D2C(Direct to Consumer)モデルの構築卸売や小売を介さず、自社のECサイトなどを通じて直接最終消費者に製品を販売するモデルです。これにより、顧客データを直接収集でき、顧客とのエンゲージメントを深めることが可能になります。 サブスクリプションモデルの導入製品を売り切り型で提供するのではなく、月額や年額の定額料金で利用権や関連サービスを提供するモデルです。安定的な継続収益の確保や、顧客との長期的な関係構築に繋がります。例えば、産業機械の利用とメンテナンスをセットにしたサブスクリプションなどです。 プラットフォームビジネスへの展開自社がハブとなり、複数の企業やユーザーが参加して価値を交換し合う「場(プラットフォーム)」を提供するビジネスです。業界特化型の部品調達プラットフォームや、技術情報共有プラットフォームなどが考えられます。 異業種連携による価値共創自社だけでは提供できない新たな価値を、異なる強みを持つ他業種の企業と連携して創造します。例えば、食品加工機械メーカーが、食品レシピサイトや物流企業と連携して、新たな食のソリューションを提供するなどです。 3. サプライチェーン全体の最適化とレジリエンス強化:繋がる力で競争力を高める SCM(サプライチェーンマネジメント)システムの高度化AIなどを活用して需要予測の精度を高め、生産計画、在庫管理、物流を最適化し、サプライチェーン全体の効率性と応答性を向上させます。 トレーサビリティと信頼性の向上ブロックチェーン技術などを活用し、原材料の調達から製品の製造、流通、消費(あるいは廃棄)に至るまでの全プロセスを追跡可能にすることで、製品の安全性や品質に対する信頼性を高めます。 データ連携によるエコシステムの構築サプライヤー、部品メーカー、物流業者、販売代理店、そして最終顧客といったサプライチェーン上の関係者と積極的にデータを共有・連携することで、より強靭で透明性の高いエコシステムを構築し、全体最適を目指します。 4. 顧客エンゲージメントの深化とLTV(顧客生涯価値)の最大化:ファンを創り、育てる CRM/MAツールの戦略的活用CRM(顧客関係管理)システムで顧客情報を一元管理し、MA(マーケティングオートメーション)ツールで顧客の行動履歴や関心度に応じたパーソナルな情報提供やアプローチを行うことで、見込み客の育成から既存顧客のロイヤルティ向上までを一貫して支援します。 デジタルチャネルを通じた双方向コミュニケーション自社ウェブサイトのコンテンツ充実やオウンドメディア運営、SNSの積極活用などを通じて、顧客にとって価値のある情報を発信し、顧客からのフィードバックや問い合わせに迅速かつ丁寧に対応することで、双方向の信頼関係を構築します。 アフターサービスのデジタル化による顧客満足度向上FAQチャットボットによる24時間対応、ARを活用したリモート故障診断、オンラインでの部品注文や修理受付など、アフターサービスをデジタル化することで、顧客の利便性と満足度を高め、長期的な関係維持に繋げます。 5. データドリブン経営の実現:勘と経験から、データに基づく意思決定へ 全社的なデータ収集・分析基盤の構築製造現場だけでなく、営業、マーケティング、購買、経理といったあらゆる部門のデータを収集・統合し、分析可能な状態に整備します。 BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの活用収集・分析したデータを、経営層や各部門の管理者が直感的に理解できるようなダッシュボードやレポートとして可視化し、リアルタイムな経営状況の把握と迅速かつ的確な意思決定を支援します。 データサイエンティストの育成・活用データ分析の専門家を育成または外部から登用し、より高度なデータ分析(予測分析、要因分析など)を通じて、新たなビジネスインサイトを発見し、経営戦略や製品開発、マーケティング戦略の策定に活かします。 これらの『攻めのIT戦略』は、もはや一部の先進企業だけのものではありません。中堅製造業の皆様が持つ独自の技術力や顧客基盤、そして小回りの利く組織力を活かせば、これらの領域で新たな競争優位性を確立できる可能性は十分にあります。もし、貴社でも『自社の強みを活かした攻めのIT戦略をどう描けば良いか分からない』『具体的なビジネスモデル変革の事例や進め方を知りたい』とお考えでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、中堅製造業に特化したDX戦略立案のヒントや、イノベーション創出のフレームワークに触れてみませんか? きっと、未来への羅針盤が見つかるはずです。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:攻めのIT戦略を推進するための組織・体制づくり どんなに素晴らしい戦略を描いても、それを実行する組織と体制が伴わなければ絵に描いた餅に終わってしまいます。「攻めのIT戦略」を力強く推進していくためには、従来の発想にとらわれない、柔軟で機動力のある組織・体制づくりが不可欠です。 経営トップの揺るぎないリーダーシップと明確なビジョン「攻めのIT戦略」は、全社を巻き込む大きな変革です。経営トップ自らがDXの重要性を深く理解し、会社が目指すべき未来の姿(ビジョン)を明確に示し、変革を断固として推進していくという強いリーダーシップを発揮することが最も重要です。必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を重点的に配分し、時には痛みを伴う改革も断行する覚悟が求められます。 DX推進を担う専門部署またはクロスファンクショナルチームの設置DX戦略の企画・実行を専門的に担う部署(例:DX推進室、イノベーション推進部など)を設置するか、あるいは既存の部門から選抜されたメンバーによる部門横断的なプロジェクトチーム(クロスファンクショナルチーム)を組成します。この組織には、経営層直轄で、ある程度の予算執行権限や各部門への指示・協力要請権限を持たせることが、迅速な意思決定と実行のためには望ましいでしょう。 デジタル人材の戦略的な育成と確保「攻めのIT戦略」を具体的に推進していくためには、AI、IoT、データサイエンスといった先端デジタル技術に精通した人材や、ビジネスとITを繋ぐブリッジ人材が不可欠です。外部からの採用だけでなく、既存社員のリスキリング(新しいスキルの習得)やアップスキリング(現有スキルの向上)にも積極的に投資し、社内にデジタル人材プールを形成していくことが重要です。 アジャイルな開発・推進体制と「失敗を許容する」文化の醸成変化の速い時代においては、最初から完璧な計画を立てて時間をかけて実行するウォーターフォール型のアプローチは、必ずしも有効ではありません。むしろ、小さなテーマで素早く試作・検証を行い(スモールスタート)、顧客や市場からのフィードバックを得ながら柔軟に軌道修正していくアジャイルな進め方が適しています。そのためには、挑戦を奨励し、失敗から学び次に活かすことを許容する企業文化を醸成することが不可欠です。 外部の知見・技術を積極的に活用するオープンイノベーション自社だけですべての知見や技術を賄おうとする「自前主義」には限界があります。ITベンダーやコンサルティングファームはもちろんのこと、大学や研究機関、あるいは異業種のスタートアップ企業など、外部の組織が持つ新しいアイデアや技術、人材を積極的に取り込み、協業を通じて新たな価値を創造していくオープンイノベーションの視点が重要になります。 部門間の壁を取り払い、全社的なコミュニケーションを活性化DXは、特定の部門だけで完結するものではありません。開発、製造、営業、マーケティング、管理部門といったあらゆる部門が、それぞれの役割を理解し、共通の目標に向かって連携・協力していく必要があります。そのためには、部門間の壁(サイロ)を取り払い、情報共有を促進し、風通しの良いコミュニケーションが活発に行われる組織風土を育むことが大切です。 組織変革には時間がかかりますが、これらの要素を意識し、粘り強く取り組むことが、「攻めのIT戦略」を成功させるための土台となります。 第4章:中堅製造業における「攻めのDX」成功の鍵 最後に、中堅製造業が「攻めのDX」を成功させるために、特に意識すべき鍵となるポイントを5つご紹介します。 自社の「キラリと光る強み」を核に据える大企業と同じ土俵で戦う必要はありません。自社が長年培ってきた独自の技術力、特定の顧客層との強い信頼関係、地域社会への貢献といった「コアコンピタンス(中核的な強み)」を改めて深く掘り下げ、それをデジタル技術でどのように強化・拡張し、新たな価値に転換できるかを徹底的に考えることが、中堅製造業ならではのDX戦略の出発点です。 顧客の「真の課題(ペインポイント)」に徹底的に寄り添う「こんな技術があるから、こんな製品が作れるはず」というプロダクトアウトの発想だけでなく、「顧客は一体何に困っていて、何を解決したいと願っているのか」というマーケットインの発想が重要です。顧客の表面的な要望の奥にある「真の課題」を深く理解し、それをデジタル技術でどのように解決し、期待を超える価値を提供できるかを追求しましょう。 「小さく産んで、大きく育てる」アジャイルな挑戦を最初から大規模な投資や完璧なシステムを目指すのではなく、まずは特定の製品やサービス、あるいは一部の顧客層を対象に、小さな規模で新しい取り組みを試してみましょう。そこで得られた成果や課題、顧客からのフィードバックを元に、迅速に改善を重ね、成功の確度を高めながら徐々にスケールアップしていく「リーンスタートアップ」的なアプローチが有効です。 投資対効果(ROI)を多角的・中長期的な視点で評価する「攻めのIT投資」は、短期的なコスト削減効果だけでは測れない価値を生み出す可能性があります。新たな収益機会の創出、顧客ロイヤルティの向上、ブランドイメージの向上、従業員のモチベーション向上、そして将来の事業継続性の確保といった、中長期的な視点や非財務的な価値も含めて、総合的に投資対効果を評価する視点が必要です。 変化を恐れず、常に「学び続ける組織」であることデジタル技術は日進月歩で進化し、市場環境も常に変化し続けます。一度DX戦略を策定したら終わりではなく、常に最新の情報を収集し、新しい技術や考え方を学び、自社の戦略や取り組みを柔軟に見直し、進化させていく姿勢が不可欠です。組織全体が「学習する組織」となり、変化を脅威ではなくチャンスと捉えるマインドセットを育むことが、持続的な成長の鍵となります。 変化の激しい時代において、『攻めのDX』は、もはや選択肢ではなく必須の経営戦略です。自社の強みを活かし、顧客の真のニーズに応え、勇気を持って新たな一歩を踏み出すこと。その先にこそ、持続的な成長と競争力の強化が待っています。 この5回にわたるコラムシリーズを通じて、中堅製造業の皆様のDX推進に関する様々な課題と、その解決の方向性についてお伝えしてまいりました。もし、これらの内容を踏まえ、『自社ならではのDX戦略を具体的に策定したい』『専門家と共に、攻めのIT投資計画を練り上げたい』と強くお感じになりましたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、皆様の個別の状況に合わせたアドバイスや、具体的なアクションプランの策定を全力でサポートさせていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:DXという終わりのない旅路へ、勇気ある一歩を 「守りのIT」から「攻めのIT」へ。この転換は、中堅製造業の皆様にとって、決して容易な道のりではないかもしれません。しかし、それは同時に、これまでの常識や成功体験にとらわれず、未来に向けて新たな価値を創造し、自社の可能性を大きく飛躍させるための、またとないチャンスでもあります。 中堅製造業だからこそ持ち得る独自の強みと、デジタル技術の力を掛け合わせることで生まれるイノベーションは、きっとあなたの会社を、そして日本のものづくりを、より明るい未来へと導いてくれるはずです。 この5回にわたるコラムシリーズが、読者の皆様にとって、DXという壮大で終わりのない旅路への、勇気ある最初の一歩を踏み出すための一助となれたのであれば、これに勝る喜びはありません。 