記事公開日:2026.02.02
最終更新日:2026.02.02
【第1回】なぜ今、現場に「ユニバーサル」が必要なのか?~人手不足を嘆く前に、現場の「前提」を疑え~

はじめまして。 私は今、船井総合研究所で製造業特化型のコンサルタントとして活動していますが、私のルーツはコンサルタントのオフィスにはありません。
私のキャリアのスタートは、製造現場の最前線でした。以来、20年。射出成形の現場で、生産技術、工程設計、品質管理、そしてトラブル対応の最前線で、文字通り「手」を動かし続けてきました。
20年という月日は、私に多くのことを教えてくれました。 職人の指先が覚えている絶妙な力加減。金型のわずかな音の違いで察知する不具合の予兆。
しかし、同時に私は、現場の「職人芸」が、時として経営の「足かせ」になってしまう現実も、嫌というほど見てきました。
- 「あのベテランがいなければ、このラインは動かない」
- 「技術は教えるものではなく、盗むものだ」
- 「うちは特殊だから、マニュアルなんて作れない」
こうした現場の美学は、かつては日本の強みでした。しかし、今やそれは「属人化」という名の経営リスクに変貌しています。人手不足が深刻化し、熟練工が次々と引退していく今、現場の知恵を「個人のもの」から「組織の資産」へと書き換えなければ、製造業に未来はありません。
自らの20年の現場知見を、客観的な「経営の数字」へと変換する手法として考えたのが、本連載のテーマである「ユニバーサル工程設計」です。
ユニバーサル工程設計とは、能力や経験、言語を問わず、誰もが初日から「プロの仕事」ができる現場をデザインする技術です。
本連載(全10回)では、私が20年の現場経験で見てきた「事実」と、そこから導き出した「即戦力の解決策」を、包み隠さずお伝えします。
「現場を、誰にとっても、最高のパフォーマンスが出せる場所に変える」
現場の「当たり前」を疑うことから始めましょう。
目次
1. 2026年、製造業が直面している「静かなる崩壊」
現在、日本の製造業、特に地方の中堅・中小企業の現場で起きているのは、単なる「採用難」ではありません。それは、これまで日本のものづくりを支えてきた「暗黙知の継承モデル」の完全な崩壊です。
かつて、現場には「背中を見て覚える」若手がいました。3年、5年という月日をかけて、職人の絶妙な感覚を盗み、自らの血肉とする文化がありました。しかし、今、あなたの工場の門を叩くのは誰でしょうか。言語の壁がある外国人労働者、短期間でのキャリアアップを望むZ世代、あるいは定年を過ぎてなお現場を支える高齢者です。
彼らに「阿吽の呼吸」を求めても、結果は目に見えています。不良の山、設備の破損、そして「自分には無理だ」という早期離職。経営者は「いい人が来ない」と嘆きますが、問題は「人」ではなく「現場の設計図」にあります。
2.「ユニバーサル工程設計」というパラダイムシフト
ここで私が提唱する「ユニバーサル工程設計」とは、単なる作業の簡素化ではありません。それは、「人の能力、言語、経験、身体的特徴に関わらず、誰もが初日から標準的な品質とスピードを実現できる状態を、エンジニアリングによって作り出すこと」です。
バリアフリーが「足の不自由な人のためだけのもの」ではなく、ベビーカーを押す人や重い荷物を持つ人にとっても便利であるように、ユニバーサル工程設計は、新人のためだけのものではありません。ベテランにとっても「楽に、正確に」動ける現場は、疲労を軽減し、集中力の欠如による事故を防ぎます。
3.射出成形現場に見る「職人依存」の弊害
私の専門である射出成形を例に挙げましょう。金型の取り付け、条件出し、周辺機器の設定。これらすべてが「●●さんの勘」で行われている現場がどれほど多いことか。
- 「音を聞けばわかる」
- 「樹脂の匂いで材質がわかる」
- 「ネジを締める手応えで判断する」
これらは素晴らしい技術ですが、経営の観点から見れば「極めてリスクの高い属人的な資産」です。その人が病気で休んだら? 競合他社に引き抜かれたら? その瞬間、あなたの会社の収益基盤は消滅します。 ユニバーサル工程設計は、この「勘」を「数値と仕組み」に置き換えます。トルクレンチによる数値管理、センサーによる自動検知、画像による合否判定。職人の頭の中にあるロジックを現場の「物理的仕組み」に落とし込む。これが、20年現場を見てきた私が、今、経営者に最も伝えたい「攻めの改善」です。
4.採用戦略としての「ユニバーサル化」
多くの経営者は「採用」と「現場改善」を切り離して考えがちです。しかし、ユニバーサル工程設計が完了した現場は、それ自体が「最強の採用武器」になります。
「うちは難しいから、経験者じゃないと無理だ」と言う会社と、「うちはユニバーサル設計を導入しているから、未経験でも30分でプロと同じ仕事ができる」と言う会社。求職者はどちらを選ぶでしょうか。 今の時代、現場のハードルを下げることは、労働市場における「入り口」を広げることと直結します。現場をユニバーサル化することは、高額な求人広告を出すよりも、はるかに高いROI(投資対効果)を生むのです。
5.経営者が持つべき「投資」の視点
最後に、現場の治具ひとつ、デジタルツールの導入ひとつを「コスト」と考えていませんか? ユニバーサル工程設計への投資は、損益計算書(PL)における「経費」ではなく、貸借対照表(BS)における「企業価値の構築」です。
現場から「迷い」をなくし、「ミス」を物理的に不可能にし、誰でも「戦力」に変える。この仕組みが完成したとき、あなたの会社は人手不足という外部環境に左右されない、強固な収益体質を手に入れることができます。 第2回からは、具体的にどのようにして「職人芸」を解体し、誰でもできる「仕組み」へと再構築していくのか。その具体的なメソッドを公開していきます。
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