そのExcel業務、Power Appsで自動化!Dynamics 365 Business Centralで現場の業務を効率化する連携ガイド
2025.06.23
「基幹システムを導入したものの、現場の業務にフィットせず、結局Excelや手作業に戻ってしまった…」そんなお悩みはありませんか?本記事では、Microsoftの強力なERPである「Dynamics 365 Business Central」と、ローコード開発ツール「Power Apps」を連携させることで、現場の業務を劇的に改善する方法を解説します。この記事を読めば、Power AppsとBusiness Centralを連携させる具体的なメリットから、アプリ作成の基本手順、実践的な活用シナリオまで理解できます。多品種少量生産を行う中小製造業の経営者様、現場のDXを推進したいご担当者様、Business Centralの価値をさらに高めたいと考えているすべての方に読んでいただきたい内容です。
「Microsoft Dynamics 365 Business Central」は、販売、購買、在庫、生産、財務会計までを網羅する、中小企業にとって非常に強力なERP(統合基幹業務システム)です。Business Centralを導入することで、社内のデータを一元管理し、経営状況をリアルタイムに可視化できます。しかし、多くの機能を持つがゆえの課題も存在します。特に多品種少量生産を行う製造業の現場では、Business Centralの標準機能だけでは対応しきれない細かなニーズが出てくることが少なくありません。
1. Business CentralとPower Appsを連携させる4つの大きなメリット
Dynamics 365 Business CentralとPower Appsの連携は、中小製造業が抱える多くの課題を解決する可能性を秘めています。この連携がもたらすメリットは、単なる業務効率化に留まりません。ここでは、Power AppsとBusiness Centralの連携によって得られる、特に重要な4つのメリットについて、具体的に解説します。これらのメリットを理解することで、なぜ今、Power AppsとBusiness Centralの連携が注目されているのかが明確になるでしょう。
1.1メリット1:ライセンスコストを最適化し利用ユーザーを拡大
Power AppsとBusiness Centralの連携は、ライセンスコストの最適化に大きく貢献します。Business Centralのすべての機能を利用するには、ユーザーごとに「Premium」や「Essentials」といったフルライセンスが必要です。しかし、現場の作業員や営業担当者など、業務が限定的なスタッフ全員に高価なフルライセンスを付与するのは、コスト面で大きな負担となります。例えば、作業報告の入力や在庫数の確認といった特定の業務しか行わないスタッフに、月額1万円以上(※価格は変動します)のライセンス費用をかけるのは非効率的です。
ここでPower Appsとの連携が活きてきます。Dynamics 365のライセンス(Business Central含む)には、Power Appsの利用権がすでに追加費用なしで含まれています。この権利を活用すれば、Business Centralのデータを参照・更新するカスタムアプリを作成し、現場スタッフに使ってもらうことが可能です。さらに、データの参照が主で、フルライセンスが不要なユーザーには、より安価な「Team Members」ライセンス(月額1,000円程度)を割り当てる選択肢もあります。
例えば、50人の現場スタッフが在庫確認と作業報告のためだけにBusiness Centralを利用する場合を考えます。全員にEssentialsライセンス(仮に月額8,400円)を付与すると月額42万円のコストがかかります。しかし、Power Appsで専用アプリを作成し、Team Membersライセンスで運用すれば、コストは月額5万円となり、実に月額37万円、年間で444万円もの大幅なコスト削減が実現できるのです。このように、Power AppsとBusiness Centralの連携は、必要な人に必要な機能だけを提供することで、ITコストを最適化し、より多くの従業員がシステムを活用できる環境を実現します。
1.2メリット2:現場に特化したシンプルな入力・参照画面を実現
Power AppsとBusiness Centralの連携がもたらす2つ目の大きなメリットは、現場の業務に最適化された、誰でも直感的に使えるシンプルな画面(UI/UX)を実現できることです。Business Centralは非常に多機能ですが、その反面、一つの画面に多くの情報が表示されるため、ITに不慣れな現場スタッフにとっては「どこを見ればいいのか分からない」「操作が難しい」と感じられることがあります。特に、多品種少量生産の現場では、作業内容に応じて見るべき情報や入力する項目が細かく変わるため、画面の複雑さが作業効率の低下や入力ミスの原因になりかねません。