私たちは、これからもセミナーや情報発信を通じて、中堅製造業の皆様のDX推進を力強くご支援してまいりたいと考えております。変化を恐れず、未来をその手で切り拓こうとする皆様の挑戦を、心から応援しています。 次はあなたの番です! https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■成功事例 【1】<愛知県>多品種少量生産の企業がIoT活用を実施し、データ分析による現場改善を実践した事例! 【2】<岐阜県>MES活用により、人+機械の生産進捗をデータ化!工場内全体進捗管理を実践した事例! 【3】<大阪府>複数拠点の工場をIoTを活用することによって本社で統括管理できるようになった事例! 【4】<大阪府>MES活用により、生産計画~製造指示~実績取得をすべてペーパレス化した事例! 【5】<愛知県>工場現場のペーパレス化を実現!月2,240時間の削減に成功した事例!   【本セミナーで学べるポイント】 従業員200~2000名の製造業におけるMES活用の重要性が学べる! ~市場動向を踏まえ、なぜ今中堅製造業がMESに取り組むべきなのか、具体的なメリットや実現できる姿を理解できます。~ IoT連携による製造現場の革新事例が学べる! ~デンソーウェーブ様にご登壇いただき、IoTをどのように生産性向上や現場の可視化を実現できるのか、具体的な事例を通して学ぶことができます。~ 人手不足・コスト増の課題解決のヒントが学べる! ~MESやIoTの導入によって、どのように省人化を進め、コストを削減できるのか、具体的な取り組みや効果について理解を深めることができます。~ 自社に適したMES導入への第一歩が学べる! ~中堅製造業がMES導入を検討する上で重要なポイントや、成功のためのステップ、注意点などを把握することができます。~ ▼お申し込みはこちらから https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320

【第4回】『あの人がいないと仕事が止まる!』属人化の壁を打ち破る、デジタル技術による技術伝承 ~匠の技を「見える化」し、組織の力へ変えるDX~

2025.06.04

―――「あの人」がいなくなったら、うちの現場はどうなる…? 「この機械の微妙な調整は、ベテランのAさんにしかできないんだよな…」 「この特殊な溶接は、Bさんの長年の勘と経験が頼り。他の者には到底真似できない」 「Cさんが急に休むと、あのラインは途端に効率が落ちてしまうんだ…」 御社の製造現場でも、このような会話や状況に心当たりはありませんか? 特定の熟練技術者、いわゆる「匠」と呼ばれるようなキーパーソンに、重要な業務やノウハウが集中し、他の従業員では代替できない状態――これが「属人化」です。 長年にわたり会社に貢献してきたベテラン社員の存在は、確かに頼もしく、誇らしいものです。しかし、その一方で、彼らがいなければ業務が回らない、品質が維持できないという状況は、企業にとって大きなリスクを孕んでいます。Aさんが定年退職したら? Bさんが突然病気で長期離脱したら? Cさんが転職してしまったら…? その時、あなたの会社の製造現場は、本当に大丈夫でしょうか。 技術伝承の重要性は誰もが認識しているものの、日々の業務に追われ、効果的なOJT(On-the-Job Training)もままならず、具体的な対策を打てずに時間だけが過ぎていく…。そんな焦りや危機感を抱える経営者や管理職の方も少なくないはずです。 このコラムでは、なぜ製造現場で属人化が生まれてしまうのか、それがもたらす深刻な経営リスクとは何か、そして、この根深い課題を解決するために、デジタル技術を活用した新しい技術伝承のカタチ、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)がどのように貢献できるのかを、具体的な事例を交えながら解説していきます。 第1章:なぜ「属人化」は生まれるのか?~製造現場における技術伝承の構造的課題~ 製造現場における属人化は、単に「誰かが意図的に技術を抱え込んでいる」という単純な問題ではなく、長年にわたる構造的な課題が複雑に絡み合って発生しています。 言葉にできない「暗黙知」の壁熟練技術者が持つ技術やノウハウの多くは、マニュアルや言葉では表現しきれない「暗黙知」です。機械の微妙な音の違いを聞き分ける聴覚、加工面のわずかな手触りの変化を感じ取る触覚、長年の経験から導き出される「こうすればうまくいく」という直感的な判断。これらは、本人ですら明確に言語化することが難しく、他者に伝えようとしても「見て盗め」「やって覚えろ」といった精神論に陥りがちです。 OJT頼みの限界と指導者不足多くの企業で技術伝承の主役はOJTですが、体系的な教育プログラムが整備されていなかったり、指導役となる中堅・ベテラン社員自身がプレイングマネージャーとして多忙を極め、十分な指導時間を確保できなかったりするケースが散見されます。また、「自分ができたから他人もできるはず」「教え方が分からない」といった指導スキル自体の課題も、OJTの効果を限定的なものにしています。 若手社員の価値観の変化とキャリア観の多様化かつてのような終身雇用が当たり前ではなくなり、若手社員のキャリア観も多様化しています。「一つの会社で長年かけてじっくり技術を習得する」というよりも、より早く成長を実感できる環境や、明確なキャリアパスを求める傾向があります。また、旧来型の「背中を見て学べ」といった一方的なOJTは、現代の若手には受け入れられにくく、早期離職の一因となることもあります。 多品種少量生産と技術の高度化・細分化顧客ニーズの多様化に伴い、製造現場では多品種少量生産が主流となり、求められる技術もより高度かつ細分化しています。これにより、一人の技術者が習得すべき技術範囲が広がり、かつての「一人前の職人」を育成するのに、より多くの時間と労力が必要になっています。また、一人の熟練者が全ての技術を網羅的に教えることも困難になっています。 短期的な成果主義と人材育成投資の軽視日々の生産目標達成やコスト削減といった短期的な成果が優先され、時間とコストがかかる人材育成や技術伝承への投資が後回しにされがちな企業も少なくありません。「今は忙しいから、落ち着いたら…」という先延ばしが、気づけば深刻な技術の空洞化を招いているのです。 「その道のプロ」を尊重しすぎた企業文化特定の個人に業務やノウハウが集中することを問題視するどころか、むしろ「あの人はこの道のプロだから」「あの人に任せておけば安心」と、属人化を容認、あるいは助長してきた企業文化も背景にあるかもしれません。その結果、組織として技術を標準化し、共有するという意識が希薄になってしまうのです。 これらの要因が複雑に絡み合い、気づかぬうちに「あの人がいないと仕事が止まる」という、脆く危険な状態を生み出しているのです。 第2章:「あの人が辞めたら…」属人化がもたらす経営リスクとDXの必要性 「あの人がいれば大丈夫」という安心感の裏側には、企業経営を揺るがしかねない深刻なリスクが潜んでいます。属人化がもたらす具体的な経営リスクと、なぜ今DXによる解決が求められているのかを見ていきましょう。 事業継続性の危機(BCPリスク)最も直接的かつ深刻なリスクは、特定の技術者に依存している業務が、その人の退職、休職、あるいは急な異動によって完全に停止してしまう可能性です。これにより、製品の生産遅延や供給停止、最悪の場合は顧客からの取引停止といった事態を招き、事業の継続そのものが脅かされます。 データの品質という「信頼性の壁」手書きの帳票からの転記ミス、入力漏れ、測定機器のキャリブレーション不足による不正確な値、データの粒度(細かさ)や定義の不統一など、収集されたデータの品質に問題があると、その後の分析結果の信頼性も揺らぎます。「ゴミからはゴミしか生まれない(Garbage In, Garbage Out)」という言葉の通り、質の低いデータからは有益な洞察は得られません。 品質の不安定化と信頼の失墜個人のスキルや経験、その日のコンディションによって品質が左右される状態では、安定した製品供給は望めません。手順が標準化されておらず、勘や経験に頼った作業は、ヒューマンエラーを誘発しやすく、不良品の発生リスクを高めます。これは、顧客からの信頼を大きく損なう原因となります。 生産性の頭打ちと成長の鈍化特定の個人しか担当できない業務は、その人の作業能力や労働時間が、そのまま組織全体の生産能力の上限となってしまいます。新しい技術の導入や生産方式の改善も、その人の理解や協力を得なければ進まず、組織全体の生産性向上やイノベーションの足かせとなり、企業の成長を鈍化させます。 組織学習能力の低下とイノベーションの阻害暗黙知が共有されず、個人の頭の中に留まっている状態では、組織としての学習が進みません。過去の失敗や成功の経験が活かされず、同じような問題が繰り返し発生したり、新たな改善提案や技術開発のアイデアが生まれにくい風土になったりします。これは、企業の競争力低下に直結します。 採用・育成コストの無駄と悪循環貴重な技術が組織内で継承されないため、退職者が出るたびに、高いコストをかけて即戦力となる中途採用者を探さなければならなくなります。あるいは、新人を採用しても、効果的な育成方法が確立されていないため、一人前になるまでに非常に長い時間とコストを要し、その間にまた離職してしまうといった悪循環に陥る可能性もあります。 このように、属人化は単なる「個人の問題」ではなく、企業の持続可能性を揺るがしかねない「経営リスク」なのです。このリスクを認識し、対策を講じることが急務と言えるでしょう。そして、その有効な解決策の一つとして、デジタル技術を活用した技術伝承、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。もし、貴社でも『ベテラン頼みの業務が多く、将来が不安だ』『技術伝承に課題を感じているが、何から手をつければ良いか分からない』とお悩みでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、具体的なデジタル技術の活用事例や、属人化解消に向けた実践的なアプローチを学んでみませんか? きっと、貴社の未来を明るく照らすヒントが見つかるはずです。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:デジタル技術が切り拓く、新しい技術伝承のカタチ では、デジタル技術を活用することで、これまで困難とされてきた「暗黙知」の形式知化や、効率的・効果的な技術伝承はどのように実現できるのでしょうか。具体的な技術と活用シーンをご紹介します。 動画マニュアル・作業手順書のデジタル化と共有活用シーン各熟練技術者の作業風景や機械の操作手順をスマートフォンやタブレットで動画撮影し、重要なポイントや注意点を字幕、ナレーション、あるいはテロップで補足します。これらの動画マニュアルはクラウド上に保存され、現場の作業者は必要な時にいつでもタブレット端末などで閲覧・学習できます。紙ベースの手順書も、写真や図を多用した分かりやすいデジタル版に移行し、改訂や共有を容易にします。 効果「見て盗む」しかなかった匠の技が、視覚的に分かりやすく、繰り返し学習可能なコンテンツになります。これにより、若手作業員の習熟期間短縮、作業ミスの削減、作業品質の標準化が期待できます。例えば、ある中堅部品メーカーでは、金型交換作業を詳細な動画マニュアルにしたことで、従来3ヶ月かかっていた新人教育期間を1ヶ月に短縮し、作業時間のばらつきも大幅に減少させました。 AR(拡張現実)/VR(仮想現実)を活用した体験型トレーニング活用シーンAR技術を活用し、専用のグラス型デバイスなどを通じて現実の設備や作業対象物に、作業指示、部品名、締め付けトルクといった情報を重ねて表示し、作業をナビゲートします。また、VR技術を用いて、危険を伴う作業(高所作業、感電リスクのある作業など)や、高価な設備を使用するトレーニング、あるいは再現が難しいトラブルシューティングなどを、仮想空間で安全かつリアルに体験させることができます。 