記事公開日:2025.08.07
最終更新日:2025.08.07
食品製造業の第一歩!初めてでも安心なパレタイズ・デパレタイズ協働ロボット活用法

目次
はじめに:人手不足と生産性向上のジレンマを解消する協働ロボット
日本の食品製造業は、消費者の多様なニーズに応えるため、多品種少量生産へのシフトが進んでいます。同時に、少子高齢化による慢性的な人手不足は深刻化の一途を辿り、特に製造ラインの最終工程であるパレタイズ(製品の積み付け)や、原材料のデパレタイズ(パレットからの荷降ろし)といった重労働は、現場の大きな負担となっています。これらの工程は、身体的負担が大きく、単純な繰り返し作業であるにもかかわらず、人の手作業に依存している企業が少なくありません。
このような状況下で、食品製造業の未来を拓く鍵として注目されているのが「協働ロボット」です。協働ロボットは、人と安全に共存し、隣り合って作業できることを前提に設計されています。従来の産業用ロボットのような大掛かりな安全柵が不要な場合が多く、限られたスペースにも導入しやすいため、中小規模の食品工場でも導入のハードルが低いのが特長です。
本コラムでは、食品製造業が直面するパレタイズ・デパレタイズ工程の課題を協働ロボットがどのように解決できるのか、初めて協働ロボットを導入する会社様向けに、持続的な生産性向上に焦点を当てた活用事例を通じてその可能性を解説します。導入によるメリット、成功のポイント、そして今後の展望についても触れ、貴社の生産性向上、品質安定化、そして働き方改革の一助となれば幸いです。
食品製造業のパレタイズ・デパレタイズ工程が抱える課題
食品製造業におけるパレタイズ・デパレタイズ工程は、最終製品の出荷準備や原材料の受け入れに不可欠な作業でありながら、多くの課題を抱えています。
1. 人手による作業負荷と身体的負担の限界
- 繰り返しの重労働: 重量のある製品箱や原材料袋を繰り返し持ち上げ、パレットに積み上げる(パレタイズ)、あるいはパレットから下ろす(デパレタイズ)作業は、腰や腕、肩に大きな負担をかけます。
- 体の故障リスク: 長時間の反復作業は、腰痛や腱鞘炎などの体の故障につながりやすく、従業員の健康を損なうリスクがあります。
- 疲労による効率低下: 作業者の疲労が蓄積すると、作業速度が落ち、全体の生産効率が低下するだけでなく、事故のリスクも高まります。
2. 人手不足と採用難、離職率の高さ
- 労働集約型作業への敬遠: 若年層を中心に、重労働や単純作業の多いパレタイズ・デパレタイズ工程は敬遠されがちで、慢性的な人手不足に陥っています。
- 採用コストの増加: 人材確保が困難なため、採用活動にかかるコストが増大し、経営を圧迫しています。
- 定着率の低さ: 肉体的な負担が大きいことや、単調な作業であることから、従業員の定着率が低い傾向にあります。
3. 生産ライン全体のボトルネック化
- 機械稼働率の低下: 上流の加工・包装工程が自動化されていても、最終のパレタイズ工程が人手に頼っていると、休憩や交代時間中にラインが停止し、生産ライン全体のボトルネックとなります。
- 品質のばらつき: パレットへの積み付け方が作業者によって異なると、輸送中の荷崩れや製品の破損リスクが高まります。また、製品の取り扱いの不均一性も品質に影響を与えかねません。
- 夜間・休日稼働の制約: 人員配置の都合上、夜間や休日の無人稼働が難しく、生産量の増加要求に応えきれない場合があります。
これらの課題は、食品製造業の皆様にとって、安定した生産と持続可能な経営を阻む大きな壁となっています。ここで協働ロボットを導入することは、単なる自動化に留まらず、これらの課題を根本的に解決し、製造現場に変革をもたらす「必然性」があると言えるでしょう。
協働ロボット導入がもたらす革新
協働ロボットは、その特性からパレタイズ・デパレタイズ工程に以下のような革新をもたらします。
- 労働力不足の解消と生産性の飛躍的向上:
- ロボットは疲労することなく、24時間稼働できるため、機械の稼働率を最大化し、生産量を大幅に増加させることが可能です。
- 作業者は重労働から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
- 身体的負担の軽減と安全性向上:
- ロボットが重い製品の持ち上げや積み付け作業を代替することで、従業員の腰痛や腱鞘炎のリスクを大幅に軽減し、健康的な労働環境を創出します。
- 協働ロボットは、人との接触時に安全に停止する機能を備えているため、安全柵を最小限に抑えつつ、作業者との協調作業が可能です。
- 品質の安定化とトレーサビリティの確保:
- プログラムされた通りに正確かつ均一な力で製品を取り扱い、定められたパターンでパレットに積み付けるため、荷崩れのリスクを低減し、製品の破損を防ぎます。
