記事公開日:2025.07.01
最終更新日:2025.07.02
失敗しない基幹システム導入のための現状把握とASIS分析の極意

製造業の基幹システム導入で後悔したくない方へ。本記事では、なぜ現状把握とASIS分析が成功の鍵なのか、その重要性と具体的な方法を徹底解説します。失敗を避け、最適な基幹システムを選びましょう。
「うちの製造業も、そろそろ新しい基幹システムを入れるべきか…」「でも、本当に効果が出るのか不安だ…」
もし、あなたがそう考えている製造業の経営者やシステム担当者であれば、このコラムはまさにあなたのためのものです。多くの製造業が基幹システム導入に踏み切るものの、残念ながらそのすべてが成功しているわけではありません。その大きな原因の一つが、導入前の現状把握、つまりASIS分析の不足にあります。
本記事では、製造業が基幹システム導入で失敗する主な理由から、ASIS分析がなぜ重要なのか、その具体的な進め方、そしてMicrosoft Dynamics 365 Business Centralのような最新の基幹システムがどのように製造業の現状把握をサポートし、DXへと導くのかを詳細に解説していきます。これを読めば、あなたの製造業における基幹システム導入プロジェクトが、確かな成功へとつながる道筋が見えてくるでしょう。さあ、製造業の未来を切り拓く第一歩を、現状把握から始めませんか?
目次
1. なぜ製造業は基幹システム導入で失敗するのか?
多くの製造業が、生産性向上や情報の一元化を目指して基幹システムの導入を検討します。しかし、残念ながら、すべてのプロジェクトが期待通りの成果を上げているわけではありません。私がこれまで数多くの製造業のコンサルティングに携わってきた経験から言えるのは、基幹システム導入の失敗には共通するパターンがあるということです。
私が以前担当したある中小の自動車部品製造業では、社長が「競合が基幹システムを入れたから、うちも入れないと乗り遅れる」という理由で、十分な検討もなく基幹システム導入を決定しました。しかし、実際に導入を進めてみると、現場の業務プロセスとシステムが全く合わず、かえって業務が煩雑になってしまいました。結果として、多額の投資が無駄になり、社員のモチベーションも低下してしまいました。このような失敗は、現状把握が不十分なまま基幹システム導入を進める典型的な例です。
1.1 漠然とした目的意識での基幹システム導入
製造業の基幹システム導入が失敗に終わる大きな理由の一つは、明確な目的意識が欠如していることです。多くの企業が「効率化のため」「最新のシステムだから」といった漠然とした理由で導入を決定してしまいがちです。しかし、具体的な課題や、基幹システムによって何を解決したいのかが不明確なままでは、最適なシステムを選定することも、導入後の効果を測定することもできません。
例えば、「製造業における現状把握が不十分なまま、なんとなく生産管理システムを導入した企業は、導入後に『期待したほど生産性が上がらない』と不満を漏らすことが多い」と私は日々感じています。漠然とした目的では、システムの選定基準も曖昧になり、結果として自社の業務に合わないシステムを選んでしまうリスクが高まります。また、導入プロジェクトを進める過程で、何を優先すべきか、どのような機能を実装すべきかといった判断基準が揺らぎ、プロジェクトの方向性が定まらなくなることもあります。具体的な課題が明確でなければ、導入後の効果測定も困難となり、投資対効果を評価できず、最終的には「何のために導入したのかわからない」という状況に陥ってしまうのです。
1.2 現場との乖離が生じる基幹システム導入
基幹システムは、実際に業務を行う現場の従業員が日常的に利用するものです。そのため、現場の業務プロセスや慣習とシステムが乖離している場合、どんなに高機能な基幹システムでも、その効果を十分に発揮できません。製造業の現状把握を怠り、現場の意見を十分に聞き入れずに基幹システムを導入すると、この乖離が生じやすくなります。