効果ARは、実際の作業を行いながらリアルタイムで指示を受けられるため、作業効率の向上とミスの防止に繋がります。VRは、失敗を恐れずに何度でも反復練習ができ、座学だけでは得られない実践的なスキルや危険感受性を効果的に育成できます。例えば、ある建設機械メーカーでは、熟練工でも習得に時間のかかる特殊溶接技術のVRトレーニングコンテンツを開発し、若手技能者の育成期間短縮と技能レベル向上を実現しています。 IoT/センサー技術による熟練技術のデータ化・「見える化」活用シーン熟練技術者が機械を操作する際のレバーの角度や速度、加工時の温度や圧力の変化、製品の仕上がりを判断する際の視線の動きなどを、各種センサーやカメラ、ウェアラブルデバイスを用いてデータとして収集・分析します。これにより、これまで「勘」や「コツ」として表現されていた暗黙知を、数値やグラフ、パターンとして客観的に「見える化」します。効果熟練者の無意識の動作や判断基準をデータに基づいて解明し、最適な作業条件や標準的な判断モデルを導き出すことができます。このデータは、若手作業者への具体的なフィードバックや、作業ナビゲーションシステムの開発、さらには一部工程の自動化・自律化へと繋げることも可能です。例えば、ある化学メーカーでは、熟練オペレーターのプラント運転操作ログをAIで解析し、最適な運転パターンを若手にも共有することで、プラント全体の安定稼働と効率向上に貢献しています。 ナレッジ共有システムの構築とコミュニケーション活性化活用シーン過去に発生したトラブル事例とその対処法、製品ごとの品質基準や加工条件、顧客からのクレーム情報、改善提案といった組織内に点在する有益な情報をデータベース化し、誰もが容易に検索・閲覧できるナレッジ共有システム(社内Wiki、FAQシステムなど)を構築します。また、社内SNSやビジネスチャットツールを活用し、部門や拠点を越えて気軽に質問したり、専門知識を持つ社員からアドバイスを得られたりするコミュニケーション環境を整備します。効果個人の頭の中に眠っていた知識や経験が組織の共有財産となり、問題解決の迅速化、業務の効率化、そして新たなアイデアの創出を促進します。特に若手社員にとっては、過去の事例から学んだり、気軽に先輩社員に相談したりできる環境は、成長を大きく後押しします。 リモート支援ツールの活用による遠隔指導・トラブルシューティング活用シーン現場の若手作業者が装着したスマートグラスのカメラ映像や、スマートフォンで映した作業状況を、遠隔地にいる熟練技術者がリアルタイムで確認しながら、音声や画面共有を通じて具体的な指示やアドバイスを行います。効果熟練技術者が直接現場に出向かなくても、複数の拠点や若手作業員を効率的にサポートできるようになります。これにより、出張コストの削減、迅速なトラブル対応、そして地理的な制約を超えた技術指導が可能になります。 これらのデジタル技術は、それぞれ単独で活用するだけでなく、組み合わせて活用することで、より大きな効果を発揮します。重要なのは、自社の課題や技術レベル、そして伝えたい技術の特性に合わせて、最適なツールと方法を選択することです。 第4章:デジタル技術伝承を成功させるための組織的な取り組み 最先端のデジタル技術を導入したとしても、それだけでは技術伝承がうまくいくとは限りません。技術を「組織の力」として定着させ、真の成果を生み出すためには、以下のような組織的な取り組みが不可欠です。 経営層の強いコミットメントと推進体制の確立技術伝承は、一朝一夕に成果が出るものではありません。経営トップがその重要性を深く認識し、全社的な取り組みとして位置づけ、必要な予算やリソースを継続的に投入するという強い意志を示すことが出発点です。そして、各部門と連携しながら計画的に推進していくための専門チームや担当者を明確に定めることも重要です。 現場の巻き込みと熟練技術者の協力体制の構築デジタル技術伝承の主役は、あくまで現場の従業員です。特に、自らの技術やノウハウを提供する側の熟練技術者に対しては、その意義を丁寧に説明し、彼らにとってもメリット(例:指導負担の軽減、自らの技術の価値の再認識、後進育成による達成感など)を感じてもらえるような働きかけが重要です。一方的に協力を求めるのではなく、共に新しい技術伝承のカタチを創り上げていくという姿勢が求められます。 スモールスタートと成功体験の共有・水平展開最初から全社規模で大々的に取り組もうとすると、現場の混乱を招いたり、投資対効果が見えにくかったりするリスクがあります。まずは、特定の業務や技術、あるいは意欲の高い部門を選んで試験的に導入し(スモールスタート)、そこで得られた成功体験やノウハウを社内で共有しながら、徐々に適用範囲を広げていく(水平展開)アプローチが現実的です。 「教える文化」「学ぶ文化」の醸成と評価制度への反映技術を積極的に共有する行為や、新しいことを意欲的に学ぶ姿勢を奨励し、それを人事評価や表彰制度などに反映させることで、「教える文化」「学ぶ文化」を組織全体に根付かせていくことが大切です。技術伝承は、誰か特定の人の責任ではなく、組織全体の責務であるという意識を醸成します。 継続的な効果検証と改善サイクルの確立デジタルツールを導入して終わり、ではありません。定期的にその活用状況や効果を検証し、現場からのフィードバックを収集しながら、コンテンツの内容を更新したり、ツールの使い方を見直したりといった改善活動を継続的に行っていく必要があります。技術も、伝える方法も、時代と共に進化させていくことが求められます。 デジタル技術を活用した技術伝承は、単にツールを導入すれば成功するものではありません。経営層の強いリーダーシップのもと、現場の協力を得ながら、組織全体で『技術を共有し、育て、活かす』文化を醸成していく地道な努力が不可欠です。 今回のコラムでご紹介したデジタル技術伝承のポイントや組織的な取り組みについて、『もっと具体的な導入事例や成功の秘訣を知りたい』『自社に合った技術伝承の仕組みづくりを専門家に相談したい』とお考えでしたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、様々な企業の先進的な取り組みをご紹介するとともに、皆様の技術伝承に関するお悩みを解決するための具体的な戦略立案をサポートさせていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:技術は、未来へのバトン。DXでその継承を確かなものに。 製造現場における「あの人がいないと仕事が止まる」という属人化の問題は、一見、解決が難しい根深い課題のように思えるかもしれません。しかし、デジタル技術の進化は、これまで不可能と思われていた「暗黙知の見える化」や「効率的な技術の再現」を可能にしつつあります。 ただし、忘れてはならないのは、デジタル技術はあくまでも強力な「ツール」であるということです。最も大切なのは、企業として、先人たちが築き上げてきた貴重な技術やノウハウを、組織全体の財産として次世代へと確かに繋いでいこうとする強い意志と、そのための具体的な行動です。 属人化からの脱却は、単にリスクを回避するだけでなく、組織全体の学習能力を高め、新たなイノベーションを生み出す土壌を育み、企業の持続的な成長を実現するための重要な鍵となります。 本コラムが、皆様の会社における技術伝承の課題解決に向けた、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。 次回は、いよいよ最終回。「守りから攻めのIT投資へ!競争力を強化する中堅製造業のDX戦略」と題し、IT投資をコスト削減だけでなく、いかにして企業の競争力強化や新たな価値創造に繋げていくか、より戦略的な視点からDXのあり方について考察します。どうぞご期待ください。 https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■成功事例 【1】<愛知県>多品種少量生産の企業がIoT活用を実施し、データ分析による現場改善を実践した事例! 【2】<岐阜県>MES活用により、人+機械の生産進捗をデータ化!工場内全体進捗管理を実践した事例! 【3】<大阪府>複数拠点の工場をIoTを活用することによって本社で統括管理できるようになった事例! 【4】<大阪府>MES活用により、生産計画~製造指示~実績取得をすべてペーパレス化した事例! 【5】<愛知県>工場現場のペーパレス化を実現!月2,240時間の削減に成功した事例! ■講座内容 【第1講座】中堅製造業がMESで手に入れる競争力と成長戦略 最新のMES市場トレンドと、中堅製造業が注目すべき動向 中堅製造業が抱える課題(人手不足、コスト増、品質管理など)とMESによる解決策 MES導入によって中堅製造業が実現できる具体的な姿(生産性向上、リードタイム短縮、トレーサビリティ強化など) 中堅製造業がMESを選定・導入する際の重要な検討ポイント 成功している中堅製造業のMES活用事例の概要紹介 <岐阜県>従業員30名の多品種少量生産の企業がリアルタイム原価管理を実現!現場改善により納期遅延を改善! 【第2講座】デンソーウェーブ登壇!IoTで実現した驚異の生産性向上と、明日から使える現場改善のヒント デンソーウェーブ様における製造業でのIoT活用事例の具体的な紹介 IoT技術を導入した背景と目的、解決した課題 導入したIoT技術の概要とシステム構成、MESとの連携について IoT活用による具体的な効果(生産性向上、品質向上、予知保全など)とその定量的なデータ 中堅製造業がIoT活用を検討する上での重要なポイントと成功の秘訣 【第3講座】MES取組事例:中堅製造業のためのMES導入「成功の法則」と現場が変わるリアル 【N社の事例】MES導入の背景と目的 導入したMESの概要と選定理由、導入プロセス MESを活用した具体的な取り組み内容(生産計画、進捗管理、品質管理、実績収集など) MES導入による効果(業務効率化、情報共有の促進、意思決定の迅速化など)とその具体的な事例 中堅製造業がMES導入を成功させるための重要な教訓と今後の展望 ▼お申し込みはこちらから https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ―――「あの人」がいなくなったら、うちの現場はどうなる…? 「この機械の微妙な調整は、ベテランのAさんにしかできないんだよな…」 「この特殊な溶接は、Bさんの長年の勘と経験が頼り。他の者には到底真似できない」 「Cさんが急に休むと、あのラインは途端に効率が落ちてしまうんだ…」 御社の製造現場でも、このような会話や状況に心当たりはありませんか? 特定の熟練技術者、いわゆる「匠」と呼ばれるようなキーパーソンに、重要な業務やノウハウが集中し、他の従業員では代替できない状態――これが「属人化」です。 長年にわたり会社に貢献してきたベテラン社員の存在は、確かに頼もしく、誇らしいものです。しかし、その一方で、彼らがいなければ業務が回らない、品質が維持できないという状況は、企業にとって大きなリスクを孕んでいます。Aさんが定年退職したら? Bさんが突然病気で長期離脱したら? Cさんが転職してしまったら…? その時、あなたの会社の製造現場は、本当に大丈夫でしょうか。 技術伝承の重要性は誰もが認識しているものの、日々の業務に追われ、効果的なOJT(On-the-Job Training)もままならず、具体的な対策を打てずに時間だけが過ぎていく…。そんな焦りや危機感を抱える経営者や管理職の方も少なくないはずです。 このコラムでは、なぜ製造現場で属人化が生まれてしまうのか、それがもたらす深刻な経営リスクとは何か、そして、この根深い課題を解決するために、デジタル技術を活用した新しい技術伝承のカタチ、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)がどのように貢献できるのかを、具体的な事例を交えながら解説していきます。 第1章:なぜ「属人化」は生まれるのか?~製造現場における技術伝承の構造的課題~ 製造現場における属人化は、単に「誰かが意図的に技術を抱え込んでいる」という単純な問題ではなく、長年にわたる構造的な課題が複雑に絡み合って発生しています。 