Power Appsを活用すれば、Business Centralの膨大なデータの中から、特定の業務に必要な情報だけを抜き出した専用のアプリケーションを作成できます。例えば、「製造指示書No.XXXXの作業実績入力」というアプリを作成する場合、画面には「作業者名」「作業時間」「完了数」「不良数」といった最低限の項目だけを表示させることができます。ボタンを大きくしたり、入力項目をプルダウン形式にしたりと、現場の要望に合わせて自由自在にカスタマイズが可能です。
1.3メリット3:モバイルやデバイス機能を活用し、業務を効率化
Power AppsとBusiness Centralの連携は、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスの機能を最大限に活用し、業務効率化を加速させます。製造業の現場は、事務所のPCの前だけで完結する仕事ばかりではありません。広い工場内を歩き回る在庫管理、客先での打ち合わせ、トラックヤードでの入出庫作業など、業務の多くは「動的」です。Business CentralもWebブラウザ経由でモバイルからアクセス可能ですが、PC画面をそのまま縮小したような表示になり、操作性が良いとは言えません。
Power Appsで作成したアプリは、初めからモバイルデバイスでの利用を前提に設計されているため、スマートフォンやタブレットの画面サイズに最適化された快適な操作性を実現します。さらに特筆すべきは、カメラやGPSといったデバイス固有の機能とBusiness Centralのデータを簡単に連携させられる点です。例えば、Power Appsでバーコードリーダーアプリを作成すれば、倉庫スタッフはスマホのカメラで製品のバーコードをスキャンするだけで、Business Central上の在庫情報を瞬時に照会したり、出庫処理を行ったりできます。
1.4メリット4. 変化に強く、迅速なアプリ開発・改修
Power AppsとBusiness Centralの連携がもたらす4つ目のメリットは、ビジネス環境の変化に強く、現場のニーズに迅速に対応できるアジリティ(俊敏性)です。多品種少量生産を行う中小製造業の現場は、顧客からの急な仕様変更や短納期への対応など、日々変化に晒されています。こうした変化に合わせて業務プロセスやシステムの改修が必要になっても、従来のシステム開発では要件定義から設計、開発、テストといった工程に数ヶ月から一年以上の時間と多額のコストがかかるのが一般的でした。
Power Appsは、「ローコード開発プラットフォーム」と呼ばれ、プログラミングコードの記述を最小限に抑え、あらかじめ用意された部品をドラッグ&ドロップするような直感的な操作でアプリを開発できます。そのため、従来の開発手法に比べて、開発期間を数分の一に短縮することが可能です。例えば、「現場から『作業完了時に写真を撮って証拠として残したい』という要望が上がってきた」とします。この場合、Power Appsであれば、既存の作業報告アプリにカメラコントロールを追加し、撮影した写真をBusiness Centralの該当データに紐づけて保存する、といった改修をわずか数時間から数日で実装することも不可能ではありません。
2. Power Apps連携によるBusiness Central活用シナリオ例
Dynamics 365 Business CentralとPower Appsの連携は、具体的にどのような業務で効果を発揮するのでしょうか。ここでは、多品種少量生産を行う中小製造業の現場でよく見られるシーンを想定し、4つの具体的な活用シナリオを紹介します。これらのシナリオは、自社のどの業務からPower AppsとBusiness Centralの連携を始めればよいかを考えるヒントになるはずです。
シナリオ1:営業向け - 外出先で顧客情報や在庫をリアルタイムに確認
営業担当者は、客先での商談中に「あの製品の在庫は今何個あるか?」「この仕様での見積価格はいくらか?」といった質問をその場で受けることが頻繁にあります。従来は、一度会社に電話して事務員に確認してもらったり、事務所に戻ってからBusiness Centralで調べて後日回答したりする必要がありました。このタイムラグが、ビジネスチャンスの損失に繋がることも少なくありません。
そこで、Power Appsで「営業支援アプリ」を作成します。このアプリは、営業担当者のスマートフォンで動作し、Business Centralの「顧客」「品目(在庫)」「価格」データを参照します。商談中に顧客名で検索すれば、過去の取引履歴や与信情報をすぐに確認できます。製品名や型番で検索すれば、リアルタイムの在庫数や標準納期がその場で分かります。
シナリオ2:倉庫スタッフ向け - バーコードを使った入出庫・検品アプリ
製造業の要である倉庫業務では、正確な入出庫管理と検品作業が不可欠です。しかし、多品種少量生産の現場では、多種多様な部品や製品を扱うため、ピッキングミスや数量の間違いといったヒューマンエラーが発生しやすい環境でもあります。紙のリストと目視による確認作業は、熟練スタッフの経験に頼りがちで、新人スタッフの教育にも時間がかかります。