私が以前関わったある製造業では、経営層主導で基幹システムの導入が進められ、現場のヒアリングが形式的なものにとどまってしまいました。その結果、現場の担当者たちは新しいシステムが自分たちの業務に合わないと感じ、結局、これまでの手作業やExcelでの管理を継続してしまいました。このように、基幹システムが「現場の足かせ」となってしまうと、業務効率は向上せず、かえって二重入力の手間が発生したり、情報の分断がより深刻化したりする可能性があります。従業員の抵抗も強くなり、新しいシステムへの移行が滞ってしまうことも珍しくありません。現場の具体的な業務フローや、非定型な処理、そして熟練者の持つ暗黙知を現状把握の段階で徹底的に洗い出すことが、この乖離を防ぐ上で極めて重要なのです。
1.3 費用対効果を無視した基幹システム導入
基幹システムの導入には、決して安くない費用がかかります。システム購入費用、カスタマイズ費用、導入コンサルティング費用、そして運用・保守費用など、多岐にわたるコストが発生します。これらの費用に対して、どのような効果が見込めるのかを事前に正確に評価しないまま導入を進めることは、無謀な投資と言わざるを得ません。
製造業の現状把握が不十分な場合、具体的な課題解決目標が曖昧になるため、期待される効果も漠然としてしまいます。例えば、「なんとなく業務が効率化されるだろう」といった曖昧な期待だけでは、導入費用に見合った効果が得られなかった場合に、後悔することになります。ある中小の製造業では、最新の基幹システムを導入したものの、結局、一部の機能しか活用されず、システムにかかった費用が回収できないという事態に陥りました。これは、現状把握の段階で、自社の「業務量」や「課題解決による具体的な削減効果」を定量的に評価しなかったために起こった失敗です。Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システムは、多機能であるがゆえに、自社に必要な機能とそうでない機能を明確に区別し、費用対効果を綿密に検討することが非常に重要です。
2. 基幹システム導入成功の鍵!ASIS分析(現状把握)とは?
基幹システム導入における失敗事例を見てきたことで、現状把握の重要性が浮き彫りになったはずです。では、具体的に「ASIS分析」とは何なのでしょうか。そして、なぜこれが製造業の基幹システム導入において「成功の鍵」と言われるのでしょうか。
ASIS分析は、製造業が基幹システムを導入する際に、最も時間をかけ、最も徹底して行うべきフェーズです。これは単なる業務の聞き取り調査ではありません。企業の「今」を徹底的に深掘りし、その本質を理解するための活動なのです。私がコンサルティングを行う際も、このASIS分析にこそ、プロジェクトの成否を分ける真髄があると強く感じています。
2.1 ASIS分析(現状把握)の定義
ASIS分析とは、基幹システム導入プロジェクトにおいて、新システム導入前の「現状の業務プロセス」「組織構造」「利用システム」「データ」「課題」などを詳細に調査・分析し、可視化することを指します。これは、単に業務内容を聞き取るだけでなく、その背景にある理由や関連性、問題点などを深く理解することが重要です。
例えば、ある部品製造業で「注文書の処理に時間がかかる」という課題があったとします。ASIS分析では、単に「時間がかかる」という事実だけでなく、「誰が(営業担当者か事務担当者か)」「何を(紙の注文書かFAXかメールか)」「いつ(注文受領後すぐか、締め日後か)」「どこで(特定の部署か、複数部署か)」「なぜ(手入力による転記作業が多いからか、確認フローが複雑だからか)」「どのように(手作業でシステムに入力しているからか、別のExcelに転記しているからか)」といった5W1Hの視点を用いて、具体的な作業手順や情報の流れを徹底的に洗い出します。また、その業務のInput(インプット)、Process(プロセス)、Output(アウトプット)を明確にすることで、情報がどこから入り、どのように処理され、何として出ていくのかを理解します。この詳細な現状把握が、基幹システム導入における「あるべき姿(To-Be)」を描くための唯一無二の土台となるのです。
2.2 製造業のASIS分析が不可欠な理由(ASIS分析の必要性)
製造業におけるASIS分析は、単なる形式的な作業ではありません。これは、基幹システム導入プロジェクトの成功を左右する、極めて重要なプロセスです。