- 作業データを記録することで、万が一の際の原因究明や品質改善に役立てられます。
- フレキシブルな生産体制への対応:
- 多品種少量生産において、製品の種類変更や積み付けパターンの変更があっても、協働ロボットはティーチング(動作の記憶)が容易なため、短時間で対応できます。
- 限られたスペースにも導入しやすいため、既存の生産ラインに影響を与えることなく自動化を進められます。
パレタイズ・デパレタイズにおける協働ロボット活用事例:比較的簡単なシナリオ3選
それでは、初めて協働ロボットを導入する食品製造業の会社様向けに、比較的導入しやすく、効果を実感しやすい具体的な活用事例を3つご紹介します。
事例1:単一製品の軽量箱パレタイズ
<A社:菓子・食品メーカー>
最もシンプルな導入例として、製造ラインから流れてくる比較的小さな(数kg程度の)製品箱を、パレットに積み付ける作業への協働ロボット導入です。
【課題】
- 製造ラインからの製品箱をひたすら積み続ける単純作業
- 作業員の身体的負担(腰や腕)が大きい
- 作業員の休憩や交代時間中にラインが停止してしまう
【協働ロボット導入による解決策】
製造ラインの終端に協働ロボットを設置し、ロボットアームには製品箱のサイズに合った真空吸着式のグリッパーを取り付けます。ロボットはラインから流れてくる箱を1個ずつ吸着し、事前にティーチング(プログラミング)されたパターンでパレットに正確に積み付けていきます。ロボットが夜間や休日も稼働することで、人の手を借りずに生産を続けることができます。
【導入効果】
- 作業員が積み付け作業から完全に解放され、重労働による身体的負担がゼロになります。
- 機械の稼働時間を延長できるため、生産量が安定します。
- 積み付けパターンが均一になるため、荷崩れのリスクが減少し、輸送品質が向上します。
事例2:袋詰め原材料のデパレタイズ(パレットからコンベアへ)
<B社:製粉・調味料メーカー>
粉物(小麦粉、砂糖など)や顆粒状の調味料など、20kg程度の重い袋でパレットに積まれて入荷する原材料の荷降ろし作業への導入です。
【課題】
- 重い原材料袋の持ち上げ作業が肉体的に過酷
- 作業者による作業時間のばらつきで、次工程への供給が遅れることがある
- 作業者の疲労が、ライン全体の生産効率を制限する
【協働ロボット導入による解決策】
原材料の入荷エリアに協働ロボットを導入し、専用の袋用グリッパー(フック式やバキューム式)を装着します。パレットに積まれた原材料袋は、フォークリフトなどでロボットの作業エリアにセットされます。ロボットはパレット上の袋を一層ずつ自動でデパレタイズし、隣接するコンベアに搬送します。シンプルなデパレタイズパターンから始めることで、容易に導入できます。
【導入効果】
- 従業員が重い原材料の持ち運びから解放され、腰痛などの労災リスクが大幅に低減します。
- ロボットが常に一定のペースで作業を続けるため、原材料の供給が安定し、次工程の稼働率向上に貢献します。
- 人手不足の解消に直結し、従業員の定着率向上にも繋がります。
事例3:トレーに入った製品のパレタイズ(簡易治具活用)
<C社:デザート製造メーカー>
プリンやゼリー、ヨーグルトなどのプラスチックカップ製品が、複数個まとめて入った「トレー」の状態で製造ラインから流れてくる工程での導入です。これらのトレーをパレットに積み付けていく作業を自動化します。
【課題】
- トレーに入った製品を一つずつ積み重ねる反復作業
- 積み方が少しでもずれると、後の工程に影響が出る
- 作業者の疲労が積み重ねの精度を低下させる
【協働ロボット導入による解決策】
製品が流れてくるコンベアの脇に協働ロボットを配置し、トレーを正確に掴むためのシンプルな治具(ガイド)とグリッパーを導入します。ロボットは、コンベアを流れてきたトレーを掴み、事前にティーチングされた位置に正確にパレットへと積み重ねていきます。製品の種類が限定的で、トレーの形状が一定であれば、比較的容易に自動化できます。
【導入効果】
- 手作業での積み重ね作業から解放され、作業員の疲労が軽減します。
- ロボットによる正確な積み重ねで、製品の破損リスクが低減し、後の段ボール箱詰め工程もスムーズになります。
- 常に一定の精度で積み付けが行われるため、生産ライン全体の品質が安定します。
協働ロボット導入を成功させるためのポイント
協働ロボットの導入は、単に機械を設置すれば成功するものではありません。特に中小規模の食品製造業の皆様がその効果を最大限に引き出すためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
1. 目的の明確化とスモールスタート