この課題は、Power Appsで「倉庫管理アプリ」を開発し、Business Centralと連携させることで解決できます。スマートフォンのカメラ機能を利用して、製品や部品の棚、現品に貼られたバーコードやQRコードを読み取ります。例えば、出庫作業では、Business Centralの出荷指示データをPower Appsアプリに表示。作業者は指示された棚へ行き、商品のバーコードをスキャン。正しい商品であれば「OK」と表示され、間違っていれば警告音が鳴るように設定できます。ピッキングが完了すると、その情報がリアルタイムでBusiness Centralの在庫データに反映されます。
シナリオ3:製造現場向け - 簡単な作業実績の入力・進捗報告アプリ
製造現場では、リアルタイムな進捗状況の把握が、生産計画の精度や納期遵守率を大きく左右します。しかし、多くの現場では、作業者は一日の終わりにまとめて作業日報を手書きやExcelで作成し、それを管理者が集計してBusiness Centralに入力する、という運用が行われています。これでは、進捗の把握にタイムラグが生じ、問題が発生しても発見が遅れてしまいます。
そこで、Power Appsで「製造実績入力アプリ」を作成し、各工程に設置したタブレットから入力できるようにします。作業者は、自分の担当する製造指示をアプリで選択し、「開始」「中断」「完了」のボタンをタップするだけで、作業実績がタイムスタンプと共にBusiness Centralに記録されます。完了時には、生産数や不良数を入力するシンプルな画面が表示されます。
シナリオ4:承認者向け - 外出先からも操作できるシンプルな承認アプリ
中小企業では、社長や工場長といった特定の承認者に業務が集中しがちです。「見積承認」「購買申請の承認」「経費精算の承認」など、様々な承認業務が承認者のボトルネックとなり、ビジネスのスピードを停滞させる原因になることがあります。特に承認者が出張などで不在の場合、業務が完全にストップしてしまうケースも少なくありません。
この課題を解決するのが、Power Automate(Power Platformのワークフロー自動化ツール)とPower Apps、そしてBusiness Centralの連携です。例えば、担当者がBusiness Centralで見積を作成・申請すると、Power Automateがそれをトリガーに、承認者(社長)のスマートフォンに「承認依頼」のプッシュ通知を送ります。社長は、通知をタップしてPower Appsで作成された「承認アプリ」を起動。アプリには、見積の要点(顧客名、金額、主要品目など)だけがシンプルに表示されており、「承認」または「却下」ボタンをタップするだけで、どこにいても承認作業が完了します。
3. 連携前に知っておきたい注意点とライセンス
Power AppsとDynamics 365 Business Centralの連携は、これまで見てきたように非常に強力ですが、導入を成功させるためには、事前に知っておくべき技術的な注意点やライセンスの考え方がいくつか存在します。これらの点を理解せずに進めてしまうと、「思ったように動作しない」「後から追加コストが発生した」といった事態になりかねません。ここでは、Power AppsとBusiness Centralの連携を計画する上で、特に重要な3つのポイントを解説します。
3.1Dynamics 365 Business Centralコネクタの基礎知識
Power AppsとBusiness Centralを連携させる際の中核となるのが、「Dynamics 365 Business Centralコネクタ」です。このコネクタは非常に優秀ですが、その仕様を理解しておくことが重要です。特に注意したいのが「委任(Delegation)」という概念です。Power Appsでは、大量のデータを扱う際、データソース側(この場合はBusiness Central)に処理を「委任」できる関数と、できない関数があります。
例えば、数万件の顧客データの中から特定の条件で絞り込み(フィルタリング)を行う場合、委任対応の関数を使えば、Business Central側で効率的に処理された結果だけがPower Appsに返されます。しかし、委任非対応の関数を使ってしまうと、Power Appsは一旦Business Centralから規定の件数(標準では500件、最大2000件)のデータをすべて取得し、その中からフィルタリング処理を行います。そのため、2001件目以降のデータは検索対象にならず、「データがあるはずなのに表示されない」という問題が発生したり、アプリの動作が著しく遅くなったりする原因になります。
この問題を避けるためには、アプリを設計する段階で、委任可能な関数(Filter, Search, LookUpなど)を中心に処理を組み立てることが基本です。大量のデータを扱うことが想定される場合は、予めデータを絞り込むための検索ボックスを設け、ユーザーに必ず条件を入力してもらうようなアプリ設計にすることも有効な対策です。Power AppsとBusiness Centralの連携を本格的に活用するなら、この「委任」の知識は必ず押さえておきましょう。