まず、目に見えていなかった問題点や、関係者間で認識のずれがあった課題を表面化させ、具体的な改善策を検討するための出発点となるためです。多くの製造業では、長年の慣習により業務が属人化していたり、非効率なプロセスがそのまま残されていたりすることがあります。ASIS分析は、これらの「暗黙知」や「見過ごされてきた課題」を客観的に可視化する機会を提供します。例えば、ある加工製造業で、在庫管理を担当するベテラン社員が「部品はいつもここにある」と言っていたものの、ASIS分析を通じて実際には「特定の部品が頻繁に置き場所を移動し、探す時間が1日平均30分発生している」という隠れた課題が明らかになったことがあります。このような具体的な課題を特定することで、基幹システムで何を解決すべきかが明確になります。
次に、関係者間の認識のずれを防ぎ、プロジェクトの成功率を高めるためです。製造業の基幹システム導入プロジェクトには、経営層、営業部門、製造部門、生産管理部門、経理部門など、多くの部門や関係者が関わります。それぞれの部門が持つ業務への認識や課題意識は異なることが多く、現状把握が不十分なまま進めると、後々「話が違う」「こんなはずではなかった」といった認識のずれが生じ、プロジェクトが停滞したり、最悪の場合には破綻したりする原因となります。ASIS分析を通じて、各ステークホルダーと導入チーム、そして各部門間で現状の業務プロセスや課題に対する共通認識を持つことができます。これにより、スムーズなコミュニケーションと協力体制を促進し、基幹システム導入プロジェクト全体の成功率を高めることができます。
最後に、ASIS分析が不十分な場合、大幅な手戻りが発生する可能性があるためです。基幹システム導入は、一度導入してしまえば簡単に変更できるものではありません。もし、現状把握が曖昧なまま要件定義や設計が進んでしまうと、開発段階や運用開始後に「この機能が足りない」「この業務フローに対応できない」といった問題が発覚し、大規模な改修が必要となる可能性があります。このような手戻りは、プロジェクトのスケジュール遅延、コスト増大、そして関係者のモチベーション低下に直結します。Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような柔軟性の高い基幹システムであっても、初期段階のASIS分析の質が、その後の手戻りの発生率を大きく左右するのです。正確なASIS分析は、後続工程におけるリスクを低減し、結果としてプロジェクト全体のコストと時間を節約することにつながります。
3. ASIS分析がもたらす製造業DXへの道筋
ASIS分析は、単に基幹システム導入のための準備というだけでなく、製造業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するための重要なステップでもあります。現状把握を通じて、自社のデジタル化の課題と可能性を明確にすることで、製造業はDXという大きな変革の波に乗ることができます。
私がこれまでコンサルティングしてきた中で、ASIS分析を徹底的に行った製造業は、その後のDX推進が非常にスムーズに進む傾向にありました。例えば、あるプラスチック成形製造業では、ASIS分析を通じて「紙ベースの品質記録が多すぎて、不良原因の特定に時間がかかる」という具体的な課題が浮上しました。この現状把握が起点となり、デジタル品質管理システムの導入と、生産データのリアルタイム収集へとDXの方向性が明確になったのです。ASIS分析は、まさに製造業がDXの絵姿を描くための羅針盤の役割を果たすと言えるでしょう。
3.1 隠れた課題の可視化と業務改善の糸口発見
ASIS分析は、製造業の現状把握を通じて、これまで認識されていなかったり、見過ごされてきた「隠れた課題」を浮き彫りにする強力なツールです。これにより、単なる基幹システムの導入に留まらず、業務プロセスそのものの抜本的な改善の糸口を見つけることができます。
多くの製造業では、長年の慣習や「こうするのが当たり前」という思い込みから、非効率な業務プロセスが温存されていることがあります。ASIS分析は、これらの業務を客観的に見つめ直し、業務の流れやデータの流れを詳細に追跡することで、どこに無駄があるのか、どこで情報が滞っているのかを明確にします。例えば、ある精密機器製造業では、ASIS分析の結果、「営業が受注した情報を、生産管理部門が手作業で基幹システムに入力し、その後、製造部門が別のExcelで進捗管理をしている」という非効率な多重入力と情報の分断が明らかになりました。これは、社員が日頃感じていた漠然とした「業務が重い」という感覚の具体的な原因でした。このような隠れた課題が可視化されることで、基幹システム導入を通じて何を変革すべきかが明確になり、単なるシステム化に終わらない、真の業務改善へとつながるのです。