言葉にできない「暗黙知」の壁熟練技術者が持つ技術やノウハウの多くは、マニュアルや言葉では表現しきれない「暗黙知」です。機械の微妙な音の違いを聞き分ける聴覚、加工面のわずかな手触りの変化を感じ取る触覚、長年の経験から導き出される「こうすればうまくいく」という直感的な判断。これらは、本人ですら明確に言語化することが難しく、他者に伝えようとしても「見て盗め」「やって覚えろ」といった精神論に陥りがちです。 OJT頼みの限界と指導者不足多くの企業で技術伝承の主役はOJTですが、体系的な教育プログラムが整備されていなかったり、指導役となる中堅・ベテラン社員自身がプレイングマネージャーとして多忙を極め、十分な指導時間を確保できなかったりするケースが散見されます。また、「自分ができたから他人もできるはず」「教え方が分からない」といった指導スキル自体の課題も、OJTの効果を限定的なものにしています。 若手社員の価値観の変化とキャリア観の多様化かつてのような終身雇用が当たり前ではなくなり、若手社員のキャリア観も多様化しています。「一つの会社で長年かけてじっくり技術を習得する」というよりも、より早く成長を実感できる環境や、明確なキャリアパスを求める傾向があります。また、旧来型の「背中を見て学べ」といった一方的なOJTは、現代の若手には受け入れられにくく、早期離職の一因となることもあります。 多品種少量生産と技術の高度化・細分化顧客ニーズの多様化に伴い、製造現場では多品種少量生産が主流となり、求められる技術もより高度かつ細分化しています。これにより、一人の技術者が習得すべき技術範囲が広がり、かつての「一人前の職人」を育成するのに、より多くの時間と労力が必要になっています。また、一人の熟練者が全ての技術を網羅的に教えることも困難になっています。 短期的な成果主義と人材育成投資の軽視日々の生産目標達成やコスト削減といった短期的な成果が優先され、時間とコストがかかる人材育成や技術伝承への投資が後回しにされがちな企業も少なくありません。「今は忙しいから、落ち着いたら…」という先延ばしが、気づけば深刻な技術の空洞化を招いているのです。 「その道のプロ」を尊重しすぎた企業文化特定の個人に業務やノウハウが集中することを問題視するどころか、むしろ「あの人はこの道のプロだから」「あの人に任せておけば安心」と、属人化を容認、あるいは助長してきた企業文化も背景にあるかもしれません。その結果、組織として技術を標準化し、共有するという意識が希薄になってしまうのです。 これらの要因が複雑に絡み合い、気づかぬうちに「あの人がいないと仕事が止まる」という、脆く危険な状態を生み出しているのです。 第2章:「あの人が辞めたら…」属人化がもたらす経営リスクとDXの必要性 「あの人がいれば大丈夫」という安心感の裏側には、企業経営を揺るがしかねない深刻なリスクが潜んでいます。属人化がもたらす具体的な経営リスクと、なぜ今DXによる解決が求められているのかを見ていきましょう。 事業継続性の危機(BCPリスク)最も直接的かつ深刻なリスクは、特定の技術者に依存している業務が、その人の退職、休職、あるいは急な異動によって完全に停止してしまう可能性です。これにより、製品の生産遅延や供給停止、最悪の場合は顧客からの取引停止といった事態を招き、事業の継続そのものが脅かされます。 データの品質という「信頼性の壁」手書きの帳票からの転記ミス、入力漏れ、測定機器のキャリブレーション不足による不正確な値、データの粒度(細かさ)や定義の不統一など、収集されたデータの品質に問題があると、その後の分析結果の信頼性も揺らぎます。「ゴミからはゴミしか生まれない(Garbage In, Garbage Out)」という言葉の通り、質の低いデータからは有益な洞察は得られません。 品質の不安定化と信頼の失墜個人のスキルや経験、その日のコンディションによって品質が左右される状態では、安定した製品供給は望めません。手順が標準化されておらず、勘や経験に頼った作業は、ヒューマンエラーを誘発しやすく、不良品の発生リスクを高めます。これは、顧客からの信頼を大きく損なう原因となります。 生産性の頭打ちと成長の鈍化特定の個人しか担当できない業務は、その人の作業能力や労働時間が、そのまま組織全体の生産能力の上限となってしまいます。新しい技術の導入や生産方式の改善も、その人の理解や協力を得なければ進まず、組織全体の生産性向上やイノベーションの足かせとなり、企業の成長を鈍化させます。 組織学習能力の低下とイノベーションの阻害暗黙知が共有されず、個人の頭の中に留まっている状態では、組織としての学習が進みません。過去の失敗や成功の経験が活かされず、同じような問題が繰り返し発生したり、新たな改善提案や技術開発のアイデアが生まれにくい風土になったりします。これは、企業の競争力低下に直結します。 採用・育成コストの無駄と悪循環貴重な技術が組織内で継承されないため、退職者が出るたびに、高いコストをかけて即戦力となる中途採用者を探さなければならなくなります。あるいは、新人を採用しても、効果的な育成方法が確立されていないため、一人前になるまでに非常に長い時間とコストを要し、その間にまた離職してしまうといった悪循環に陥る可能性もあります。 このように、属人化は単なる「個人の問題」ではなく、企業の持続可能性を揺るがしかねない「経営リスク」なのです。このリスクを認識し、対策を講じることが急務と言えるでしょう。そして、その有効な解決策の一つとして、デジタル技術を活用した技術伝承、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。もし、貴社でも『ベテラン頼みの業務が多く、将来が不安だ』『技術伝承に課題を感じているが、何から手をつければ良いか分からない』とお悩みでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、具体的なデジタル技術の活用事例や、属人化解消に向けた実践的なアプローチを学んでみませんか? きっと、貴社の未来を明るく照らすヒントが見つかるはずです。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:デジタル技術が切り拓く、新しい技術伝承のカタチ では、デジタル技術を活用することで、これまで困難とされてきた「暗黙知」の形式知化や、効率的・効果的な技術伝承はどのように実現できるのでしょうか。具体的な技術と活用シーンをご紹介します。 動画マニュアル・作業手順書のデジタル化と共有活用シーン各熟練技術者の作業風景や機械の操作手順をスマートフォンやタブレットで動画撮影し、重要なポイントや注意点を字幕、ナレーション、あるいはテロップで補足します。これらの動画マニュアルはクラウド上に保存され、現場の作業者は必要な時にいつでもタブレット端末などで閲覧・学習できます。紙ベースの手順書も、写真や図を多用した分かりやすいデジタル版に移行し、改訂や共有を容易にします。 効果「見て盗む」しかなかった匠の技が、視覚的に分かりやすく、繰り返し学習可能なコンテンツになります。これにより、若手作業員の習熟期間短縮、作業ミスの削減、作業品質の標準化が期待できます。例えば、ある中堅部品メーカーでは、金型交換作業を詳細な動画マニュアルにしたことで、従来3ヶ月かかっていた新人教育期間を1ヶ月に短縮し、作業時間のばらつきも大幅に減少させました。 AR(拡張現実)/VR(仮想現実)を活用した体験型トレーニング活用シーンAR技術を活用し、専用のグラス型デバイスなどを通じて現実の設備や作業対象物に、作業指示、部品名、締め付けトルクといった情報を重ねて表示し、作業をナビゲートします。また、VR技術を用いて、危険を伴う作業(高所作業、感電リスクのある作業など)や、高価な設備を使用するトレーニング、あるいは再現が難しいトラブルシューティングなどを、仮想空間で安全かつリアルに体験させることができます。 効果ARは、実際の作業を行いながらリアルタイムで指示を受けられるため、作業効率の向上とミスの防止に繋がります。VRは、失敗を恐れずに何度でも反復練習ができ、座学だけでは得られない実践的なスキルや危険感受性を効果的に育成できます。例えば、ある建設機械メーカーでは、熟練工でも習得に時間のかかる特殊溶接技術のVRトレーニングコンテンツを開発し、若手技能者の育成期間短縮と技能レベル向上を実現しています。 IoT/センサー技術による熟練技術のデータ化・「見える化」活用シーン熟練技術者が機械を操作する際のレバーの角度や速度、加工時の温度や圧力の変化、製品の仕上がりを判断する際の視線の動きなどを、各種センサーやカメラ、ウェアラブルデバイスを用いてデータとして収集・分析します。これにより、これまで「勘」や「コツ」として表現されていた暗黙知を、数値やグラフ、パターンとして客観的に「見える化」します。効果熟練者の無意識の動作や判断基準をデータに基づいて解明し、最適な作業条件や標準的な判断モデルを導き出すことができます。このデータは、若手作業者への具体的なフィードバックや、作業ナビゲーションシステムの開発、さらには一部工程の自動化・自律化へと繋げることも可能です。例えば、ある化学メーカーでは、熟練オペレーターのプラント運転操作ログをAIで解析し、最適な運転パターンを若手にも共有することで、プラント全体の安定稼働と効率向上に貢献しています。 ナレッジ共有システムの構築とコミュニケーション活性化活用シーン過去に発生したトラブル事例とその対処法、製品ごとの品質基準や加工条件、顧客からのクレーム情報、改善提案といった組織内に点在する有益な情報をデータベース化し、誰もが容易に検索・閲覧できるナレッジ共有システム(社内Wiki、FAQシステムなど)を構築します。また、社内SNSやビジネスチャットツールを活用し、部門や拠点を越えて気軽に質問したり、専門知識を持つ社員からアドバイスを得られたりするコミュニケーション環境を整備します。効果個人の頭の中に眠っていた知識や経験が組織の共有財産となり、問題解決の迅速化、業務の効率化、そして新たなアイデアの創出を促進します。特に若手社員にとっては、過去の事例から学んだり、気軽に先輩社員に相談したりできる環境は、成長を大きく後押しします。 リモート支援ツールの活用による遠隔指導・トラブルシューティング活用シーン現場の若手作業者が装着したスマートグラスのカメラ映像や、スマートフォンで映した作業状況を、遠隔地にいる熟練技術者がリアルタイムで確認しながら、音声や画面共有を通じて具体的な指示やアドバイスを行います。効果熟練技術者が直接現場に出向かなくても、複数の拠点や若手作業員を効率的にサポートできるようになります。これにより、出張コストの削減、迅速なトラブル対応、そして地理的な制約を超えた技術指導が可能になります。 これらのデジタル技術は、それぞれ単独で活用するだけでなく、組み合わせて活用することで、より大きな効果を発揮します。重要なのは、自社の課題や技術レベル、そして伝えたい技術の特性に合わせて、最適なツールと方法を選択することです。 第4章:デジタル技術伝承を成功させるための組織的な取り組み 最先端のデジタル技術を導入したとしても、それだけでは技術伝承がうまくいくとは限りません。技術を「組織の力」として定着させ、真の成果を生み出すためには、以下のような組織的な取り組みが不可欠です。 経営層の強いコミットメントと推進体制の確立技術伝承は、一朝一夕に成果が出るものではありません。経営トップがその重要性を深く認識し、全社的な取り組みとして位置づけ、必要な予算やリソースを継続的に投入するという強い意志を示すことが出発点です。そして、各部門と連携しながら計画的に推進していくための専門チームや担当者を明確に定めることも重要です。 現場の巻き込みと熟練技術者の協力体制の構築デジタル技術伝承の主役は、あくまで現場の従業員です。特に、自らの技術やノウハウを提供する側の熟練技術者に対しては、その意義を丁寧に説明し、彼らにとってもメリット(例:指導負担の軽減、自らの技術の価値の再認識、後進育成による達成感など)を感じてもらえるような働きかけが重要です。一方的に協力を求めるのではなく、共に新しい技術伝承のカタチを創り上げていくという姿勢が求められます。 