3.2アプリのパフォーマンスに関する考慮事項
Power Appsアプリのパフォーマンス、つまり動作の快適さは、ユーザーの利用満足度に直結する重要な要素です。特に、Business Centralのような基幹システムのデータを扱う場合、アプリの起動時やデータ読み込み時の速度が遅いと、現場のスタッフに使ってもらえなくなる可能性があります。快適なPower Appsアプリを維持するためには、設計段階でのいくつかの配慮が必要です。
最も重要なのは、アプリの起動時に読み込むデータ量を最小限に抑えることです。アプリ起動時に、Business Centralから大量のデータを一度に読み込もうとすると、起動に数十秒かかってしまうことがあります。対策として、アプリの最初の画面には必要最低限の情報のみを表示し、ユーザーが特定の操作(ボタンをクリックするなど)を行ったタイミングで、初めて詳細データをBusiness Centralから取得する、という設計が有効です。
また、一つの画面に多くのコントロール(ボタン、ラベル、入力ボックスなど)を配置しすぎると、画面の描画に時間がかかり、動作が重くなる原因になります。業務プロセスを整理し、画面を適切に分割することで、各画面のコントロール数を抑えることがパフォーマンスの向上に繋がります。Power AppsとBusiness Centralの連携では、多機能なアプリを目指すよりも、特定の業務に特化した「単機能でサクサク動く」アプリを複数作成するほうが、結果としてユーザーにとって価値が高くなるケースが多いのです。
3.3必要なPower Appsライセンス(Dynamics 365ライセンスに含まれる利用権)
Power AppsとBusiness Centralの連携におけるライセンスの考え方は、コストに直結するため非常に重要ですが、少し複雑な面もあります。まず大原則として、Dynamics 365 Business Centralのライセンス(EssentialsやPremium)を保有しているユーザーは、そのライセンスの範囲内で、Business Centralのデータに接続するPower Appsアプリを追加費用なしで作成・利用できます。これは「Dynamics 365にシードされたPower Apps利用権」と呼ばれ、連携を始める上での大きなメリットです。
ただし、注意点がいくつかあります。第一に、この権利で利用できるのは、Dynamics 365(Business Centralを含む)やMicrosoft 365(SharePointなど)といった「標準コネクタ」に接続するアプリに限られます。もし、Salesforceやkintone、オンプレミスのSQL Serverなど、外部のサービスに接続する「プレミアムコネクタ」を同じアプリ内で利用する場合は、別途Power Appsの有料ライセンス(Per AppプランやPer Userプランなど)が必要になります。
第二に、Business Centralのライセンスを持たないユーザー(例えば、普段は基幹システムに一切触れない他部署のスタッフなど)が、Business Centralのデータを参照するPower Appsアプリを利用する場合も、そのユーザーにはPower Appsの有料ライセンスが必要です。自社の誰が、どのデータに、どのようにアクセスするのかを事前に整理し、最適なライセンスプランを計画することが、Power AppsとBusiness Centralの連携を成功させ、無駄なコストを発生させないための鍵となります。
4. まとめ:Power Apps連携でBusiness Centralの価値を最大化しよう
Dynamics 365 Business Centralという強力なデータ基盤と、Power Appsという柔軟なフロントエンド開発ツール。この二つの連携は、まさに車の両輪です。Business Centralに蓄積された正確なデータを、Power Appsを通じて現場の隅々まで届け、活用することで、企業全体の生産性は飛躍的に向上します。
「何から手をつければいいか分からない」と感じるかもしれませんが、大切なのはスモールスタートです。まずは本記事で紹介したような、身近な業務課題を解決する小さなアプリから作ってみませんか。その一歩が、貴社のDXを加速させ、Business Centralへの投資価値を最大化する確かな道のりとなるはずです。もし、具体的な進め方でお困りの際は、我々のような専門家にご相談いただくのも一つの有効な手段です。
また、基幹システムの導入について、
「どのシステムを選べばいいのかわからない…」
「導入にどれくらいの費用や時間がかかるのかが不透明…」
「システムベンダーの選定も難しそう…」
「導入しても本当に効果があるのか疑問…」
などのお悩みをお持ちの方は、是非船井総研の「無料経営相談」をご利用ください。