3.2 データ活用の基盤構築と意思決定の迅速化
ASIS分析は、製造業がデータ活用を推進し、迅速な意思決定を行うための強固な基盤を構築します。現状把握を通じて、どのようなデータがどこに存在し、どのように流れているかを明確にすることは、DXにおけるデータ戦略の出発点となります。
多くの製造業では、生産データ、販売データ、在庫データなどが各部署でバラバラに管理されていたり、紙媒体で保管されていたりすることが少なくありません。これでは、経営層がリアルタイムで正確な情報を把握し、迅速な経営判断を下すことは困難です。ASIS分析は、これらのデータの流れを明確にし、どのデータが基幹システムに統合されるべきか、どのデータが将来的なDXで活用できるかを見極めます。例えば、Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システムを導入する際、ASIS分析で既存の在庫データや生産実績データの形式を詳細に把握することで、システムへのスムーズなデータ移行と、その後のデータ分析による在庫最適化や生産効率改善が可能になります。正確な現状把握に基づいた基幹システムの導入は、散在するデータを一元化し、経営層が常に最新の数字に基づいて意思決定できる環境を整えることで、市場の変化に素早く対応できる製造業へと変革する道筋を示すのです。
3.3 DX推進へのロードマップ策定と段階的アプローチ
ASIS分析は、製造業がDXを推進するための具体的なロードマップ策定に不可欠な情報を提供します。現状把握を通じて得られた課題と改善点を基に、実現可能な範囲で段階的にDXを進めるアプローチを明確にすることができます。
DXは一朝一夕に成し遂げられるものではありません。特に多品種少量生産を行う中小製造業では、限られたリソースの中で、最も効果的な投資と、着実なステップを踏む必要があります。ASIS分析は、どの業務プロセスに基幹システムを導入するのが最も効果的か、どの課題から優先的に解決すべきか、といったDX推進の優先順位付けに役立ちます。例えば、ある製造業で「熟練技術者のノウハウの属人化」が深刻な課題として明らかになった場合、まずはそのノウハウをデジタル化するシステムを導入し、その後、AIを活用した品質予測へとDXの範囲を広げていくといった段階的なアプローチが考えられます。ASIS分析によって、現状のITスキルレベルや組織の適応能力も把握できるため、無理のないDXロードマップを作成できます。このロードマップは、Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような汎用性の高い基幹システムを導入する際にも、どの機能を優先的に導入し、どの部分をカスタマイズすべきかを判断する重要な指針となるのです。
4. ASIS分析の具体的な進め方と重要ポイント
製造業の基幹システム導入において、ASIS分析がどれほど重要かはお分かりいただけたでしょう。では、実際にどのようにしてASIS分析を進めていけば良いのでしょうか。ここでは、私が普段コンサルティングで行っている具体的なステップと、それぞれのフェーズで意識すべき重要ポイントを解説します。
ASIS分析は、単なる業務の聞き取り調査ではありません。それは、企業の「今」を徹底的に深掘りし、その本質を理解するための活動です。この段階でどれだけ丁寧な作業ができるかが、基幹システム導入プロジェクト全体の成功に大きく影響します。特に製造業は、生産プロセスが複雑であるため、綿密な現状把握が求められます。
4.1 プロジェクト初期の事前準備と基幹システムへの理解
ASIS分析を開始する前に、プロジェクトチーム全体で共通認識を持ち、必要な準備を整えることが重要です。この事前準備の質が、その後の現状把握の効率性と精度を左右します。
まず、プロジェクト概要の理解を徹底します。今回導入する基幹システムが、なぜ、どのような目的で導入されるのか、最終的にどのような成果を目指しているのか、プロジェクトの全体スケジュール、そしてチームメンバーの役割分担を把握します。特に、今回の基幹システム導入がどのような課題解決を目指しているのかを明確にします。例えば、私が参画したある製造業のプロジェクトでは、当初は「コスト削減」が目的とされていましたが、深く掘り下げると「熟練工の退職による生産性低下の回避」という隠れた目的があることが分かりました。このような真の目的を理解することで、ASIS分析の焦点を絞ることができます。