まず、なぜ協働ロボットを導入するのか、その目的を明確にすることが極めて重要です。「人手不足の解消」「生産性向上」「労働環境改善」など、具体的な目標を設定しましょう。そして、いきなり全てを自動化しようとせず、最も負担が大きい、あるいは効果が見えやすい一つの作業から自動化を試みる「スモールスタート」をお勧めします。成功体験を積み重ね、ノウハウを蓄積しながら段階的に適用範囲を広げることが賢明です。
2. 衛生管理と安全性への配慮
食品製造業ではロボットの使用場所にもよりますが、一般的な工場以上に衛生管理と安全性に厳格な基準が求められます。
- 衛生設計の確認: 導入する協働ロボットやグリッパー、周辺設備が、食品安全規格(例:HACCP、FSSC22000)に対応しているかを確認しましょう。清掃しやすい素材や構造であるか、潤滑油などの異物混入リスクがないかなどをチェックする必要があります。
- 食品接触部の素材: 食品に直接触れる可能性のあるグリッパーやロボットアームの先端は、食品グレードの素材(ステンレス、特定の樹脂など)を使用している必要があります。
- 洗浄性: 定期的な洗浄・殺菌に対応できる防水・防塵性能(IP等級)を備えているか確認し、日常の清掃ルーチンに組み込めるか検討しましょう。
- 安全柵の最小化とリスクアセスメント: 協働ロボットは安全柵が不要な場合が多いですが、食品製造現場特有のリスク(例えば、液体や粉塵、滑りやすい床など)を考慮したリスクアセスメントを徹底し、必要に応じてミニマムな安全対策(ライトカーテン、安全マットなど)を講じましょう。
3. 適切な協働ロボットと周辺設備の選定
市場には様々なメーカーから多種多様な協働ロボットが提供されています。自社の製品特性や作業環境に合った協働ロボットと周辺設備を選定することが成功の鍵です。
- 可搬重量・リーチ: 製品箱や原材料袋の重量、パレットの高さ、ラインの幅などを考慮し、適切な可搬重量とリーチを持つロボットを選びます。
- グリッパーの選定: 製品の種類(箱、袋、ボトルなど)や、取り扱い方(吸着、把持、挟み込み)に応じて最適なグリッパーを選びます。多品種に対応できる汎用性の高いグリッパーや、自動で交換できるツールチェンジャーも有効です。
- ティーチングの容易さ: 直感的な操作でティーチングができるユーザーフレンドリーなインターフェースを持つロボットは、導入後の運用負荷を軽減します。手で直接ロボットを動かして動作を教える「ダイレクトティーチング」機能があると非常に便利です。
- 周辺機器との連携: 製造ラインのコンベア、パレットフィーダー、ストレッチ包装機など、既存の設備とのスムーズな連携が不可欠です。システムインテグレーター(SIer)と密に連携し、全体最適を考えたシステムを構築しましょう。
4. 人材育成と役割の再定義
協働ロボットの導入は、従業員の働き方を変革します。社内体制の構築と人材育成が不可欠です。
- オペレーターの育成: ロボットの操作、ティーチング、簡単なメンテナンスができるオペレーターを育成します。メーカーや代理店が提供する研修プログラムを活用しましょう。
ロボットに興味がある若手社員などがお勧めです。
- 熟練作業者の役割転換: 重労働から解放された従業員を、製品の品質管理、生産計画の最適化、新しい製品の開発、ロボットシステムの監視・改善といった、より付加価値の高い業務に配置転換することを検討しましょう。これは、従業員のモチベーション向上とスキルアップにも繋がります。
5. 補助金や助成金の積極的な活用
初期投資の負担を軽減するため、国や地方自治体が提供する補助金・助成金制度を積極的に活用しましょう。特に、食品産業の生産性向上や、働き方改革を支援する制度は多数存在します。
まとめ:食品製造業の持続可能な未来を協働ロボットと共に
本コラムでは、食品製造業のパレタイズ・デパレタイズ工程における協働ロボットの活用事例とその導入メリット、成功のポイント、そして今後の展望について解説しました。
人手不足の深刻化、品質要求の高まり、そして多品種少量生産への対応は、食品製造業が避けては通れない課題です。協働ロボットは、これらの課題を解決し、貴社の競争力を強化し、持続的な成長を可能にするための強力なツールとなりえます。
協働ロボットの導入は、短期的な視点で見れば投資費用がかかるかもしれません。しかし、長期的な視点で見れば、人件費の削減、生産性向上、品質安定化、従業員の労働環境改善、そして企業のイメージアップといった多岐にわたるメリットを享受することができます。特に、従業員が身体的な重労働から解放され、より付加価値の高い業務に集中できることは、企業の組織力強化にも繋がります。
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