https://www.funaisoken.co.jp/dl-contents/smart-factory__03637_S045?media=smart-factory_S045 「基幹システムを導入したものの、現場の業務にフィットせず、結局Excelや手作業に戻ってしまった…」そんなお悩みはありませんか?本記事では、Microsoftの強力なERPである「Dynamics 365 Business Central」と、ローコード開発ツール「Power Apps」を連携させることで、現場の業務を劇的に改善する方法を解説します。この記事を読めば、Power AppsとBusiness Centralを連携させる具体的なメリットから、アプリ作成の基本手順、実践的な活用シナリオまで理解できます。多品種少量生産を行う中小製造業の経営者様、現場のDXを推進したいご担当者様、Business Centralの価値をさらに高めたいと考えているすべての方に読んでいただきたい内容です。
「Microsoft Dynamics 365 Business Central」は、販売、購買、在庫、生産、財務会計までを網羅する、中小企業にとって非常に強力なERP(統合基幹業務システム)です。Business Centralを導入することで、社内のデータを一元管理し、経営状況をリアルタイムに可視化できます。しかし、多くの機能を持つがゆえの課題も存在します。特に多品種少量生産を行う製造業の現場では、Business Centralの標準機能だけでは対応しきれない細かなニーズが出てくることが少なくありません。
1. Business CentralとPower Appsを連携させる4つの大きなメリット
Dynamics 365 Business CentralとPower Appsの連携は、中小製造業が抱える多くの課題を解決する可能性を秘めています。この連携がもたらすメリットは、単なる業務効率化に留まりません。ここでは、Power AppsとBusiness Centralの連携によって得られる、特に重要な4つのメリットについて、具体的に解説します。これらのメリットを理解することで、なぜ今、Power AppsとBusiness Centralの連携が注目されているのかが明確になるでしょう。
1.1メリット1:ライセンスコストを最適化し利用ユーザーを拡大
Power AppsとBusiness Centralの連携は、ライセンスコストの最適化に大きく貢献します。Business Centralのすべての機能を利用するには、ユーザーごとに「Premium」や「Essentials」といったフルライセンスが必要です。しかし、現場の作業員や営業担当者など、業務が限定的なスタッフ全員に高価なフルライセンスを付与するのは、コスト面で大きな負担となります。例えば、作業報告の入力や在庫数の確認といった特定の業務しか行わないスタッフに、月額1万円以上(※価格は変動します)のライセンス費用をかけるのは非効率的です。
ここでPower Appsとの連携が活きてきます。Dynamics 365のライセンス(Business Central含む)には、Power Appsの利用権がすでに追加費用なしで含まれています。この権利を活用すれば、Business Centralのデータを参照・更新するカスタムアプリを作成し、現場スタッフに使ってもらうことが可能です。さらに、データの参照が主で、フルライセンスが不要なユーザーには、より安価な「Team Members」ライセンス(月額1,000円程度)を割り当てる選択肢もあります。
例えば、50人の現場スタッフが在庫確認と作業報告のためだけにBusiness Centralを利用する場合を考えます。全員にEssentialsライセンス(仮に月額8,400円)を付与すると月額42万円のコストがかかります。しかし、Power Appsで専用アプリを作成し、Team Membersライセンスで運用すれば、コストは月額5万円となり、実に月額37万円、年間で444万円もの大幅なコスト削減が実現できるのです。このように、Power AppsとBusiness Centralの連携は、必要な人に必要な機能だけを提供することで、ITコストを最適化し、より多くの従業員がシステムを活用できる環境を実現します。
1.2メリット2:現場に特化したシンプルな入力・参照画面を実現
Power AppsとBusiness Centralの連携がもたらす2つ目の大きなメリットは、現場の業務に最適化された、誰でも直感的に使えるシンプルな画面(UI/UX)を実現できることです。Business Centralは非常に多機能ですが、その反面、一つの画面に多くの情報が表示されるため、ITに不慣れな現場スタッフにとっては「どこを見ればいいのか分からない」「操作が難しい」と感じられることがあります。特に、多品種少量生産の現場では、作業内容に応じて見るべき情報や入力する項目が細かく変わるため、画面の複雑さが作業効率の低下や入力ミスの原因になりかねません。