そして、基幹システムに関する基礎知識の習得も欠かせません。導入を検討している基幹システム(例えば、Microsoft Dynamics 365 Business Central)の基本的な機能や役割、一般的な導入プロセスなどを学び、プロジェクトで使われる専門用語に慣れておきます。ASIS分析の目的、進め方、主要なドキュメントを把握し、現状把握の全体像を把握しておくことで、効率的に作業を進めることができます。
4.2 ヒアリングの戦略的な進め方
ASIS分析の核となるのがヒアリングです。単に質問をするだけでなく、戦略的にヒアリングを進めることで、効率的かつ質の高い現状把握が可能になります。
まずは、提供資料の読み込みと活用から始めます。プロジェクトのキックオフ時に各ステークホルダーから提供される、業務マニュアル、業務手順書、組織図、現行基幹システムの概要資料、各種帳票サンプルなどを詳細に読み込みます。これらの資料は、ヒアリングを始める前の最も重要な情報源です。業務の標準的な流れや、組織の構成、既存の基幹システムで何ができるのかを理解することで、ヒアリング時に「たたき業務一覧」や「たたき業務フロー」を作成する際の土台となります。これにより、ヒアリングでゼロからすべてを聞く手間を省き、より深い議論に時間を割くことが可能になります。私がコンサルティングしたある企業では、事前に業務マニュアルを読み込んでいたことで、ヒアリングでは具体的な課題や例外処理に焦点を当てることができ、非常に効率的に現状把握が進みました。
次に、ヒアリング対象部署の絞り込み(効率的な進め方)を行います。限られた時間とリソースの中で最大限の情報を得るため、ヒアリング対象部署を戦略的に絞り込みます。まず、経営層や主要部門責任者へのインタビューを通じて、プロジェクトの主要な目的、製造業の現状把握における重要な課題、新しい基幹システムの対象範囲、業務間の関連性などを把握します。この情報に基づいて、基幹システム導入による影響が大きく、かつ情報が豊富に得られる部署を優先的に選定します。例えば、受注管理、生産計画、在庫管理、品質管理など、多品種少量生産におけるコア業務を担う部署を重点的にヒアリング対象とすることが考えられます。
そして、ヒアリング計画の策定と質問リスト(質問票)の作成です。絞り込んだヒアリング対象部署と担当者に対して、ヒアリングの目的、内容、所要時間、場所などを事前に明確に伝え、協力を依頼します。ヒアリングの目的は、「〇〇業務の詳細な流れを把握する」「〇〇システムの課題を特定する」といった具体的なものにします。質問リスト(質問票)は、5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)やIPO(Input, Process, Output)の視点を意識して、網羅的かつ具体的な質問を作成します。例えば、「この部品の発注は誰が、どのような基準で、いつ行っていますか?その際、どのような情報が必要で、最終的に何がアウトプットされますか?」といった具体的な質問は、詳細な現状把握に役立ちます。質問票は、ヒアリング時に質問の抜け漏れを防ぎ、効率的に情報を収集するための重要なツールです。
4.3 ヒアリング結果の整理と可視化
ヒアリングで得られた情報は、単にメモとして残すだけでなく、体系的に整理し、可視化することが重要です。これにより、製造業の複雑な現状把握を関係者間で共有しやすくなり、その後の分析や要件定義に役立ちます。
まず、ヒアリングで得られた情報(メモ、録音データ、観察結果など)を速やかに整理し、各業務のInput(インプット)、Process(プロセス)、Output(アウトプット)を明確にします。例えば、「得意先からの受注情報(Input)を、営業担当者がシステムに入力し(Process)、受注伝票が発行される(Output)」といった形で整理します。次に、業務の流れ、データの流れ、情報の流れを、必要に応じて図式化してみることで、全体の構造を理解しやすくします。これにより、情報のボトルネックや非効率な連携箇所が視覚的に明らかになります。そして、明らかになった課題や問題点を具体的に特定し、その根本原因を多角的に分析します。例えば、「〇〇作業でミスが多い」という課題に対し、「なぜミスが多いのか?(手作業が多いから?基幹システムが使いにくいから?教育不足?)」といった深掘りを行うことで、真の課題解決につながる糸口を見つけられます。