スモールスタートと成功体験の共有・水平展開最初から全社規模で大々的に取り組もうとすると、現場の混乱を招いたり、投資対効果が見えにくかったりするリスクがあります。まずは、特定の業務や技術、あるいは意欲の高い部門を選んで試験的に導入し(スモールスタート)、そこで得られた成功体験やノウハウを社内で共有しながら、徐々に適用範囲を広げていく(水平展開)アプローチが現実的です。 「教える文化」「学ぶ文化」の醸成と評価制度への反映技術を積極的に共有する行為や、新しいことを意欲的に学ぶ姿勢を奨励し、それを人事評価や表彰制度などに反映させることで、「教える文化」「学ぶ文化」を組織全体に根付かせていくことが大切です。技術伝承は、誰か特定の人の責任ではなく、組織全体の責務であるという意識を醸成します。 継続的な効果検証と改善サイクルの確立デジタルツールを導入して終わり、ではありません。定期的にその活用状況や効果を検証し、現場からのフィードバックを収集しながら、コンテンツの内容を更新したり、ツールの使い方を見直したりといった改善活動を継続的に行っていく必要があります。技術も、伝える方法も、時代と共に進化させていくことが求められます。 デジタル技術を活用した技術伝承は、単にツールを導入すれば成功するものではありません。経営層の強いリーダーシップのもと、現場の協力を得ながら、組織全体で『技術を共有し、育て、活かす』文化を醸成していく地道な努力が不可欠です。 今回のコラムでご紹介したデジタル技術伝承のポイントや組織的な取り組みについて、『もっと具体的な導入事例や成功の秘訣を知りたい』『自社に合った技術伝承の仕組みづくりを専門家に相談したい』とお考えでしたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、様々な企業の先進的な取り組みをご紹介するとともに、皆様の技術伝承に関するお悩みを解決するための具体的な戦略立案をサポートさせていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:技術は、未来へのバトン。DXでその継承を確かなものに。 製造現場における「あの人がいないと仕事が止まる」という属人化の問題は、一見、解決が難しい根深い課題のように思えるかもしれません。しかし、デジタル技術の進化は、これまで不可能と思われていた「暗黙知の見える化」や「効率的な技術の再現」を可能にしつつあります。 ただし、忘れてはならないのは、デジタル技術はあくまでも強力な「ツール」であるということです。最も大切なのは、企業として、先人たちが築き上げてきた貴重な技術やノウハウを、組織全体の財産として次世代へと確かに繋いでいこうとする強い意志と、そのための具体的な行動です。 属人化からの脱却は、単にリスクを回避するだけでなく、組織全体の学習能力を高め、新たなイノベーションを生み出す土壌を育み、企業の持続的な成長を実現するための重要な鍵となります。 本コラムが、皆様の会社における技術伝承の課題解決に向けた、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。 次回は、いよいよ最終回。「守りから攻めのIT投資へ!競争力を強化する中堅製造業のDX戦略」と題し、IT投資をコスト削減だけでなく、いかにして企業の競争力強化や新たな価値創造に繋げていくか、より戦略的な視点からDXのあり方について考察します。どうぞご期待ください。 https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■成功事例 【1】<愛知県>多品種少量生産の企業がIoT活用を実施し、データ分析による現場改善を実践した事例! 【2】<岐阜県>MES活用により、人+機械の生産進捗をデータ化!工場内全体進捗管理を実践した事例! 【3】<大阪府>複数拠点の工場をIoTを活用することによって本社で統括管理できるようになった事例! 【4】<大阪府>MES活用により、生産計画~製造指示~実績取得をすべてペーパレス化した事例! 【5】<愛知県>工場現場のペーパレス化を実現!月2,240時間の削減に成功した事例! ■講座内容 【第1講座】中堅製造業がMESで手に入れる競争力と成長戦略 最新のMES市場トレンドと、中堅製造業が注目すべき動向 中堅製造業が抱える課題(人手不足、コスト増、品質管理など)とMESによる解決策 MES導入によって中堅製造業が実現できる具体的な姿(生産性向上、リードタイム短縮、トレーサビリティ強化など) 中堅製造業がMESを選定・導入する際の重要な検討ポイント 成功している中堅製造業のMES活用事例の概要紹介 <岐阜県>従業員30名の多品種少量生産の企業がリアルタイム原価管理を実現!現場改善により納期遅延を改善! 【第2講座】デンソーウェーブ登壇!IoTで実現した驚異の生産性向上と、明日から使える現場改善のヒント デンソーウェーブ様における製造業でのIoT活用事例の具体的な紹介 IoT技術を導入した背景と目的、解決した課題 導入したIoT技術の概要とシステム構成、MESとの連携について IoT活用による具体的な効果(生産性向上、品質向上、予知保全など)とその定量的なデータ 中堅製造業がIoT活用を検討する上での重要なポイントと成功の秘訣 【第3講座】MES取組事例:中堅製造業のためのMES導入「成功の法則」と現場が変わるリアル 【N社の事例】MES導入の背景と目的 導入したMESの概要と選定理由、導入プロセス MESを活用した具体的な取り組み内容(生産計画、進捗管理、品質管理、実績収集など) MES導入による効果(業務効率化、情報共有の促進、意思決定の迅速化など)とその具体的な事例 中堅製造業がMES導入を成功させるための重要な教訓と今後の展望 ▼お申し込みはこちらから https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320

【第3回】『勘と経験頼み』から脱却!データが語る、製造現場の隠れた課題と改善策 ~MES導入で見える化する、生産性向上の次の一手~

2025.06.04

―――「うちの現場も、まだこれだ…」と心当たりのある風景 「この作業は、昔からこのやり方でやってるから大丈夫だ」 「不良が出た? うーん、たぶんあの辺りが原因だろうな…長年の勘だよ」 「今日の生産目標? いつも通り、だいたいこのくらいで終わるはずさ」 こうした会話、あるいはこれに似た光景が、御社の製造現場で見られることはありませんか? 長年培われてきた「勘・経験・度胸」、いわゆるKKDに頼った意思決定や作業指示。それは熟練技術者の貴重な財産であり、これまで日本のものづくりを支えてきた強みの一つであることは間違いありません。 しかし、その一方で、KKDだけに依存したものづくりは、時として様々な問題を引き起こします。なぜか繰り返される品質のばらつき、原因が特定しきれない突発的な不良の発生、人によって効率が大きく異なる作業、そして何よりも、その貴重な「勘」や「経験」が、特定の個人にしか蓄積されず、若手への技術伝承が思うように進まない…。 多くの経営者や現場リーダーの方々が、「これからはデータに基づいた客観的な判断が必要だ」と頭では理解しつつも、「具体的に何から手をつければ良いのか」「集めたデータをどう活用すれば現場が変わるのか」といった具体的な方法論については、模索されているのではないでしょうか。 このコラムでは、なぜ今、製造業においてKKD頼みから脱却し、データ活用が不可欠なのか、そしてその推進を阻む壁と、その壁を乗り越えるための強力な武器となり得る「MES(製造実行システム)」について、具体的な活用シーンを交えながら解説していきます。 第1章:なぜ今、「勘と経験」だけでは通用しないのか?~製造業を取り巻くデータ活用の必然性~ かつては大きな強みであったKKDも、現代の急速に変化する事業環境においては、それだけでは対応しきれない場面が増えています。製造業がデータ活用へと舵を切らざるを得ない、その背景にある必然性を見ていきましょう。 顧客要求の高度化・多様化への対応「良いものを安く大量に」という時代は終わりを告げ、顧客はよりパーソナルなニーズに合わせた製品や、ジャストインタイムでの納品、そして完璧な品質を求めるようになっています。多品種少量生産へのシフト、頻繁な設計変更、厳しい納期管理といった要求に応えるためには、個人の勘や経験だけに頼るのではなく、生産計画から実績、品質情報までをデータで正確に把握し、柔軟かつ迅速に対応できる体制が不可欠です。 グローバル競争と変化への即応力国内市場だけでなく、世界中の企業がライバルとなる現代において、競争優位性を維持・強化するためには、生産効率の飽くなき追求と、市場の変化への迅速な対応が求められます。勘や経験による判断は、時として属人的で曖昧さが残り、意思決定に時間を要することがあります。データに基づいた客観的な状況把握と分析は、より迅速で的確な経営判断を可能にし、継続的な改善活動を加速させます。 熟練技術者の減少と「暗黙知」の継承危機多くの製造現場で、長年培われた高度な技術やノウハウを持つ熟練技術者の高齢化とリタイアが進んでいます。彼らの頭の中に蓄積された「暗黙知」であるKKDは、そのままでは組織の財産として継承されにくいという大きな課題があります。製造プロセスにおける様々なデータを収集・分析し、熟練者の判断基準や作業のコツを「形式知」として見える化・標準化することが、技術伝承の有効な手段となります。 不確実性の高まりとサプライチェーンの強靭化近年、自然災害、パンデミック、地政学的リスクなど、予測困難な事態が頻発し、サプライチェーンの寸断や原材料価格の急騰といった問題が製造業を直撃しています。こうした不確実性の高い時代においては、自社の生産状況や在庫状況、サプライヤーの状況などをリアルタイムかつ正確にデータで把握し、変化の兆候をいち早く捉え、迅速に代替策を講じるといったレジリエンス(強靭性)が求められます。 「見える化」の先にある、新たな価値創造データ活用の第一歩は「見える化」ですが、その真価は、見えたデータから何を読み解き、どのように未来の行動に繋げるかにあります。収集したデータを分析することで、これまで気づかなかった問題点を発見したり、将来の需要や設備の故障を予測したり、さらには生産プロセス全体を最適化したりすることが可能になります。データは、単なる記録ではなく、新たな価値創造の源泉となるのです。 業務多忙による時間的・精神的余裕のなさ「ただでさえ日々の業務で手一杯なのに、新しいシステムの操作を覚えたり、データ移行作業をしたりする時間なんてない!」というのが、多くの現場の本音かもしれません。新しいことを学ぶためには、時間的にも精神的にもある程度の「ゆとり」が必要ですが、慢性的な人手不足や業務過多の状態では、その余裕が生まれにくいのが実情です。 もはや、データ活用は一部の先進的な大企業だけのものではありません。変化の時代を生き抜き、持続的な成長を遂げるためには、規模の大小を問わず、全ての製造業にとって避けて通れない経営課題となっているのです。 第2章:「データはあるはずなのに…」製造現場のデータ活用を阻む壁とMESの役割 「うちの現場にも、日報や検査記録など、データならたくさんあるはずだ。でも、それが全く活かせていない…」多くの中堅製造業の現場で聞かれる声です。 データ活用の重要性を認識しながらも、その推進を阻む様々な「壁」が存在します。 データの散在・サイロ化という「分断の壁」製造現場には、生産計画、作業指示書、設備稼働ログ、品質検査記録、在庫情報など、多種多様なデータが存在します。しかし、それらが紙の帳票のままだったり、担当者個人のExcelファイルで管理されていたり、あるいは特定の設備やシステム内に閉じた形でバラバラに存在している(サイロ化)ケースが少なくありません。これでは、データを横断的に分析したり、全体最適の視点から活用したりすることが困難です。 データの品質という「信頼性の壁」手書きの帳票からの転記ミス、入力漏れ、測定機器のキャリブレーション不足による不正確な値、データの粒度(細かさ)や定義の不統一など、収集されたデータの品質に問題があると、その後の分析結果の信頼性も揺らぎます。