Power Appsを活用すれば、Business Centralの膨大なデータの中から、特定の業務に必要な情報だけを抜き出した専用のアプリケーションを作成できます。例えば、「製造指示書No.XXXXの作業実績入力」というアプリを作成する場合、画面には「作業者名」「作業時間」「完了数」「不良数」といった最低限の項目だけを表示させることができます。ボタンを大きくしたり、入力項目をプルダウン形式にしたりと、現場の要望に合わせて自由自在にカスタマイズが可能です。
1.3メリット3:モバイルやデバイス機能を活用し、業務を効率化
Power AppsとBusiness Centralの連携は、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスの機能を最大限に活用し、業務効率化を加速させます。製造業の現場は、事務所のPCの前だけで完結する仕事ばかりではありません。広い工場内を歩き回る在庫管理、客先での打ち合わせ、トラックヤードでの入出庫作業など、業務の多くは「動的」です。Business CentralもWebブラウザ経由でモバイルからアクセス可能ですが、PC画面をそのまま縮小したような表示になり、操作性が良いとは言えません。
Power Appsで作成したアプリは、初めからモバイルデバイスでの利用を前提に設計されているため、スマートフォンやタブレットの画面サイズに最適化された快適な操作性を実現します。さらに特筆すべきは、カメラやGPSといったデバイス固有の機能とBusiness Centralのデータを簡単に連携させられる点です。例えば、Power Appsでバーコードリーダーアプリを作成すれば、倉庫スタッフはスマホのカメラで製品のバーコードをスキャンするだけで、Business Central上の在庫情報を瞬時に照会したり、出庫処理を行ったりできます。
1.4メリット4. 変化に強く、迅速なアプリ開発・改修
Power AppsとBusiness Centralの連携がもたらす4つ目のメリットは、ビジネス環境の変化に強く、現場のニーズに迅速に対応できるアジリティ(俊敏性)です。多品種少量生産を行う中小製造業の現場は、顧客からの急な仕様変更や短納期への対応など、日々変化に晒されています。こうした変化に合わせて業務プロセスやシステムの改修が必要になっても、従来のシステム開発では要件定義から設計、開発、テストといった工程に数ヶ月から一年以上の時間と多額のコストがかかるのが一般的でした。
Power Appsは、「ローコード開発プラットフォーム」と呼ばれ、プログラミングコードの記述を最小限に抑え、あらかじめ用意された部品をドラッグ&ドロップするような直感的な操作でアプリを開発できます。そのため、従来の開発手法に比べて、開発期間を数分の一に短縮することが可能です。例えば、「現場から『作業完了時に写真を撮って証拠として残したい』という要望が上がってきた」とします。この場合、Power Appsであれば、既存の作業報告アプリにカメラコントロールを追加し、撮影した写真をBusiness Centralの該当データに紐づけて保存する、といった改修をわずか数時間から数日で実装することも不可能ではありません。
2. Power Apps連携によるBusiness Central活用シナリオ例
Dynamics 365 Business CentralとPower Appsの連携は、具体的にどのような業務で効果を発揮するのでしょうか。ここでは、多品種少量生産を行う中小製造業の現場でよく見られるシーンを想定し、4つの具体的な活用シナリオを紹介します。これらのシナリオは、自社のどの業務からPower AppsとBusiness Centralの連携を始めればよいかを考えるヒントになるはずです。
シナリオ1:営業向け - 外出先で顧客情報や在庫をリアルタイムに確認
営業担当者は、客先での商談中に「あの製品の在庫は今何個あるか?」「この仕様での見積価格はいくらか?」といった質問をその場で受けることが頻繁にあります。従来は、一度会社に電話して事務員に確認してもらったり、事務所に戻ってからBusiness Centralで調べて後日回答したりする必要がありました。このタイムラグが、ビジネスチャンスの損失に繋がることも少なくありません。
そこで、Power Appsで「営業支援アプリ」を作成します。このアプリは、営業担当者のスマートフォンで動作し、Business Centralの「顧客」「品目(在庫)」「価格」データを参照します。商談中に顧客名で検索すれば、過去の取引履歴や与信情報をすぐに確認できます。製品名や型番で検索すれば、リアルタイムの在庫数や標準納期がその場で分かります。
シナリオ2:倉庫スタッフ向け - バーコードを使った入出庫・検品アプリ
製造業の要である倉庫業務では、正確な入出庫管理と検品作業が不可欠です。しかし、多品種少量生産の現場では、多種多様な部品や製品を扱うため、ピッキングミスや数量の間違いといったヒューマンエラーが発生しやすい環境でもあります。紙のリストと目視による確認作業は、熟練スタッフの経験に頼りがちで、新人スタッフの教育にも時間がかかります。