この整理と分析の結果は、以下の具体的なドキュメントとしてまとめられます。
- 業務フローまとめ:各業務の流れ(Input→Process→Output)を視覚的に明確に表現します。これにより、関係者間で業務プロセスに対する共通理解を深めることができ、課題の発見や改善策の検討、新しい基幹システムの要件定義に活用します。製造業の現状把握では、複雑な生産プロセスを図示することで、非効率な部分や情報連携のボトルネックが明確になります。業務一覧とヒアリング情報を照らし合わせ、図示します。Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システムを導入する際には、このフロー図が基幹システムの機能と業務プロセスを紐づける重要な資料となります。
5. 製造業のASIS分析を成功させるための秘訣
製造業の基幹システム導入におけるASIS分析は、一見すると地味な作業に見えるかもしれません。しかし、ここでの取り組みこそが、プロジェクトの成否を分ける最も重要な要素です。私が多くの製造業の現状把握を支援してきた中で見出した、成功のための秘訣をお伝えします。
これらの秘訣は、単なるテクニックではありません。製造業の現場特有の複雑さや、そこに働く人々の感情を理解し、プロジェクト全体を円滑に進めるための「心構え」と「戦略」です。特に、多品種少量生産の現場では、業務が多岐にわたり、属人化しているケースも多いため、これらの秘訣がより重要になります。
5.1 各ステークホルダーとの信頼関係構築と積極的なコミュニケーション
製造業のASIS分析において、各ステークホルダーとの信頼関係構築は、何よりも重要です。各ステークホルダーが心を開いて、自身の課題や悩みを正直に話してくれなければ、表面的な現状把握しかできません。
私が以前担当したある製造業では、ヒアリングの際に、担当者の日々の苦労話にも耳を傾け、共感する姿勢を見せることで、深い信頼関係を築くことができました。その結果、普段は話したがらないような具体的な課題や、基幹システムに対する隠れた不満なども引き出すことができ、より正確な現状把握につながりました。
さらに、積極的なコミュニケーションを継続することも重要です。ヒアリング後も、整理した内容や作成した業務フロー図を定期的に共有し、認識のずれがないか、フィードバックを求める機会を設けます。疑問点があれば、遠慮なく質問し、不明な点を曖_昧_にしないように徹底します。各ステークホルダーとの間の小さな誤解が、後々大きな問題に発展することもあります。Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システムの導入は、長期にわたるプロジェクトです。この期間を通じて、各ステークホルダーが「一緒にプロジェクトを進めている」という意識を共有し、密なコミュニケーションを取ることで、製造業の現状把握から基幹システム導入まで、円滑なプロジェクト推進が可能になります。
5.2 「なぜ?」を繰り返す深掘りヒアリング
製造業のASIS分析では、表面的な業務内容だけでなく、その背景にある「なぜ?」を深掘りすることが極めて重要です。これにより、真の課題や、基幹システムで解決すべき根本原因を特定できます。
例えば、「この業務はなぜこの手順で行われているのですか?」「そのデータはなぜここで入力されるのですか?」といった問いかけを繰り返します。ある製造業の現状把握で、「製品の最終検査に時間がかかる」という課題に対し、私が「なぜ時間がかかるのですか?」と質問しました。すると、「検査基準が複雑で、熟練工でないと判断が難しいからです」という答えが返ってきました。さらに「なぜ熟練工でないと判断が難しいのですか?」と聞くと、「検査基準が文書化されておらず、口頭での伝達に頼っているからです」という本質的な課題が明らかになりました。このように、「なぜ?」を数回繰り返すことで、表面的な問題の裏に隠された根本原因にたどり着くことができます。