「ゴミからはゴミしか生まれない(Garbage In, Garbage Out)」という言葉の通り、質の低いデータからは有益な洞察は得られません。 効果の過大評価と短期的な成果への過度な期待新しいシステムを導入すれば、すぐに生産性が劇的に向上し、コストも大幅に削減できる、といったバラ色の未来を描きがちです。しかし、実際には、導入初期は操作に慣れるまでの時間や、データ移行・初期設定の負荷、一時的な業務プロセスの混乱などにより、むしろ生産性が低下することもあります。短期的な成果を求めすぎると、現場の負担を無視した強引な導入スケジュールにつながり、反発を招きます。 データ収集・入力の「負担の壁」現場の作業者にとって、日々の業務に加えてデータ収集やシステムへの入力作業が新たな負担となってしまうと、長続きしなかったり、作業が形骸化して不正確なデータが集まったりする原因になります。「何のためにこのデータを入力するのか」という目的意識が共有されていない場合、その傾向はさらに強まります。 分析スキル・ツールの「専門性の壁」「データは集まったけれど、これをどう料理すれば良いのか分からない」「統計解析やBIツールなんて、専門家でないと使いこなせないのでは?」といった不安も、データ活用を躊躇させる一因です。高度な分析スキルを持つ人材の不足や、高価で複雑な分析ツールの導入に対するハードルを感じる企業は少なくありません。 「何を見たいのか」目的の「不明確さの壁」最も根本的な問題として、「そもそも何のためにデータを集めるのか」「データを使って何を明らかにしたいのか」という目的が明確になっていないケースがあります。KPI(重要業績評価指標)が曖昧なまま、闇雲にデータを収集しても、それは単なる情報の洪水となり、課題解決や意思決定には繋がりません。 こうした製造現場のデータ活用を阻む様々な壁を乗り越え、生産活動の最適化と効率化を支援するために開発されたのが、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)です。 MESとは、工場の生産ラインにおける作業計画・指示、進捗管理、実績収集、品質管理、在庫管理、設備管理、作業者管理といった一連の生産活動をリアルタイムに把握し、統合的に管理・支援する情報システムのことです。 具体的には、以下のような機能を通じて、データ収集・一元化・見える化に大きく貢献します。 生産指示・実績収集生産計画に基づいて作業指示を電子的に発行し、バーコードリーダーやセンサー、設備からの自動連携などにより、作業開始・終了時刻、生産数、不良数などの実績データをリアルタイムに収集します。これにより、手作業によるデータ入力の負担を軽減し、正確な情報をタイムリーに把握できます。 進捗・稼働監視各工程の生産進捗状況や設備の稼働状況(稼働中、停止中、段取り替え中など)をリアルタイムに「見える化」します。これにより、計画との差異や生産のボトルネックを即座に特定できます。 品質管理製造条件(温度、圧力、速度など)や検査結果といった品質関連データを収集・記録し、規格外れの発生時にはアラートを発するなど、品質維持・向上を支援します。SPC(統計的工程管理)機能を持つものもあります。 トレーサビリティいつ、誰が、どの設備で、どのロットの部材を使って製品を製造したか、といった情報を紐付けて管理し、製品の追跡可能性を確保します。 在庫管理原材料、仕掛品、完成品の在庫状況をリアルタイムに把握し、過剰在庫や欠品を防ぎます。 特に中堅製造業においては、「いきなり大規模なシステムは導入できない」という懸念があるかもしれませんが、最近ではクラウドベースで提供されたり、必要な機能を選択してスモールスタートできたりするMESも増えています。自社の課題や規模に合わせて段階的に導入していくことが可能です。 このように、製造現場のデータ活用を阻む様々な壁を乗り越え、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、MES(製造実行システム)は非常に強力なツールとなり得ます。しかし、自社に最適なMESをどう選び、どのように導入・活用していけば良いのか、具体的な進め方に悩まれるかもしれません。もし、貴社でも『散在するデータをどうにかしたい』『MESに関心があるが、何から始めれば良いか分からない』といった課題をお持ちでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、中堅製造業様向けのMES導入のポイントや、データ活用の成功事例に触れてみませんか? 貴社の課題解決の糸口が見つかるかもしれません。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:MESが拓く、データドリブンな製造現場~具体的な活用シーンと効果~ MESを導入し、製造現場のデータをリアルタイムかつ正確に収集・活用できるようになると、具体的にどのような変化が起こり、どのような効果が期待できるのでしょうか。いくつかの代表的な活用シーンを見ていきましょう。 生産進捗のリアルタイム見える化と迅速な異常検知・対応:活用シーン各工程の作業指示に対する進捗状況、設備の稼働ステータス(稼働、停止、段取り中など)、仕掛品の滞留状況などが、事務所のモニターや現場のタブレット端末でリアルタイムに表示されます。 効果生産計画に対する遅れや、予期せぬ設備の停止といった異常を早期に発見し、その原因究明と対策を迅速に行うことができます。例えば、A工程での作業遅延を即座に把握し、他工程からの応援人員を手配したり、B設備で頻発するチョコ停(短時間停止)のパターンを分析して予防保全のタイミングを最適化したりすることが可能になります。これにより、リードタイムの短縮や納期遵守率の向上が期待できます。 品質データの収集・分析と不良原因の特定・再発防止活用シーン製品ごと、ロットごとに、製造時の各種パラメータ(温度、圧力、回転数、材料配合など)や、検査工程での測定値、不良内容といった品質関連データが自動的または半自動的に収集・記録されます。 効果不良品が発生した場合、その製品がいつ、どのラインで、どのような条件下で製造されたのかを迅速に遡って特定できます。また、収集された品質データを統計的に分析することで、不良発生の傾向や特定の製造条件との相関関係を明らかにし、根本原因の究明と効果的な再発防止策の策定に繋げることができます。これにより、不良率の低減、手戻りコストの削減、顧客からのクレーム減少が期待できます。 設備稼働率の最大化とOEE(設備総合効率)の向上活用シーン各設備の稼働時間、停止時間、停止理由(段取り替え、故障、材料待ちなど)、生産速度などが正確に記録・集計されます。これらのデータから、OEE(稼働率 × 性能 × 品質)が自動的に算出され、改善のポイントが見える化されます。 効果チョコ停やドカ停(長時間停止)の真の原因を特定し、的を射た改善策を講じることで、設備の非稼働時間を削減し、OEEを向上させることができます。例えば、「材料供給の遅れ」が停止理由として多い場合は、前工程との連携や材料運搬方法の見直しを、「刃具交換」に時間がかかっている場合は、段取り改善や予備刃具の準備方法を見直すといった具体的なアクションに繋がります。 トレーサビリティの確保と顧客信頼性の向上活用シーン製品のシリアル番号やロット番号をキーに、その製品に使用された原材料のロット情報、製造日時、作業者、通過した工程、検査結果などの履歴情報がシステムに記録され、瞬時に追跡可能になります。 効果万が一、製品に不具合が発生しリコールが必要になった場合でも、影響範囲を迅速かつ正確に特定し、回収対象を最小限に抑えることができます。また、顧客からの品質に関する問い合わせに対しても、具体的な製造データに基づいて的確に回答できるようになり、企業としての信頼性向上に大きく貢献します。 作業実績の正確な把握と標準作業時間の見直し・原価管理の精度向上活用シーン作業者ごと、あるいは工程ごとに、実際の作業時間や生産数量、不良数量などが正確に記録されます。これにより、誰がどの作業にどれくらいの時間をかけているのか、標準時間と比較してどうなのかが明確になります。 効果これまで曖昧だった作業実績がデータとして見える化されることで、標準作業時間の妥当性を客観的に評価し、必要に応じて見直すことができます。また、ボトルネックとなっている作業や、改善の余地がある作業を特定し、作業改善活動を促進します。さらに、これらの正確な実績データは、製品ごとの実際原価をより精密に把握するためにも活用でき、より適切な価格設定や収益管理に繋がります。 このように、MESの導入とデータ活用は、製造現場における様々な課題解決と競争力強化に直結する可能性を秘めているのです。 第4章:データ活用を絵に描いた餅にしないために~MES導入・運用成功のポイント~ MESを導入すれば自動的に全てが解決するわけではありません。その効果を最大限に引き出し、データ活用を「絵に描いた餅」にしないためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。 目的の明確化とスモールスタートの徹底「何のためにデータを集めるのか」「MESを導入して何を改善したいのか」という目的を、経営層から現場まで明確に共有することが最も重要です。最初から全ての機能を満遍なく使おうとするのではなく、最も課題の大きい領域や、効果が出やすい部分に絞ってスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら段階的に適用範囲を広げていくアプローチが賢明です。 現場との協調と十分なトレーニングシステムは現場で使われてこそ価値があります。導入プロセスにおいては、現場の意見を十分に聞き、彼らが使いやすいと感じるシステム設計や操作性を追求することが不可欠です。また、導入目的やシステム操作に関する十分な教育・トレーニングの機会を提供し、現場の不安を取り除き、積極的に活用してもらえるような働きかけが重要です。 データ入力負担の軽減と自動化の推進現場の作業者にとって、データ入力が過度な負担になると、入力ミスが増えたり、入力自体が行われなくなったりする可能性があります。バーコードリーダー、RFID、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)連携による設備からの自動データ収集など、可能な限り手入力を排し、データの収集・入力作業を自動化・省力化する工夫が求められます。 「見える化」の先にある「行動」への意識改革データがリアルタイムに見えるようになっても、それを見て「ふむふむ」と頷いているだけでは何も変わりません。重要なのは、見える化されたデータから何を読み取り、どんな課題を発見し、それを解決するために具体的にどう行動するのか、という意識と仕組みを組織内に根付かせることです。データに基づいたPDCAサイクルを回す文化を醸成しましょう。 継続的な改善と活用の深化MESの導入はゴールではなく、データドリブンな製造現場への変革のスタートラインです。運用を開始した後も、定期的に活用状況をレビューし、現場からのフィードバックを収集しながら、システムの改善や新たな活用方法の検討を継続していくことが重要です。データを活用する中で新たな課題が見つかったり、より高度な分析のニーズが出てきたりすることもあるでしょう。 データは、ただ集めて眺めているだけでは価値を生みません。そこから課題を読み解き、具体的な改善アクションに繋げ、そしてそれを継続していくことで、初めて製造現場の競争力強化という果実を得ることができるのです。 今回のコラムでご紹介したデータ活用のポイントやMES導入の勘所について、『もっと具体的な導入事例を知りたい』『自社の状況に合わせたデータ活用の進め方について専門家のアドバイスが欲しい』とお考えでしたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、最新のMESソリューションのご紹介はもちろん、皆様の個別の課題に寄り添った具体的なステップをご提案させていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:KKDとデータの融合が、未来のものづくりを拓く 勘・経験・度胸(KKD)は、決して否定されるべきものではありません。