この課題は、Power Appsで「倉庫管理アプリ」を開発し、Business Centralと連携させることで解決できます。スマートフォンのカメラ機能を利用して、製品や部品の棚、現品に貼られたバーコードやQRコードを読み取ります。例えば、出庫作業では、Business Centralの出荷指示データをPower Appsアプリに表示。作業者は指示された棚へ行き、商品のバーコードをスキャン。正しい商品であれば「OK」と表示され、間違っていれば警告音が鳴るように設定できます。ピッキングが完了すると、その情報がリアルタイムでBusiness Centralの在庫データに反映されます。
シナリオ3:製造現場向け - 簡単な作業実績の入力・進捗報告アプリ
製造現場では、リアルタイムな進捗状況の把握が、生産計画の精度や納期遵守率を大きく左右します。しかし、多くの現場では、作業者は一日の終わりにまとめて作業日報を手書きやExcelで作成し、それを管理者が集計してBusiness Centralに入力する、という運用が行われています。これでは、進捗の把握にタイムラグが生じ、問題が発生しても発見が遅れてしまいます。
そこで、Power Appsで「製造実績入力アプリ」を作成し、各工程に設置したタブレットから入力できるようにします。作業者は、自分の担当する製造指示をアプリで選択し、「開始」「中断」「完了」のボタンをタップするだけで、作業実績がタイムスタンプと共にBusiness Centralに記録されます。完了時には、生産数や不良数を入力するシンプルな画面が表示されます。
シナリオ4:承認者向け - 外出先からも操作できるシンプルな承認アプリ
中小企業では、社長や工場長といった特定の承認者に業務が集中しがちです。「見積承認」「購買申請の承認」「経費精算の承認」など、様々な承認業務が承認者のボトルネックとなり、ビジネスのスピードを停滞させる原因になることがあります。特に承認者が出張などで不在の場合、業務が完全にストップしてしまうケースも少なくありません。
この課題を解決するのが、Power Automate(Power Platformのワークフロー自動化ツール)とPower Apps、そしてBusiness Centralの連携です。例えば、担当者がBusiness Centralで見積を作成・申請すると、Power Automateがそれをトリガーに、承認者(社長)のスマートフォンに「承認依頼」のプッシュ通知を送ります。社長は、通知をタップしてPower Appsで作成された「承認アプリ」を起動。アプリには、見積の要点(顧客名、金額、主要品目など)だけがシンプルに表示されており、「承認」または「却下」ボタンをタップするだけで、どこにいても承認作業が完了します。
3. 連携前に知っておきたい注意点とライセンス
Power AppsとDynamics 365 Business Centralの連携は、これまで見てきたように非常に強力ですが、導入を成功させるためには、事前に知っておくべき技術的な注意点やライセンスの考え方がいくつか存在します。これらの点を理解せずに進めてしまうと、「思ったように動作しない」「後から追加コストが発生した」といった事態になりかねません。ここでは、Power AppsとBusiness Centralの連携を計画する上で、特に重要な3つのポイントを解説します。
3.1Dynamics 365 Business Centralコネクタの基礎知識
Power AppsとBusiness Centralを連携させる際の中核となるのが、「Dynamics 365 Business Centralコネクタ」です。このコネクタは非常に優秀ですが、その仕様を理解しておくことが重要です。特に注意したいのが「委任(Delegation)」という概念です。Power Appsでは、大量のデータを扱う際、データソース側(この場合はBusiness Central)に処理を「委任」できる関数と、できない関数があります。
例えば、数万件の顧客データの中から特定の条件で絞り込み(フィルタリング)を行う場合、委任対応の関数を使えば、Business Central側で効率的に処理された結果だけがPower Appsに返されます。しかし、委任非対応の関数を使ってしまうと、Power Appsは一旦Business Centralから規定の件数(標準では500件、最大2000件)のデータをすべて取得し、その中からフィルタリング処理を行います。そのため、2001件目以降のデータは検索対象にならず、「データがあるはずなのに表示されない」という問題が発生したり、アプリの動作が著しく遅くなったりする原因になります。
この問題を避けるためには、アプリを設計する段階で、委任可能な関数(Filter, Search, LookUpなど)を中心に処理を組み立てることが基本です。大量のデータを扱うことが想定される場合は、予めデータを絞り込むための検索ボックスを設け、ユーザーに必ず条件を入力してもらうようなアプリ設計にすることも有効な対策です。Power AppsとBusiness Centralの連携を本格的に活用するなら、この「委任」の知識は必ず押さえておきましょう。