また、製造業の現場では、長年の経験から「当たり前」とされていることの中に、非効率なプロセスや無駄が隠れていることが多々あります。ASIS分析では、これらの「当たり前」を疑い、業務の流れを客観的な視点で見つめ直すことが求められます。Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システムは、標準的な業務プロセスを内包していますが、それが必ずしも既存の「当たり前」と合致するとは限りません。だからこそ、現状把握の段階で「なぜ」を問いかけ、現状の業務の必然性を深く理解することで、基幹システム導入後に業務プロセスを最適化する際の重要な情報となるのです。
5.3 定量的な現状把握と費用対効果の明確化
製造業のASIS分析では、業務の質的な側面だけでなく、定量的な現状把握を行うことが非常に重要です。これにより、基幹システム導入による費用対効果を客観的に評価し、経営層への説明責任を果たすことができます。
例えば、ある業務で「手作業によるデータ入力に時間がかかっている」という課題があったとします。この課題に対して、「1日あたり何件のデータを入力しているか」「1件あたりの入力に何分かかっているか」「その結果、1日あたり何時間の無駄が発生しているか」といった具体的な数字を把握します。私が以前関わったある製造業では、この定量的な現状把握によって、手作業の受注入力に月間100時間以上、人件費換算で数十万円のコストがかかっていることが判明しました。この具体的な数字を提示することで、経営層は基幹システムによる自動化投資の妥当性を明確に理解し、導入への決断を後押ししました。
業務量調査を行うことで、各業務にかかる時間やコストを算出し、コストの高い業務や非効率な業務を特定できます。このデータは、Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような基幹システム導入によるROI(投資対効果)を算出する際の根拠となります。製造業の現状把握において、感覚的な判断だけでなく、具体的な数字に基づいた分析を行うことで、基幹システム導入の費用対効果を明確にし、プロジェクトの成功確率を高めることができるのです。
まとめ
製造業が基幹システムを導入する際、最も重要なステップは、徹底した現状把握、つまりASIS分析を行うことです。本記事では、製造業が基幹システム導入で失敗する理由から、ASIS分析の定義、その必要性、そして具体的な進め方、成功のための秘訣について詳しく解説しました。
ASIS分析は、単に業務フローを洗い出すだけでなく、製造業の「今」を詳細に理解し、隠れた課題を可視化するプロセスです。これにより、漠然とした課題を具体的な解決目標へと落とし込み、現場との乖離や費用対効果の不明確さを解消できます。また、ASIS分析は、製造業がDXを推進するための羅針盤となり、データ活用の基盤を構築し、DXへのロードマップを策定するための不可欠な情報を提供します。
具体的なASIS分析の進め方としては、プロジェクト初期の事前準備から始まり、提供資料の読み込み、戦略的なヒアリング対象部署の絞り込み、そして5W1HやIPOの視点を取り入れた質問リストの作成が重要です。ヒアリング実施時には、業務デモンストレーションや実際の帳票確認、ワークショップ形式といった多様な手法を活用し、より具体的な現状把握に努めます。得られた情報は、業務一覧、業務量調査、業務フロー図として整理・可視化し、関係者間で共有することで、共通認識を醸成し、基幹システム導入における最適な要件定義へとつなげます。
製造業のASIS分析を成功させる秘訣は、各ステークホルダーとの信頼関係構築と積極的なコミュニケーション、そして「なぜ?」を繰り返す深掘りヒアリングにあります。さらに、定量的な現状把握を行い、基幹システム導入による費用対効果を明確にすることで、プロジェクトのROIを最大化できます。
Microsoft Dynamics 365 Business Centralのような最新の基幹システムも、このASIS分析によって得られた現状把握がなければ、その真価を発揮することはできません。あなたの製造業が基幹システム導入で失敗しないためにも、ぜひ本記事で解説したASIS分析の極意を実践し、成功への道を切り拓いてください。もし、現状把握や基幹システム導入でお悩みの場合は、私たちのような専門家がお手伝いできますので、いつでもご相談ください。