むしろ、長年培われてきた貴重な知恵であり、日本のものづくりの強さの源泉の一つです。これからの製造現場に求められるのは、KKDを捨てることではなく、そこに客観的な「データ」という新たな武器を融合させ、KKDをさらに進化させていくことです。 データによって裏付けられた勘は、より鋭敏になり、経験はより価値のある知見へと昇華します。そして、データが示す事実に基づいた度胸ある決断が、企業を新たな成長ステージへと導くのです。 データ活用やMES導入への道のりは、決して平坦ではなく、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。しかし、そこで流した汗と、積み重ねた努力は、必ずや御社のものづくりをより強く、よりしなやかに変革していく力となるはずです。 本コラムが、皆様の会社におけるデータ活用の第一歩、そしてMES導入検討のきっかけとなれば幸いです。 次回は、「『あの人がいないと仕事が止まる!』属人化の壁を打ち破る、デジタル技術による技術伝承」と題し、多くの製造業が抱える技術伝承の課題に対し、デジタル技術がどのように貢献できるのかについて、具体的な手法を交えながら解説していきます。どうぞご期待ください。 https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■日時・会場 ※いずれもオンライン開催 2025/07/28 (月)  13:00~15:00 2025/07/30 (水)  13:00~15:00 2025/08/06 (水)  13:00~15:00 講師紹介 株式会社 デンソーウェーブ 名波 知之 氏 産業用ロボットやAUTO-ID機器、制御機器にだけでなく、工場のスマート化やIoT化ソリューションを提供するFA機器のリーディングカンパニー。自動認識・産業用ロボット・産業用コントローラの3分野を中心に事業展開し、工場や店舗、オフィスなど様々な分野における生産性の向上に貢献する製品を提供している。 株式会社 船井総合研究所 熊谷 俊作 新卒で船井総合研究所に入社後、自身のデジタルスキルを活かして製造業のDXコンサルティングに従事。 AI活用や、データ活用を見据えたデータの取得の支援の他、データ活用のための基盤構築、分析による現場改善、AI活用による生産性向上に至るまでの支援に携わる。 株式会社 船井総合研究所 飯塚 佳史 宇都宮大学大学院エネルギー環境科学専攻を卒業後、トッパン・フォームズ株式会社に入社。開発部門や生産技術部門を経験し、工場における設備・システムの導入および現場改善に従事。 現職においては全国各地の中堅・中小製造業を対象にAIやIoTを活用したシステムや管理システムなどについて課題抽出~要件定義~導入~運用フォローまでを行っている。 ―――「うちの現場も、まだこれだ…」と心当たりのある風景 「この作業は、昔からこのやり方でやってるから大丈夫だ」 「不良が出た? うーん、たぶんあの辺りが原因だろうな…長年の勘だよ」 「今日の生産目標? いつも通り、だいたいこのくらいで終わるはずさ」 こうした会話、あるいはこれに似た光景が、御社の製造現場で見られることはありませんか? 長年培われてきた「勘・経験・度胸」、いわゆるKKDに頼った意思決定や作業指示。それは熟練技術者の貴重な財産であり、これまで日本のものづくりを支えてきた強みの一つであることは間違いありません。 しかし、その一方で、KKDだけに依存したものづくりは、時として様々な問題を引き起こします。なぜか繰り返される品質のばらつき、原因が特定しきれない突発的な不良の発生、人によって効率が大きく異なる作業、そして何よりも、その貴重な「勘」や「経験」が、特定の個人にしか蓄積されず、若手への技術伝承が思うように進まない…。 多くの経営者や現場リーダーの方々が、「これからはデータに基づいた客観的な判断が必要だ」と頭では理解しつつも、「具体的に何から手をつければ良いのか」「集めたデータをどう活用すれば現場が変わるのか」といった具体的な方法論については、模索されているのではないでしょうか。 このコラムでは、なぜ今、製造業においてKKD頼みから脱却し、データ活用が不可欠なのか、そしてその推進を阻む壁と、その壁を乗り越えるための強力な武器となり得る「MES(製造実行システム)」について、具体的な活用シーンを交えながら解説していきます。 第1章:なぜ今、「勘と経験」だけでは通用しないのか?~製造業を取り巻くデータ活用の必然性~ かつては大きな強みであったKKDも、現代の急速に変化する事業環境においては、それだけでは対応しきれない場面が増えています。製造業がデータ活用へと舵を切らざるを得ない、その背景にある必然性を見ていきましょう。 顧客要求の高度化・多様化への対応「良いものを安く大量に」という時代は終わりを告げ、顧客はよりパーソナルなニーズに合わせた製品や、ジャストインタイムでの納品、そして完璧な品質を求めるようになっています。多品種少量生産へのシフト、頻繁な設計変更、厳しい納期管理といった要求に応えるためには、個人の勘や経験だけに頼るのではなく、生産計画から実績、品質情報までをデータで正確に把握し、柔軟かつ迅速に対応できる体制が不可欠です。 グローバル競争と変化への即応力国内市場だけでなく、世界中の企業がライバルとなる現代において、競争優位性を維持・強化するためには、生産効率の飽くなき追求と、市場の変化への迅速な対応が求められます。勘や経験による判断は、時として属人的で曖昧さが残り、意思決定に時間を要することがあります。データに基づいた客観的な状況把握と分析は、より迅速で的確な経営判断を可能にし、継続的な改善活動を加速させます。 熟練技術者の減少と「暗黙知」の継承危機多くの製造現場で、長年培われた高度な技術やノウハウを持つ熟練技術者の高齢化とリタイアが進んでいます。彼らの頭の中に蓄積された「暗黙知」であるKKDは、そのままでは組織の財産として継承されにくいという大きな課題があります。製造プロセスにおける様々なデータを収集・分析し、熟練者の判断基準や作業のコツを「形式知」として見える化・標準化することが、技術伝承の有効な手段となります。 不確実性の高まりとサプライチェーンの強靭化近年、自然災害、パンデミック、地政学的リスクなど、予測困難な事態が頻発し、サプライチェーンの寸断や原材料価格の急騰といった問題が製造業を直撃しています。こうした不確実性の高い時代においては、自社の生産状況や在庫状況、サプライヤーの状況などをリアルタイムかつ正確にデータで把握し、変化の兆候をいち早く捉え、迅速に代替策を講じるといったレジリエンス(強靭性)が求められます。 「見える化」の先にある、新たな価値創造データ活用の第一歩は「見える化」ですが、その真価は、見えたデータから何を読み解き、どのように未来の行動に繋げるかにあります。収集したデータを分析することで、これまで気づかなかった問題点を発見したり、将来の需要や設備の故障を予測したり、さらには生産プロセス全体を最適化したりすることが可能になります。データは、単なる記録ではなく、新たな価値創造の源泉となるのです。 業務多忙による時間的・精神的余裕のなさ「ただでさえ日々の業務で手一杯なのに、新しいシステムの操作を覚えたり、データ移行作業をしたりする時間なんてない!」というのが、多くの現場の本音かもしれません。新しいことを学ぶためには、時間的にも精神的にもある程度の「ゆとり」が必要ですが、慢性的な人手不足や業務過多の状態では、その余裕が生まれにくいのが実情です。 もはや、データ活用は一部の先進的な大企業だけのものではありません。変化の時代を生き抜き、持続的な成長を遂げるためには、規模の大小を問わず、全ての製造業にとって避けて通れない経営課題となっているのです。 第2章:「データはあるはずなのに…」製造現場のデータ活用を阻む壁とMESの役割 「うちの現場にも、日報や検査記録など、データならたくさんあるはずだ。でも、それが全く活かせていない…」多くの中堅製造業の現場で聞かれる声です。 データ活用の重要性を認識しながらも、その推進を阻む様々な「壁」が存在します。 データの散在・サイロ化という「分断の壁」製造現場には、生産計画、作業指示書、設備稼働ログ、品質検査記録、在庫情報など、多種多様なデータが存在します。しかし、それらが紙の帳票のままだったり、担当者個人のExcelファイルで管理されていたり、あるいは特定の設備やシステム内に閉じた形でバラバラに存在している(サイロ化)ケースが少なくありません。これでは、データを横断的に分析したり、全体最適の視点から活用したりすることが困難です。 データの品質という「信頼性の壁」手書きの帳票からの転記ミス、入力漏れ、測定機器のキャリブレーション不足による不正確な値、データの粒度(細かさ)や定義の不統一など、収集されたデータの品質に問題があると、その後の分析結果の信頼性も揺らぎます。「ゴミからはゴミしか生まれない(Garbage In, Garbage Out)」という言葉の通り、質の低いデータからは有益な洞察は得られません。 効果の過大評価と短期的な成果への過度な期待新しいシステムを導入すれば、すぐに生産性が劇的に向上し、コストも大幅に削減できる、といったバラ色の未来を描きがちです。しかし、実際には、導入初期は操作に慣れるまでの時間や、データ移行・初期設定の負荷、一時的な業務プロセスの混乱などにより、むしろ生産性が低下することもあります。短期的な成果を求めすぎると、現場の負担を無視した強引な導入スケジュールにつながり、反発を招きます。 データ収集・入力の「負担の壁」現場の作業者にとって、日々の業務に加えてデータ収集やシステムへの入力作業が新たな負担となってしまうと、長続きしなかったり、作業が形骸化して不正確なデータが集まったりする原因になります。「何のためにこのデータを入力するのか」という目的意識が共有されていない場合、その傾向はさらに強まります。 分析スキル・ツールの「専門性の壁」「データは集まったけれど、これをどう料理すれば良いのか分からない」「統計解析やBIツールなんて、専門家でないと使いこなせないのでは?」といった不安も、データ活用を躊躇させる一因です。高度な分析スキルを持つ人材の不足や、高価で複雑な分析ツールの導入に対するハードルを感じる企業は少なくありません。 「何を見たいのか」目的の「不明確さの壁」最も根本的な問題として、「そもそも何のためにデータを集めるのか」「データを使って何を明らかにしたいのか」という目的が明確になっていないケースがあります。KPI(重要業績評価指標)が曖昧なまま、闇雲にデータを収集しても、それは単なる情報の洪水となり、課題解決や意思決定には繋がりません。 こうした製造現場のデータ活用を阻む様々な壁を乗り越え、生産活動の最適化と効率化を支援するために開発されたのが、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)です。 MESとは、工場の生産ラインにおける作業計画・指示、進捗管理、実績収集、品質管理、在庫管理、設備管理、作業者管理といった一連の生産活動をリアルタイムに把握し、統合的に管理・支援する情報システムのことです。 具体的には、以下のような機能を通じて、データ収集・一元化・見える化に大きく貢献します。 生産指示・実績収集生産計画に基づいて作業指示を電子的に発行し、バーコードリーダーやセンサー、設備からの自動連携などにより、作業開始・終了時刻、生産数、不良数などの実績データをリアルタイムに収集します。これにより、手作業によるデータ入力の負担を軽減し、正確な情報をタイムリーに把握できます。 進捗・稼働監視各工程の生産進捗状況や設備の稼働状況(稼働中、停止中、段取り替え中など)をリアルタイムに「見える化」します。これにより、計画との差異や生産のボトルネックを即座に特定できます。 品質管理製造条件(温度、圧力、速度など)や検査結果といった品質関連データを収集・記録し、規格外れの発生時にはアラートを発するなど、品質維持・向上を支援します。SPC(統計的工程管理)機能を持つものもあります。 