3.2アプリのパフォーマンスに関する考慮事項
Power Appsアプリのパフォーマンス、つまり動作の快適さは、ユーザーの利用満足度に直結する重要な要素です。特に、Business Centralのような基幹システムのデータを扱う場合、アプリの起動時やデータ読み込み時の速度が遅いと、現場のスタッフに使ってもらえなくなる可能性があります。快適なPower Appsアプリを維持するためには、設計段階でのいくつかの配慮が必要です。
最も重要なのは、アプリの起動時に読み込むデータ量を最小限に抑えることです。アプリ起動時に、Business Centralから大量のデータを一度に読み込もうとすると、起動に数十秒かかってしまうことがあります。対策として、アプリの最初の画面には必要最低限の情報のみを表示し、ユーザーが特定の操作(ボタンをクリックするなど)を行ったタイミングで、初めて詳細データをBusiness Centralから取得する、という設計が有効です。
また、一つの画面に多くのコントロール(ボタン、ラベル、入力ボックスなど)を配置しすぎると、画面の描画に時間がかかり、動作が重くなる原因になります。業務プロセスを整理し、画面を適切に分割することで、各画面のコントロール数を抑えることがパフォーマンスの向上に繋がります。Power AppsとBusiness Centralの連携では、多機能なアプリを目指すよりも、特定の業務に特化した「単機能でサクサク動く」アプリを複数作成するほうが、結果としてユーザーにとって価値が高くなるケースが多いのです。
3.3必要なPower Appsライセンス(Dynamics 365ライセンスに含まれる利用権)
Power AppsとBusiness Centralの連携におけるライセンスの考え方は、コストに直結するため非常に重要ですが、少し複雑な面もあります。まず大原則として、Dynamics 365 Business Centralのライセンス(EssentialsやPremium)を保有しているユーザーは、そのライセンスの範囲内で、Business Centralのデータに接続するPower Appsアプリを追加費用なしで作成・利用できます。これは「Dynamics 365にシードされたPower Apps利用権」と呼ばれ、連携を始める上での大きなメリットです。
ただし、注意点がいくつかあります。第一に、この権利で利用できるのは、Dynamics 365(Business Centralを含む)やMicrosoft 365(SharePointなど)といった「標準コネクタ」に接続するアプリに限られます。もし、Salesforceやkintone、オンプレミスのSQL Serverなど、外部のサービスに接続する「プレミアムコネクタ」を同じアプリ内で利用する場合は、別途Power Appsの有料ライセンス(Per AppプランやPer Userプランなど)が必要になります。
第二に、Business Centralのライセンスを持たないユーザー(例えば、普段は基幹システムに一切触れない他部署のスタッフなど)が、Business Centralのデータを参照するPower Appsアプリを利用する場合も、そのユーザーにはPower Appsの有料ライセンスが必要です。自社の誰が、どのデータに、どのようにアクセスするのかを事前に整理し、最適なライセンスプランを計画することが、Power AppsとBusiness Centralの連携を成功させ、無駄なコストを発生させないための鍵となります。
4. まとめ:Power Apps連携でBusiness Centralの価値を最大化しよう
Dynamics 365 Business Centralという強力なデータ基盤と、Power Appsという柔軟なフロントエンド開発ツール。この二つの連携は、まさに車の両輪です。Business Centralに蓄積された正確なデータを、Power Appsを通じて現場の隅々まで届け、活用することで、企業全体の生産性は飛躍的に向上します。
「何から手をつければいいか分からない」と感じるかもしれませんが、大切なのはスモールスタートです。まずは本記事で紹介したような、身近な業務課題を解決する小さなアプリから作ってみませんか。その一歩が、貴社のDXを加速させ、Business Centralへの投資価値を最大化する確かな道のりとなるはずです。もし、具体的な進め方でお困りの際は、我々のような専門家にご相談いただくのも一つの有効な手段です。
また、基幹システムの導入について、
「どのシステムを選べばいいのかわからない…」
「導入にどれくらいの費用や時間がかかるのかが不透明…」
「システムベンダーの選定も難しそう…」
「導入しても本当に効果があるのか疑問…」
などのお悩みをお持ちの方は、是非船井総研の「無料経営相談」をご利用ください。
https://www.funaisoken.co.jp/dl-contents/smart-factory__03637_S045?media=smart-factory_S045