トレーサビリティいつ、誰が、どの設備で、どのロットの部材を使って製品を製造したか、といった情報を紐付けて管理し、製品の追跡可能性を確保します。 在庫管理原材料、仕掛品、完成品の在庫状況をリアルタイムに把握し、過剰在庫や欠品を防ぎます。 特に中堅製造業においては、「いきなり大規模なシステムは導入できない」という懸念があるかもしれませんが、最近ではクラウドベースで提供されたり、必要な機能を選択してスモールスタートできたりするMESも増えています。自社の課題や規模に合わせて段階的に導入していくことが可能です。 このように、製造現場のデータ活用を阻む様々な壁を乗り越え、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、MES(製造実行システム)は非常に強力なツールとなり得ます。しかし、自社に最適なMESをどう選び、どのように導入・活用していけば良いのか、具体的な進め方に悩まれるかもしれません。もし、貴社でも『散在するデータをどうにかしたい』『MESに関心があるが、何から始めれば良いか分からない』といった課題をお持ちでしたら、中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーで、中堅製造業様向けのMES導入のポイントや、データ活用の成功事例に触れてみませんか? 貴社の課題解決の糸口が見つかるかもしれません。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 第3章:MESが拓く、データドリブンな製造現場~具体的な活用シーンと効果~ MESを導入し、製造現場のデータをリアルタイムかつ正確に収集・活用できるようになると、具体的にどのような変化が起こり、どのような効果が期待できるのでしょうか。いくつかの代表的な活用シーンを見ていきましょう。 生産進捗のリアルタイム見える化と迅速な異常検知・対応:活用シーン各工程の作業指示に対する進捗状況、設備の稼働ステータス(稼働、停止、段取り中など)、仕掛品の滞留状況などが、事務所のモニターや現場のタブレット端末でリアルタイムに表示されます。 効果生産計画に対する遅れや、予期せぬ設備の停止といった異常を早期に発見し、その原因究明と対策を迅速に行うことができます。例えば、A工程での作業遅延を即座に把握し、他工程からの応援人員を手配したり、B設備で頻発するチョコ停(短時間停止)のパターンを分析して予防保全のタイミングを最適化したりすることが可能になります。これにより、リードタイムの短縮や納期遵守率の向上が期待できます。 品質データの収集・分析と不良原因の特定・再発防止活用シーン製品ごと、ロットごとに、製造時の各種パラメータ(温度、圧力、回転数、材料配合など)や、検査工程での測定値、不良内容といった品質関連データが自動的または半自動的に収集・記録されます。 効果不良品が発生した場合、その製品がいつ、どのラインで、どのような条件下で製造されたのかを迅速に遡って特定できます。また、収集された品質データを統計的に分析することで、不良発生の傾向や特定の製造条件との相関関係を明らかにし、根本原因の究明と効果的な再発防止策の策定に繋げることができます。これにより、不良率の低減、手戻りコストの削減、顧客からのクレーム減少が期待できます。 設備稼働率の最大化とOEE(設備総合効率)の向上活用シーン各設備の稼働時間、停止時間、停止理由(段取り替え、故障、材料待ちなど)、生産速度などが正確に記録・集計されます。これらのデータから、OEE(稼働率 × 性能 × 品質)が自動的に算出され、改善のポイントが見える化されます。 効果チョコ停やドカ停(長時間停止)の真の原因を特定し、的を射た改善策を講じることで、設備の非稼働時間を削減し、OEEを向上させることができます。例えば、「材料供給の遅れ」が停止理由として多い場合は、前工程との連携や材料運搬方法の見直しを、「刃具交換」に時間がかかっている場合は、段取り改善や予備刃具の準備方法を見直すといった具体的なアクションに繋がります。 トレーサビリティの確保と顧客信頼性の向上活用シーン製品のシリアル番号やロット番号をキーに、その製品に使用された原材料のロット情報、製造日時、作業者、通過した工程、検査結果などの履歴情報がシステムに記録され、瞬時に追跡可能になります。 効果万が一、製品に不具合が発生しリコールが必要になった場合でも、影響範囲を迅速かつ正確に特定し、回収対象を最小限に抑えることができます。また、顧客からの品質に関する問い合わせに対しても、具体的な製造データに基づいて的確に回答できるようになり、企業としての信頼性向上に大きく貢献します。 作業実績の正確な把握と標準作業時間の見直し・原価管理の精度向上活用シーン作業者ごと、あるいは工程ごとに、実際の作業時間や生産数量、不良数量などが正確に記録されます。これにより、誰がどの作業にどれくらいの時間をかけているのか、標準時間と比較してどうなのかが明確になります。 効果これまで曖昧だった作業実績がデータとして見える化されることで、標準作業時間の妥当性を客観的に評価し、必要に応じて見直すことができます。また、ボトルネックとなっている作業や、改善の余地がある作業を特定し、作業改善活動を促進します。さらに、これらの正確な実績データは、製品ごとの実際原価をより精密に把握するためにも活用でき、より適切な価格設定や収益管理に繋がります。 このように、MESの導入とデータ活用は、製造現場における様々な課題解決と競争力強化に直結する可能性を秘めているのです。 第4章:データ活用を絵に描いた餅にしないために~MES導入・運用成功のポイント~ MESを導入すれば自動的に全てが解決するわけではありません。その効果を最大限に引き出し、データ活用を「絵に描いた餅」にしないためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。 目的の明確化とスモールスタートの徹底「何のためにデータを集めるのか」「MESを導入して何を改善したいのか」という目的を、経営層から現場まで明確に共有することが最も重要です。最初から全ての機能を満遍なく使おうとするのではなく、最も課題の大きい領域や、効果が出やすい部分に絞ってスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら段階的に適用範囲を広げていくアプローチが賢明です。 現場との協調と十分なトレーニングシステムは現場で使われてこそ価値があります。導入プロセスにおいては、現場の意見を十分に聞き、彼らが使いやすいと感じるシステム設計や操作性を追求することが不可欠です。また、導入目的やシステム操作に関する十分な教育・トレーニングの機会を提供し、現場の不安を取り除き、積極的に活用してもらえるような働きかけが重要です。 データ入力負担の軽減と自動化の推進現場の作業者にとって、データ入力が過度な負担になると、入力ミスが増えたり、入力自体が行われなくなったりする可能性があります。バーコードリーダー、RFID、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)連携による設備からの自動データ収集など、可能な限り手入力を排し、データの収集・入力作業を自動化・省力化する工夫が求められます。 「見える化」の先にある「行動」への意識改革データがリアルタイムに見えるようになっても、それを見て「ふむふむ」と頷いているだけでは何も変わりません。重要なのは、見える化されたデータから何を読み取り、どんな課題を発見し、それを解決するために具体的にどう行動するのか、という意識と仕組みを組織内に根付かせることです。データに基づいたPDCAサイクルを回す文化を醸成しましょう。 継続的な改善と活用の深化MESの導入はゴールではなく、データドリブンな製造現場への変革のスタートラインです。運用を開始した後も、定期的に活用状況をレビューし、現場からのフィードバックを収集しながら、システムの改善や新たな活用方法の検討を継続していくことが重要です。データを活用する中で新たな課題が見つかったり、より高度な分析のニーズが出てきたりすることもあるでしょう。 データは、ただ集めて眺めているだけでは価値を生みません。そこから課題を読み解き、具体的な改善アクションに繋げ、そしてそれを継続していくことで、初めて製造現場の競争力強化という果実を得ることができるのです。 今回のコラムでご紹介したデータ活用のポイントやMES導入の勘所について、『もっと具体的な導入事例を知りたい』『自社の状況に合わせたデータ活用の進め方について専門家のアドバイスが欲しい』とお考えでしたら、ぜひ中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナーにご参加ください。そこでは、最新のMESソリューションのご紹介はもちろん、皆様の個別の課題に寄り添った具体的なステップをご提案させていただきます。 ▼中堅製造業のためのMES活用&事例紹介セミナー https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 おわりに:KKDとデータの融合が、未来のものづくりを拓く 勘・経験・度胸(KKD)は、決して否定されるべきものではありません。むしろ、長年培われてきた貴重な知恵であり、日本のものづくりの強さの源泉の一つです。これからの製造現場に求められるのは、KKDを捨てることではなく、そこに客観的な「データ」という新たな武器を融合させ、KKDをさらに進化させていくことです。 データによって裏付けられた勘は、より鋭敏になり、経験はより価値のある知見へと昇華します。そして、データが示す事実に基づいた度胸ある決断が、企業を新たな成長ステージへと導くのです。 データ活用やMES導入への道のりは、決して平坦ではなく、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。しかし、そこで流した汗と、積み重ねた努力は、必ずや御社のものづくりをより強く、よりしなやかに変革していく力となるはずです。 本コラムが、皆様の会社におけるデータ活用の第一歩、そしてMES導入検討のきっかけとなれば幸いです。 次回は、「『あの人がいないと仕事が止まる!』属人化の壁を打ち破る、デジタル技術による技術伝承」と題し、多くの製造業が抱える技術伝承の課題に対し、デジタル技術がどのように貢献できるのかについて、具体的な手法を交えながら解説していきます。どうぞご期待ください。 https://www.funaisoken.co.jp/seminar/130320 ■日時・会場 ※いずれもオンライン開催 2025/07/28 (月)  13:00~15:00 2025/07/30 (水)  13:00~15:00 2025/08/06 (水)  13:00~15:00 講師紹介 株式会社 デンソーウェーブ 名波 知之 氏 産業用ロボットやAUTO-ID機器、制御機器にだけでなく、工場のスマート化やIoT化ソリューションを提供するFA機器のリーディングカンパニー。自動認識・産業用ロボット・産業用コントローラの3分野を中心に事業展開し、工場や店舗、オフィスなど様々な分野における生産性の向上に貢献する製品を提供している。 株式会社 船井総合研究所 熊谷 俊作 新卒で船井総合研究所に入社後、自身のデジタルスキルを活かして製造業のDXコンサルティングに従事。 AI活用や、データ活用を見据えたデータの取得の支援の他、データ活用のための基盤構築、分析による現場改善、AI活用による生産性向上に至るまでの支援に携わる。 株式会社 船井総合研究所 飯塚 佳史 宇都宮大学大学院エネルギー環境科学専攻を卒業後、トッパン・フォームズ株式会社に入社。開発部門や生産技術部門を経験し、工場における設備・システムの導入および現場改善に従事。 現職においては全国各地の中堅・中小製造業を対象にAIやIoTを活用したシステムや管理システムなどについて課題抽出~要件定義~導入~運用フォローまでを行っている。
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